【改善の処置を要求したものの全文】
都市農村共生・対流総合対策事業の実施について
(平成28年10月27日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、農山漁村の持つ豊かな自然や「食」を観光、教育、福祉等に活用する集落連合体(注1)による地域の手づくり活動を支援することにより、都市と農山漁村の共生・対流を推進することなどを目的として、平成25年度から、都市農村共生・対流総合対策事業(以下「共生・対流事業」という。)を実施する集落連合体等の事業主体に対して、都市農村共生・対流総合対策交付金(以下「交付金」という。)を交付しており、25年度から27年度までの交付金交付額は計51億3111万余円となっている。都市農村共生・対流総合対策交付金実施要綱(平成25年25農振第393号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等によれば、共生・対流事業は、農山漁村の持つ豊かな自然や「食」を観光、教育、福祉等に活用した、都市と農山漁村の交流に資する地域の手づくり活動を行う取組(以下「集落連携推進対策」という。)等とされている。
実施要綱等によれば、共生・対流事業は、事業主体の立ち上がり段階の取組支援が主であるとされており、このうち集落連携推進対策については、自立的、発展的な取組であって、効果が見込まれることなどが事業採択の要件とされていて、実施期間(交付金の交付対象となる期間)の上限を2年間とした上で、その翌年度である事業開始年度から3年目を事業の目標年度とすることとされている。
実施要綱等によれば、事業主体は、事業の応募に当たって、交流人口、売上げ及び雇用に係る数値目標を設定することとされており、都市農村共生・対流総合対策交付金公募要領(平成25年3月制定)等によれば、地方農政局等は、事業実施提案書(以下「提案書」という。)の採択に当たって、数値目標の設定は妥当であるか、事業完了後に自立的、継続的な取組が可能であるかなど、事業計画の有効性等について、外部有識者等による選定審査委員会の審査を経た上で提案書を採択することとされている。また、実施要綱等によれば、提案書が採択された事業主体は、集落連携推進対策において予定している体制整備、実践活動等の各種の取組項目、1年目から3年目までの毎年の交流人口、売上げ及び雇用に係る数値目標等を取りまとめた共生・対流促進計画(以下「促進計画」という。)を作成して、地方農政局長等に提出することとされ、地方農政局長等は、自立的、発展的な取組であることなどを要件として、実施要綱等に照らして適当であると認める場合は促進計画を承認することとされている。
実施要綱等によれば、共生・対流事業を実施する事業主体は、事業開始年度の翌年度から目標年度の翌年度までの毎年度、促進計画に定めた数値目標の達成状況等について評価(以下「自己評価」という。)を行い、地方農政局長等に報告することとされている。
そして、地方農政局長等は、自己評価の内容について、有識者から意見を聴取した上で、事業の実施状況、数値目標の達成状況等の各評価項目について、A(優良)、B(良好)、C(低調)の3段階で評価し、これらの結果を踏まえて、AからCまでの総合的評価を行うこととされている(以下、これら一連の評価を「事業評価」という。)。事業評価に当たっては、事業完了後の持続可能な取組への展開につながるものであることに留意しなければならないとされており、総合的評価がCとされた事業については、より効果的、効率的かつ継続的なものとなるよう、事業主体に対して重点指導を実施することとされている。
重点指導は、地方農政局等が、事業評価において総合的評価がCとなった要因を分析し、目標の達成に向けた方策を検討した上で、取組の改善を図るために直接現地に赴くなどして実施するものである。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、促進計画における数値目標等は適切に設定されているか、共生・対流事業の各種の取組は促進計画に基づき適切に実施されているか、数値目標は達成されているか、事業評価及び重点指導は適切に実施されているかなどに着眼して、25年度から27年度までの間に220事業主体が実施した集落連携推進対策220事業(以下「220事業」という。事業費計27億3311万余円、交付金交付額計22億6154万余円)を対象として、貴省本省及び6農政局(注2)において、促進計画の審査、事業評価等の状況を確認するとともに、上記の220事業主体から事業の実施状況に関する調書を徴した上で、このうちの166事業主体において、促進計画の内容、促進計画に定めた取組の実施状況、数値目標の達成状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、事業主体は、事業の応募に当たっては、交流人口、売上げ及び雇用に係る数値目標を設定することとなっており、地方農政局等は、提案書の採択及び促進計画の承認に当たって、数値目標の設定は妥当であるかなどについて審査することとなっている。
数値目標の設定状況についてみたところ、集落連携推進対策で実施することとした取組に対応した数値目標を設定するよう実施要綱等に明示されていないことから、取組の実施により交流が図られる人数ではなく、地域全体の年間の観光客数を交流人口の数値目標としたり、取組の実施により発生する売上げではなく、地域全体の年間の農産品販売額等を売上げの数値目標としたりするなど、集落連携推進対策で実施することとした取組と直接関連しない数値を目標としている事態が、220事業のうち134事業(220事業の60.9%。事業費計10億4449万余円、交付金交付額計9億7518万余円)において見受けられた。これらの事態は、数値目標が適切に設定されていないのに提案書の採択及び促進計画の承認がされているものであり、数値目標が適切でないため、数値目標の達成状況により事業の効果を的確に把握したり、適切な事業評価を行ったりすることができない状況となっていると認められる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
築地松景観保全対策推進協議会(島根県出雲市所在)は、平成25、26両年度に、築地松散居景観の保全・活用の推進を図るとして、築地松の景観への関心を高めてもらうためのボランティアガイドの実施、築地松のライトアップイベントの実施等の取組項目から成る集落連携推進対策(事業費計614万余円、交付金交付額計559万余円)を実施している。
しかし、同協議会は、上記ライトアップイベントの実施等の取組に直接関連した交流人口、売上げ等ではなく、築地松散居景観を活用した共生・対流の推進により地域全体の交流人口等の増大が図られるとして、これらの取組と直接関連しない地域全体の観光施設の入込客数や地域全体の年間商品販売額、商店の従業員数等を数値目標として設定しており、これらの数値目標を基に提案書が採択され、促進計画が承認されていた。
そして、事業開始から2年目の26年度の数値目標の達成状況をみると、例えば、地域全体の観光施設の入込客数の達成率は100%となるなどしていたが、上記のとおり、実施された取組と直接関連しない数値目標となっていることから、取組の実施が達成状況に与えた影響が判別できず、事業の効果を的確に把握することなどができない状況となっていた。
前記のとおり、地方農政局等は、提案書の採択及び促進計画の承認に当たって、事業完了後に自立的、継続的な取組が可能かなどについて審査することとなっており、提案書が採択された事業主体は、集落連携推進対策において予定している各種の取組項目を取りまとめて作成した促進計画の承認を受けて、これに基づいて取組を実施することとなっている。
220事業のうち、27年度に目標年度が到来したのは134事業であった。このうち、促進計画において目標年度である3年目までの年度ごとに、体制整備、実践活動等の各種の取組項目を設定していた62事業について、これらの取組の実施状況をみたところ、事業開始から1年目及び2年目においては、促進計画に定めた取組項目の全てを実施していたものが1年目37事業、2年目33事業となっていた。そして、残りの事業については、取組項目の全ては実施していなかったものの、取組項目の半数以上は実施していた。
一方、目標年度である3年目においては、交付金の交付期間が終了した後、実施体制が整わなかったり、資金不足になったりしたことなどの理由により、促進計画に定めた取組項目の半数未満しか実施していない事態が8事業(62事業の12.9%。事業費計5289万余円、交付金交付額計5127万余円)において見受けられた。これらの事態は、提案書や促進計画に記載されて、事業完了後に自立的、継続的な取組が可能であるかについて審査を受け、採択及び承認がされている取組の実施が低調となっているものであり、自立的、継続的な取組へと展開できていない状況となっていると認められる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
南種子元気なまちづくり推進協議会(鹿児島県熊毛郡南種子町所在)は、平成25、26両年度に、事業内容や地域の農産品等を紹介するためのウェブサイトを構築したり、グリーン・ツーリズム(注)の実施に向けた課題を検討したりなどする集落連携推進対策(事業費計758万余円、交付金交付額計757万余円)を実施している。
同協議会は、促進計画において、1年目には10項目、2年目には14項目の取組を実施し、目標年度である3年目(27年度)には、ITを活用した消費者とのネットワークづくり及び地域資源の活用やボランティアを取り込んだグリーン・ツーリズムに係る20項目の取組を実施するなど自立的、継続的な取組を実施することとしていた。
しかし、同協議会は、1年目には10項目全て、2年目には14項目中9項目(64.2%)の取組を実施したものの、3年目には、関係団体との調整がつかず実施体制が整わなかったなどの理由により、20項目のうち、1年目及び2年目より少ない6項目(30.0%)の取組しか実施していなかった。そして、これらの20項目のうち、本件事業において重要な取組の一つであるグリーン・ツーリズムに係る実施状況についてみると、10項目中9項目を実施しておらず、グリーン・ツーリズムに関する課題の整理、検討等の取組1項目を実施していたにすぎなかった。
一方、本件事業に対する27年度における事業評価での事業の実施状況の評価及び総合的評価についてみると、2年目は取組の一部を実施していなかったものの、いずれの評価もBとなっており、本件事業は重点指導の対象となっていなかった。
27年度に目標年度が到来したアの134事業のうち、(1)のとおり数値目標が適切に設定されていなかったため、数値目標の達成状況により事業の効果を的確に把握できない状況となっている85事業を除く49事業について、数値目標の達成状況をみたところ、目標年度における数値目標の全部又は一部が達成されていないものが39事業あった。
そこで、上記の39事業について、1年目及び2年目の数値目標の達成状況についても併せてみたところ、実施体制が整わなかったり、集客のための広報活動が十分でなかったりしたことなどの理由により、各年度における数値目標の全部又は一部が達成されておらず、その達成率が30%未満と低調になっている事態が21事業(49事業の42.8%。事業費計1億4849万余円、交付金交付額計1億4441万余円)において見受けられた。これらの中には、目標年度において交流人口、売上げ及び雇用の数値目標のいずれについても達成率が30%未満となっているものも6事業あった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
メンタルヘルス・コンソーシアム協議会(石川県珠洲市所在)は、平成25、26両年度に、「農」を活用した医療・福祉との連携を図るとして、企業等を対象としたメンタルヘルスに係るプログラムの作成やそのプログラムの実施等の集落連携推進対策(事業費計895万余円、交付金交付額計865万余円)を実施している。
そして、同協議会は、交流人口についてはプログラム参加者数80人(1年目)、400人(2年目)、500人(3年目)、売上げについては上記対策の実施により発生する売上額1,200,000円(1年目)、4,500,000円(2年目)、7,500,000円(3年目)、雇用については同協議会による雇用者1人(各年とも同人数)を数値目標としていた。
しかし、雇用の数値目標は1年目及び2年目ともに達成していたものの、予定したプログラムに対する集客が思わしくなかったため、交流人口及び売上げの数値目標の達成率は、それぞれ1年目90.0%、23.8%、2年目29.0%、7.4%と数値目標が達成されていなかった。そして、目標年度である3年目は交流人口22.8%、売上げ4.0%及び雇用0%といずれの数値目標もその達成率は30%未満と低調なものとなっていた。
一方、本件事業に対する26、27両年度における事業評価での数値目標の達成状況の評価は26年度B、27年度Cとされていたものの、総合的評価は両年度ともBとなっており、本件事業は重点指導の対象となっていなかった。
前記のとおり、重点指導は、地方農政局等が、事業評価において総合的評価がCとなった事業について、その要因を分析するなどした上で、取組の改善を図るために実施するものである。
27年度に目標年度が到来した(2)ア及び(2)イの134事業について、目標年度である3年目に係る事業評価は会計実地検査時点でまだ実施されていなかったことから、既に実施されている1年目及び2年目についての事業評価の結果をみたところ、促進計画に定めた取組項目の半数未満しか実施していなかった8事業((2)アの事態)及び数値目標の達成率が30%未満と低調になっているものがあった21事業((2)イの事態)、重複分を除く純計27事業(事業費計1億9044万余円、交付金交付額計1億8481万余円)は、取組の実施や数値目標の達成率が低調となっており、当該評価項目の評価がCとされていたものの総合的評価はBとなる(事例3参照)などしていたため、実施要綱等に基づく改善に向けた重点指導の対象となっていなかった。
このように取組の実施や数値目標の達成率が低調である場合は、早期に改善策を講ずることが肝要であり、そのためには重点指導の仕組みを活用することが考えられるが、上記のとおり、現在の重点指導の仕組みにおいては、重点指導の対象とする事業を総合的評価がCとされたものに限定していることから、取組の実施や数値目標の達成率が低調である場合であっても重点指導が十分に活用されていない状況となっていると認められる。
なお、(1)から(3)までの事態について、重複分を除くと、155事業(事業費計11億9299万余円、交付金交付額計11億1960万余円)となる。
(改善を必要とする事態)
集落連携推進対策について、数値目標が適切に設定されていないのに提案書の採択及び促進計画の承認がされている事態、提案書や促進計画に記載され、事業完了後に自立的、継続的な取組が可能であるかについて審査を受け、採択及び承認がされている取組の実施が低調となっていたり、数値目標の達成率が低調となっていたりしている事態並びに取組の実施や数値目標の達成率が低調となっているにもかかわらず、重点指導が十分に活用されていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省は、共生・対流事業の実施は、都市と農山漁村の共生・対流を推進し、農山漁村の地域活性化と地域コミュニティの再生を図ることをもって、食料の安定供給等の多面的機能の発揮につながるものであるとして、28年度に新設された農山漁村振興交付金の制度に組み込んで、今後も引き続き実施していくこととしている。
ついては、貴省において、共生・対流事業が適切に実施され、事業完了後に自立的、継続的な取組が実施されていくこととなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。