関東農政局は、国営かんがい排水事業の一環として、平成26年度に、静岡県藤枝市稲川地内における瀬戸川左岸幹線水路整備工事(その5)に伴い支障となる藤枝市水道事業管理者(以下「水道事業者」という。)所有の既存の水道管(鋳鉄管及びプラスチック管)等の移設に要する費用について、水道事業者と補償契約(以下「その5契約」という。)を契約額25,685,918円で締結し、同額を支払っている。また、同局大井川用水農業水利事業所(以下、関東農政局と合わせて「関東農政局等」という。)は、同年度に、同市立花一丁目地内における瀬戸川左岸幹線水路整備工事(その3)に伴い支障となる水道事業者所有の既存の水道管(プラスチック管)等の移設に要する費用について、水道事業者と補償契約(以下「その3契約」という。)を契約額6,875,104円で締結し、同額を支払っている。
国営かんがい排水事業等の公共事業の施行により事業地内の公共施設等についてその機能の廃止又は休止が必要となる場合(以下、このような公共施設等を「既存公共施設等」という。)であって、公益上、その機能回復を図ることが必要である場合は、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」(昭和42年閣議決定)、「公共補償基準要綱の運用申し合せ」(昭和42年用地対策連絡会。以下、これらを合わせて「公共補償基準」という。)等に基づき、当該公共事業の事業主体がその原因者として既存公共施設等の管理者に対して補償費を支払うこととなっている。
公共補償基準によれば、既存公共施設等の機能回復は、代替施設を建設することなどにより行うこととされており、このうち代替施設の建設による場合の補償費(以下「移設補償費」という。)は、当該代替施設の建設費等とされている。そして、建設費については、代替施設を建設するために必要な費用から、既存公共施設等の機能の廃止の時(以下「補償時点」という。)までの財産価値の減耗分(以下「減耗分」という。)を控除するなどして算定することとされており、減耗分は、既存公共施設等の耐用年数に対する補償時点における経過年数の割合等に応じて算定することとされている。ただし、地方公共団体等が管理する既存公共施設等であって、当該施設等の管理・運営に係る決算が継続的に赤字状況にあるなど、減耗分相当額を調達することが極めて困難な場合等やむを得ないと認められるときは、減耗分の全部又は一部を控除しないことができることとされている。
本院は、合規性、経済性等の観点から、移設補償費の算定における減耗分の取扱いは公共補償基準に基づき適切に行われているかなどに着眼して、前記2件の補償契約を対象として、関東農政局等において、移設補償費の算定調書等の書類等により会計実地検査を行った。
検査したところ、移設補償費の算定が次のとおり適切でなかった。
すなわち、関東農政局等は、本件補償費の算定に当たり、減耗分相当額を調達することが極めて困難な場合に該当するとして既存の水道管等の減耗分を控除していなかった。
しかし、水道事業者の水道事業に係る決算について、23 年度から25 年度までの実績をみたところ、収益的収支決算はいずれの年度も黒字となっており、継続的な赤字状況にないなど、減耗分相当額を調達することが極めて困難な場合等やむを得ないと認められるときには該当しないことから、減耗分を控除する必要があった。
したがって、本件補償費は、その5 契約に係る支払額については、水道管等の標準耐用年数55 年(鋳鉄管)及び35 年(プラスチック管)に対する移設対象の水道管等の経過年数32 年(鋳鉄管)及び38 年(プラスチック管)に応じた減耗分の3,579,938 円、その3 契約に係る支払額については、水道管等の標準耐用年数35 年(プラスチック管)に対する移設対象の水道管等の経過年数26 年及び40 年に応じた減耗分の2,278,116 円、計5,858,054 円が過大になっていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、関東農政局等において、補償費の算定に当たり、公共補償基準における減耗分の取扱いについての理解が十分でなかったことなどによると認められる。