【意見を表示したものの全文】
地域支援事業交付金の交付額の算定について
(平成28年10月18日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴省は、介護保険法(平成9年法律第123号。以下「法」という。)等の規定に基づき、平成18年度から、市町村(特別区、広域連合及び一部事務組合を含む。以下同じ。)が実施主体として実施する地域支援事業に対して地域支援事業交付金(以下「交付金」という。)を交付して、その実施を助成している。
市町村は、介護保険制度の保険者として、3年を一期とする介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施に関する計画(以下「介護保険事業計画」という。)を策定することとなっている。そして、各市町村が24年度から26年度までの3か年度を計画期間として定めた第5期介護保険事業計画には、各年度の地域支援事業の実施についても定められている。
地域支援事業は、介護保険の被保険者が要介護状態又は要支援状態(以下「要介護状態等」という。)となることを予防するとともに、要介護状態等となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援することを目的とするもので、介護予防事業、包括的支援事業及び地域の実情に応じた必要な支援を行う任意事業の三つの事業がある。
地域包括支援センターは、包括的支援事業等を実施して、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設であり、市町村は、自ら地域包括支援センターを設置することができることとなっている(以下、市町村が設置した地域包括支援センターを「直営支援センター」という。)。
また、市町村は、社会福祉法人等に対して、包括的支援事業の実施を委託することができることとなっており(以下、市町村から包括的支援事業の実施の委託を受けた社会福祉法人等を「受託者」という。)、この場合、受託者は、自ら地域包括支援センターを設置することができることとなっている(以下、受託者が設置した地域包括支援センターを「委託支援センター」という。)。委託支援センターは、包括的支援事業のほか、市町村から委託を受けて介護予防事業及び任意事業を実施することができることとなっている。
そして、地域包括支援センターは、包括的支援事業の一つとして、介護保険の被保険者に対する介護予防ケアマネジメントに関する業務を実施することとなっている。介護予防ケアマネジメントは、被保険者が要介護状態等となることを予防するために、その心身の状況、その置かれている環境等に応じて、介護予防事業その他の適切な事業が包括的かつ効率的に提供されるよう必要な援助を行うものである。
「地域支援事業交付金交付要綱」(平成20年厚生労働省発老第0523003号)によれば、交付金の交付額は次のとおり算定することとされている。
① 介護予防事業、包括的支援事業及び任意事業のそれぞれについて、所定の方法により算定した基準額と、各事業の実施に必要な経費(以下「対象経費」という。)の実支出額とを比較して少ない方の額と、総事業費から寄付金その他の収入額を控除した額とを比較して、少ない方の額(以下「交付基本額」という。)を選定する。
② ①により選定したそれぞれの交付基本額に、介護予防事業については25/100、包括的支援事業及び任意事業については39.5/100を乗じて、それぞれ得た額の合計額を交付額とする。
包括的支援事業の対象経費の主なものは、直営支援センターの場合には、直営支援センターに配置されている市町村職員の人件費(給料、賃金等)となっており、委託支援センターの場合には、市町村が受託者との間で締結した包括的支援事業の実施に関する委託契約に基づき受託者に対して支払った業務委託費(受託者が委託支援センターに配置した職員に係る人件費等)となっている。
貴省が第5期介護保険事業計画の期間中に市町村に交付した交付金の額は、24年度624億6804万余円、25年度622億8775万余円、26年度641億4608万余円、計1889億0188万余円となっている。
地域包括支援センターは、包括的支援事業を実施するほか、市町村から指定介護予防支援事業者の指定を受けた場合には、指定介護予防支援を行うこととなっている。指定介護予防支援は、介護保険事業の一環として実施されるもので、要支援者が介護予防サービス等の適切な利用等を行うことができるように、要支援者に対する介護予防サービス計画の作成等を行うものである。
地域包括支援センターは、要支援者に対する介護予防サービス計画の作成等を行った場合には、計画の件数等に応じ、介護報酬(介護予防サービス計画費)の支払を受けることとなっている。
介護報酬は、要介護者等に対して介護保険サービスが行われた場合に、所定の単位数に基づき介護保険の保険者である市町村から支払われるもので、国は介護報酬の一部を負担している。
地域包括支援センターにおける介護予防ケアマネジメントは、包括的支援事業の一つであり、その実施に必要な経費については包括的支援事業の対象経費となっている。
一方、地域包括支援センターにおける指定介護予防支援は、介護保険事業であり、介護予防サービス計画の作成等については介護報酬(介護予防サービス計画費)が支払われることとなっている。
このように、介護予防ケアマネジメントと指定介護予防支援とは、制度としては別のものであるが、貴省が発した「地域包括支援センターの設置運営について」(平成18年老計発第1018001号等)によれば、その実施に当たっては、共通の考え方に基づき、一体的に行われるものとされている。
また、地域包括支援センターの職員は、包括的支援事業に係る業務と指定介護予防支援に係る業務とを兼務することができることとなっている(以下、地域包括支援センターの職員のうち、包括的支援事業に係る業務と指定介護予防支援に係る業務とを兼務する職員を「兼務職員」という。)。
さらに、貴省が18年12月に発した「地域支援事業交付金の人件費の算定について」(平成18年12月11日付け厚生労働省老健局介護保険課、振興課事務連絡。以下「事務連絡」という。)によれば、兼務職員に係る人件費を交付金の対象経費とするに当たっては、包括的支援事業を実施するために必要な経費として予算上適正に見込んだ額を算定することとされ、実際に兼務職員が包括的支援事業に係る業務に従事した勤務時間割合によることなく算定して差し支えないこととされており、貴省は、兼務職員に係る人件費を包括的支援事業の対象経費とする際の具体的な算定方法については明確に示していない。
このような取扱いとした経緯について、貴省は、兼務職員が包括的支援事業に係る業務に従事した勤務時間と、指定介護予防支援に係る業務に従事した勤務時間とを明確に区分することは困難であることから、事務連絡を発したものであると説明している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、交付金の交付額の算定は適切に行われているか、特に、包括的支援事業の対象経費の算定に当たり、兼務職員が介護報酬(介護予防サービス計画費)の支払われる指定介護予防支援に係る業務に従事したことは適切に考慮されているかなどに着眼して、14都府県(注1)の159市区町村等において会計実地検査を行った。検査に当たっては、第5期介護保険事業計画の計画期間である24年度から26年度までの3か年度にこれらの市区町村等に交付された交付金(24年度125億4219万余円、25年度130億4666万余円、26年度137億4013万余円、計393億2898万余円)を対象として事業実績報告書等の関係書類により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
24年度から26年度までの間に14都府県管内の89市区町村の直営支援センター107か所において実施された包括的支援事業に従事した職員の人件費についてみたところ、7府県(注2)管内の9市は、交付金計9億9930万余円(交付基本額計28億4068万余円)の交付を受けるに当たり、直営支援センターに配置された職員のうち延べ95名の兼務職員に係る人件費計6億5815万余円(交付金相当額計2億5997万余円)の全額を包括的支援事業の対象経費としていた。
すなわち、当該9市が交付金の当該交付額の算定に当たり用いた交付基本額に含まれる兼務職員の人件費には、指定介護予防支援の実施に要する経費に相当する額が含まれていた。
しかし、兼務職員が行う業務のうち、指定介護予防支援に係る業務については所定の介護報酬が支払われていることを踏まえると、兼務職員に係る人件費を包括的支援事業の対象経費とするに当たり、介護報酬の支払を受けていることを考慮していないことは適切でないと認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
京都府京丹後市は、同市内に直営支援センター1か所を設置しており、同直営支援センターでは包括的支援事業及び指定介護予防支援を実施していた。
同直営支援センターにおいて実施された包括的支援事業に従事した職員に係る人件費についてみたところ、同市は、平成26年度分の交付金5201万余円(交付基本額1億4217万余円)の交付を受けるに当たり、同直営支援センターに配置された職員16名のうち兼務職員11名に係る人件費計7939万余円(交付金相当額計3136万余円)の全額を包括的支援事業の対象経費としていた。なお、同直営支援センターは、指定介護予防支援について、兼務職員以外の者が行った分を含め、介護報酬(介護予防サービス計画費)2609万余円の支払を受けていた。
26年度に包括的支援事業を委託により実施していた14都府県管内の95市区町等(委託支援センター717か所、交付金交付額計118億6010万余円)は、包括的支援事業等の実施に関する委託契約を締結しており、これらの業務に係る委託費(以下「委託費」という。)計192億7318万余円を支払っていた。そして、当該95市区町等の委託費についてみたところ、その中には、受託者が委託支援センターに配置している職員(兼務職員を含む。)に対する人件費が含まれていた。
そこで、更に調査したところ、上記のうち12都府県(注3)管内の50市区町等(委託支援センター373か所、交付金交付額計62億8016万余円(交付基本額計175億5041万余円))は、委託契約を締結する際の予定価格の作成等又は委託契約終了の際の委託費の精算において、兼務職員の人件費には指定介護予防支援の実施に要する経費に相当する額が含まれていることを考慮することなく、委託費計103億7195万余円のうち計97億9020万余円(交付金相当額計38億6713万余円)を包括的支援事業の対象経費としていた。
しかし、兼務職員が行う業務のうち、指定介護予防支援に係る業務については所定の介護報酬が支払われていることを踏まえると、委託契約に基づき受託者に支払った委託費を包括的支援事業の対象経費とするに当たり、介護報酬の支払を受けていることを考慮していないことは適切でないと認められる。
(改善を必要とする事態)
地域包括支援センターに配置された兼務職員が指定介護予防支援に係る業務に従事した場合には所定の介護報酬が支払われていることを踏まえると、市町村においてこれを考慮することなく、兼務職員に係る人件費や委託契約に基づき受託者に支払った委託費を包括的支援事業の対象経費として、これにより交付金の交付を受けている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、交付金の交付額の算定を適正なものとするために必要となる交付金の対象経費の具体的な算定方法について、市町村に対して明確に示していないことなどによると認められる。
貴省は、2025(平成37)年を目途とした医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築に向けて、包括的支援事業や介護予防事業の見直しなどを行い、地域支援事業を再編し、充実させて引き続き実施することとしている。
ついては、貴省において、市町村に対して、交付金の交付額の算定に当たっては、指定介護予防支援に係る業務については所定の介護報酬が支払われることを踏まえ、同業務の実施に要した経費に相当する額を交付金の対象経費から適切に控除するなど、交付額の算定を適正なものとするための具体的な算定方法を示し、周知するよう意見を表示する。