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医療費に係る国の負担が不当と認められるもの[厚生労働本省、8厚生(支)局、23都道府県](50)


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
(項)生活保護等対策費(平成26年度以前は、(項)生活保護費)
(項)障害保健福祉費
部局等
厚生労働本省、8厚生(支)局(指導監督庁)、23都道府県
国の負担の根拠
健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)等
医療給付の種類
健康保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律、生活保護法等に基づく医療
実施主体
全国健康保険協会、都、道、府2、県9、市270、特別区20、町81、村7、国民健康保険組合23、後期高齢者医療広域連合35、計450実施主体
医療機関等数
154医療機関、2薬局
過大に支払われていた医療費に係る診療報酬項目等
入院基本料、リハビリテーション料、調剤報酬等
過大に支払われていた医療費の件数
69,091件(平成23年度~27年度)
過大に支払われていた医療費の額
1,279,906,287円(平成23年度~27年度)
不当と認める国の負担額
507,548,321円(平成23年度~27年度)

1 医療給付の概要

(1) 医療給付の種類

厚生労働省の医療保障制度には、後期高齢者医療制度、医療保険制度及び公費負担医療制度があり、これらの制度により次の医療給付が行われている。

  • ア 後期高齢者医療制度において、高齢者の医療の確保に関する法律(以下「高齢者医療確保法」という。)に基づき、各都道府県の区域内に住所を有する後期高齢者(75歳以上の者又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して後期高齢者医療の事務を処理するために当該都道府県の区域内の全ての市町村(特別区を含む。以下同じ。)が加入する後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)が行う医療
  • イ 医療保険制度の一環として、健康保険法、国民健康保険法等(以下「医療保険各法」という。)に規定する保険者が、医療保険各法に基づき、後期高齢者を除く被保険者(被扶養者を含む。以下同じ。)に対して行う医療
  • ウ 公費負担医療制度の一環として、都道府県又は市町村が、生活保護法等に基づき被保護者等に対して行う医療

(2) 診療報酬又は調剤報酬

これらの医療給付においては、被保険者((1)ウの被保護者等を含む。以下同じ。)が医療機関で診察、治療等の診療を受けた場合又は薬局で薬剤の支給等を受けた場合に、広域連合、保険者、都道府県又は市町村(以下「保険者等」という。)及び患者が、これらの費用を医療機関又は薬局(以下「医療機関等」という。)に診療報酬又は調剤報酬(以下「診療報酬等」という。)として支払う。

診療報酬等の支払の手続は、次のとおりとなっている(図参照)。

図 診療報酬等の支払の手続

図 診療報酬等の支払の手続 画像

ア 診療等を担当した医療機関等は、診療報酬等として医療に要する費用を所定の診療点数に単価(10円)を乗ずるなどして算定する。

イ 医療機関等は、診療報酬等のうち、患者負担分を患者に請求して、残りの診療報酬等(以下「医療費」という。)については、高齢者医療確保法に係るものは広域連合に、医療保険各法に係るものは各保険者に、また、生活保護法等に係るものは都道府県又は市町村に請求する。

このうち、保険者等に対する医療費の請求は、次のように行われている。

(ア) 医療機関等は、診療報酬請求書又は調剤報酬請求書(以下「請求書」という。)に医療費の明細を明らかにした診療報酬明細書又は調剤報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、これらを国民健康保険団体連合会又は社会保険診療報酬支払基金(以下「審査支払機関」と総称する。)に毎月1回送付する。

(イ) 審査支払機関は、請求書及びレセプトにより請求内容を審査点検した後、医療機関等ごと、保険者等ごとの請求額を算定して、その後、請求額を記載した書類と請求書及びレセプトを各保険者等に送付する。

ウ 請求を受けた保険者等は、それぞれの立場から医療費についての審査点検を行って金額等を確認した上で、審査支払機関を通じて医療機関等に医療費を支払う。

(3) 国の負担

保険者等が支払う医療費の負担は次のようになっている。

ア 高齢者医療確保法に係る医療費(以下「後期高齢者医療費」という。)については、広域連合が審査支払機関を通じて支払うが、この費用は国、都道府県、市町村及び保険者が次のように負担している。

(ア) 高齢者医療確保法に基づき、原則として、国は12分の4を、都道府県及び市町村はそれぞれ12分の1を負担しており、残りの12分の6については、各保険者が納付する後期高齢者支援金及び後期高齢者の保険料が財源となっている。

(イ) 国民健康保険法に基づき、国は市町村等が保険者として納付する後期高齢者支援金に要する費用の額の一部を負担している。

(ウ) 健康保険法に基づき、国は全国健康保険協会が保険者として納付する後期高齢者支援金に要する費用の額の一部を負担している。

イ 医療保険各法に係る医療費については、国は、患者が、①全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である場合の医療費は全国健康保険協会が支払った額の16.4%を、②市町村が行う国民健康保険の一般被保険者である場合の医療費は市町村が支払った額の41%(平成23年度以前は43%)を、③国民健康保険組合が行う国民健康保険の被保険者である場合の医療費は国民健康保険組合が支払った額の47%をそれぞれ負担している。

ウ 生活保護法等に係る医療費については、国は都道府県又は市町村が支払った医療費の4分の3又は2分の1を負担している。

2 検査の結果

(1) 検査の観点及び着眼点

国民医療費は、医療の高度化や人口の高齢化に伴って、25年度に40兆円を超え、その後も毎年増加している。また、このうち後期高齢者医療費は、高齢化が急速に進展する中でその占める割合が3割を超えている。このような状況の中で医療費に対する国の負担も多額に上っていることから、本院は、後期高齢者医療費を中心に、合規性等の観点から、医療費の請求が適正に行われているかに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

本院は、8厚生(支)局及び24都道府県において、保険者等の実施主体による医療費の支払について、レセプト、各種届出書、報告書等の書類により会計実地検査を行った。そして、医療費の支払について疑義のある事態が見受けられた場合は、地方厚生(支)局及び都道府県に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(3) 検査の結果

検査の結果、23都道府県に所在する154医療機関及び2薬局の請求に対して450実施主体において、23年度から27年度までの間における医療費が、69,091件で計1,279,906,287円過大に支払われており、これに対する国の負担額507,548,321円は負担の必要がなかったものであり、不当と認められる。

これを診療報酬項目等の別に整理して示すと次のとおりである。

診療報酬項目等 実施主体
(医療機関等数)
過大に支払われていた医療費の件数 過大に支払われていた医療費の額 不当と認める国の負担額
    千円 千円
①入院基本料 166市区町村等
(100)
14,863 960,844 386,830
②リハビリテーション料 69市区町村等
(16)
8,275 174,704 68,734
③初診料・再診料 198市区町村等
(15)
24,517 48,221 17,670
④在宅医療料 40市区町等
(8)
4,620 30,828 10,957
⑤医学管理料 107市区町等
(10)
8,007 30,050 10,459
⑥入院基本料等加算 65市町等
(4)
6,453 26,475 9,286
⑦検査料 36市町等
(1)
973 2,592 1,504
①-⑦の計 444実施主体
(154)
67,708 1,273,717 505,444
⑧調剤報酬 21市町等
(2)
1,383 6,188 2,104
①-⑧の計 450実施主体
(156)
69,091 1,279,906 507,548
注(1)
複数の診療報酬項目について不適正と認められる請求があった医療機関については、最も多額な診療報酬項目で整理した。
注(2)
計欄の実施主体数は、各診療報酬項目等の間で実施主体が重複することがあるため、各診療報酬項目等の実施主体数を合計したものとは一致しない。

このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 実施主体及び審査支払機関において、医療機関等から不適正と認められる医療費の請求があったのにこれに対する審査点検が十分でなかったこと
  • イ 地方厚生(支)局等及び都道府県において、医療機関等に対する指導が十分でなかったこと

(4) 過大に支払われていた事態の詳細等

医療費が過大に支払われていた事態について、主な診療報酬項目等の別に、その算定方法及び検査の結果の詳細を示すと次のとおりである。

ア 入院基本料

診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号。以下「算定基準」という。)等によれば、入院基本料のうち、療養病棟入院基本料等については、療養病棟等に入院している患者に対して、患者の疾患、状態等について厚生労働大臣が定める区分に従い、1日につき所定の点数を算定することとされている。

検査したところ、19都道府県に所在する100医療機関において、入院基本料等の請求が不適正と認められるものが14,863件あった。その態様は、療養病棟入院基本料等に定められた区分のうち、より低い点数の区分の状態等にある患者に対して、高い区分の点数で算定していたものである。

このため、上記14,863件の請求に対して、166市区町村等において医療費が計960,844,861円過大に支払われており、これに対する国の負担額386,830,894円は負担の必要がなかったものである。

イ リハビリテーション料

算定基準等によれば、リハビリテーション料のうち、運動器リハビリテーション料については、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している旨の届出を地方厚生(支)局長に対して行った医療機関が同大臣の定める患者に対して個別療法であるリハビリテーションを行った場合に、発症、手術等から150日以内に限り、その届出に係る所定の点数を算定することなどとされている。そして、この場合には、レセプトの摘要欄に当該疾患名、発症日等を記載することとされている。

検査したところ、7道県に所在する16医療機関において、リハビリテーション料等の請求が不適正と認められるものが8,275件あった。その主な態様は、患者に疾患の発症等があった後、新たな疾患の発症等がないのに、レセプトの摘要欄に150日以内に新たな疾患の発症等があったなどと記載して、150日以内に限り算定することとされている運動器リハビリテーション料の算定を繰り返し行っていたものである。

このため、上記8,275件の請求に対して、69市区町村等において医療費が計174,704,430円過大に支払われており、これに対する国の負担額68,734,484円は負担の必要がなかったものである。

ウ 初診料・再診料

算定基準等によれば、初診料については、患者の傷病について医学的に初診といわれる医師の診療行為があったときに、また、再診料については、その後の診療行為の都度、それぞれ算定することとされている。ただし、指定障害者支援施設等に配置されている医師(以下「配置医師」という。)が当該施設の入所者に対して行う診療については、原則として、初診料、再診料等は算定できないこととされている。

検査したところ、9都道府県に所在する15医療機関において、初診料・再診料等の請求が不適正と認められるものが24,517件あった。その主な態様は、配置医師が指定障害者支援施設等の入所者に対して行った診療について、初診料、再診料等を算定していたものである。

このため、上記24,517件の請求に対して、198市区町村等において医療費が計48,221,752円過大に支払われており、これに対する国の負担額17,670,157円は負担の必要がなかったものである。

エ 在宅医療料

算定基準等によれば、在宅医療料のうち、在宅患者訪問診療料等については、在宅での療養を行っている患者であって通院が困難なものに対して、医療機関が計画的な医学管理の下に定期的に訪問して診療を行った場合等に算定することとされている。ただし、特別養護老人ホーム等の入所者に対して行う診療については、原則として、在宅患者訪問診療料等は算定できないこととされている。

検査したところ、6道府県に所在する8医療機関において、在宅医療料等の請求が不適正と認められるものが4,620件あった。その主な態様は、特別養護老人ホーム等の入所者に対して行った診療について、在宅患者訪問診療料等を算定していたものである。

このため、上記4,620件の請求に対して、40市区町等において医療費が計30,828,015円過大に支払われており、これに対する国の負担額10,957,527円は負担の必要がなかったものである。

オ 医学管理料

算定基準等によれば、医学管理料のうち、特定疾患療養管理料については、生活習慣病等を主病とする患者に対して、治療計画に基づき療養上必要な管理を行った場合等に算定することとされている。ただし、配置医師が指定障害者支援施設等の入所者に対して行う診療については、原則として、特定疾患療養管理料は算定できないこととされている。

検査したところ、8都府県に所在する10医療機関において、医学管理料等の請求が不適正と認められるものが8,007件あった。その主な態様は、配置医師が指定障害者支援施設等の入所者に対して行った診療について、特定疾患療養管理料を算定していたものである。

このため、上記8,007件の請求に対して、107市区町等において医療費が計30,050,936円過大に支払われており、これに対する国の負担額10,459,966円は負担の必要がなかったものである。

カ 入院基本料等加算

算定基準等によれば、入院基本料等加算のうち、療養病棟療養環境加算等については、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している旨の届出を地方厚生(支)局長に対して行った医療機関について、1日につき所定の点数を算定することとされている。ただし、療養病棟療養環境加算等は、当該医療機関における医師等の数が医療法(昭和23年法律第205号)に定める標準となる数(以下「標準人員」という。)を満たしていない場合には算定できないこととされている。

検査したところ、4府県に所在する4医療機関において、入院基本料等加算の請求が不適正と認められるものが6,453件あった。その主な態様は、医師の数が標準人員を満たしていないのに、療養病棟療養環境加算等を算定していたものである。

このため、上記6,453件の請求に対して、65市町等において医療費が計26,475,435円過大に支払われており、これに対する国の負担額9,286,191円は負担の必要がなかったものである。

キ 調剤報酬

算定基準等によれば、調剤報酬のうち、在宅患者訪問薬剤管理指導料等については、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している旨の届出を地方厚生(支)局長に対して行った薬局において、在宅での療養を行っている患者であって通院が困難なものに対して、薬剤師が医師の指示に基づき、患家を訪問して薬学的管理指導を行った場合に算定することとされている。ただし、指定障害者支援施設等の入所者に対して行う薬学的管理指導については、原則として、在宅患者訪問薬剤管理指導料等は算定できないこととされている。

検査したところ、2県に所在する2薬局において、調剤報酬の請求が不適正と認められるものが1,383件あった。その態様は、指定障害者支援施設の入所者に対して行った薬学的管理指導について、在宅患者訪問薬剤管理指導料等を算定していたものである。

このため、上記1,383件の請求に対して、21市町等において医療費が計6,188,557円過大に支払われており、これに対する国の負担額2,104,211円は負担の必要がなかったものである。

医療費が過大に支払われていた事態について、医療機関等の所在する都道府県別に示すと次のとおりである。

都道府県名 実施主体
(医療機関等数)
過大に支払われていた医療費の件数 過大に支払われていた医療費の額 不当と認める国の負担額 摘要
    千円 千円  
北海道 42市区町村等
(16)
8,501 112,466 45,654 ①②③④
青森県 2市等
(1)
1,619 1,535 597
茨城県 44市区町村等
(6)
4,176 21,991 8,056 ①②③⑤
栃木県 9市等
(4)
483 36,642 14,332
埼玉県 87市区町等
(12)
11,409 56,713 19,827 ①③④⑤
東京都 48市区等
(10)
1,927 39,715 15,632 ①③⑤
神奈川県 5市町等
(5)
843 14,884 6,475 ①⑤
長野県 16市区町等
(2)
1,326 9,165 3,478 ①⑤
岐阜県 6市等
(2)
1,140 23,026 8,937
静岡県 26市区町等
(7)
1,252 97,308 36,958
愛知県 46市町等
(12)
5,902 89,084 36,193 ①②⑥⑧
京都府 25市町等
(6)
3,735 76,916 30,191 ①③⑤⑥
大阪府 50市町等
(7)
4,971 23,195 9,889 ①③④⑤⑦
兵庫県 25市等
(11)
4,794 147,532 57,126 ①⑤
奈良県 27市町村等
(1)
2,482 1,588 510
和歌山県 16市町等
(2)
800 3,935 1,404 ①③
島根県 12市町等
(4)
3,030 17,007 6,507 ①②④
岡山県 4市町等
(2)
340 9,452 3,375 ④⑥
広島県 32市町等
(8)
3,120 41,653 15,321 ①②⑥⑧
香川県 3市等
(3)
361 14,952 5,779
高知県 3市等
(4)
341 20,197 8,309
福岡県 36市町等
(30)
6,373 411,804 169,316 ①②④
長崎県 5市等
(1)
166 9,132 3,671
450実施主体
(156)
69,091 1,279,906 507,548  
注(1)
計欄の実施主体数は、都道府県の間で実施主体が重複することがあるため、各都道府県の実施主体数を合計したものとは一致しない。
注(2)
摘要欄の①から⑧までは、2(3)の検査の結果の診療報酬項目等の別に対応している。