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(2)国有林野事業における立木販売に係る造材作業及び集材作業に係る経費について、林業機械の使用実態に即して、高性能林業機械を採用して積算を適切に行うよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (部)官業益金及官業収入 (款)官業収入
(項)国有林野事業収入
(部)政府資産整理収入 (款)国有財産処分収入
(項)国有財産売払収入
部局等
林野庁、3森林管理局、50森林管理署、9森林管理署支署
立木販売の概要
林産物のうち木材を立木の状態で販売する販売方法で、立木の買受者が立木の伐倒、造材、集材等の作業を行うもの
検査の対象とした立木販売の契約件数及び契約金額
690件 59億0403万余円(平成25、26両年度)
上記のうち造材作業及び集材作業に高性能林業機械を採用して積算するべきであったと認められる契約件数及び契約金額
139件 11億8742万余円
上記の契約における造材、集材等の作業に係る経費の積算額
6億1170万余円
過大に積算されていた造材、集材等の作業に係る経費の積算額
2億6880万円(平成25、26両年度)

【是正改善の処置を求めたものの全文】

国有林野事業における立木販売に係る造材作業及び集材作業に係る経費の積算について

(平成28年10月14日付け 林野庁長官宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 事業の概要

(1) 立木販売等の概要

貴庁は、国有林野の管理経営に関する法律(昭和26年法律第246号)等に基づき、国土の保全その他国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るとともに、林産物を持続的かつ計画的に供給することなどを目標として、国有林野の適切かつ効率的な管理経営を行うこととしている。

貴庁は、林産物のうち木材の販売について、立木の状態で販売する立木販売と、立木を伐倒等して丸太にして販売する素材販売を行っている。このうち、立木販売は、貴庁が立木の買受者と契約を締結して、買受者(買受者が作業を委託した森林組合、業者等の林業事業体を含む。以下同じ。)が、立木の引渡しが完了した日から起算して一定期間内に立木の伐倒、造材、集材(注1)等の作業を行うこととして販売するものである。また、素材販売は、林業事業体が貴庁との契約により立木の伐倒、造材、集材等の作業を行い、丸太を生産する事業(以下、この事業を「製品生産事業」という。)を行った後、貴庁が木材市場と契約を締結して丸太の販売を行うことを委託等するものである。

立木販売の契約及び製品生産事業の契約に係る予定価格は、各森林管理局が制定した予定価格を算定するための基準(以下「積算基準」という。)等に基づいて算定されている。そして、このうち立木販売の契約に係る予定価格は、各森林管理局が、木材市況調査の結果等を踏まえて地域ごとに定めた丸太の材積1m3当たりの基準単価に基づき算出した丸太の価格から、買受者が負担することになる立木の伐倒、造材、集材等の作業に係る経費、これらの作業の実施に当たって必要となる作業道の整備に係る経費等を差し引くなどして算定されている。また、製品生産事業に係る予定価格は、立木の伐倒、造材、集材等の作業に要する経費等に基づいて算定されている。

(注1)
立木の伐倒、造材、集材  立木を伐採する作業を伐倒、伐倒木の枝を払い、一定の長さに切りそろえるなどして丸太に加工する作業を造材、丸太を林内からトラック等の車両が通行可能な林道等まで運搬する作業を集材という。

(2) 林業の機械化の状況

我が国の林業では、従来、伐倒作業及び造材作業は主にチェーンソーを使用して行われ、集材作業は主に緩傾斜地では従来型の林業機械であるトラクターを使用して伐倒木を林道等まで引きずる方法により行われてきた。しかし、このような方法は生産性が低いことなどから、貴庁は、森林・林業基本計画(平成23年7月閣議決定)等に基づき、低コストで効率的な木材生産を実現するために、ハーベスタ(注2)、プロセッサ(注3)、フォワーダ(注4)等の多機能で高性能な林業機械(以下「高性能林業機械」という。)の導入及び高性能林業機械等の効率的な運用に必要な路網の整備を図ることとしており、林業事業体に対して高性能林業機械の購入に対する補助や機械運転手の人材育成等を行い、高性能林業機械の普及・定着を図っている。そして、貴庁の調査によると、立木販売の契約や製品生産事業の契約等の実績のある林業事業体には高性能林業機械が普及しているとされている。

(注2)
ハーベスタ  従来チェーンソーで行っていた立木の伐倒、造材等の作業を一貫して行う自走式の高性能林業機械
(注3)
プロセッサ  従来チェーンソーで行っていた伐倒木の造材等の作業を行う自走式の高性能林業機械
(注4)
フォワーダ  従来トラクター等で伐倒木を引きずる方法により行っていた集材作業について、プロセッサ等で玉切りした丸太をアームで荷台に積んで運搬する自走式の高性能林業機械

(3) 立木販売及び製品生産事業に係る積算基準における林業機械の採用状況

各森林管理局は、立木販売の契約及び製品生産事業の契約に係る積算基準の制定及び改定を行っており、積算基準において立木の伐倒、造材、集材等の作業に採用する林業機械について、それぞれ独自に検討を行っている。そして、製品生産事業については、高性能林業機械の普及状況を反映して、全7森林管理局(注5)において、立木の曲がりが大きかったり、集材作業の集材距離が短距離であったりするなど高性能林業機械を効果的に使用できない場合を除き、造材作業及び集材作業に高性能林業機械を採用するなどしている。

これに対して、立木販売については、製品生産事業と同様に造材作業及び集材作業に高性能林業機械を採用して積算を行うこととしている森林管理局がある一方、製品生産事業とは異なり、造材作業及び集材作業の両方又は一方について従来型の林業機械のみで積算を行うこととしている森林管理局がある。すなわち、作業の方法が異なる四国森林管理局を除く6森林管理局のうち、関東、中部、近畿中国各森林管理局においては造材作業及び集材作業に高性能林業機械を採用しているが、東北、九州両森林管理局においては造材作業にチェーンソーのみを、また、北海道、東北両森林管理局においては集材作業にトラクターのみを採用しており、高性能林業機械を採用していない。

(注5)
7森林管理局  北海道、東北、関東、中部、近畿中国、四国、九州各森林管理局

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

貴庁は、造材、集材等の作業を効率的に行うなどのために、高性能林業機械の普及・定着を図っており、多くの林業事業体が高性能林業機械を保有している。しかし、立木販売について、北海道、東北、九州各森林管理局は、積算基準において造材作業又は集材作業に高性能林業機械を採用せずに従来型の林業機械で積算を行うこととしている。

そこで、本院は、経済性等の観点から、立木販売の予定価格の積算に当たり丸太の価格から差し引かれる造材作業及び集材作業に係る経費が高性能林業機械の使用実態に即して適切に積算されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、北海道、東北、九州各森林管理局管内の59森林管理署等が平成25、26両年度に締結した立木販売の契約(27年度末までに買受者が立木の伐倒、造材、集材等の全ての作業に着手していたものに限る。)690件(契約金額計59億0403万余円)を対象として、貴庁から造材作業及び集材作業における林業機械の使用状況等に係る調書を徴するなどして検査するとともに、上記の3森林管理局及び15森林管理署等(注6)において、予定価格調書等の書類、現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注6)
15森林管理署等  空知、胆振東部、日高南部、上川中部、網走南部、檜山、青森、宮城北部、米代東部、米代西部、長崎、宮崎、大隅各森林管理署、金木、久慈両森林管理署支署

(検査の結果)

前記のとおり、立木販売に係る積算基準において、東北、九州両森林管理局は造材作業にチェーンソーのみを、また、北海道、東北両森林管理局は集材作業にトラクターのみを採用している。

そこで、前記立木販売の契約690件について、買受者が造材作業及び集材作業で実際に使用した林業機械を検査したところ、使用機械を把握できなかったなどの32契約を除く658契約において、次のとおり、高性能林業機械が多数使用されていた(表参照)。

① 造材作業について、積算基準ではチェーンソーのみを採用していた東北、九州両森林管理局においては、管内の各森林管理署等が締結した契約のそれぞれ96.0%、82.1%の契約においてプロセッサやハーベスタが使用されていた。

② 集材作業について、積算基準ではトラクターのみを採用していた北海道、東北両森林管理局においては、管内の各森林管理署等が締結した契約のそれぞれ86.0%、99.6%の契約においてフォワーダ等が使用されていた。

表 立木販売の契約において買受者が造材作業及び集材作業で実際に使用していた林業機械の状況

(単位:件、%)
森林管理局名 契約件数 ① 造材作業 ② 集材作業
チェーンソーのみを使用 プロセッサやハーベスタを使用 トラクターのみを使用 フォワーダ等を使用
北海道 193 27 166
(13.9) (86.0)
東北 280 11 269 1 279
(3.9) (96.0) (0.3) (99.6)
九州 185 33 152
(17.8) (82.1)
658  
 
注(1) 
①のうち「プロセッサやハーベスタを使用」の契約件数には、契約数量の一部をチェーンソーで造材しているものを含む。
注(2) 
括弧書きは、契約件数に対する割合を示している。

したがって、3森林管理局の立木販売における造材作業及び集材作業に係る経費については、製品生産事業と同様に、高性能林業機械を効果的に使用できない場合を除き、林業機械の使用実態に即して高性能林業機械を採用して積算する要があると認められる。

前記立木販売の契約658件のうち会計実地検査を行った15森林管理署等が締結した契約166件から、高性能林業機械を効果的に使用できない作業条件のものを除くと、13森林管理署(注7)が締結した契約25年度76件、26年度63件、計139件(契約金額25年度計6億2076万余円、26年度計5億6666万余円、合計11億8742万余円。一般材(注8)の造材、集材等の作業に係る経費の積算額25年度計3億6001万余円、26年度計2億5168万余円、合計6億1170万余円)となる。そして、この139件の立木販売における造材、集材等の作業に係る経費について、一般材の造材作業及び集材作業に高性能林業機械を採用して修正計算すると、高性能林業機械の走行のために必要となる作業道の整備に係る経費を見込んだとしても、25年度計1億9725万余円、26年度計1億4555万余円、合計3億4280万余円となり、上記の積算額と比べて、25年度計約1億6270万円、26年度計約1億0610万円、合計約2億6880万円が過大に積算されていたと認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

北海道森林管理局網走南部森林管理署は、平成25年10月に立木1,661.06m3の販売を261万余円で実施しており、このうち集材作業に係る経費の積算に当たっては、同森林管理局が定めた立木販売に係る積算基準に基づき、集材作業について従来型の林業機械であるトラクターを採用しており、一般材の集材作業に係る経費を309万余円と積算していた。

しかし、同森林管理局は、高性能林業機械であるフォワーダの普及に伴い、製品生産事業に係る積算基準においては、集材作業にフォワーダを採用している。また、本件立木販売は、製品生産事業と作業条件に差はなく、現に、本件立木の買受者は、フォワーダを使用して集材作業を行っていた。

したがって、集材作業に高性能林業機械を採用して、本件集材作業に係る経費を積算すると187万余円となり、これと比べて前記の積算額309万余円は約120万円過大に積算されていたと認められる。

(注7)
13森林管理署  空知、胆振東部、日高南部、上川中部、網走南部、檜山、青森、宮城北部、米代東部、米代西部、長崎、宮崎、大隅各森林管理署
(注8)
一般材  曲がりが大きいなど形状等が低質な木材以外の木材

(是正改善を必要とする事態)

高性能林業機械の普及が進み、立木販売においても高性能林業機械が多数使用されているにもかかわらず、立木販売における造材作業及び集材作業に係る経費の積算に当たり、高性能林業機械の使用実態を積算基準に反映させることなく、従来型の林業機械を採用して積算している事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴庁において、3森林管理局に対して、立木販売における高性能林業機械の使用実態を把握して、これを積算基準に反映させて、立木販売における造材作業及び集材作業に係る経費について実態に即した積算を行うことについての指導が十分でないこと、また、3森林管理局において、貴庁の施策等により高性能林業機械が普及しているのに、立木販売における高性能林業機械の使用実態を把握して、これを積算基準に反映させて実態に即した積算を行うことの必要性を十分に理解しておらず、積算基準の改定等のために林業機械の使用実態を把握することとしていないことなどによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

前記のとおり、貴庁は、低コストで効率的な木材生産を実現するために、林業事業体に対して高性能林業機械の導入に対する補助を行うなどしており、高性能林業機械が普及している。そして、立木販売の予定価格は、丸太の価格から、立木の伐倒、造材、集材等の作業に係る経費を差し引くなどして算定されていることから、予定価格の積算を適切に行うためには、これらの作業に係る経費を適切に積算する必要がある。

ついては、貴庁において、3森林管理局に対して、立木販売における高性能林業機械の使用実態を把握して、これを積算基準に反映させて、立木販売における造材作業及び集材作業に係る経費について実態に即した積算を行わせるよう是正改善の処置を求める。