【是正改善の処置を求めたものの全文】
森林病害虫等防除事業等における樹幹注入の補助単価の設定について
(平成28年10月12日付け 林野庁長官宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴庁は、森林病害虫等防除法(昭和25年法律第53号)及び森林病害虫等防除事業実施要領(昭和57年57林野保第122号。以下「防除事業実施要領」という。)に基づき、森林病害虫等を早期にかつ徹底的に駆除し、及びそのまん延を防止し、もって森林の保全を図ることを目的として、森林病害虫等防除事業(以下「防除事業」という。)を実施する都道府県に対して、森林病害虫等防除事業費補助金を交付している。そして、各都道府県は、自ら防除事業を実施するほか、管内の市町村等が事業主体として実施する防除事業に対して補助金を交付している。
防除事業の補助金額は、防除事業実施要領等によれば、都道府県知事が定めた補助単価に事業量を乗じて算定した額(以下「防除事業標準価額」という。)と事業主体において防除事業に要した経費とを比較して、いずれか低い方の額に所定の補助率を乗ずるなどして算定することとされている。
また、貴庁は、森林整備加速化・林業再生事業実施要綱(平成21年21林整計第83号農林水産事務次官依命通知。以下「基金事業実施要綱」という。)に基づき、地域材の需要拡大等を図ることを目的として、都道府県に対して森林整備加速化・林業再生整備費補助金を交付している。そして、同補助金の交付を受けた各都道府県は、森林整備加速化・林業再生基金(以下「基金」という。)を財源として、平成25年度に森林病虫獣害対策(以下「基金事業」という。)等の事業を自ら実施するほか、管内の市町村等が事業主体として実施する基金事業に対して基金を取り崩すなどして補助金を交付している。
基金事業の補助金額は、都道府県知事が定めた定額の単価に事業量を乗じて算定した額(以下、この額と防除事業標準価額を「標準価額」と総称する。)と事業主体において基金事業に要した経費とを比較して、いずれか低い方の額とすることとなっている。
防除事業実施要領によれば、防除事業のうち「環境に配慮した松林保全対策事業」は、松くい虫(注1)が運ぶ線虫による松の枯死を予防するために行う松の生立木への薬剤の注入の事業(以下「樹幹注入」という。)等を実施するものとされている。そして、各都道府県知事は、防除事業における樹幹注入に係る補助単価を設定して、管内の市町村等に周知している。
また、基金事業実施要綱によれば、基金事業においても防除事業と同様に、樹幹注入を実施できることとされている。そして、各都道府県知事は、基金事業における樹幹注入に係る定額の単価について、防除事業の補助単価を採用して、管内の市町村等に周知している。
補助単価は、資材費、労務費等の直接費と、直接費に一定の割合を乗ずるなどして算定される間接費から構成されており、このうち資材費は、樹幹注入剤の価格等を基に算定されている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
樹幹注入は、通常、請負契約により実施されており、その契約に係る予定価格は、一般的に、標準価額を基に算定されている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、防除事業及び基金事業における樹幹注入について、各都道府県知事が定めた補助単価の大部分を占める資材費の価格が取引の実態を反映した適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、25年度から27年度までの間に、4県(注2)及び17県(注3)管内の118市町村の計122事業主体が行った樹幹注入計305事業(防除事業212事業、基金事業93事業、防除事業に係る事業費4億1528万余円、基金事業に係る事業費3億9406万余円、計8億0934万余円、防除事業に係る国庫補助金相当額1億9248万余円、基金事業に係る国庫補助金相当額3億8589万余円、計5億7838万余円)を対象として、貴庁、17県及び118市町村において、実績報告書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
17県は、樹幹注入に係る補助単価を設定した上で、毎年度それを見直している。補助単価を構成する資材費のうち樹幹注入剤の価格についてみたところ、各県は、樹幹注入剤の製造業者等から見積価格を徴取し、この見積価格をそのまま採用するなどして、補助単価における樹幹注入剤の価格を1本当たり1,600円から2,620円まで(17県の単純平均は2,483円)としていた。
そして、各県は、上記樹幹注入剤の見積価格等を基に補助単価を設定し、各事業主体は、補助単価を基にして前記の305事業に係る標準価額を計8億3018万余円(防除事業に係る標準価額4億1680万余円、基金事業に係る標準価額4億1338万余円)と算定していた。
しかし、前記見積価格のうち、メーカー希望小売価格である1本当たり2,500円となっているものが約9割となっていて、施工業者等が実際の取引で購入する価格(以下「実勢価格」という。)は、メーカー希望小売価格よりも低くなることがあると思料される。そこで、305事業のうち、事業主体を通じて施工業者の購入伝票等を入手することができた257事業について、樹幹注入剤の実勢価格を確認したところ、1本当たり1,378円から2,500円まで(17県の使用量による加重平均は1,950円)となっていた。これらと補助単価における樹幹注入剤の価格とを県ごとに比較すると、同額となっていた茨城県を除く16県において、実勢価格は、補助単価における樹幹注入剤の価格より低い価格(価格差は1本当たり37円から1,165円まで)となっていた。
このように、16県は、補助単価を構成する資材費のうち、樹幹注入剤の見積価格の調査に当たり、実勢価格を適切に把握しておらず、補助単価を割高に設定していた。
したがって、前記樹幹注入305事業のうち、上記の16県で実施された304事業(標準価額計8億2903万余円)について、補助単価における樹幹注入剤の価格を実勢価格に基づいて適切に設定していたとすれば、標準価額は計6億6800万余円となり、上記の304事業に係る標準価額を約1億6100万円(国庫補助金相当額1億2225万余円)低減できたと認められる。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
広島県管内の3事業主体は、平成27年度に、防除事業として樹幹注入3事業(事業費計612万余円、国庫補助金相当額計306万余円)を実施しており、これらの事業に係る標準価額は計705万余円となっている。
同県は、同年度の樹幹注入に係る補助単価の見直しに当たり、樹幹注入剤1本当たりの見積価格を販売業者2社から27年4月に徴取したところ、全て2,500円であったことから、この見積価格をそのまま採用して、補助単価における樹幹注入剤の価格を1本当たり2,500円としていた。
しかし、前記の3事業における樹幹注入剤の実勢価格を確認したところ、平均で1本当たり1,742円となっており、上記の補助単価における樹幹注入剤の価格2,500円を758円下回っていた。
したがって、前記の3事業について、補助単価における樹幹注入剤の価格を実勢価格に基づいて適切に設定していたとすれば、標準価額は計529万余円となり、標準価額計705万余円を176万余円(国庫補助金相当額88万余円)低減できたと認められる。
(是正改善を必要とする事態)
樹幹注入の実施に当たり、補助単価における樹幹注入剤の価格が取引の実態を反映しておらず、標準価額が割高に算定されており、ひいては補助対象事業費が過大になっている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、各県が、毎年度の補助単価の設定の際に、樹幹注入剤の取引の実態を十分に把握して適切な補助単価を設定することについての理解が十分でないことにもよるが、貴庁において、都道府県が樹幹注入剤の製造業者等から見積価格を徴取する際に、実勢価格を適切に把握するよう要領等に定めていないこと、また、樹幹注入剤の取引の実態を十分に把握して適切な補助単価を設定することについて都道府県に対する周知が十分でないことなどによると認められる。
貴庁は、松くい虫による被害が依然として続いていることから、そのまん延を防止して、森林の保全を図るために、樹幹注入を今後も引き続き実施することとしている。
ついては、貴庁において、各都道府県の樹幹注入に係る補助単価が取引の実態を反映して設定され、樹幹注入が経済的に実施されることとなるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。