「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「特措法」という。)等によれば、都道府県知事又はその区域の全部若しくは一部が汚染状況重点調査地域(注1)内にある市町村の長は、同地域内の区域であって、調査測定の結果により、東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社(平成28年4月1日以降は東京電力ホールディングス株式会社。以下「東京電力」という。)の福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境の汚染状態が環境省令で定める要件に適合しないと認めるものについて、汚染された土壌、草木、工作物等について講ずる当該汚染に係る土壌、落葉及び落枝、水路等に堆積した汚泥等の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置等(以下「除染等の措置等」という。)を総合的かつ計画的に講ずるために、当該都道府県又は市町村内の当該区域に係る除染等の措置等の実施に関する計画(以下「除染実施計画」という。)を定めることとされている。そして、除染実施計画に定められた区域(以下「除染実施区域」という。)内の土地であって国が管理する土地及びこれに存する工作物、立木その他土地に定着する物件に係る除染等の措置等は、国が実施することとされている(以下、特措法に基づき実施される除染等の措置等を「特措法除染等」という。)。また、環境省は、除染関係ガイドラインを策定して、特措法除染等の対象、範囲、方法等を具体的に明示しており、特措法除染等のうち森林の除染は、林縁から20m程度の範囲を目安に落葉等の堆積有機物の除去等を行うことになっている。
林野庁は、森林における除染等実証事業を実施しており、集落周辺等の森林の放射性物質拡散防止・低減及び除染等技術の早期確立・改善に必要なデータの蓄積を図るとともに、地域の除染等に向けた取組を推進している。
同事業のうち国有林に関するものは、林野庁本庁、関東森林管理局、6森林管理署等(注2)が委託契約により実施しており、その内容は、①表土流出の防止等に資する森林施業等による放射性物質拡散防止・低減に向けた技術実証、②除染等の技術実証、③①及び②を行う箇所におけるモニタリング・データの蓄積となっている。このうち、②の除染等の技術実証は、国有林周辺の放射線量の低減を図るとともに、国有林から隣接する住宅地や農地等への放射性物質の流出等を防止するために、集落周辺や生活基盤となっている国有林について土壌等の除染等を実施するものである。
特措法によれば、事故由来放射性物質による環境の汚染に対処するために特措法に基づき講ぜられる措置は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)の規定により関係原子力事業者(事故由来放射性物質を放出した原子力事業者をいう。以下同じ。)が賠償する責めに任ずべき損害に係るものとして、当該関係原子力事業者の負担の下に実施されるものとされている。また、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」(平成25年12月閣議決定)において、国と東京電力の役割分担が具体的に示されており、実施済み又は現在計画されている除染・中間貯蔵施設事業の費用は、特措法に基づき、復興予算として計上した上で、事業実施後に、関係府省等から東京電力に求償を行うこととなっている。このように、国が特措法に基づき講じた措置に要する費用については、当該関係原子力事業者に対して求償を行うべきものであり、関係府省等は求償に係る事務を行う必要がある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、特措法除染等の実施に要した費用の求償に係る事務が適切に行われているかなどに着眼して、24年度から26年度までの間に6森林管理署等が実施した34件(24年度15件、25年度16件、26年度3件)の委託契約(以下「34契約」という。)に係る支払額計2億4345万余円を対象として、林野庁本庁において、関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
34契約は、前記②の除染等の技術実証であり、11市町村(注3)の長が定めた除染実施計画に基づき、6森林管理署等が管理する除染実施区域内の国有林において林縁から20m程度の範囲を目安に土壌等の除染等を実施したもので、特措法除染等に該当する。
そこで、特措法除染等として実施した上記除染等の技術実証に係る費用の求償状況について確認したところ、林野庁は、34契約に係る支払額計2億4345万余円について、特措法除染等の実施に要した費用として求償を行うべきものであったにもかかわらず、求償を行うために必要な契約関係書類を準備して関係原子力事業者である東京電力に送付するなどの求償に係る事務を全く行っていなかった。
このように、林野庁において、東京電力の負担の下に実施するとされている特措法除染等の実施に要した費用について、求償に係る事務を全く行っていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、林野庁において、特措法除染等の実施に要した費用について、求償に係る事務を行う必要があることについての認識が欠けていて、求償に係る事務を行うために必要な体制を整備していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、林野庁は、34契約に係る支払額について、28年4月末までに、求償を行うために必要な契約関係書類を準備して東京電力に送付するなどの求償に係る事務を行った。そして、28年6月に、特措法除染等の実施に要した費用の求償に係る事務が確実に行われることとなるよう、具体的な事務手続等を定めることにより必要な体制を整備するとともに、特措法除染等の対象となる国有林を管轄する東北、関東両森林管理局に対して事務連絡を発して周知徹底を図るなどの処置を講じた。