ページトップ
  • 平成27年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 文部科学省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3)国立大学法人において、共同利用の用に供するとして補助金で整備された研究設備を共同利用の用に供することについて十分に検討するよう周知することなどにより、研究設備の有効活用が促進されるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)高等教育振興費
(項)国立大学法人施設整備費
部局等
文部科学本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
事業主体
26国立大学法人
補助事業の概要
高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図ることなどを目的として、国立大学法人における多様な学術研究を支える基盤的な研究設備や特色ある研究の発展に不可欠な研究設備等の整備に要する経費に対して補助するもの
共同利用の用に供するとして補助金により研究設備を整備した国立大学法人数及び件数
26国立大学法人 98件
上記98件の取得価格
68億7185万余円(平成21年度~23年度、25、26両年度)
補助金により整備した研究設備を要求概要の趣旨に沿った共同利用の用に供していなかった国立大学法人数及び件数
15国立大学法人 19件
上記19件の取得価格
12億2037万円(平成23、25、26各年度)

【意見を表示したものの全文】

国立大学法人が保有する研究設備の共同利用について

(平成28年10月24日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 国による研究設備の共用の取組及び整備に対する補助の概要

(1) 科学技術基本計画における研究設備の整備方針等

国は、科学技術基本法(平成7年法律第130号)に基づき、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために、5か年ごとに科学技術基本計画を策定しており、第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定。計画期間は平成23年度から27年度まで。以下「第4期計画」という。)において、「国は、大学が保有する研究施設及び設備について、限られた資源の有効活用を図るため、大学間連携による相互利用や再利用を効果的に行う体制の整備を進める」ことなどとしている。

また、第4期計画を受け、貴省科学技術・学術審議会先端研究基盤部会が24年8月に取りまとめた報告「科学技術イノベーションを牽引する研究基盤戦略について」(以下「部会報告」という。)によれば、国立大学法人や独立行政法人等の機関における研究設備の共用の取組が一層進展するよう、機関全体の研究設備等に関する情報の一元的把握等の取組が進むことが望まれ、国はこのような取組を促進することなどが求められているとされている。

(2) 貴省における国立大学法人の研究設備の整備に対する補助

貴省は、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図ることなどを目的として、国立大学法人の研究設備の整備に要する経費に対して、国立大学法人施設整備費補助金又は国立大学法人設備整備費補助金(以下「補助金」という。)を交付しており、各国立大学法人は、補助金により、多様な学術研究を支える基盤的な研究設備や、特色ある研究の発展に不可欠な研究設備等を整備している。

補助金の交付を受けようとする各国立大学法人は、保有する研究設備の整備状況を把握し、その利用形態や経過年数等から研究設備の現状を分析するなどした上で、補助金の交付を受けて整備しようとする研究設備について、当該研究設備の要求要旨、研究設備の概要等を記載した「要求概要」等を貴省に提出して補助金の交付を申請するなどしている。

そして、各国立大学法人は、補助金により整備しようとする研究設備が複数の研究分野において利用可能なため共同利用の用に供することとする場合には、要求概要にその旨を記載している。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、国は、国立大学法人の保有する研究設備について、限られた資源の有効活用を図るための体制整備を進めることなどとしており、また、共用のための取組を促進することが求められている。

そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、各国立大学法人が補助金により整備した研究設備について、要求概要に記載された趣旨に沿って共同利用の取組が適切に行われているか、研究設備の共同利用を促進するために必要な体制は整備されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、21年度から23年度までの間及び25、26両年度に、26国立大学法人(注)が要求概要において共同利用の用に供するとして補助金により整備し、26年度末に保有している研究設備98件(取得価格計68億7185万余円)を対象として、貴省及び26国立大学法人において、要求概要その他の関係書類により会計実地検査を行うとともに、26国立大学法人から研究設備の共同利用の取組状況等を記載した調書の提出を受けて、その内容を分析し確認するなどの方法により検査した。

(注)
26国立大学法人  北海道大学、岩手大学、東北大学、東京大学、東京医科歯科大学、東京農工大学、お茶の水女子大学、金沢大学、静岡大学、名古屋大学、三重大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、鳥取大学、島根大学、広島大学、徳島大学、香川大学、愛媛大学、高知大学、九州大学、佐賀大学、長崎大学、宮崎大学、富山大学の各国立大学法人

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

補助金により整備された前記の研究設備98件について、26国立大学法人において要求概要に記載された趣旨に沿って共同利用の用に供されているか確認したところ、15国立大学法人が23、25、26各年度に補助金により整備した研究設備19件(取得価格計12億2037万余円)は、各国立大学法人が共同利用の用に供するための研究設備を登録して管理することとしている共通機器センター等に登録されていないなど、要求概要に記載された趣旨に沿った共同利用の用に供されていない状況となっていた(表参照)。

表 共同利用の用に供されていない研究設備の件数及び取得価格

(単位:件、千円)
国立大学法人名 年度 件数 取得価格 国立大学法人名 年度 件数 取得価格
岩手大学 平成25 1 23,656 大阪大学 25 2 69,300
東北大学 25 2 155,232 神戸大学 25 1 25,893
東京大学 25 1 59,955 島根大学 26 1 35,640
東京医科歯科大学 26 1 30,121 香川大学 25 2 92,022
お茶の水女子大学 25 1 53,237 九州大学 26 1 43,200
金沢大学 25 2 118,440 長崎大学 25 1 291,652
静岡大学 25 1 108,150 宮崎大学 25 1 37,275
三重大学 23 1 76,597 19 1,220,372
(注)
単位未満を切り捨てているため、取得価格の合計と計欄は一致しない。

そして、これら19件のうち研究設備の利用実績の確認ができた7件について1週当たりの平均利用回数をみたところ、1回当たりの利用時間が数日から数か月の長期にわたることとなる1件を除いて、他の6件はいずれも1週当たりの平均利用回数が2回未満と低調な利用状況となっており、このうち3件は、1週当たりの平均利用回数が1回未満となっていた。

これら19件の研究設備について、要求概要に記載した趣旨に沿った共同利用の用に供していない理由を各国立大学法人に確認したところ、法人として共同利用の用に供することについての検討が十分でないこと、利用者向けの規程等の整備に必要な知見がないことなどによるとしている。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

国立大学法人大阪大学(以下「大阪大学」という。)は、平成25年12月に、理学研究科の宇宙・地球科学科校舎に超高周波電子スピン共鳴(ESR)年代測定装置を構成する電子スピン共鳴装置及び微小領域X線回折装置(取得価格36,750,000円及び32,550,000円、計69,300,000円)を整備している。これらの装置は、大阪大学が既存設備の老朽化による更新のために、24年度補正予算の補助金により整備することとしたものである。そして、大阪大学は、貴省に提出した要求概要において、これらの装置を理学系、医薬学系、工学系等の様々な分野で応用可能な装置として、共同利用の用に供して広く公開することで、学内外の多くの分野に寄与することが可能であるとしていた。

しかし、大阪大学は、要求概要に記載した共同利用の用に供することについての検討を十分に行わなかったため、会計実地検査時(28年5月)においても、上記の2装置を理学研究科が運用する共同利用設備として登録していないなど、共同利用の用に供していなかった。そして、利用簿が整備されていた微小領域X線回析装置について、稼働調整後の26年12月から28年5月までの18か月間の利用実績をみたところ、利用回数が10回、利用時間が計403時間と低調な利用状況となっていた。なお、電子スピン共鳴装置については、利用簿が整備されておらず、利用実績を確認できなかった。

また、貴省においても、各国立大学法人が要求概要において共同利用の用に供することとして補助金により整備した研究設備について、各国立大学法人における共同利用に関する取組状況を十分に把握していない状況が見受けられた。

一方、研究設備の共同利用を促進するために必要な体制を整備するなどして、要求概要に記載された趣旨に沿って共同利用の用に供している国立大学法人も見受けられた。

上記について、参考事例を示すと次のとおりである。

<参考事例>

国立大学法人北海道大学(以下「北海道大学」という。)は、平成26年3月に、理学研究院のNMR研究室に生体機能分子動態解析システムとして、固体高分解能核磁気共鳴測定システム(取得価格126,000,000円)を整備している。同システムは、北海道大学が24年度補正予算の補助金により整備することとしたものである。同システムは、共同利用の用に供するために、北海道大学の創成研究機構の設備共同利用システムである「オープンファシリティ」に26年8月に登録され、貴省に提出した要求概要に記載されていたとおりに、学内及び学外に広く門戸を開放することで、幅広い研究者に利用されている。その結果、27年度末まで20か月間の利用実績をみたところ、利用回数65回、利用時間4,138時間(うち設備を管理している研究者による利用回数34回、利用時間1,721時間、学内者による利用回数9回、利用時間246時間、学外者による利用回数22回、利用時間2,171時間)となっており、設備を管理している研究者だけでなく、幅広い研究者に利用され、利用状況が好調なものとなっていた。

また、北海道大学においては、オープンファシリティに登録されていないものも含め、学内の研究設備の効果的、効率的な利用を促進するために、研究設備の装置名、型名、共同利用の可否等を整理した一覧表を作成し、その内容を北海道大学のホームページにおいて公開することにより、保有する研究設備の有効活用のための積極的な情報公開を進めている。

前記のとおり、部会報告において、研究設備等に関する情報の一元的把握等の取組の促進が求められていることや、参考事例のように、国立大学法人の中には、保有する研究設備の装置名、型式、連絡先等の項目を一元的に取りまとめた一覧表等(以下「データベース」という。)を整備して公開することにより、保有する研究設備の共同利用を促進しているものがあることに鑑みると、国立大学法人が保有する研究設備の共同利用を促進するために、データベースを整備することは有効な方法の一つであると考えられる。

(改善を必要とする事態)

国立大学法人において、補助金により整備された研究設備について要求概要に記載した趣旨に沿った共同利用の用に供していない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 国立大学法人において、研究設備を共同利用の用に供するとして要求概要を提出して補助金の交付を申請しているのに、整備した研究設備を共同利用の用に供することについて検討が十分でないこと
  • イ 貴省において、国立大学法人における補助金により整備された研究設備の共同利用の取組状況等を把握しておらず、また、アの検討について、国立大学法人に対する周知等が十分でないこと

3 本院が表示する意見

貴省は、今後も引き続き、補助金の交付により、国立大学法人における研究設備の整備を推進することとしている。

ついては、貴省において、補助金により整備された研究設備について、共同利用を通じて有効活用が促進されるよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア 複数の研究分野において利用可能なため要求概要において共同利用の用に供するとして、補助金の交付を受けて整備する研究設備を共同利用の用に供することについて十分に検討するよう、各国立大学法人に対して周知すること
  • イ 各国立大学法人における補助金により整備された研究設備の共同利用の取組状況を把握するとともに、各国立大学法人に対して、データベースを整備して公開することにより研究設備の共同利用を促進させている事例等の有用な情報の提供等を行うこと