国土交通省は、道路法(昭和27年法律第180号)等に基づいて、国が行う直轄事業又は地方公共団体が行う国庫補助事業として、橋りょう、トンネル等(以下「橋りょう等」という。)の構造物の補強又は補修(以下「補強等」という。)工事を多数実施している。そして、鉄筋コンクリート製の橋りょう等に対する補強等の工法として、炭素含有率90%以上の繊維状の結晶体をシート状にした炭素繊維シート(以下「シート」という。)を橋りょう等の床版、橋脚等と接着して一体化することにより、必要とされる強度を確保するなどの工法(以下「シート工法」という。)が数多く採用されている(以下、シート工法によりシートを橋りょう等に接着する工事を「シート接着工」という。)。
シートは、性能により高弾性シート、中弾性シート及び高強度シート(注1)の各種類に分類され、シートの種類とシート1m2当たりの炭素繊維の重量(以下「目付量」という。)とを組み合わせた複数のシートが製品化されている。そして、シートの1m2当たりの単価は、一般的に、目付量が同一であれば、高価なものから高弾性シート、中弾性シート、高強度シートの順となっており、また、シートの種類が同一であれば、目付量の多い方が高価となっている。
国道事務所等及び地方公共団体(以下「事業主体」という。)は、「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編)等にシートの選定基準が明示されていないことなどから、鉄筋コンクリート床版におけるシート接着工の設計については、「炭素繊維シート接着工法による道路橋コンクリート部材の補修・補強に関する設計・施工指針(案)」(平成11年12月建設省土木研究所。以下「指針」という。)等を参考にするなどしており、また、鉄筋コンクリート橋脚におけるシート接着工の設計については「既設橋梁(りょう)の耐震補強工法事例集」(平成17年4月財団法人海洋架橋・橋梁調査会。以下「事例集」という。)等を参考にするなどしている。
そして、指針及び事例集(以下「指針等」という。)によれば、シートの種類、目付量及び接着層数(以下、これらを合わせて「シートの種類等」という。)については、鉄筋コンクリート床版では、目付量300g/m2の高強度シートを主鉄筋方向及び配力筋方向にそれぞれ2層、計4層接着することを標準補強量としてよいとされていたり、鉄筋コンクリート橋脚のく体を巻き立てる場合のシートは目付量200g/m2又は300g/m2の高強度シートを用いることを標準として、必要とされる接着層数を決定することとされていたりしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、シート接着工におけるシートの種類等の組合せは必要とされる強度に対して適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。そして、10地方整備局等(注2)管内の17国道事務所等(注3)、20都道県(注4)及び44市町村(注5)の計81事業主体が平成26、27両年度に実施したシート工法による補強等工事計233件(直轄事業40工事(契約金額計64億0536万余円、シート接着工費の積算額計4億7172万余円)、国庫補助事業等193工事(契約金額計144億1998万余円、国庫補助金等交付額79億6323万余円、シート接着工費の積算額計12億7668万余円、国庫補助金等相当額7億9607万余円))を対象として、国道事務所等において、設計図面、設計計算書等の書類を確認するなどして、会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、上記233工事のうち、13事業主体(注6)が実施した21工事におけるシート接着工の設計(シート接着工費の積算額計2億0395万余円(直轄事業10工事計1億4165万余円、補助事業11工事計6229万余円(国庫補助金等相当額計3375万余円)))において、事業主体は、必要とされる強度を確保しているものの、鉄筋コンクリート床版に目付量300g/m2の高強度シートを主鉄筋方向及び配力筋方向にそれぞれ2層、計4層接着することとしたり、鉄筋コンクリート橋脚に目付量200g/m2又は300g/m2の高強度シートを用いることとしたりなど指針等において標準補強量等とされているシートの種類等を選定していた。
また、10事業主体(注7)が実施した14工事におけるシート接着工の設計(シート接着工費の積算額計7477万余円(直轄事業4工事計2413万余円、補助事業10工事計5064万余円(国庫補助金等相当額計2659万余円)))において、事業主体は、必要とされる強度を確保しているものの、シートの特性を考慮しないまま高弾性シート等の高価なシートの種類を選定したり、シートの種類は適切であっても過大な目付量のシートを選定したりなどしていた。
しかし、近年は、様々なシートが製品化され、高強度シートについては積算参考資料に目付量200g/m2(28年3月時点における積算参考資料の掲載単価4,130円/m2)及び300g/m2(同6,190円/m2)以外に、400g/m2(同7,350円/m2)、450g/m2(同7,725円/m2)及び600g/m2(同9,975円/m2)といった目付量の多い製品も掲載され、使用実績も多数に上っている。そして、鉄筋コンクリート製の床版、橋脚等の補強工事において不足することとなる鉄筋量を補うなどのために必要とされるシートの断面積は、シートの種類が同じであれば目付量にほぼ比例するものであることから、事業主体は、シート接着工の設計に当たり、指針等において標準補強量等とされているシートの種類等を画一的に選定することなく、より目付量の多いシートを選定して接着層数を少なくして、より経済的な設計とすることが可能であったと認められた。
また、前記のとおり、シートの種類と目付量とを組み合わせた複数の種類のシートが製品化されていることから、鉄筋コンクリート製の床版、橋脚等の補強工事において、事業主体は、シート接着工の設計に当たり、高い引張強度を有する高強度シートを優先的に用いるなど、シートの特性を考慮した上で適切なシートの種類や目付量を選定すべきであったと認められた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
富山県は、平成26年度に実施した鉄筋コンクリート橋脚の補強工事におけるシート接着工の設計に当たり、事例集において標準的であるとされているシートの種類及び目付量に基づくなどして目付量200g/m2の高強度シート(1m2当たり材工単価8,469円/m2)を鉛直方向に2層及び水平方向に1層、計3層接着することとしていた。
しかし、鉛直方向のシートについては、目付量400g/m2の高強度シート(同13,117円/m2)を1層接着することとしても同等の強度が確保されることとなり、シートの単価は高価となるものの、シートの接着層数が減少することにより材料費及び労務費が低減されることなどから、より経済的な設計とすることが可能であった。
このように、事業主体において、シート接着工の設計に当たり、指針等において標準補強量等とされているシートの種類等を画一的に用いてシートを選定していたなどのため、経済的なシートの種類等の組合せとなっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できたシート接着工費の積算額)
前記の21工事及び14工事の計35工事におけるシート接着工の設計(シート接着工費の積算額計2億7873万余円(直轄事業14工事計1億6579万余円、補助事業21工事計1億1293万余円(国庫補助金等相当額計6034万余円)))について、必要とされる強度を確保した上で、シートの種類や目付量を適切に選定するなどして、シートの種類等を適切に組み合わせて修正設計すると、シート接着工費の積算額は計2億0567万余円(直轄事業計1億1520万余円、補助事業計9046万余円(国庫補助金等相当額計4738万余円))となり、上記シート接着工費の積算額を直轄事業で約5050万円、補助事業で約2240万円(国庫補助金等相当額計1296万余円)それぞれ低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において、シート接着工の設計に当たり、シートの種類等をより経済的に組み合わせることなどの必要性に対する認識が欠けていたことにもよるが、国土交通省において、事業主体に対し、必要とされる強度を確保した上で、シートの種類等をより経済的に組み合わせることなどについての指導及び周知が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、28年9月に地方整備局等に対して通知を発して、シート接着工の設計に当たっては、必要とされる強度を確保した上で、シートの種類の特性等を十分踏まえて、シートの種類等の組合せをより経済的なものとするよう検討すること、検討に当たり指針等を参考とする場合には、これらを画一的に用いることのないように留意することについて周知徹底するとともに、地方整備局等を通じて都道府県等に対しても同様に助言する処置を講じた。