【改善の処置を要求したものの全文】
国民健康保険の療養給付費負担金等の交付額の算定における医療機関等に対する加算金の取扱いについて
(平成28年10月27日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号。以下「法」という。)に基づく国民健康保険制度を所管している。国民健康保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)及び国民健康保険組合(以下、これらを合わせて「市町村等」という。)が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者、75歳以上の後期高齢者等を対象とする後期高齢者医療制度の被保険者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関して、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等を行う保険である。
貴省は、国民健康保険の保険者である市町村等に対して各種の国庫助成を行っており、その主なものとして、市町村に交付する療養給付費負担金及び国民健康保険組合に交付する療養給付費補助金(以下、これらを合わせて「療養給付費負担金等」という。)がある。
療養給付費負担金等は、法に基づき、国民健康保険の事業運営の安定化を図るために市町村等に交付されるものである。
療養給付費負担金の交付額は、「国民健康保険の国庫負担金等の算定に関する政令」(昭和34年政令第41号)等に基づき、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額と、入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額とを合算し、更にこの合算額(以下「医療給付費」という。)から所定の額を控除するなどして算出した額に国の負担割合(100分の32)を乗ずるなどして算定することとなっている。また、療養給付費補助金の交付額は、医療給付費に国の負担割合(100分の32又は100分の13)を乗ずるなどして算定することとなっている。
そして、貴省が療養給付費負担金等を交付するに当たり、都道府県は、市町村等が提出した交付申請書及び事業実績報告書の内容を審査した上で、当該交付申請書及び事業実績報告書を貴省に提出することとなっている。
また、貴省は、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づく後期高齢者医療制度を所管しており、療養給付費負担金等と同様の国庫助成として、後期高齢者医療制度の運営主体である後期高齢者医療広域連合に交付する後期高齢者医療給付費負担金がある。後期高齢者医療給付費負担金は、後期高齢者医療制度の運営が健全に行われるよう交付されるもので、その交付額は、後期高齢者医療給付費等国庫負担金交付要綱(平成25年厚生労働省発保0329第6号)に基づき、療養の給付等に要した費用の額等を基に算定することとなっている。
医療機関等で国民健康保険又は後期高齢者医療制度の被保険者が療養の給付等を受けた場合、国民健康保険の保険者又は後期高齢者医療広域連合(以下「保険者等」という。)は、当該医療機関等に対して、療養の給付に要する費用の額から、被保険者が医療機関等に対して支払わなければならない一部負担金に相当する額を控除した額等を支払うこととなっている。
医療機関等が偽りその他不正の行為によって療養の給付等に関する費用の支払を受けたときは、保険者等は、当該医療機関等に対し、法第65条又は高齢者の医療の確保に関する法律第59条の規定に基づき、その支払った額を返還させるほか、当該返還させる額に100分の40を乗じて得た額(以下「加算金」という。)を当該医療機関等に支払わせることができることとなっている。
保険者等は、医療機関等に加算金を支払わせる場合には、地方自治法(昭和22年法律第67号)等の規定に基づき、当該加算金について調査及び決定(以下「調定」という。)し、医療機関等に対して加算金を納付すべき旨を通知することとなっている。
「厚生省所管補助金等にかかる寄附金その他の収入の取り扱いについて」(昭和35年会発第1312号厚生大臣官房会計課長通知。以下「課長通知」という。)によれば、法令に基づく徴収金返還金等の収入があるときは、国庫補助金の算定に当たり、国庫補助事業の総事業費から当該収入額を控除することとされており、その具体的な取扱いは、別途、各国庫補助金の交付要綱によることとされている。
そして、後期高齢者医療給付費負担金の交付額の算定に当たっては、後期高齢者医療給付費等国庫負担金交付要綱に基づき、療養の給付等に要した費用の額から加算金の額を控除することとなっている。
一方、療養給付費負担金等の交付額の算定については、国民健康保険療養給付費等負担金等交付要綱(平成12年厚生省発保第97号。以下「交付要綱」という。)等に加算金の取扱いに関する定めがない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、市町村等における療養給付費負担金等の交付額の算定に当たり、加算金の取扱いが適切なものとなっているかなどに着眼し、19都道府県(注)管内の247市区町村等に対して平成24年度から26年度までの間に交付された療養給付費負担金等計1兆2184億7638万余円を対象として、貴省本省及び上記247市区町村等のうち68市区町等において、事業実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、残りの179市区町村等については、都道府県を通じて関係書類の提出を受けるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、19都道府県管内の211市区町村等は、24年度から26年度までの間に交付された療養給付費負担金等(計9833億5113万余円)の交付額の算定に当たり、加算金の額を医療給付費の額から控除していなかった。
しかし、貴省本省は、加算金について、課長通知における法令に基づく徴収金返還金等の収入に該当するものとしていることから、市町村等における療養給付費負担金等の交付額の算定に当たっては、加算金の額を医療給付費の額から控除する必要があると認められる。
また、前記のとおり、後期高齢者医療給付費負担金について、その交付額の算定に当たり療養の給付等に要した費用の額から加算金の額を控除することとなっている一方で、療養給付費負担金等について、その交付額の算定において加算金の額が控除されていない事態は、保険者等に対する同様の国庫助成であるのに、均衡を欠いていると認められる。
そこで、療養給付費負担金等の交付額の算定に当たり、加算金の額を医療給付費の額から控除していなかった前記の211市区町村等について、24年度から26年度までの間に調定した加算金の額計1億0830万余円を医療給付費の額から控除することとした場合における療養給付費負担金等相当額を試算すると、211市区町村等が交付を受けた前記の療養給付費負担金等の額と比べて計3347万余円の開差を生ずることとなる。
(改善を必要とする事態)
市町村等において、療養給付費負担金等の交付額の算定に当たり、加算金の額を医療給付費の額から控除していない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、療養給付費負担金等の交付額の算定に当たり、加算金の額を医療給付費の額から控除することを交付要綱等に定めることの必要性に対する認識が欠けていることなどによると認められる。
国民健康保険制度が我が国の社会保障制度において重要な役割を果たしていること、毎年度、保険者である市町村等には多額の療養給付費負担金等が交付されていることなどを踏まえると、療養給付費負担金等の交付額の算定及び交付を適正なものとする必要がある。
ついては、貴省において、療養給付費負担金等の交付額の算定に当たり、偽りその他不正の行為によって療養の給付等に関する費用の支払を受けた医療機関等に対する加算金の額を医療給付費の額から控除することを交付要綱等に明記して、その控除方法を定めるとともに、都道府県を通じて、市町村等に対して周知するよう改善の処置を要求する。