この工事は、環境省福島環境再生事務所(以下「事務所」という。)が、平成26、27両年度に、福島県双葉郡大熊町地内において、除染等の措置等の一環として除去土壌等を仮置場等から輸送して中間貯蔵施設予定地内に貯蔵するために、除去土壌等の保管場所の造成、スクリーニング施設2棟、洗車施設1棟等の築造等を、清水・熊谷特定建設工事共同企業体を請負人として工事費753,300,000円で実施したものである。
このうち、スクリーニング施設は、除去土壌等を保管場所に輸送する車両等の放射線量を検査するための施設であり、洗車施設は、スクリーニング施設において検査した放射線量に応じて車両等を洗浄するための施設である(以下、スクリーニング施設と洗車施設を合わせて「スクリーニング施設等」という。)。そして、スクリーニング施設等3棟は、いずれも、鉄骨造の骨組に膜材を張るなどした骨組膜構造で、柱部を20か所設置した建築物となっている(参考図1参照)。
骨組膜構造の建築物は、建築基準法(昭和25年法律第201号)等によれば、自重、積雪荷重等に対して安全な構造のものでなければならないとされており、構造上主要な部分を構成する鋼材については、ボルト又は溶接で接合する設計にしなければならないなどとされている。
事務所は、建築基準法等のほか、「軽鋼構造設計施工指針・同解説」(社団法人日本建築学会編。以下「指針」という。)等に基づき本件工事の設計を行っている。指針等によれば、鋼材の接合については、接合部に生ずる応力を確実に伝達できるように設計することなどとされている。
そして、事務所は、スクリーニング施設等において構造上主要な部分となる柱部と基礎部との接合部(以下「柱脚部」という。)の設計に当たり、柱部を構成する弦材の先端が、高さを調整するためにねじ型の構造となっていて、設計計算上、柱部に作用する建築物の自重、積雪荷重等の鉛直荷重に対して抵抗できないとして、これらの鉛直荷重に対して抵抗できるように、次のとおり設計し、これにより施工することとしていた(参考図2参照)。
① 柱部の水平材に取り付けた鋼板材(以下「上側リブ」という。)と基礎部のベースプレートに取り付けた鋼板材(以下「下側リブ」といい、上側リブと下側リブを合わせて「リブ材」という。)を接合することにより、リブ材において鉛直荷重を負担させるようにして、弦材の先端においては負担させないようにする。
② リブ材において鉛直荷重を負担させることから、指針等に基づき、上側リブと下側リブの接合については、すみ肉溶接(注1)による重ね継手(注2)として、鉛直荷重を基礎部に確実に伝達できるようにするために、すみ肉溶接のサイズを3.5mm、溶接長については、その10倍以上である40mm、のど厚(注3)については、3.5mmの0.7倍である2.45mmとし、溶接箇所については、前面2か所、背面2か所の計4か所とする(参考図3参照)。
本院は、合規性等の観点から、スクリーニング施設等の施工が適切に行われているかなどに着眼して、本件工事を対象として、事務所において、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
すなわち、請負人は、柱脚部のリブ材の接合に当たり、スクリーニング施設2棟ではいずれも柱脚部20か所のうち19か所において、また、洗車施設では柱脚部20か所全てにおいて、溶接を粗雑に行っており、溶接箇所を前面又は背面の片面側のみとしていたり、溶接長又はのど厚について設計を満たすようにしていなかったりなどしていて、計60か所のうち58か所においてはリブ材が確実に接合されておらず、柱脚部の施工が設計図書等と相違したものとなっていた。
このため、上記の58か所において、リブ材が鉛直荷重を負担することができず、基礎部に伝達できない状態となっていて、弦材の先端が鉛直荷重を負担することとなり、柱脚部は鉛直荷重に対して抵抗できないものとなっていた。
したがって、本件工事は、スクリーニング施設等3棟の柱脚部の施工が設計と相違していたため、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額56,181,781円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、請負人による柱脚部におけるリブ材の溶接の施工が設計と相違していたのに、これに対する事務所の検査が十分でなかったことなどによると認められる。
なお、本件3施設について、事務所は27年11月に、リブ材を確実に接合するなどの措置を講じた。
(参考図1)
スクリーニング施設等の外観概念図
(参考図2)
柱部及び柱脚部の詳細概念図
(参考図3)
リブ材の接合概念図