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(8)漁港施設について、機能保全計画に基づいて機能保全工事や点検結果の記録及び保存を適切に実施するなどして、施設の効率的な維持管理が行われるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)水産庁 (項)水産基盤整備費
部局等
水産庁
補助の根拠
予算補助
補助事業者
事業主体
道、県14、市81、町33、村5 計134事業主体
補助事業
水産物供給基盤機能保全事業
補助事業の概要
効率的で効果的な漁港・漁場施設の更新を図るために、漁港・漁場施設の機能保全計画の策定等に要する経費について補助するもの
機能保全計画に沿って機能保全工事が実施されていない漁港数及びこれに係る機能保全計画策定事業費
5漁港 7516万余円(平成21年度~23年度、25年度)
上記に対する国庫補助金相当額(1) 
3796万円
日常点検の結果の記録及び保存が行われていない漁港数及びこれに係る機能保全計画策定事業費
27漁港 2億4764万余円(平成24年度~26年度)
上記に対する国庫補助金相当額(2) 
1億3378万円
漁港台帳に添付すべき標準断面図が保存されていない漁港数及びこれに係る機能保全計画策定事業費
187漁港 27億4202万余円(平成20年度~27年度)
上記に対する国庫補助金相当額(3) 
16億5306万円
(1)から(3)までの純計
213漁港 17億8215万円(背景金額)(平成20年度~27年度)

【改善の処置を要求したものの全文】

機能保全計画に基づく漁港施設の維持管理について

(平成28年10月28日付け 水産庁長官宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 漁港施設の維持管理の概要

(1) 漁港の整備及び維持管理の概要

貴庁は、漁港漁場整備法(昭和25年法律第137号。以下「整備法」という。)等に基づき、水産業の健全な発展及びこれによる水産物の供給の安定を図り、国民生活の安定及び国民経済の発展に寄与するために、漁港の整備を推進して、その維持管理を適正に行うこととしている。漁港の整備は、都道府県、市町村等が事業主体となって、水産流通基盤整備事業等の補助事業等により実施されており、整備法に基づき、漁港の所在する都道府県又は市町村が漁港管理者となって、適正に漁港の維持、保全及び運営その他漁港の維持管理をする責めに任ずることとなっている。なお、利用範囲が全国的な漁港はその施設等が大規模になることから都道府県が、一方、利用範囲が地元の漁業を主とする漁港は市町村が漁港管理者となることが原則となっている。

(2) 漁港施設のストックマネジメントの概要

漁港は、防波堤、護岸等の外郭施設、岸壁、桟橋等の係留施設等の漁港施設から構成されている。

貴庁は、既存の漁港施設は高度経済成長期に整備されたものが多く、近年、老朽化が進行して、改良・更新の時期を迎えた施設が多くなっていることから、厳しい財政状況の中で、今後とも漁港施設等が適切な機能を継続的に発揮していくためには、効果的かつ効率的な維持管理、更新等により長寿命化や更新コストの縮減を図ることが強く求められているとしている。

このため、貴庁は、漁港施設の維持管理に関して、従来のような事後保全中心の維持管理から予防保全を積極的に取り入れた戦略的な維持管理への転換が必要であるなどとして、漁港施設の適切な機能を維持するための基本的な考え方や検討手順、検討内容、施設情報の管理の在り方等を包括的に取りまとめた「水産基盤施設ストックマネジメントのためのガイドライン」(平成24年10月水産庁漁港漁場整備部。以下「ガイドライン」という。)を策定している。

ガイドラインによれば、漁港管理者において、施設の現況把握、機能診断の実施、機能保全対策の検討等の一連の検討過程を経て機能保全計画の策定を行い、同計画に定めた日常管理計画に基づく点検を行うとともに、計画的に機能保全対策を実施し、これらを通じて得られた一連の施設情報を蓄積及び活用して効率的な維持管理を行うなどの取組(以下「ストックマネジメント」という。)が重要であるとされている(図1参照)。

図1 漁港施設のストックマネジメントの概要(フロー)

図1 漁港施設のストックマネジメントの概要(フロー) 画像

そして、貴庁は、水産基盤整備事業補助金交付要綱(平成13年12水港第4494号)、水産物供給基盤整備事業等実施要領(平成13年12水港第4457号)等に基づき、平成20年度に水産物供給基盤機能保全事業を創設して、機能保全計画の策定を行い、同計画に基づく漁港施設等の機能保全対策を実施するための工事(以下「機能保全工事」という。)を行う都道府県又は市町村に対して補助金を交付することとしており、20年度から27年度までの補助金交付額は計495億4638万余円に上っている。

(3) 機能保全計画の策定の概要

貴庁は、ガイドラインのほか、漁港管理者が機能保全計画を策定する際に留意すべき事項を取りまとめた「水産基盤施設機能保全計画策定の手引き」(平成21年2月水産庁漁港漁場整備部。以下、ガイドラインと合わせて「ガイドライン等」という。)を策定している。

ガイドライン等によれば、漁港管理者は、機能保全計画の策定に当たっては、対象とする漁港等の概要整理等を行った上で、漁港施設の現況把握として、施設の構造形式、断面形状、建設年次等を把握することとされている。また、漁港管理者は、整備法等に基づき、漁港台帳を調製して、これに漁港の平面図、外郭施設及び係留施設の標準断面図等を添付しなければならないこととなっており、上記の現況把握に当たっては、漁港台帳をはじめ、施設の現況や過去の履歴が分かる施設情報に関する資料を整理することとなっている。

そして、漁港管理者は、上記の現況把握を踏まえて機能診断を行うこととなっている(図2参照)。機能診断に当たっては、まず目視等による簡易調査を実施して、漁港施設を構成する部材の性能低下の程度(以下「老朽化度」という。)を評価し、それが施設の安全性に及ぼす影響度を踏まえて、施設ごとに、その総体的な性能低下の程度(以下「健全度」という。)をA、B、C及びDの4段階で評価することとされている。このうち、健全度が最も低いとされるAは、施設の主要部に著しい老朽化が発生しており、施設の性能が要求性能を下回る可能性のある状態であるとなっている。また、漁港管理者は、必要に応じて詳細調査を実施することとなっている。

さらに、これらの結果を踏まえて、施設の供用期間を機能保全計画策定時から50年として老朽化予測を行うことを基本とし、施設に生じている老朽化の程度や老朽化予測から将来的な状態等を勘案して対策を検討することとなっている。

図2 機能診断の概要(フロー)

図2 機能診断の概要(フロー) 画像

また、対策の一環として、日常的な維持管理として実施する日常点検等の内容、頻度等を日常管理計画として整理することとなっている。

このように、機能保全計画の策定に当たっては、施設の現況把握、機能診断及び機能保全対策(対策工法、対策時期、日常管理計画等)について取りまとめる必要があり、その策定には専門性等が必要となることから、漁港管理者は、コンサルタント業者に委託するなどして多額の費用をかけている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、漁港施設の効率的な維持管理のために、機能保全計画に基づき機能保全工事や点検が適切に実施されているか、施設情報は適切に保存され、有効に活用されて、機能保全計画に基づく効率的な維持管理に資するものとなっているかなどに着眼して、15道県(注)内の134漁港管理者が機能保全計画を策定して管理している499漁港に係る20年度から27年度までの機能保全計画の策定に係る事業費計61億0097万余円(国庫補助金相当額計34億9686万余円)を対象として、機能保全計画、漁港台帳、漁港の現況等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注)
15道県  北海道、青森、千葉、神奈川、新潟、静岡、愛知、三重、兵庫、山口、愛媛、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 機能保全計画に沿って機能保全工事が実施されていない事態

機能保全計画の策定に当たって実施される機能診断の結果、施設の健全度が既にA、すなわち、施設の性能が要求性能を下回る可能性のある状態であることが判明した場合、このような状態が継続すると、必要な性能が発揮されないばかりか、早急に対策を行えば施設の補修で対応できたものが、老朽化の更なる進行等により施設の全面的な更新を必要とするようになるなどして、対策に要する費用が増大するおそれがある。

そこで、機能保全計画に沿って適切に機能保全工事が実施されているかみたところ、4漁港管理者が管理する5漁港(機能保全計画の策定に係る事業費計7516万余円、国庫補助金相当額計3796万余円)の漁港施設において、漁港管理者が自ら策定した機能保全計画において施設の健全度をAと評価して早急に機能保全工事が必要であるなどとしているのに、当該施設に係る機能保全工事が実施されていない事態が見受けられた。そして、これらの漁港施設の中には、機能保全計画の策定から機能保全工事が実施されないまま4年以上も経過していたり、機能保全工事の実施についての具体的な計画が立てられていなかったりしているものも見受けられた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

鹿児島県は、坊泊漁港について、平成22、23両年度に補助金の交付を受けて機能保全計画の策定を行っている(事業費7,586,650円、国庫補助金交付額3,793,300円)。

同県は、機能保全計画において、漁船の入出港時における航路の静穏度の確保及び背後にある養殖区域の防護のために消波ブロックを設置した松島防波堤(延長120m)において、消波ブロックの損傷があり、施設全体の沈下が顕著であるため、施設の機能が低下しているとしており、26年度に機能保全工事を実施するとしていた。

それにもかかわらず、同県は、同防波堤の内側の水域にある東防波堤によって、少なくとも東防波堤背後の船だまりにおいては静穏度が保たれていることなどを勘案すると早急な機能保全工事は必要ないとして、機能保全計画の策定から4年以上が経過した会計実地検査時(28年4月)においても同工事の実施時期について具体的な検討を行っておらず、機能保全計画に沿った機能保全工事を実施していなかった。

しかし、松島防波堤は、上記船だまりの静穏度を保つ機能以外に、漁船の入出港時における航路の静穏度の確保及び同防波堤の背後にある養殖区域の防護の機能を有していることから、その機能を保全するための対策が必要であったと認められる。なお、本院の検査を踏まえて、同県では、松島防波堤について、今後改めて機能保全工事の実施を検討するとしている。

<事例2>

長崎県対馬市は、大船越漁港について、平成25年度に補助金の交付を受けて機能保全計画の策定を行っている(事業費3,177,000円、国庫補助金交付額1,969,000円)。

同市は、同漁港の浮桟橋を固定していた4本の係留チェーンのうち3本が23年6月の台風被害により破断したことから、残った係留チェーン1本と、応急対策として同年8月に設置した3本のロープにより同浮桟橋を岸壁に係留していたが、25年10月に実施した機能保全計画策定の際の機能診断で、係留チェーン1本とロープ1本が破断していたことが判明した。そこで、同市は、機能保全計画において、同浮桟橋が2本のロープのみで係留されている状態は非常に危険であり、早急に対策が必要であるとして、健全度をAと評価して、翌年度である26年度に機能保全工事を実施することとしていた。

一方、同漁港を利用している漁業協同組合内で同漁港の陸揚げ機能を将来的に近隣の漁港に集約する案も検討されていたことから、同市は、その検討結果次第では同浮桟橋の利用形態が変わる可能性があるとして、その方針が定まるまでは同浮桟橋の補修に着手しないことにするとともに、同浮桟橋の利用は危険であるので使用を控えるよう漁業者に対して注意喚起をしていた。しかし、上記の案は具体化に至らず、漁業者は、水揚作業の集中時に引き続き同浮桟橋を使用していた。そして、同浮桟橋は、機能保全計画において早急に対策が必要であるとされた時点からほぼ2年が経過した会計実地検査時(28年3月)においても、機能保全計画に沿った機能保全工事が実施されず、安全性が十分に確保されることのないまま使用され続けていた。

このように、これらの漁港施設は、機能保全計画に沿った機能保全工事が行われないまま使用され続けており、策定した機能保全計画が十分に活用されて施設の効率的な維持管理が図られているとは認められない状況となっていた。

(2) 機能保全計画に基づく日常点検の結果の記録及び保存が行われていない事態

漁港施設は、波浪、海水及び潮風の影響を受けるなど、構造物の劣化が進行しやすい厳しい環境条件下にある。ガイドライン等によれば、おおむね年1回以上行う日常点検等の結果は、新たな老朽化の進行箇所の発見のほか、その後5年から10年までの間に1回行う定期点検における機能診断の基礎的な情報として重要であり、漁港管理者は、これを適切に管理する必要があるとされている。そして、ガイドライン等には、施設、部位、損傷の種類ごとに変状の有無や状況を記録する様式が参考として示されている。

そこで、健全度をAと評価した漁港施設を管理している漁港管理者による日常点検等の実施並びに点検結果の記録及び保存の状況についてみたところ、6漁港管理者が管理する27漁港(機能保全計画の策定に係る事業費計2億4764万余円、国庫補助金相当額計1億3378万余円)において、機能保全計画において定められた日常管理計画では、ガイドライン等に示されている様式によって点検の結果を記録することとされているのに、漁港管理者が全く記録を残していなかったり、点検を行った際の日誌に漁港全体として特に異常がなかった旨だけを記録したりなどしている事態が見受けられた。このため、これらの漁港施設においては、点検項目やその内容、施設の異常や変状の有無、その程度に係る記録及び保存が適切に行われておらず、これらの経年的な記録によって把握することができる新たな老朽化の進行箇所や機能診断により把握された老朽化の進行状況が確認できない状況となっていた。

上記のような事態が継続すると、点検結果を定期点検や老朽化予測に活用することができず、おおむね50年とされている施設の全供用期間にわたって行う経過観察が十分に行えなくなったり、担当者の異動により従前の施設の状況を十分に引き継ぐことができなくなったりするおそれがあると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

愛媛県南宇和郡愛南町は、西浦漁港について、平成25年度に補助金の交付を受けて機能保全計画の策定を行っている(事業費9,920,000円、国庫補助金交付額4,960,000円)。そして、同町は、施設の点検作業の効率化や今後の老朽化予測等の精度向上を図るために、機能保全計画における日常管理計画に基づき、機能保全計画の策定対象とした施設について所要の点検を実施して、その点検結果を記録し保存することとしている。

しかし、同町は、日常点検をおおむね1年に2回実施したとしているが、26、27両年度の各施設の日常点検の結果について全く記録を残しておらず、機能保全計画において健全度をAと評価している物揚護岸を含め、各施設における新たな老朽化の進行箇所の有無や機能診断により把握されていた老朽化の進行状況が把握できない状況となっていた。

このように、これらの漁港施設は、機能保全計画に基づく日常点検の結果の記録及び保存が行われておらず、策定した機能保全計画が十分に活用されて施設の効率的な維持管理が図られているとは認められない状況となっていた。

(3) 施設情報が適切に保存され、活用されていない事態

漁港台帳等の保存及び活用の状況についてみたところ、54漁港管理者が管理する187漁港(機能保全計画の策定に係る事業費計27億4202万余円、国庫補助金相当額計16億5306万余円)において、整備法等の定めにもかかわらず、漁港台帳に添付すべき外郭施設又は係留施設の標準断面図の全部又は一部が保存されていない事態が見受けられた。このため、これらの漁港施設においては、機能保全計画の策定に施設情報を活用することができておらず、また、今後の維持管理にも活用することができない状況となっていた。

(改善を必要とする事態)

機能保全計画に沿って機能保全工事が実施されていない事態、機能保全計画において定めた日常管理計画に基づく点検の結果が適切に記録及び保存されておらず、老朽化の進行状況が確認できない事態、施設情報が保存されておらず、機能保全計画の策定等に活用されていない事態は、機能保全計画の策定に係る事業の効果が十分に発現しておらず、機能保全計画に基づく漁港施設の効率的な維持管理が図られていないことから適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、事業主体である漁港管理者において、機能保全計画に基づく機能保全工事や点検結果の記録及び保存の適切な実施並びに施設情報の保存の重要性についての理解が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

高度経済成長期に整備されて老朽化が進行して更新時期を迎える漁港施設が増大していることから、近年、施設の長寿命化や更新コストの縮減を図るために、ストックマネジメントの重要性が高まっている。そして、漁港施設のストックマネジメントを行うに当たっては、施設の機能診断の結果や今後の機能保全対策等について漁港管理者自らが取りまとめた機能保全計画がその基本となる。

ついては、貴庁において、漁港管理者に対して、施設の効率的な維持管理を図る上で、機能保全計画に基づいて機能保全工事や点検結果の記録及び保存を適切に実施すること並びに施設情報を保存することの重要性を周知徹底して、機能保全計画に基づいて施設の維持管理を効率的に行うことを助言するよう改善の処置を要求する。