ページトップ
  • 平成27年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2)年金給付の過誤払等に係る返納金債権について、厚生労働省において日本年金機構に対して返納金債権の保全等を適切に行うことなどを指導し、日本年金機構において事務処理の手順書を作成するなどして、債権管理を適切に行うよう改善させたもの


会計名及び科目
年金特別会計 (基礎年金勘定) (款)雑収入 (項)雑収入
(国民年金勘定) (款)雑収入 (項)雑収入
(厚生年金勘定) (款)雑収入 (項)雑収入
部局等
厚生労働本省
厚生年金保険等の事業に関する事務の一部を委任し、又は委託している相手方
日本年金機構
年金給付の過誤払等に係る返納金債権の管理の概要
年金給付の過誤払等に係る返納金債権について、国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号)等に基づき、債務者に対して督促を行ったり、時効を中断するために必要な措置を執ったりなどして管理するもの
不納欠損と整理された返納金債権のうち本部において納付督励が行われていなかったもの(1)
724件(債権額 7億0855万円)(平成26、27両年度)
不納欠損と整理された返納金債権のうち本部において訴訟手続による履行の請求等が行われていなかったもの(2)
4件(債権額 320万円)(平成26、27両年度)
不納欠損と整理された返納金債権のうち年金事務所等において督促状による督促が行われていなかったもの(3)
1,125件(債権額 3億6307万円)(平成26、27両年度)
(3)のうち年金事務所等において納付督励が行われていなかったもの
623件(債権額 2億1077万円)
(3)のうち消滅時効が完成していないのに年金事務所において不納欠損として整理されていたもの
35件(債権額 299万円)
(1)から(3)までの計
1,853件(債権額 10億7483万円)

1 年金給付の過誤払等により生じた債権の概要

(1) 年金給付の過誤払等により生じた債権の管理事務の概要

厚生労働省は、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)等に基づき、被保険者等に対して老齢厚生年金等の各種年金の給付を行っており、この年金給付に係る事務の一部を日本年金機構(以下「機構」という。)に委任し、又は委託している。そして、機構は、これらの事務の委任又は委託を受けて、年金記録の訂正や年金受給者の死亡等により年金給付の過誤払が発生した場合の返還金及び事務処理の過誤等により国民年金等の保険料の誤還付が発生した場合の返還金(以下、これらの返還金を合わせて「返納金」という。)の収納等の事務を行うとともに、返納金に係る債権(以下「返納金債権」という。)の管理に関する事務を行っている。これらの返納金債権の管理に関する事務については、国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号。以下「債権管理法」という。)等に基づき、次のように行うこととなっている。

① 歳入徴収官は、会計法(昭和22年法律第35号)第6条及び債権管理法第13条の規定に基づき、その所掌に属する債権について履行を請求するために、債務者に対して納入の告知を行い、その全部又は一部が納入の告知で指定された期限を経過してもなお履行されていない場合には、債務者に対してその履行を督促しなければならない。そして、歳入徴収官は、債務の履行の督促に当たっては、歳入徴収官事務規程(昭和27年大蔵省令第141号)第21条の規定に基づき、所定の督促状(以下「督促状」という。)を送付して完納すべき旨の督促をしなければならない。

② 歳入徴収官は、債権管理法第18条第5項の規定に基づき、その所掌に属する債権が時効によって消滅することとなるおそれがあるときは、時効を中断するために必要な措置を執らなければならない。

③ 歳入徴収官は、債権管理法第15条の規定に基づき、債務者に対して督促をした後、相当の期間を経過してもなお履行されない場合には、法務大臣に対し、訴訟手続(非訟事件の手続を含む。以下同じ。)により履行を請求することを求めるなどの措置を執らなければならない。

(2) 返納金債権の消滅時効等

厚生労働省は、返納金債権のうち年金給付の過誤払により生じた返還金に係るものについて、会計法第30条の規定により5年間行使しないときは時効により消滅するとしている。また、返納金債権のうち国民年金等の保険料の誤還付により生じた返還金に係るもの(以下「誤還付債権」という。)について、民法(明治29年法律第89号)第167条の規定により、10年間行使しないときは時効により消滅するとしている。

そして、債務者による一部納付、債務承認書等の提出、訴訟手続による履行の請求等があったときは、これらの債権の消滅時効は民法第147条の規定により中断されることとなっている。また、前記のとおり、歳入徴収官は、債権が時効によって消滅することとなるおそれがあるときは、時効を中断するために必要な措置を執らなければならないこととなっていることを踏まえると、返納金債権の管理に関する事務を実施する機構は、債務者に納付の督励(以下「納付督励」という。)を行い、債務承認書等の徴取等により時効中断の措置を執る必要があることになる。

(3) 返納金債権の管理に関する事務の実施体制

年金給付の過誤払に係る返納金債権のうち、平成16年度以前に調査決定が行われたものの管理に関する事務は、機構の年金事務所又は事務センター(以下、これらを合わせて「年金事務所等」という。)が行っており、一方、17年度以降に調査決定が行われたものの管理に関する事務は、機構の本部(以下「本部」という。)が行っている。このほか、誤還付債権等の管理に関する事務は、調査決定の時期にかかわらず、年金事務所等が行っている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性等の観点から、返納金債権の管理に関する事務は債権管理法等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、厚生労働本省、本部及び170年金事務所等において会計実地検査を行った。

検査に当たっては、消滅時効が完成したとして26、27両年度に不納欠損として整理された返納金のうち、本部において管理していた不納欠損額30万円以上の返納金債権1,036件、計10億2198万余円及び170年金事務所等において管理していた返納金債権1,125件、計3億6307万余円を対象として、22年1月の機構設立以降における返納金債権に係る債権管理の状況、厚生労働本省における機構の債権管理に対する指導の状況等について、債権管理簿、不納欠損決議書等の関係書類により検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 本部において管理していた債権

機構は、本部において管理する返納金債権に係る事務処理等についての要領等を作成して、本部の担当職員が債務者を訪問して行う納付督励の対象者を選定するための基準等を定めていたが、訪問による納付督励を行う本部の担当職員の数が限られているなどとして、その対象を加給年金の過払等により発生したものに限定するなどしていた。

このため、本部は、管理していた返納金債権724件、計7億0855万余円について、消滅時効の完成に至るまで、債務者に対して督促状による督促を行っていたのみで、訪問等による納付督励を全く行っていなかった。

一方、本部は、312件、計3億1342万余円について、訪問等による納付督励を行っていたが、債務者と面談することができた24件、計2024万余円のうち4件、計320万余円について、債務承認書等の提出を拒否されるなどしていた。このような場合、本部は、債務者の資力を考慮するなどした上で訴訟手続により履行を請求することを求めるなどして時効中断の措置を執る必要があったのに、消滅時効の完成に至るまで、これを行っていなかった。

(2) 年金事務所等において管理していた債権

機構は、年金事務所等において管理する返納金債権に係る事務処理等についての要領等を作成しておらず、また、本部は、年金事務所等において管理している返納金債権の保全等の状況について把握していなかった。

このため、170年金事務所等において管理していた全ての返納金債権1,125件、計3億6307万余円について、各年金事務所等は、債務者に対して督促状による督促を行っていなかった。このうち、109年金事務所等において管理していた返納金債権623件、計2億1077万余円について、各年金事務所等は、消滅時効の完成に至るまで、納付督励を全く行っていなかった。また、29年金事務所において管理していた返納金債権35件、計299万余円について、これらは誤還付債権であるのに、各年金事務所は、誤って消滅時効の期間を5年間であるとして、歳入徴収官(年金局事業管理課長)に対して不納欠損として整理する旨の承認伺いを提出していた。そして、歳入徴収官は、消滅時効の期間が適正かどうか確認しておらず、消滅時効が完成していない誤還付債権を不納欠損として整理していた。

このように、機構において管理していた返納金債権1,853件、計10億7483万余円について、本部において納付督励が行われていなかったり、納付督励は行われていたものの訴訟手続により履行を請求することを求めるなどの措置が執られていなかったり、年金事務所等において督促状による督促が行われておらず、一部で納付督励が行われていなかったり、消滅時効が完成していないのに不納欠損として整理されていたりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

  • ア 厚生労働省において、機構に対して、返納金債権の保全等を適切に行う必要があることについての指導及び誤還付債権の消滅時効に係る取扱いについての指導が十分でなかったこと
  • イ 機構において、返納金債権の管理に関する事務を適切に行うための要領等を作成しておらず、また、本部において年金事務所等が管理する返納金債権の保全等の状況について把握していないなど返納金債権の管理の体制が十分でなかったことや、年金事務所において誤還付債権の消滅時効の期間について理解が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省及び機構は、債権管理法等に基づき債権管理を適切に行うよう、次のような処置を講じた。

ア 厚生労働省において、28年8月に機構に対して指針を発出して、返納金債権の保全等を適切に行うよう指導するとともに、同年7月に機構に対して指示文書を発出して、誤還付債権の消滅時効に係る取扱いを適正に行うことなどについて指導した。

イ 機構において、28年9月に、本部で管理する債権に係る事務処理の要領を改正し、年金事務所等で管理する債権に係る事務処理の手順書を新たに作成するとともに、同手順書において、年金事務所等に返納金債権管理表等を作成させて定期的に報告を求めることで本部が的確に把握することとした。そして、同年6月に、都道府県ごとに指定した年金事務所に専任チームを設置して納付督励を行うこととした。また、同年8月に年金事務所に対して指示文書を発出して、誤還付債権の消滅時効の期間が10年間であることについて指導し、周知徹底を図った。