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  • 平成27年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
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  • 不当事項|
  • 工事

既設橋りょうの耐震補強工事の実施に当たり、設計が適切でなかったため、水平力分担構造等の所要の安全度が確保されておらず、工事の目的を達していなかったもの[九州地方整備局延岡河川国道事務所](262)


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)道路交通安全対策事業費
部局等
九州地方整備局延岡河川国道事務所
工事名
平成26年度 延岡北地区橋梁(りょう)耐震補強工事
工事の概要
既設5橋りょうにおいて、橋りょう附属物工、橋脚巻立て工等を施工するもの
工事費
130,140,000円
請負人
ライト工業株式会社
契約
平成26年6月 一般競争契約
しゅん功検査
平成27年3月
支払
平成26年8月、27年4月
不適切な設計となっていた水平力分担構造等の設置等に係る工事費
9,929,000円(平成26年度)

1 工事の概要

この工事は、九州地方整備局延岡河川国道事務所(以下「事務所」という。)が、既設橋りょうの耐震対策等の一環として、平成26年度に、宮崎県延岡市北川町地内等において、一般国道10号の桑之内橋(昭和41年築造。橋長68.7m、幅員8.2m~9.2m、橋台2基及び橋脚1基。2径間)、大峡橋(上り)(昭和38年築造。橋長23.0m、幅員9.1m~9.4m、橋台2基及び橋脚1基。2径間)等5橋りょうに、橋りょう附属物工、橋脚巻立て工等を工事費130,140,000円でライト工業株式会社に請け負わせて施工したものである。

このうち、橋りょう附属物工は、桑之内橋、大峡橋(上り)等の橋台及び橋脚に設置されていたタイプAの支承(注1)がレベル2地震動(注2)による水平力に抵抗することができないことから、橋桁等に作用する橋軸方向及び橋軸直角方向の水平力を分担する構造(以下「水平力分担構造」という。)を設置するなどしたものである。

事務所は、水平力分担構造の設計を「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づき行うこととしており、示方書等によれば、水平力分担構造を設置する橋台及び橋脚の橋座部は、地震発生時に作用する水平力に対して損傷しないように十分な耐力を有するようにすることなどとされている。そして、事務所は、本件工事の設計を設計コンサルタントに委託して、設計業務委託の成果品の提出を受けていた。

上記の成果品によれば、桑之内橋の橋台及び橋脚に設置した計20個の水平力分担構造は、鉄筋コンクリート(橋軸方向の長さ600mm~1,500mm、橋軸直角方向の長さ2,000mm~8,663mm、高さ1,024mm~2,240mm)で拡幅した橋座部に垂直に埋め込んだアンカーバー(長さ915mm~1,130mm、径70mm~85mm)と橋桁に固定した連結板とを組み合わせた構造となっている(参考図1参照)。また、大峡橋(上り)の橋台及び橋脚に設置した計48個の水平力分担構造は、鉄筋コンクリート(橋軸方向の長さ500mm又は600mm、橋軸直角方向の長さ8,000mm~8,800mm、高さ630mm)で拡幅した橋座部に垂直に埋め込んだアンカーバー(長さ660mm~860mm、径32mm~42mm)の上部を橋桁に差し込んだ構造となっている(参考図2参照)。そして、事務所は、上記の成果品によれば、拡幅した橋座部について所要の安全度が確保されるとして、これにより施工していた。

2 検査の結果

本院は、合規性等の観点から、工事の設計が示方書等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、事務所において、本件工事を対象に、設計図面、設計計算書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

すなわち、示方書等によれば、拡幅した橋座部は、地震発生時に水平力分担構造のアンカーバーから伝達される水平力に対して十分な耐力を有している必要がある。しかし、事務所は、桑之内橋の橋台及び橋脚の拡幅した橋座部の耐力を算出する際に、拡幅した橋座部よりも24mmから110mm低い既設の橋座部の高さを用いたため、地震発生時に橋座部に作用する水平力に対する抵抗面が実際よりも低い位置にあることとして、耐力を算出していた(参考図1参照)。また、大峡橋(上り)の橋台又は橋脚の拡幅した橋座部の耐力を算出する際に、橋桁等の耐力に用いる算出方法を適用していて、適切な橋座部の耐力を算出しておらず、いずれも適切な検討を行っていなかった。

そこで、改めて、桑之内橋は実際の高さの抵抗面により、大峡橋(上り)は橋座部の耐力に用いる計算方法を適用して両橋りょうの拡幅した橋座部の耐力を計算すると、桑之内橋の橋台1基の水平力分担構造3個及び橋脚1基の水平力分担構造6個が設置された橋座部の耐力は265kNから298kN(橋台)又は138kNから192kN(橋脚)となり、また、大峡橋(上り)の橋脚の水平力分担構造10個が設置された橋座部の耐力は79kNとなり、地震発生時に桑之内橋の橋座部に作用する水平力326kN(橋台)又は451kN(橋脚)及び大峡橋(上り)の橋座部に作用する水平力220kNをそれぞれ大幅に下回っていて、拡幅した橋座部は設計上安全とされる耐力を有していなかった。

したがって、両橋りょうに設置した計19個の水平力分担構造及びこれらが設置された橋座部は、設計が適切でなかったため、地震発生時において所要の安全度が確保されていない状態になっていて工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額9,929,000円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事務所において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(注1)
タイプAの支承  橋の供用期間中に発生する確率が高い地震動まで支承の機能を確保できる支承をいう。
(注2)
レベル2地震動  橋の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動をいう。

(参考図1)

桑之内橋の橋台及び橋脚に設置した水平力分担構造の概念図(橋台の例)

桑之内橋の橋台及び橋脚に設置した水平力分担構造の概念図(橋台の例) 画像

(参考図2)

大峡橋(上り)の橋台及び橋脚に設置した水平力分担構造の概念図(橋脚の例)

大峡橋(上り)の橋台及び橋脚に設置した水平力分担構造の概念図(橋脚の例) 画像