中小企業庁は、平成25年度に、地域力活用市場獲得等支援事業費補助金交付要綱(20130226財中第3号)に基づき、中小・小規模事業者の販売力の向上等を目的として、全国商工会連合会及び日本商工会議所(以下、両者を合わせて「2団体」という。)に対して地域力活用市場獲得等支援事業費補助金を交付している。
また、中小企業庁は、27年度に、小規模事業者支援パッケージ事業費補助金交付要綱(20150210財中第5号)に基づき、中小企業・小規模事業者に対して各種の販路開拓支援等を行うことを目的として、2団体に対して小規模事業者支援パッケージ事業費補助金を交付している。
そして、2団体は、地域力活用市場獲得等支援事業費補助金及び小規模事業者支援パッケージ事業費補助金を原資として、26、27両年度に小規模事業者が取り組むチラシ作成、店舗改装等の販路開拓等の事業に要する経費の一部を補助するために、公募により採択された小規模事業者に対して、小規模事業者持続化補助金(以下「小規模補助金」という。)を、計195億2042万余円交付している。
2団体が中小企業庁長官等の承認を受けるなどしてそれぞれ定めた小規模補助金に係る交付要綱等によれば、小規模補助金の補助率は3分の2以内とされており、補助上限額は、原則として、1事業当たり50万円とされている。また、2団体は、平成25年度補正予算の基本的考え方等が示されている「好循環実現のための経済対策」(平成25年12月閣議決定)において、地域の活力を発揮させるための中小企業・小規模事業者の支援策を推進することや地域における人材育成・雇用拡大の取組を支援することが盛り込まれていることなどを踏まえて、雇用を増加させる取組を行う小規模事業者を一層手厚く支援するために、販路開拓等の取組に加えて雇用を増加させる取組を実施する小規模事業者については、小規模補助金の補助上限額を1事業当たり50万円から100万円に引き上げることとしている(以下、雇用を増加させる取組を実施したことにより補助上限額が引き上げられた小規模事業者を「引上げ事業者」という。)。そして、補助上限額の引上げの要件は、2団体が定めた小規模補助金に係る公募要領等(以下「公募要領等」という。)によれば、社会保険(健康保険及び厚生年金保険をいう。以下同じ。)に加入している事業所が作成した経営計画を実行するため、公募開始日以降に新たに従業員を雇用し、当該従業員に対し社会保険を適用して少なくとも事業完了時点まで雇用を継続していることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、引上げ事業者が適切に雇用を増加させているかなどに着眼して、26年度又は27年度における引上げ事業者のうち、平成28年熊本地震により甚大な被害を受けた熊本県に所在する事業者等を除く延べ1,346事業者(補助対象経費計21億8095万余円、小規模補助金交付額計12億3758万余円(国庫補助金相当額同額))を対象として、調書を徴するとともに、中小企業庁、2団体及び21事業者において実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
中小企業庁は、雇用の純増が図られなければ従業員の解雇や入替えにつながるおそれもあることから、引上げ事業者は雇用を純増させる者を対象とすることを想定していたが、公募要領等において、雇用の純増は、補助上限額の引上げの要件とはされていなかった。そこで、引上げ事業者延べ1,346事業者について、小規模補助金公募開始前日時点の従業員(社会保険の適用を受けている者に限る。以下同じ。)数と比較して事業完了時点の従業員数を純増させているか検査したところ、表のとおり、延べ1,120事業者は従業員数を純増させていたものの、上記1,346事業者の16.7%に当たる延べ226事業者は従業員数を純増させておらず、この延べ226事業者のうち延べ75事業者は従業員数が減少していた。
そして、従業員数を純増させていなかった延べ226事業者に係る補助上限額の引上げ分の小規模補助金交付額は計9279万余円(国庫補助金相当額同額)となっていた。
表 引上げ事業者における従業員数の状況
事業者数等
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年度 |
引上げ事業者数 (A) |
引上げ事業者数のうち、従業員数を純増させていなかった事業者数の割合 (B/A) |
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従業員数を純増させていた事業者数 | 従業員数を純増させていなかった事業者数 (B) |
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従業員数が減少していた事業者数 | |||||||
1名減 | 2名以上減 | ||||||
平成26 | 481 | 405 | 76 | 19 | 15 | 4 | 15.8% |
27 | 865 | 715 | 150 | 56 | 40 | 16 | 17.3% |
計 | 1,346 | 1,120 | 226 | 75 | 55 | 20 | 16.7% |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
大阪府に所在する食料品製造業の事業者Aは、平成26年度に、製造した商品を販売するために直売所の新設等を実施し、さらに、小規模補助金公募開始日時点(26年2月27日)から事業完了時点(27年1月31日)までの間に、社会保険の適用を受ける従業員1名を新たに雇用して、補助上限額の引上げを受け、事業費150万円に対して小規模補助金100万円の交付を受けていた。
しかし、Aの従業員数の推移を確認したところ、小規模補助金公募開始前日時点で従業員数は10名であったが、その後、このうち6名が退職するなどして減少したことから、事業完了時点では、新たに雇用した1名を合わせても従業員数は5名にとどまっていて、小規模補助金公募開始前日時点と比較して従業員数が減少していた。
このように、補助上限額の引上げを受けていながら雇用を純増させていない引上げ事業者が多数見受けられ、中小企業庁の想定どおりに取組の効果が上がっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、中小企業庁において、2団体に対して、公募要領等における引上げ事業者の要件を定めるに当たり、雇用を純増させる事業者に限定することについての指導等が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、中小企業庁は、28年2月に2団体に対して通知を発して、平成27年度補正予算を財源として交付する小規模補助金において、補助上限額の引上げの対象となるのは、小規模補助金公募開始前日時点から事業完了時点までの間に従業員数を純増させる事業者であることを公募要領等に明記した上で、事業者に対して従業員数の純増を確認できる証拠書類の提出を求めるよう、指導を行うとともに、今後、小規模補助金が予算計上された場合には、本院の指摘を踏まえた制度設計とする処置を講じた。