国土交通省は、官公庁施設の建設等に関する法律(昭和26年法律第181号)等に基づき、国の機関がその事務を処理するために使用する庁舎等の建築、修繕、模様替等を行う官庁営繕事業を本省において実施するとともに、地方整備局及び北海道開発局(以下、両者を合わせて「地方整備局等」という。)にその一部を分掌させて実施している。
そして、本省及び地方整備局等は、官庁営繕事業の一環として、合同庁舎や国土交通大臣の所管に属する庁舎等の営繕工事を行うほか、各省各庁の長からの委任を受けて、各省各庁の長の所管に属する庁舎等の営繕工事を行うために、毎年度多数の営繕工事請負契約を締結している。
営繕工事においては、その性質上不確定な条件を前提に設計図書を作成せざるを得ないという制約がある。そのため、既に契約を締結した工事(以下「既契約工事」という。)について、その施工上予見し難い事由が生じたことにより、既契約工事を完成させるために施工しなければならなくなった追加の工事(以下「追加工事」という。)の発注が必要となる場合が多く見受けられる。
このような場合、契約担当官等は、一般に、営繕工事請負契約に係る契約条項に基づき既契約工事の請負人と協議(以下「変更協議」という。)を行い、既契約工事に追加工事を追加する設計変更を行うとともに、必要に応じて工事費を増額する契約変更を行うなどして、当該請負人に追加工事を発注することになる。
国の機関が工事を発注するに当たっては、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等の会計法令に基づき行うこととなっている。会計法令によれば、国の契約方式としては、一般競争契約、指名競争契約及び随意契約の三方式があり、このうち、機会の均等、公正性の保持及び予算の効率的使用の面から一般競争契約が原則とされている。ただし、契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合等においては随意契約によるものとされており、また、競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないとき(以下、両者の場合を合わせて「入札不成立」という。)は随意契約によることができるとされている。
そして、一般に、国の契約における契約内容の変更は、契約の同一性を失わない範囲で行うものとされており、また、契約の同一性を失わない範囲であるかどうかについては、個別の契約の内容に照らして判断することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本省及び地方整備局等は、毎年度多数の営繕工事を実施しており、前記のとおり、追加工事の発注が必要となる場合が多く見受けられ、その結果、設計変更及び契約変更を行う機会も多くなっている。
そこで、本院は、合規性等の観点から、営繕工事における設計変更及び契約変更は個別の契約の内容に照らして適切な判断の下に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、平成25、26両年度又はいずれかの年度に契約期間がかかる営繕工事請負契約のうち、当初契約額が2000万円以上であり、かつ、当該年度中に契約額の増額を伴う契約変更を1回以上行っている536件の契約に係る変更額計258億0889万余円を対象として、本省及び9地方整備局等(注1)において、契約書、設計図書等の関係書類により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記536件の契約に係る設計変更及び契約変更の内容をみたところ、6地方整備局等(注2)における計10件の契約(以下「10契約」という。)に係る設計変更及び契約変更(変更額計2億4958万余円)については、既契約工事の施工現場とは異なる敷地にある別の庁舎等に関する工事(以下「別工事」という。)を既契約工事に事後的に追加したものとなっていた。
そして、6地方整備局等がこのような設計変更及び契約変更を行った経緯について確認したところ、10契約とも次のとおりとなっていた。
① 10契約における別工事は、当初、単独又は他の工事と組み合わせるなどして複数回にわたり競争入札に付していたが、いずれも入札不成立となっていた。
② ①の入札不成立となった別工事を発注するために、その施工現場周辺で6地方整備局等の営繕部発注の既契約工事を受注していた請負人1者から3者に対して、既契約工事に別工事を追加して受注できるかどうか問い合わせていた。
③ ②で受注可能と回答した請負人との間で変更協議を行い、既契約工事に別工事を追加する設計変更及び別工事に要する工事費を増額する契約変更を行っていた。
しかし、10契約における既契約工事と別工事は、いずれも施工現場が1km程度から73km程度離れており、さらに、当該別工事は、追加工事のように既契約工事を完成させるために必要となる工事ではなく、既契約工事の施工に関連性のない工事となっていた。このため、10契約における設計変更及び契約変更は、個別の契約の内容に照らして、契約の同一性を失わない範囲での変更とは認められないものであった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
東北地方整備局は、農林水産省からの委任を受けて、平成25、26両年度にわたり、山形県村山市に所在する庁舎の取壊工事について競争入札を計3回実施したが、いずれも入札不成立となっていた。
このため、同局は、営繕部発注の既契約工事のうち、法務省からの委任を受けて、上記取壊工事の施工現場から26km程度離れた敷地で施工中であった同県山形市の新築庁舎に係る建築工事、電気設備工事及び機械設備工事それぞれの請負人に対し、上記の取壊工事を追加して受注できるかどうか問い合わせていた。
そして、機械設備工事の請負人から受注可能との回答があったため、同局は、当該請負人と変更協議を行い、26年度中に当該機械設備工事に前記の取壊工事を追加する設計変更及び工事費を2710万余円増額する契約変更を行っていた。
また、本省は、官庁営繕事業における入札不成立対策として、競争入札への参加要件等を緩和することとしたり、工事書類を簡素化することとしたりするなど様々な対策を地方整備局等に示しているが、前記のように既契約工事の施工に関連性のない工事を既契約工事の設計変更及び契約変更により事後的に追加することについての考え方は特に示していなかった。
このように、6地方整備局等において、既契約工事の施工に関連性のない工事を既契約工事の設計変更及び契約変更により事後的に追加していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、本省において、既契約工事の施工に関連性のない工事を既契約工事の設計変更及び契約変更により事後的に追加してはならないことを明確かつ具体的に示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、本省は、28年9月に地方整備局等に対して通達を発して、既契約工事の施工に関連性のない工事を既契約工事の設計変更及び契約変更により事後的に追加してはならないことを明確かつ具体的に示すとともに、入札不成立となった営繕工事を会計法令に従い適切に発注するための方策を具体的に示すことにより、営繕工事の発注を適切に行うための処置を講じた。