文部科学省は、「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律」(昭和33年法律第81号)等に基づき、地方公共団体が作成する公立の義務教育諸学校等の施設の整備に関する施設整備計画によって実施される施設整備事業に要する経費に充てるために、地方公共団体に対して、学校施設環境改善交付金(沖縄県にあっては、沖縄振興特別措置法(平成14年法律第14号)に基づき、同県が作成する沖縄振興交付金事業計画によって実施される施設整備事業に要する経費に充てるための沖縄振興公共投資交付金。以下、合わせて「交付金」という。)を交付している。
そして、交付金の交付額は、「学校施設環境改善交付金交付要綱」(平成23年文部科学大臣裁定。以下「交付要綱」という。)等によれば、大規模改造(老朽)事業(以下「老朽事業」という。)等の交付金の算定の対象となる個々の施設整備事業(以下「交付対象事業」という。)ごとに文部科学大臣が定める方法により算出した配分基礎額に交付対象事業の種別に応じて同大臣が定める割合(以下「算定割合」という。)を乗じて得た額の合計額と、交付対象事業に要する経費の額(以下「交付対象工事費」という。)に算定割合を乗じて得た額の合計額のうち、いずれか少ない額を基礎として算定することとされている。
上記交付額の算定は、「学校施設環境改善交付金の実績報告書等について」(平成26年文部科学省大臣官房文教施設企画部施設助成課長通知。以下「実績報告通知」という。)等に基づき、交付金の交付申請時に行うほか、実績報告時にも配分基礎額や交付対象工事費の変更を反映させて再度行うこととなっている。
交付要綱等によれば、交付対象事業のうち、老朽事業については、小学校、中学校等の建物で建築後20年以上経過したものを大規模改造する際の建物全体の改修工事等に要する経費を交付対象経費とすることとされ、算定割合は原則として3分の1とすることとされている。
そして、老朽事業に係る配分基礎額は、「学校施設環境改善交付金の配分基礎額の算定方法等について」(平成27年文部科学省大臣官房文教施設企画部施設助成課長通知。以下「算定方法通知」という。)によれば、改修工事を実施する建物の面積に、建物・構造の種類別に定められた建築単価に改修比率を乗じて得た単価を乗ずるなどして算定することとされている。
上記の改修比率は、算定方法通知によれば、当該事業の改修内容に応じて、7種の工種(防水、外装、内装、建具(外部)、建具(内部)、電気設備、機械設備)ごとに改修範囲の割合を5段階(0%、25%、50%、75%、100%)から選定し、この割合に単価構成比率(注1)をそれぞれ乗じて得た比率を合計することにより算定することとされている。そして、改修範囲の割合は、工種ごとに改修工事を実施する建物全体の面積等に対する改修工事を実施する部分の面積等の割合を算出して、上記5段階のうち近似値を採用することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
公立の義務教育諸学校等の施設においては、老朽化が深刻になっていることから、限られた予算の範囲内でできる限り多くの学校施設について安全面や機能面の改善を図る必要がある。
そこで、本院は、効率性等の観点から、老朽事業における改修比率が実施した改修工事の内容を反映して適切に算定され、交付金の交付額の算定が国費の効率的な執行を十分に確保するものとなっているかなどに着眼して、平成25年度から27年度までの間に交付金の交付を受けた23府県(注2)の282事業主体が実施した老朽事業計1,474件に係る交付金の交付額計932億4413万余円(老朽事業と合わせて交付決定された他の交付対象事業に係る金額を含む。)を対象として、文部科学本省及び23府県において、実績報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、調書の作成及び提出を求めるなどして、その分析を行った。
(検査の結果)
老朽事業における交付申請時の改修比率は、事業主体が当該事業の改修内容に応じた改修範囲を工事着手前に検討して算定されたものとなっている。一方で、老朽事業は、工事着手後に建物各部の劣化状況の詳細が判明して、その状況に応じて改修工事の範囲や工法が変わる場合があるなど、交付申請時に事業主体が正確な改修比率を算定することが難しいという特徴を有しているため、各事業主体が実績報告時に実際に実施した改修工事の内容に基づき改修比率を再検討することが重要となる。しかし、文部科学省は、工事内容の変更等により改修範囲の割合が変動し、実績報告時の改修比率が交付申請時の改修比率から変動している場合があるにもかかわらず、そのような場合の取扱いについて実績報告通知等で定めていなかった。
そこで、282事業主体が実施した老朽事業計1,474件について、実績報告時に改修比率の再検討を行っていたかを確認するとともに、行っていない場合は実際に実施した改修工事の内容に基づき改修比率の再検討を行い、この再検討の結果に基づく改修比率(以下「実際の改修比率」という。)と実績報告時の改修比率とを比較するなどして検査したところ、次のような事態が見受けられた。
282事業主体が実施した老朽事業計1,474件のうち113事業主体の514件(34.8%)について、事業主体は、改修工事の実績を確認することなく交付決定どおりに改修工事を実施したと考えていたこと、実績報告時に改修比率を修正することとされていないこと、又は、実績報告時に改修比率を修正してはならないと考えていたことを理由として、実績報告時に改修工事の実績に基づき改修比率の再検討を行っていなかった。一方で、187事業主体の960件(65.1%)については、事業主体の判断により、再検討を行っていた。
再検討が行われていなかった514件について、実際の改修比率と実績報告時の改修比率とを比較したところ、189件(36.7%)は両者が一致していたものの、167件は実際の改修比率が実績報告時の改修比率を下回り、158件は実際の改修比率が実績報告時の改修比率を上回っていて、計325件(63.2%)は両者が一致していなかった。
そして、再検討が行われていなかった514件に係る交付金の交付額計338億2369万円の交付を受けていた113事業主体について、実際の改修比率に基づき改修比率の変動を踏まえた交付金の交付額を算定したところ、表のとおり、23事業主体においては計2億0801万余円減少し、8事業主体においては計4563万余円増加することとなり、113事業主体の交付金の交付額は、計336億6131万余円となった。このように、実際の改修比率と差が生じた改修比率に基づいて算定されていたため交付金の交付額に1億6237万余円の開差が生じていた。
表 改修比率の再検討が行われていなかった514件について改修比率の変動を踏まえて算定した交付金の交付額の開差額
府県名 | 事業主体数 | 老朽事業の件数 | 左に係る交付金の交付額 | 改修比率の変動を踏まえて算定した交付金の交付額 | 開差額 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
交付額が減少するもの | 交付額が増加するもの | (B) | |||||||
(A) | 事業主体数 | 金額 | 事業主体数 | 金額 | (A)-(B) | ||||
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
栃木県 | 6 | 18 | 1,167,051 | ― | ― | 1 | 1,231 | 1,168,282 | △1,231 |
群馬県 | 3 | 18 | 1,515,620 | 1 | 1,374 | ― | ― | 1,514,246 | 1,374 |
千葉県 | 12 | 94 | 7,171,452 | 5 | 46,275 | 2 | 8,505 | 7,133,682 | 37,770 |
神奈川県 | 6 | 52 | 4,282,647 | ― | ― | 3 | 30,293 | 4,312,940 | △30,293 |
富山県 | 5 | 38 | 2,842,643 | ― | ― | ― | ― | 2,842,643 | ― |
長野県 | 6 | 27 | 1,216,543 | 2 | 13,568 | ― | ― | 1,202,975 | 13,568 |
愛知県 | 8 | 17 | 867,033 | 2 | 18,820 | ― | ― | 848,213 | 18,820 |
三重県 | 2 | 3 | 135,730 | ― | ― | ― | ― | 135,730 | ― |
京都府 | 6 | 21 | 1,436,571 | 1 | 2,794 | ― | ― | 1,433,777 | 2,794 |
大阪府 | 5 | 51 | 2,702,331 | 1 | 45,638 | ― | ― | 2,656,693 | 45,638 |
兵庫県 | 2 | 10 | 1,279,405 | ― | ― | ― | ― | 1,279,405 | ― |
和歌山県 | 4 | 8 | 590,175 | 2 | 4,455 | ― | ― | 585,720 | 4,455 |
鳥取県 | 3 | 14 | 811,942 | 1 | 5,208 | ― | ― | 806,734 | 5,208 |
岡山県 | 3 | 4 | 325,896 | ― | ― | ― | ― | 325,896 | ― |
広島県 | 4 | 10 | 852,484 | 1 | 13,296 | 1 | 122 | 839,310 | 13,174 |
徳島県 | 5 | 18 | 630,008 | 2 | 26,899 | ― | ― | 603,109 | 26,899 |
福岡県 | 15 | 50 | 2,871,951 | 2 | 13,729 | 1 | 5,481 | 2,863,703 | 8,248 |
大分県 | 7 | 19 | 939,122 | ― | ― | ― | ― | 939,122 | ― |
宮崎県 | 2 | 2 | 336,975 | ― | ― | ― | ― | 336,975 | ― |
鹿児島県 | 9 | 40 | 1,848,111 | 3 | 15,955 | ― | ― | 1,832,156 | 15,955 |
計 | 113 | 514 | 33,823,690 | 23 | 208,011 | 8 | 45,632 | 33,661,311 | 162,379 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
徳島県小松島市は、平成25年度に、新開小学校等8校の屋内運動場に係る老朽事業等を実施して交付金170,707,000円の交付を受けていた。
同市は、これらのうち新開小学校の屋内運動場に係る老朽事業の改修比率の算定に当たり、交付申請時には改修工事の設計図等を基にするなどして工種「外装」及び「内装」の改修範囲の割合を75%、工種「建具(外部)」の改修範囲の割合を50%とするなどして、これらに基づき改修比率を26.3%と算定していた。
しかし、同市は、改修比率については実績報告時に修正することとされていないとして、実績報告時に実際に実施した改修工事の内容に基づき改修比率の再検討を行っていなかった。
このため、実際に実施した改修工事の面積等に基づいて、改修比率の再検討を行ったところ、工種「外装」の改修範囲の割合は100%、工種「内装」は25%、工種「建具(外部)」は0%などとなり、これらに基づく実際の改修比率は12.025%となった。
また、同市は、上記のほか児安小学校等7校の屋内運動場に係る老朽事業について、改修比率を26.0%から26.3%と算定していたが、同様に再検討を行ったところ、実際の改修比率は12.025%から22.575%となった。
したがって、これらの改修比率に基づいて交付金の交付額を算定すると、146,660,000円となり、交付額が24,047,000円減少することとなった。
このように、老朽事業においては、実際の改修比率と実績報告時の改修比率が一致しない場合が多く、この場合に交付金の交付額に影響することがあるのに、交付金の交付額の算定に当たって、実績報告時に改修比率の再検討を行っておらず、その結果、実際の改修比率と差が生じた改修比率に基づいて交付額を算定していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、文部科学省において、実績報告時に改修比率の再検討を行うことについての検討が十分でなく、実績報告時に改修比率の再検討を行い、交付申請時の改修比率から変動する場合にはこれを実績報告書に反映させることを実績報告通知等に定めていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、文部科学省は、交付金の交付額の算定が適切に行われるよう、28年9月に、老朽事業に係る交付金の交付額の算定に当たって、実績報告時に改修比率を再検討し、交付申請時の改修比率から変動する場合にはこれを実績報告書に反映させることを定めた通知を事業主体及び実績報告書の審査を行う都道府県に対して発して、その内容の周知徹底を図る処置を講じた。