【改善の処置を要求したものの全文】
経営体育成支援事業における経営改善目標の設定及びその達成状況の確認等について
(平成28年10月20日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求する。
記
貴省は、平成23年度から27年度までの間に、経営体育成支援事業実施要綱(平成23年22経営第7296号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、経営体育成支援事業を実施する地域協議会等(以下「協議会等」という。)に対して、農業経営対策事業費補助金等の国庫補助金計444億0139万余円を交付している。
経営体育成支援事業は、意欲ある農業経営体等(25年度以降に実施する事業においては人・農地プランにおいて中心経営体に位置付けられている者(注1)等。以下、これらを合わせて「経営体」という。)の育成・確保を図ることを目標として、事業主体である協議会等が経営規模の拡大や経営の多角化等に取り組む経営体に対してトラクター等の農業用機械やビニールハウス等の施設等(以下「機械等」という。)の導入等に係る費用に所定の補助率を乗ずるなどして算定した額を助成するものである。そして、貴省は、協議会等に対して(25年度以降に実施する事業においては都道府県を通じて)、上記の助成事業に要する経費について国庫補助金を交付している。
実施要綱等によれば、協議会等は、協議会等の活動地域や集落等(25年度以降に実施する事業においては人・農地プランを作成する地域等)を単位とする事業実施地区ごとに、経営体の育成・確保を図るために行う具体的な取組の内容及びその取組についての成果目標を定めた経営体育成支援計画(以下「支援計画」という。)を作成して、目標の達成に向けて事業を実施することとされている。
そして、成果目標は、農業の6次産業化、経営面積の拡大、新規作物の導入、農産物の品質向上、生産コストの縮減等の目標項目(表1参照)について、次のように設定することとされている。
① 助成対象となる経営体は、原則として実施要綱等に定められた目標項目から、事業の実施により達成が見込まれる目標項目を一つ以上(25年度以降に実施する事業においては原則として二つ以上)選択し、選択した目標項目に係る事業計画時の現状値(以下「現状値」という。)を基準とするなどして、事業実施年度の翌々年度(以下「目標年度」という。)に達成することを目標とした数値目標(農産物の直売数量、拡大後の経営面積、一等米の比率等)、又は計画時点で未実施である目標項目について目標年度までに実施することなどを目標とした定性的目標(農業経営の法人化等)を設定する(以下、各経営体が設定するこれらの目標を「経営改善目標」という。)。
表1 成果目標及び経営改善目標の目標項目等(平成23年度に実施する事業の場合)
成果目標の目標項目 | 経営改善目標 | ||
---|---|---|---|
目標項目 | 目標の内容 | ||
農業の6次産業化 | 農業の6次産業化 | 農産物の加工、直売又は契約栽培等の拡大に取り組むなど | 数値目標 |
経営面積の拡大 | 経営面積の拡大 | 現状より経営面積を拡大する | 数値目標 |
耕作放棄地の解消 | 過去1年以上無作付の農地を対象として、所有権又は賃借権等により経営規模を拡大する | 数値目標 | |
農業経営の法人化等 | 農業経営の法人化 | 目標年度までに法人化する | 定性的目標 |
新規作物の導入 | 新規作物の導入 | 新たな作物等の導入に取り組む | 数値目標 |
農産物の品質向上 | 農産物の品質向上 | 栽培及び管理技術の改善等により農産物の品質向上に取り組む | 数値目標 |
生産コストの縮減 | 生産コストの縮減 | 栽培及び管理技術の改善等により生産コストの縮減に取り組む | 数値目標 |
集落営農組織の育成(注) | ― | ||
新規就農者の育成・確保(注) | |||
雇用者の確保 | 雇用者の確保 | 雇用者の増加に取り組む | 数値目標 |
家族経営協定 | 家族経営協定 | 新たに家族経営協定を締結する | 定性的目標 |
環境への配慮 | 環境への配慮 | 環境と調和のとれた農業生産活動の取組みに関する点検を行い、点検シートを協議会等に提出する | 定性的目標 |
② 協議会等は、目標項目ごとに、経営改善目標を達成する経営体の数等を目標値として、事業実施地区における成果目標を設定する。
そして、実施要綱等によれば、設定する経営改善目標については、経営体における経営改善効果が見込まれるものであり、目標の達成に向けて経営体が経営改善に取り組むものであるとされている。このため、貴省は、経営改善目標として数値目標を設定するに当たり、数値目標の目標値を現状値以下に設定することは、当該目標値が現状値に対して経営改善効果が見込まれるものとはならず、適切ではないとしている。
実施要綱等によれば、協議会等は、目標年度の翌年度の7月末までに、事業実施地区ごとの目標年度における成果目標の達成状況等について記載した経営体育成支援事業目標達成状況報告書(以下「達成状況報告書」という。)を地方農政局長等(25年度以降に実施する事業においては都道府県知事。以下同じ。)に提出することとされている。また、達成していない成果目標がある場合は、達成状況報告書に目標達成に向けた具体的な改善措置等を記載して提出することとされている。この報告を受けた地方農政局長等は、成果目標等の達成状況の評価を行い、成果目標の全部又は一部が達成されていない場合には、目標年度の翌々年度までの間、当該目標が達成されるよう協議会等に対して指導等を行うことなどとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
経営体育成支援事業における成果目標の達成状況について、貴省は、26年度までに目標年度に達した事業では、目標年度において成果目標の目標値の約8割が達成されているとしている。しかし、成果目標の達成により経営体において経営改善効果が発現するためには、当該成果目標が経営改善効果が見込まれるよう適切に設定されていることが前提となる。また、前記のとおり、成果目標の達成状況等について評価を実施し、達成されていない場合には改善指導等を行うことなどにより、その達成を図ることとされているため、達成状況を客観的に確認することが必要である。そして、協議会等が設定する成果目標においては、経営改善目標を達成する経営体の数等を目標値とすることとなっているため、協議会等が成果目標を達成して、事業の効果を十分に発現させるためには、協議会等において、各経営体に対して適切な経営改善目標を設定させた上で、その達成状況を確認し、十分でない場合には改善措置を講ずることが必要である。
そこで、本院は、有効性等の観点から、経営改善目標は適切に設定されているか、経営改善目標の達成状況の確認等は適切に行われているかなどに着眼して、貴省本省及び8農政局等(注2)管内の24道府県(注3)に所在する174協議会等が23、24両年度に延べ689地区で実施して、26年度までに目標年度に到達している経営体育成支援事業を対象として検査した。
検査に当たっては、174協議会等において、助成対象となった1,433経営体(助成対象事業費計74億8707万余円、国庫補助金交付額計24億2132万余円)が設定した経営改善目標、その達成状況等に関する調書を徴するとともに、達成状況報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の1,433経営体が設定した4,730件の経営改善目標のうち、数値目標を設定している3,761件についてみると、表2のとおり、数値目標の設定に当たり、協議会等が数値を客観的に確認できる資料(以下「客観資料」という。)により現状値の確認を行ったとしているものが1,834件(3,761件の48.7%)、客観資料によらず各経営体からの聞き取りなどにより確認を行ったとしているものが1,927件(同51.2%)となっていた。
上記の1,927件において、各経営体は、農産物の直売数量、経営面積、一等米の比率等を現状値より向上させるとして数値目標を設定していた。
しかし、その設定に当たって基準とした農産物の直売数量、経営面積、一等米の比率等の現状値(以下「設定現状値」という。)について、協議会等を通じて各経営体等から農地基本台帳、営農計画書、農産物の販売に係る資料等の客観資料の提供を受けるなどして実際の現状値(以下「実現状値」という。)を確認したところ、表2のとおり、客観資料の提供を受けることができた766件のうち289件については、設定現状値が実現状値を下回っていた。そして、このうち113件については、数値目標の目標値が実現状値以下となっていて、これを達成したとしても経営改善にならないものとなっていた。
また、協議会等が客観資料により設定現状値の確認を行ったとしている1,834件のうち85件については、協議会等による集計や転記の誤りなどのため、設定現状値が実現状値を下回っていた。そして、85件のうち22件については、数値目標の目標値が実現状値以下で設定されていた。
表2 協議会等による現状値の確認状況及び本院による確認結果
\ | 協議会等による現状値の確認状況 | 本院による現状値の確認結果 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
検査の対象とした経営改善目標数 | 3,761 | 聞き取りなどにより確認を行ったとしているもの | 1,927 | 客観資料により確認することができたもの | 766 | 設定現状値が適切であったもの | 477 | ||
設定現状値が実現状値を下回っていたもの | 289 | 目標値が実現状値を上回っていたもの | 176 | ||||||
目標値が実現状値以下となっていたもの | 113 | ||||||||
客観資料により確認することができなかったもの | 1,161 | ||||||||
客観資料により確認を行ったとしているもの | 1,834 | 設定現状値が適切であったもの | 1,749 | ||||||
設定現状値が実現状値を下回っていたもの | 85 | 目標値が実現状値を上回っていたもの | 63 | ||||||
目標値が実現状値以下となっていたもの | 22 |
このように、設定現状値が実現状値を下回っていた前記の289件及び85件、計374件の数値目標については、現状値の確認が客観資料に基づいて適切に行われていなかったり、集計等の誤りがあったりなどしたため、設定現状値が計画時における経営体の経営状況の実態を正確に反映したものとなっていなかった。そして、これらのうち、数値目標の目標値が実現状値以下となっていた前記の113件及び22件、計135件(3,761件の3.5%、客観資料で確認できた計2,600件の5.1%。当該数値目標を設定した経営体の数121経営体、国庫補助金相当額計1億8463万余円)については、数値目標の目標値が実現状値に対して経営改善効果が見込まれるものとなっておらず、数値目標が適切に設定されていないと認められた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
小野市農業再生協議会(兵庫県小野市所在)は、平成23年度に下東条地区において経営体育成支援事業を実施し、機械等を導入した3経営体に対して助成金を交付している(助成対象事業費計861万余円、国庫補助金相当額計255万余円)。
そして、上記3経営体のうち1経営体(助成対象事業費566万円、国庫補助金相当額169万余円)は、農産物の品質向上等の三つの経営改善目標を設定して、その達成に向けた取組のためにコンバイン1台を導入している。この経営体は、上記経営改善目標のうち農産物の品質向上について、一等米比率の現状値が30%であるとして、これを90%に向上させるという数値目標を設定し、同協議会は、この現状値についてこの経営体からの聞き取りにより確認したとしていた。
しかし、米の販売先である農業協同組合からの精算金振込通知書により確認したところ、一等米比率の実現状値は100%となっていて、数値目標の目標値として設定した90%は実現状値を下回っており、また、現状値よりも一等米比率を向上させて経営改善効果を発現させることができないものとなっており、設定した数値目標が適切なものとなっていなかった。
前記1,927件のうち1,161件(3,761件の30.8%。当該数値目標を設定した経営体の数745経営体、国庫補助金相当額計11億7506万余円)については、客観資料が保存されておらず、設定現状値が適切であるかを確認することができず、数値目標の妥当性について検証できないものとなっていた。
前記の1,433経営体が設定した4,730件の経営改善目標のうち、数値目標が適切に設定されていたと認められるもの及び定性的目標を設定していたものであって、26年度までに経営改善目標を達成したとしていたもの計2,550件についてみると、表3のとおり、経営改善目標の達成状況の確認に当たり、協議会等が客観資料により数値目標に係る実績値や定性的目標に係る実績(以下、両者を合わせて「実績値等」という。)の確認を行ったとしているものが2,132件(2,550件の83.6%)、客観資料によらず各経営体からの聞き取りなどにより確認を行ったとしているものが418件(同16.3%)となっていた。
上記の418件において、各経営体は、農産物の直売数量、経営面積、一等米の比率等について数値目標を設定するなどし、実績値等はこれを上回るなどしていて目標を達成したとしていた。
しかし、実績値等について、協議会等を通じて各経営体等から客観資料の提供を受けるなどして確認したところ、表3のとおり、客観資料の提供を受けることができた336件のうち114件については、目標年度における実際の農産物の直売数量、経営面積、一等米の比率等の実績値等は経営体からの聞き取りなどによる数値を下回るなどしており、経営改善目標を達成していなかった。
また、協議会等が客観資料により実績値等の確認を行ったとしている2,132件のうち65件については、協議会等による集計や転記の誤りなどのため、実際には経営改善目標を達成していなかった。
表3 協議会等による実績値等の確認状況及び本院による確認結果
\ | 協議会等による実績値等の確認状況 | 本院による実績値等の確認結果 | |||||||
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検査の対象とした経営改善目標数 | 2,550 | 聞き取りなどにより確認を行ったとしているもの | 418 | 客観資料により確認することができたもの | 336 | 実際に経営改善目標を達成していたもの | 222 | ||
実際には経営改善目標を達成していなかったもの | 114 | ||||||||
客観資料により確認することができなかったもの | 82 | ||||||||
客観資料により確認を行ったとしているもの | 2,132 | 実際に経営改善目標を達成していたもの | 2,067 | ||||||
実際には経営改善目標を達成していなかったもの | 65 |
このように、前記の114件及び65件、計179件(2,550件の7.0%。当該経営改善目標を設定した経営体の数164経営体、国庫補助金相当額計2億4291万余円)の経営改善目標については、実績値等の確認が客観資料に基づいて行われていなかったり、集計等の誤りがあったりなどしたため、実際には数値目標等を達成していなかったのに、協議会等において達成したと評価していた。このため、実際には経営改善目標を達成しておらず経営改善効果が十分に発現しているとは認められないにもかかわらず、協議会等において、経営改善目標の達成に向けた具体的な改善措置を検討して、経営体に改善措置に基づいた取組を行わせるなどの措置が講じられていない事態となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
仙北市地域農業再生協議会(秋田県仙北市所在)は、平成24年度に仙北市地区において経営体育成支援事業を実施し、機械等を導入した15経営体に対して助成金を交付している(助成対象事業費計6651万余円、国庫補助金相当額計1927万余円)。
そして、上記15経営体のうち1経営体(助成対象事業費505万余円、国庫補助金相当額144万余円)は、経営面積の拡大等の三つの経営改善目標を設定して、その達成に向けた取組のためにトラクター等一式を導入している。この経営体は、上記経営改善目標のうち経営面積の拡大について、水稲作付面積を現状値の2,050aから2,500aに拡大させるという数値目標を設定していた。そして、目標年度における水稲作付面積について、同協議会は、この経営体からの聞き取りにより確認して、水稲作付面積が2,500aとなり数値目標を達成したと評価していた。
しかし、営農計画書により確認したところ、目標年度における実際の水稲作付面積は1,923a(現状値より127a減少)となっていて、数値目標を達成しておらず、経営改善効果が発現していなかった。
前記418件のうち82件(2,550件の3.2%。当該経営改善目標を設定した経営体の数75経営体、国庫補助金相当額計1億2690万余円)については、客観資料が保存されておらず、実際に経営改善目標を達成しているかを確認することができなかった。
(1)ア及び(2)アのとおり、264経営体(両事態の重複分を除く。国庫補助金相当額計3億9344万余円)が設定した314件の経営改善目標について、経営改善目標における数値目標の設定や経営改善目標の達成状況の確認等が適切に行われていなかった。また、(1)イ及び(2)イのとおり、770経営体(両事態の重複分を除く。国庫補助金相当額計12億2466万余円)が設定した1,243件の経営改善目標については、数値目標の妥当性や経営改善目標の達成状況を確認することができなかった。
(改善を必要とする事態)
協議会等において、経営体の経営改善目標における数値目標の目標値が現状値に対して経営改善効果が見込まれるものとなっていなかったり、実際には経営改善目標を達成しておらず経営改善効果が十分に発現しているとは認められないにもかかわらず目標を達成したと評価して、必要な改善措置が講じられていなかったりしている事態や、客観資料が保存されていなかったことなどにより、経営改善効果や改善措置の必要性を検証することができなくなっている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。
貴省は、農業従事者の減少と高齢化が進む中にあって、中心経営体等を育成及び確保することなどにより、農業の持続的発展を図りつつ、国民への食料の安定供給を図るために、28年度以降も引き続き、経営体育成支援事業を実施することとしている。
ついては、貴省において、経営体による経営改善目標の数値目標の設定や協議会等による経営改善目標の達成状況の確認等が適切に行われて、事業の効果が十分発現するようにするとともに、目標の設定や達成状況の確認等が適切に行われているかの検証が行えるよう、次のとおり改善の処置を要求する。