【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
学校施設環境改善交付金等における学校給食施設事業に係る交付額の算定について
(平成28年10月18日付け 文部科学大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴省は、「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律」(昭和33年法律第81号。以下「国庫負担法」という。)等に基づき、地方公共団体が作成する公立の義務教育諸学校等の施設(以下「公立学校施設」という。)の整備に関する施設整備計画によって実施される施設整備事業に要する経費に充てるために、地方公共団体に対して、学校施設環境改善交付金(沖縄県にあっては、沖縄振興特別措置法(平成14年法律第14号)に基づき、同県が作成する沖縄振興交付金事業計画によって実施される施設整備事業に要する経費に充てるための沖縄振興公共投資交付金。以下、合わせて「交付金」という。)を交付している。
交付金の交付額は、学校施設環境改善交付金交付要綱(平成23年文部科学大臣裁定。以下「交付要綱」という。)等によれば、当該地方公共団体の施設整備計画に記載された公立学校施設の改築事業、学校給食施設の整備事業等の各種の施設整備事業のうち、交付金の算定の対象となる個々の施設整備事業(以下「交付対象事業」という。)ごとに文部科学大臣が定める方法により算出した配分基礎額に交付対象事業の種別に応じて同大臣が定める割合(以下「算定割合」という。)を乗じて得た額の合計額と、交付対象事業に要する経費の額(以下「交付対象工事費」という。)に算定割合を乗じて得た額の合計額のうち、いずれか少ない額を基礎として算定することとされている。
上記交付額の算定は、交付要綱及び「学校施設環境改善交付金の実績報告書等について」(平成26年文部科学省大臣官房文教施設企画部施設助成課長通知)に基づき、交付金の交付申請時に行うこととなっているほか、実績報告時にも配分基礎額や交付対象工事費の変更を反映して再度行うこととなっており、実績報告時に再度算定した額と交付決定額のうち、いずれか少ない額により交付金の交付額を確定することとなっている。
貴省は、国庫負担法、学校給食法(昭和29年法律第160号)等に基づき、学校給食の普及充実及び安全な学校給食の実施を図るために、公立の義務教育諸学校等における学校給食施設の整備に要する経費の一部について交付金を交付して、その整備の促進を図っている。
交付要綱によれば、学校給食施設の整備は、学校給食を開設するために給食施設を新増築する事業と、老朽化等の理由により給食施設を改築する事業(以下、これらの事業を合わせて「学校給食施設事業」という。)とに区分されており、算定割合は原則としてそれぞれ2分の1、3分の1とされている。
交付要綱によれば、学校給食の開設等に必要な施設に要する経費は、当該施設の建築に要する経費とすることとされ、調理場施設の整備に係る配分基礎額は、当該施設から給食の提供を受ける児童等の数に応じて定められた面積に1m2当たりの建築単価を乗じたものとすることとされている。「公立学校施設費国庫負担金等に関する関係法令等の運用細目」(平成18年文部科学大臣裁定。以下「運用細目」という。)によれば、学校施設の建物の面積は、棟ごとに、壁、建具等により風雨を防ぎうる部分の床面積の合計(以下「延べ床面積」という。)とすることとされている。そして、調理場施設の整備に係る配分基礎額の算定に用いる面積については、運用細目に定められた学校給食施設基準において、児童等の数に応じて定められた基準面積が示されている。
また、「学校施設環境改善交付金に係る施設整備計画の様式について」(平成27年文部科学省大臣官房文教施設企画部施設助成課長通知。以下「整備計画通知」という。)等によれば、事業全体面積のうち配分基礎額に係る面積を交付対象面積とすること、事業全体面積から交付対象面積を差し引いた残りの面積を交付対象外面積とすることとされている。
整備計画通知等には、学校給食施設事業の交付対象工事費の算定の際に、基準面積を用いること及び交付対象工事費の具体的な算定方法が明確に示されていないが、上記のことから、学校給食施設事業において、基準面積を超える延べ床面積の学校給食施設を建築する場合、基準面積を超える面積(以下「超過面積」という。)を交付対象外面積とし、交付対象外面積に係る建築工事費を交付対象外工事費として事業全体の建築工事費から除外する必要がある。そして、貴省は、基準面積を超える延べ床面積の学校給食施設を建築する場合の建築工事に係る交付対象工事費(以下「交付対象建築費」という。)については、事業全体の建築工事費を当該施設の延べ床面積で除して得た1m2当たりの単価に基準面積を乗じて算定する必要があるとしている(図参照)。
図 基準面積を超える学校給食施設を建築する場合の交付対象建築費の算定方法
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、学校給食施設事業の交付金の交付額が適切に算定されているかなどに着眼して、平成23年度から27年度までの間に交付金の交付を受けた21府県(注1)の176事業主体が整備した学校給食施設282施設に係る交付金の交付額計632億9468万余円(学校給食施設事業と他の交付対象事業とが合わせて交付決定されている場合には、他の交付対象事業に係る金額が含まれる。)を対象として、実績報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、調書の作成及び提出を求めるなどして、その分析を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
13府県管内の39事業主体(注2)は、23年度から27年度までの間に整備した49施設の学校給食施設事業において、当該施設の延べ床面積が基準面積を上回っているにもかかわらず、交付対象工事費の算定に当たり、当該施設全体の建築工事費計139億8009万余円を交付対象建築費としていた。
しかし、前記のとおり、延べ床面積が基準面積を上回る学校給食施設を建築する場合には、超過面積分の建築工事費を交付対象外工事費とする必要があり、49施設の学校給食施設事業について、超過面積分の建築工事費を除外して適切な交付対象建築費を算定すると計57億9644万余円となり、前記の交付対象建築費計139億8009万余円と比べて計81億8364万余円の開差が生じていた。
したがって、適切に算定された交付対象建築費を基に交付金の交付額を算定すると、16事業主体が整備した17施設に係る交付金については、交付額が計55億7935万円となることから、交付を受けた額計59億8287万余円との差額4億0352万余円が過大に算定されていたと認められる(表1参照)。
表1 17施設に係る過大に算定されていた交付金交付額
県名 | 事業主体名 | 学校給食施設名又は調理場が整備された学校名 | 過大に算定されていた交付金交付額(千円) |
---|---|---|---|
埼玉県 | 鶴ヶ島市 | 鶴ヶ島市学校給食センター | 26,541 |
千葉県 | 市川市 | 国分小学校 | 14,246 |
松戸市 | 東部小学校 | 1,316 | |
成田市 | 本城小学校学校給食共同調理場 | 37,286 | |
鎌ケ谷市 | 学校給食センター | 58,293 | |
長野県 | 駒ヶ根市 | 赤穂学校給食センター第2調理場 | 22,118 |
東御市 | 北御牧学校給食センター | 18,469 | |
南佐久郡佐久穂町 | 佐久穂小・中学校学校給食共同調理場 | 6,293 | |
下伊那郡阿智村 | 阿智村学校給食共同調理場 | 53,106 | |
愛知県 | 名古屋市 | 志段味東小学校 | 11,293 |
春日井市 | 東部調理場 | 7,106 | |
犬山市 | 羽黒小学校 | 4,055 | |
滋賀県 | 湖南市 | 湖南市学校給食センター | 53,537 |
鳥取県 | 八頭郡若桜町 | 若桜町立学校給食センター | 24,353 |
岡山県 | 真庭市 | 八束小学校 | 22,093 |
蒜山中学校 | |||
鹿児島県 | 姶良市 | 姶良市立給食室別棟 | 43,420 |
計 | 16事業主体 | 17施設 | 403,525 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
滋賀県湖南市は、平成25、26両年度に、学校給食施設事業として、湖南市学校給食センター(基準面積862m2、延べ床面積3,614m2)を整備して、26年度に交付金3億5940万余円の交付を受けていた。同市は、交付金の交付額の算定に当たり、超過面積2,752m2分の建築工事費等を除外することなく施設全体3,614m2分の建築工事費11億7015万余円を交付対象建築費としていた。
しかし、適切な算定方法によれば、交付対象建築費は、交付対象建築費の算定の対象とならない工事費3573万余円を除いた建築工事費11億3442万余円を延べ床面積で除して得た1m2当たりの単価に基準面積862m2を乗じた2億7054万余円となることから、上記の交付対象建築費11億7015万余円と比べて8億9960万余円の開差が生じていた。
したがって、適切に算定された交付対象建築費2億7054万余円を基に交付金の交付額を算定すると、交付額が3億0587万余円となることから、交付を受けた額3億5940万余円との差額5353万余円が過大に算定されていた。
4県管内の4事業主体(注3)は、24年度から26年度までの間に整備した6施設の学校給食施設事業において、延べ床面積が基準面積を上回っている当該6施設に係る交付対象工事費の算定に当たり、施設全体の建築工事費を建築面積(建築物の外壁等で囲まれた部分の水平投影面積)で除して得た1m2当たりの単価に基準面積を乗じて算定した額計18億9592万余円を交付対象建築費としていた。
しかし、前記のとおり、交付対象建築費を算定する際には、当該施設の建築面積ではなく延べ床面積を用いる必要があり、6施設の学校給食施設事業について、当該施設の延べ床面積を用いて1m2当たりの単価を算定し、この単価を用いて適切な交付対象建築費を算定すると計14億3947万余円となり、上記の交付対象建築費計18億9592万余円と比べて計4億5644万余円の開差が生じていた。
したがって、適切に算定された交付対象建築費を基に交付金の交付額を算定すると、3事業主体が整備した3施設に係る交付金については、交付額が計7億3980万余円となることから、交付を受けた額計7億7261万余円との差額3281万余円が過大に算定されていたと認められる(表2参照)。
表2 3施設に係る過大に算定されていた交付金交付額
県名 | 事業主体名 | 学校給食施設名 | 過大に算定されていた交付金交付額(千円) |
---|---|---|---|
群馬県 | みどり市 | 大間々学校給食センター | 19,619 |
埼玉県 | 川口市 | 元郷学校給食センター | 7,209 |
和歌山県 | 紀の川市 | 河南学校給食センター | 5,988 |
計 | 3事業主体 | 3施設 | 32,816 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
埼玉県川口市は、平成24、25両年度に、学校給食施設事業として、元郷学校給食センター(基準面積1,746m2、延べ床面積5,546m2、建築面積4,308m2)を整備するなどして、25年度に交付金計4億1243万余円の交付を受けていた。同市は、交付金の交付額の算定に当たり、施設全体の建築工事費25億9924万余円を延べ床面積5,546m2ではなく建築面積4,308m2で除して得た1m2当たりの単価に基準面積1,746m2を乗じた10億5345万余円を交付対象建築費としていた。
しかし、適切な算定方法によれば、交付対象建築費は、施設全体の建築工事費を延べ床面積5,546m2で除して得た1m2当たりの単価に基準面積1,746m2を乗じた8億1829万余円となることから、上記の交付対象建築費10億5345万余円と比べて2億3515万余円の開差が生じていた。
したがって、適切に算定された交付対象建築費8億1829万余円を基に交付金の交付額を算定すると、交付額が計4億0523万円となることから、交付を受けた額計4億1243万余円との差額720万余円が過大に算定されていた。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
学校給食施設事業の実施に当たり、延べ床面積が基準面積を上回る学校給食施設を建築する場合の交付対象建築費が過大に算定されることにより交付金が過大に算定されている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業主体において、交付対象建築費の算定についての理解が十分でないことにもよるが、貴省において、学校給食施設事業を実施する事業主体に対して、交付対象建築費の算定の際に、超過面積分の建築工事費を適切に除外する必要があること及び除外する際の具体的な算定方法を明確に示していないことなどによると認められる。
21年度に貴省が実施した全国調査によれば、衛生面での課題を持つ学校給食施設が多数見受けられたことから、貴省は、今後も引き続き、交付金により学校給食施設事業を推進して、学校給食施設の衛生環境の向上等を図る事業主体の取組に対する支援等を促進することとしている。
ついては、貴省において、交付対象建築費の算定誤りにより交付金が過大に算定されていた19事業主体及び関係府県に対して、改めて実績報告及び額の確定を行わせ、過大となった交付金の返還を求める措置を講ずるよう是正の処置を要求するとともに、学校給食施設事業に係る交付対象建築費の算定の際に、当該施設の延べ床面積が基準面積を上回っている場合において、超過面積分の建築工事費を交付対象建築費から除外する必要があること及び除外する際の具体的な算定方法を通知等に明確に示して、事業主体に対してその内容等を周知するよう是正改善の処置を求める。