この工事は、九州地方整備局大分河川国道事務所(以下「事務所」という。)が、既設橋りょうの耐震対策等の一環として、平成26年度に、大分県玖珠郡玖珠町地内において、一般国道210号の杉河内橋(昭和48年築造。橋長127.0m、幅員9.4m、橋台2基及び橋脚2基。3径間)に橋りょう附属物工、橋脚巻立て工等を工事費212,220,000円で梅林建設株式会社に請け負わせて施工したものである。
このうち、橋りょう附属物工は、橋台及び橋脚に設置されていたタイプAの支承(注1)がレベル2地震動(注2)による水平力に抵抗することができないことから、橋台又は橋脚と橋桁との間の相対変位が大きくならないように支承部と補完し合って抵抗する変位制限構造を設置するなどしたものである。
事務所は、変位制限構造の設計を「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づき行うこととしており、示方書等によれば、変位制限構造を設置する橋台及び橋脚の橋座部は、地震発生時に作用する水平力に対して損傷しないように十分な耐力を有するようにすることなどとされている。また、橋座部が所要の耐力を有していても、地震発生時に作用する水平力等によりアンカーボルトの前面のコンクリートにひび割れが生じたり、欠け落ちたりしないように、橋座部に埋め込まれた前面側のアンカーボルト等と橋座部の縁端との距離(以下「縁端距離」という。)は、支間長の0.5%に200mmを加えた値(以下「最小値」という。)以上を確保することとされている。そして、事務所は、本件工事の設計を設計コンサルタントに委託して、設計業務委託の成果品の提出を受けていた。
上記の成果品によれば、橋脚2基に設置した計4個の変位制限構造は、鉄筋コンクリート(橋軸方向の長さ340mm、橋軸直角方向の長さ880mm、高さ700mm)で拡幅した橋座部及び既設の橋座部にアンカーボルト(径32mm又は35mm)で固定した鋼製のブラケットと、橋桁に固定した鋼製のブラケットとを組み合わせた構造となっている(参考図1参照)。また、橋台2基に設置した計8個の変位制限構造は、既設の橋座部にアンカーボルト(径35mm)で固定した鋼製架台と、その鋼製架台に取り付けられている鋼棒と、橋桁に固定した連結板とを組み合わせた構造となっている(参考図2参照)。そして、事務所は、上記の成果品によれば、拡幅した橋座部及び既設の橋座部について所要の安全度が確保されるとして、これにより施工していた。
本院は、合規性等の観点から、工事の設計が示方書等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、事務所において、本件工事を対象に、設計図面、設計計算書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
既設の橋座部及び拡幅した橋座部は、地震発生時に変位制限構造のアンカーボルトから伝達される水平力に対して十分な耐力を有している必要がある。しかし、事務所は、橋座部の耐力について検討を行っていなかった。
そこで、改めて、既設の橋座部及び拡幅した橋座部の耐力を計算すると、橋台1基の変位制限構造4個及び橋脚2基の同構造計4個が設置された箇所の耐力は282kNから322kN(橋台)又は381kNから547kN(橋脚)となり、地震発生時にこれらの橋座部に作用する水平力330kN(橋台)又は995kNから1,071kN(橋脚)を大幅に下回っていて、設計上安全とされる耐力を有していなかった。
縁端距離は、橋座部のひび割れや欠け落ちを防止するため最小値以上を確保することとなっている。しかし、事務所は、縁端距離が最小値以上を確保しているかを確認していなかった。
そこで、改めて、変位制限構造の縁端距離が最小値以上を確保しているか確認すると、橋台2基及び橋脚2基に設置した同構造計12個の縁端距離は130mmから200mmとなっており、最小値403mmから415mmを大幅に下回っていて、設計上必要とされる縁端距離を確保できていなかった。
したがって、橋台2基又は橋脚2基に設置した(1)の事態に係る8個、(2)の事態に係る12個、計12個((1)の8個は(2)にも該当する。)の変位制限構造及び同構造が設置された橋座部は、設計が適切でなかったため、地震発生時において所要の安全度が確保されていない状態になっていて工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額15,790,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事務所において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図1)
橋脚に設置した変位制限構造の概念図
(参考図2)
橋台に設置した変位制限構造の概念図