【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
除染事業等における仮置場の整備について
(平成28年10月20日付け 環境大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
国は、東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「特措法」という。)を制定している。
特措法によれば、環境大臣は、事故由来の放射性物質による環境の汚染が著しいなどの事情から、国が除染等の措置等(注1)を実施する必要がある地域を除染特別地域(注2)に指定することができ、国は同地域について除染等の措置等を実施しなければならないとされている(以下、この事業を「直轄除染事業」という。)。
また、特措法によれば、環境大臣は、その地域内にある廃棄物が特別な管理が必要な程度に事故由来の放射性物質により汚染されているおそれがあるなどの事情から、国が廃棄物の収集等を実施する必要がある地域を汚染廃棄物対策地域(注3)に指定することができ、同地域を指定したときは、同地域内にある廃棄物(津波により生じたがれきや倒壊した家屋等も含む。以下「対策地域内廃棄物」という。)の処理について対策地域内廃棄物処理計画を定めなければならないとされている。そして、国は、これに従って、対策地域内廃棄物について収集、運搬、保管及び処分を実施しなければならないとされている(以下、この事業を「対策地域内廃棄物処理事業」といい、直轄除染事業と合わせて「除染事業等」という。)。
直轄除染事業では、除染等の措置等に伴い除去した汚染土壌(以下「除去土壌」という。)を中間貯蔵施設に搬出するまでの間、また、対策地域内廃棄物処理事業では、収集した廃棄物を仮設焼却施設等に搬出するまでの間、それぞれ仮置場を設けてこれらを一時保管することとしており、平成28年3月末時点で、直轄除染事業に係る仮置場(以下「除染仮置場」という。)は106か所、対策地域内廃棄物処理事業に係る仮置場(以下「廃棄物仮置場」という。)は24か所に上っている。そして、除染仮置場は除去土壌等を中間貯蔵施設に搬出を終了した時点で、また、廃棄物仮置場は収集した廃棄物を仮設焼却施設等に搬出を終了した時点で用途廃止して、原状復旧を行うこととなっている(図1参照)。
図1 除染事業等の流れ
貴省は、除染仮置場では、除去土壌等を保管するために造成工事を行っており、23年10月の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による環境汚染の対処において必要な中間貯蔵施設等の基本的な考え方」(環境省公表)において、除染仮置場への除去土壌等の搬入開始から3年程度を目途として中間貯蔵施設を供用開始できるよう、最大限の努力を行うこととしている。また、廃棄物仮置場では、廃棄物の種類に応じて定められた方法により飛散、流出防止等を図って保管している。
貴省は、除去土壌等を一時保管するための除染仮置場の造成工事等を、23年12月に定めた「除去土壌の保管に係るガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)等に基づき実施することとしている。ガイドライン等によれば、除去土壌等は、フレキシブルコンテナや耐候性大型土のう等(以下「コンテナ」という。)に詰めて除染仮置場に運搬して、コンテナを台形状に積み上げて保管することとされ、除去土壌等に含まれる放射性物質の流出及び雨水の浸入を防止するために、遮水シート等を底面に敷くとともに、上面及び側面からコンテナを覆い、シートの端部を熱圧着するなどして密閉することとされている。そして、積み上げるコンテナが遮水性を有していない場合、コンテナに詰めた除去土壌等から放射性物質を含む水が浸出して遮水シート内にたまるおそれがあることから、この浸出水を集水するために、基礎底面に勾配を設けるとともに集水管及び集水タンク(以下、これらを合わせて「集水設備」という。)を設置し、浸出水中の放射性物質濃度を測定するなどして、安全に管理されていることを確認することになっている(図2参照)。
ガイドライン等によれば、部外者の立入りが可能となる場所に除染仮置場及び廃棄物仮置場を整備するときは、金属製の目隠しフェンス(以下「囲い柵」という。)、鉄線柵、ネット柵等を設けることにより、部外者がみだりに立入ることを防ぐことが重要であるなどとされており、また、風雨等の影響により、囲い柵等が転倒等しないよう施工する必要があるとされている。
そして、貴省は、除染仮置場及び廃棄物仮置場において、部外者の立入防止、地域住民の要望による周辺環境への配慮等のために、必要に応じて囲い柵を設置している。
図2 除染仮置場の基本構造の概念図
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、除染仮置場の造成工事並びに除染仮置場及び廃棄物仮置場の囲い柵の設置工事について、地盤が軟弱である農地等に設置されているものが多いことなどから、設計は現地の状況に応じた適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、貴省本省、除染事業等を実施している貴省福島環境再生事務所(以下「福島事務所」という。)において、24年度から27年度までの間にしゅん功した除染仮置場106か所(38契約)及び廃棄物仮置場24か所(21契約)の造成工事等計130か所(59契約)のうち、農地等において、コンテナを最も高く(5段又は6段、約5m)積み上げている除染仮置場計34か所(8契約、除染仮置場の造成に係る工事費相当額計48億3817万余円)並びに囲い柵を設置した除染仮置場29か所(5契約)及び廃棄物仮置場15か所(17契約)、計44か所(計22契約、囲い柵の設置に係る工事費相当額計9億5618万余円)を対象として、契約書、設計図書、構造計算書等の関係書類及び現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
福島事務所は、除染仮置場計34か所(8契約)の造成工事において、台形状に積み上げたコンテナが遮水性を有していないことから、コンテナに詰めた除去土壌等から放射性物質を含んだ水が浸出し、遮水シート内にたまるおそれがあるとして、集水設備を設置することとし、コンテナの基礎底面において、中央から端部に向かって0.5%の集水勾配を設けることなどとして設計していた。
除染仮置場においては、コンテナを台形状に積み上げていて、荷重が中央部に集中すると考えられるが、福島事務所は、除染仮置場の設計に当たって、コンテナ、盛土等の上載荷重や土質条件等により生ずるおそれのある基礎地盤の沈下を考慮せずに、基礎底面の集水勾配等を決定していた。
しかし、除染仮置場は、地盤が軟弱である農地等に設置されているものが多いことから、基礎地盤の沈下が生ずるおそれがあり、「道路土工 軟弱地盤対策工指針」(社団法人日本道路協会編)によれば、土工構造物の構築に当たっては、地盤の沈下を見込んだ設計とするなどの配慮が必要であるとされている。
そこで、同指針に基づき、除染仮置場ごとに基礎地盤の沈下量の想定値を算定したところ、表1のとおり、中央部における沈下量の最大想定値は、20cm以上の箇所が6か所、10cm以上20cm未満の箇所が22か所、10cm未満の箇所が6か所となる。そして、この算定結果に基づくと、除染仮置場31か所(8契約、仮置場の造成に係る工事費相当額計41億5986万余円)については、積み上げたコンテナの中央部における沈下量の想定値と端部における沈下量の想定値に差が生ずることから、基礎底面の集水勾配が逆勾配となって、浸出水の集水が適切に行えず、浸出水の放射性物質濃度を測定することができなくなるおそれがあると認められた。また、その場合、浸出水は遮水シートにより外部へ漏水しないものの、遮水シート内にたまることから、コンテナを中間貯蔵施設へ搬出する際の作業等に影響が生ずるおそれがあると認められた。
表1 中央部における沈下量の最大想定値及び基礎底面の集水勾配
所在 市町村 |
仮置場 | 中央部における沈下量の最大想定値 | 左に基づく基礎底面の集水勾配 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
20cm以上 | 10cm以上 20cm未満 |
10cm未満 | 逆勾配となるもの | 逆勾配とならないもの | ||
田村市 | 4 | 0 | 4 | 0 | 4 | 0 |
川俣町 | 16 | 2 | 12 | 2 | 15 | 1 |
楢葉町 | 4 | 1 | 2 | 1 | 3 | 1 |
浪江町 | 6 | 1 | 2 | 3 | 5 | 1 |
飯舘村 | 4 | 2 | 2 | 0 | 4 | 0 |
計 | 34 | 6 | 22 | 6 | 31 | 3 |
なお、上記34か所の除染仮置場の中央部の沈下量が最大想定値に達するまでの時間については、除染仮置場ごとに土質試験を行うなどして算出された係数等を用いて計算する必要があるが、係数等を仮定して計算すると、除染仮置場ごとの荷重等の諸条件により相違が生ずる可能性があるものの、表2のとおり1年程度から10数年程度となっている。
表2 沈下量の最大想定値に達するまでの時間
所在 市町村 |
仮置場 | 沈下量の最大想定値及び条件を仮定した最大想定値に達するまでの沈下時間 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
20cm以上 | 10cm以上 20cm未満 |
10cm未満 | |||||||||||
5年未満 | 5年以上 10年未満 |
10年以上 | 5年未満 | 5年以上 10年未満 |
10年以上 | 5年未満 | 5年以上 10年未満 |
10年以上 | |||||
田村市 | 4 | 0 | ― | ― | ― | 4 | 4 | ― | ― | 0 | ― | ― | ― |
川俣町 | 16 | 2 | 1 | ― | 1 | 12 | 9 | 3 | ― | 2 | 2 | ― | ― |
楢葉町 | 4 | 1 | ― | 1 | ― | 2 | 2 | ― | ― | 1 | 1 | ― | ― |
浪江町 | 6 | 1 | ― | ― | 1 | 2 | 2 | ― | ― | 3 | 3 | ― | ― |
飯舘村 | 4 | 2 | ― | 1 | 1 | 2 | 2 | ― | ― | 0 | ― | ― | ― |
計 | 34 | 6 | 1 | 2 | 3 | 22 | 19 | 3 | ― | 6 | 6 | ― | ― |
福島事務所は、囲い柵の設置に当たっては、設計基準を設けていないことから、除染仮置場及び廃棄物仮置場計44か所(22契約)において、それぞれ風雨等の影響により囲い柵が転倒等しないよう、次のように設計し施工していた。
ア 囲い柵の風荷重に対する設計については、「改訂風荷重に対する足場の安全技術指針」(一般社団法人仮設工業会編。以下「技術指針」という。)や、請負業者が独自に作成するなどした「フラットパネル風圧計算書」、「仮囲い構造計算書」等(以下、これらを合わせて「計算書等」という。)に基づくなどしていて、仮置場ごとに区々となっていた。そして、設計風速について、15か所においては技術指針に基づいて、再現期間12か月の風速(注4)から算出した21m/sを用いていたり、29か所においては計算書等に基づいて、建設地付近の気象観測所において観測された過去5年間の既往最大風速(注5)から算出した30m/sを用いていたりしていた。
イ 囲い柵の基礎の安定計算における許容引抜力の算定に用いる安全率については、計算書等において、供用期間1年程度の仮設構造物であることなどから1.5としており、44か所全てにおいて、これに基づき設計していた。一方、建築基準法(昭和25年法律第201号)に基づく告示である「地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法並びにその結果に基づき地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を定める件」(平成19年国土交通省告示第1232号)においては、許容引抜力の算定に用いる安全率について、基礎の周辺地盤が軟弱な粘土質地盤等が含まれている場合には1.875を用いて設計することとなっている。
そこで、前記のとおり、仮置場における除去土壌等の保管期間が3年程度とされていることを踏まえて、囲い柵に作用する設計風速を、再現期間12か月の風速ではなく、29か所の設計において用いられていた過去5年間の既往最大風速から算出した30m/sと仮定し、また、許容引抜力の算定に用いる安全率を前記の告示における軟弱な粘土質地盤等を含む場合の1.875と仮定するなどして、囲い柵の基礎について安定計算を行ったところ、表3のとおり、27か所(6契約、囲い柵の設置に係る工事費相当額計5億1238万余円)において囲い柵の基礎に作用する引抜力が許容引抜力を最大で4倍程度上回るなどしていて、安定計算結果に大きな影響が生じる状況となっていた。
表3 囲い柵の基礎の安定計算
所在地 | 仮置場箇所数 | 当局による設計 | 本院修正による設計 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
設計最大風速 (m/s) |
設計最大風速の根拠 | 許容引抜力の安全率 | 引抜きに対する安定計算 | 設計最大風速 (m/s) |
設計最大風速の根拠 | 許容引抜力の安全率 | 引抜きに対する安定計算 | |||||||
引抜力<許容引抜力 OK (箇所数) |
引抜力>許容引抜力 NG (箇所数) |
引抜力<許容引抜力 OK (箇所数) |
引抜力>許容引抜力 NG (箇所数) |
|||||||||||
左に係る | 引抜力 | の最大値 | ||||||||||||
許容引抜力 | ||||||||||||||
南相馬市 | 6 | 21 又は 30 |
風荷重に対する足場の安全指針又は計算書等 | 1.5 | 6 | 0 | 30 | 過去5年間の既往最大風速 | 1.875 | 5 | 1 | 1.4 | ||
川俣町 | 17 | 17 | 0 | 1 | 16 | 1.3 | ||||||||
楢葉町 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 | ― | ||||||||
大熊町 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 | ― | ||||||||
双葉町 | 2 | 2 | 0 | 2 | 0 | ― | ||||||||
浪江町 | 15 | 15 | 0 | 5 | 10 | 4.5 | ||||||||
飯舘村 | 2 | 2 | 0 | 2 | 0 | ― | ||||||||
計 | 44 | ― | 44 | 0 | ― | 17 | 27 | ― |
(是正及び是正改善を必要とする事態)
除染仮置場の設計に当たり、基礎地盤の沈下を考慮せずに集水勾配を決定しており、基礎地盤の沈下量の最大想定値に基づく集水勾配が逆勾配となり、浸出水の放射性物質濃度を測定することができなくなるおそれがあるなどの事態並びに除染仮置場及び廃棄物仮置場の囲い柵の設計に当たり、設計基準がなく、現地の状況を踏まえた設計風速及び安全率を用いて設計を行っていない事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、除染仮置場の集水勾配等について、コンテナ等の上載荷重等により生ずるおそれのある基礎地盤の沈下を考慮して設計する必要があることや、囲い柵について、現地の状況を踏まえた設計風速及び安全率を用いて設計する必要があることなどについての認識が欠けていて、設計方法について適切に検討を行っていないことなどによると認められる。
除染事業等においては、引き続き仮置場の整備が見込まれていて、また、今後とも仮置場を適切に管理する必要がある。
ついては、貴省において、仮置場の除去土壌等が適切に保管されるよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。