国土交通省は、港湾法(昭和25年法律第218号)等に基づき、国が行う直轄事業として港湾工事を実施している。そして、港湾工事では、海上等の施工箇所へ工事用資機材等の運搬を行うために設ける仮設桟橋等のように、一定期間経過後に撤去することを前提として臨時的に設置する工作物等が多数発生している。
国土交通省所管物品管理事務取扱規則(平成13年国土交通省訓令第63号。以下「取扱規則」という。)及び「国土交通省所管物品管理事務取扱規則の運用方針について」(平成13年国官会第1118号)によれば、臨時的な建物及び工作物は、取扱規則に定める細分類を「仮設物」として物品管理簿に記録することとされている。このため、上記の仮設桟橋等の工作物等は、「仮設物」として物品管理簿に記録することとされている。
物品管理法(昭和31年法律第113号)等によれば、国の物品については、各省各庁の長がその所管に属する物品の取得、保管、供用及び処分(以下、これらを合わせて「管理」という。)を行い、各省各庁の長からその管理に関する事務の委任を受けた職員が物品管理官として当該事務を行うこととされている。
各省各庁の長は、その所管に属する物品について、供用及び処分の目的に従い分類を設けることとされており、物品の管理のため必要があるときは、分類に基づき細分類を設けることができるとされている。そして物品管理官又は分任物品管理官(以下、物品管理官と分任物品管理官を合わせて「物品管理官等」という。)は、その管理する物品の属すべき分類及び細分類を決定しなければならないとされている。
また、物品管理官等は、物品管理簿を備えて、その管理する物品の分類及び品目ごとに、物品の増減等の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項等を記録することとされている。
そして、各省各庁の長は、取得価格が50万円以上の機械及び器具等の重要な物品(以下「重要物品」という。)について、毎会計年度末の物品管理簿の記録内容に基づき、物品増減及び現在額報告書を作成し、翌年度の7月31日までに財務大臣に送付することとされている(以下、各省各庁の長が作成する物品増減及び現在額報告書を「物品報告書」という。)。財務大臣は、各省各庁の長から送付された物品報告書に基づき、物品増減及び現在額総計算書(以下「総計算書」という。)を作成することとされ、内閣は、総計算書に基づき、毎会計年度末における物品の現在額等について、国会に報告することとされている。
国土交通省は、取扱規則により、物品管理官等として指定する官職及び委任する事務の範囲を定めており、地方整備局等に属する物品の管理に関する事務のうち港湾空港関係事務に関することについては、地方整備局総務部総括調整官等が物品管理官に、港湾事務所等の長が分任物品管理官にそれぞれ指定されて、物品の管理に関する事務を行っている。物品管理官は、自ら管理する物品及び所属の分任物品管理官の管理する物品のうち重要物品について、物品増減及び現在額報告書を作成し、国土交通大臣に提出することとなっている(以下、物品管理官が作成する物品増減及び現在額報告書を「管理官報告書」という。)。そして、提出された管理官報告書に基づき、国土交通大臣が物品報告書を作成している。
また、国土交通省は取扱規則において細分類を定めており、重要物品に該当するものについては、細分類を「重要物品」として物品管理簿に記録することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、正確性、合規性等の観点から、「仮設物」として物品管理簿に記録された物品について、物品報告書作成の基礎となる物品管理簿への記録は適切に行われているか、重要物品に該当するものが含まれていないかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、10地方整備局等(注)が平成26年度末に管理している「仮設物」として物品管理簿に記録された港湾空港関係事務に係る物品1,280個(物品管理簿価格計591億4688万余円)を対象として、10地方整備局等において、物品管理簿等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行ったほか、「仮設物」として物品管理簿に記録された物品に係る調書の作成を依頼して、提出を受けた調書の内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、8地方整備局の物品管理官等が管理する「仮設物」として物品管理簿に記録された物品の中には、取得価格が50万円以上の機械又は器具に該当するものであり、重要物品とすべきであったものが表のとおり計111個(物品管理簿価格計60億5274万余円)見受けられた。
表 重要物品とすべきであったもの
部局 | 物品名 | 数量 | 物品管理簿価格 |
---|---|---|---|
東北地方整備局 | 免震装置等 | 12 | 224,907,285 |
関東地方整備局 | 免震実験装置等 | 9 | 643,680,648 |
北陸地方整備局 | コンテナクレーン免震装置等 | 11 | 389,696,531 |
中部地方整備局 | RTG(ラバータイヤ式ガントリークレーン)効率化設備等 | 4 | 1,800,225,523 |
近畿地方整備局 | 貨物搬出入システム等 | 17 | 609,291,838 |
中国地方整備局 | 施工管理用カメラ | 1 | 31,500,000 |
四国地方整備局 | 係留装置(長周期ウインチ)等 | 41 | 784,380,978 |
九州地方整備局 | 完全電動RTG等 | 16 | 1,569,058,911 |
計 | 111 | 6,052,741,714 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
関東地方整備局は、東京湾の水環境の状況をより的確に把握し環境を改善する取組に使用するために、平成21年度に物品である連続観測装置1個(物品管理簿価格2091万余円)を川崎人工島に設置している。同局の分任物品管理官である千葉港湾事務所長は、当該連続観測装置を使用する観測を10年間の計画で行うとして、一定期間経過後に撤去することを前提としていたため、当該連続観測装置を「仮設物」として物品管理簿に記録しており、取得価格が50万円以上の機械であるにもかかわらず、重要物品として取り扱っていなかった。そのため、当該連続観測装置は、同局における26年度の管理官報告書に計上されておらず、国土交通大臣が作成する同年度の物品報告書にも計上されていなかった。
このように、重要物品に該当するものについて、「仮設物」として物品管理簿に記録しており、この結果、物品管理簿、ひいては物品報告書が重要物品の現況を正確に反映したものとなっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、8地方整備局において、港湾工事の実施に伴い、臨時的な工作物等が多数発生し、これらを「仮設物」として物品管理簿に記録していることから、機械及び器具であっても臨時的に設置するものは「仮設物」として物品管理簿に記録するものであるとの誤った認識があり、取得価格が50万円以上の機械及び器具については臨時的に設置するものであるか否かを問わず、重要物品に該当することについての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、「仮設物」として物品管理簿に記録された物品のうち取得価格が50万円以上の機械及び器具に該当するものについては、取扱規則に定める細分類を「重要物品」へ分類換を行い、27年度の管理官報告書及び物品報告書に計上した。そして、28年8月に、事務連絡を発して、臨時的に設置するものであっても、取得価格が50万円以上の機械及び器具に該当するものは重要物品として管理する必要があることを、地方整備局に周知する処置を講じた。