原子力規制委員会(平成25年3月31日以前は文部科学省)は、原子力発電施設、核燃料物質の加工施設、試験研究炉等(以下、これらを合わせて「原子力施設」という。)の周辺における放射線の影響を把握することなどを目的として、放射線監視等交付金交付規則(昭和49年科学技術庁告示第6号)及び放射線監視設備整備臨時特別交付金交付要綱(平成24年文部科学大臣決定)に基づき、原子力施設が立地している道府県及び当該道府県に隣接する府県(環境大臣(25年3月31日以前は文部科学大臣)が定める基準に適合する府県に限る。)が実施する原子力施設の周辺における放射線量の状況の調査等を行うために必要な設備を整備する事業等を対象として、放射線監視等交付金及び放射線監視設備整備臨時特別交付金を交付している。
事業主体は、原子力施設の周辺の放射線量の状況等を常時監視するために、放射線監視等交付金事業等により、空間放射線量率等を測定する機器を備えた固定観測局を複数整備するとともに、各固定観測局における空間放射線量率等のデータを集中的に監視し、これらのデータの収集、解析等を行うためのシステム(以下「放射線監視テレメータシステム」という。)を整備するなどしている。
放射線監視テレメータシステムは、空間放射線量率等のデータを伝送するために各固定観測局に設置された装置、当該装置から伝送されたデータの収集や解析を行うために放射線の監視の拠点となる施設等に設置されたサーバ等の装置(サーバ等を格納する収容架及び収容架を据え付けるための架台を含む。以下「中央監視局装置」という。)等で構成されている(参考図参照)。
(参考図)
放射線監視テレメータシステムの概念図
国、地方公共団体等が実施する原子力災害対策に係る専門的、技術的事項等について定めた原子力災害対策指針(平成24年10月原子力規制委員会決定)等によれば、放射性物質若しくは放射線の異常な放出又はそのおそれがある緊急時において、放射線監視テレメータシステムにより収集される空間放射線量率等のデータは、避難等の防護措置を適切に行うための判断根拠となるものであり、時宜を得て把握することなどが重要であるとされている。このため、放射線監視テレメータシステムの整備に当たっては、地震等の自然災害への頑健性に配慮しなければならないなどとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
放射線監視テレメータシステムについては、地震等の自然災害と原子力災害との複合災害時において原子力施設の周辺住民等への放射線の影響を最小限に抑えるための防護措置の判断が適切に行えるようその機能を維持することが求められている。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、放射線監視テレメータシステムを構成する装置の設置に当たり、耐震性の確保が適切に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、22年度から27年度までの間に、16道府県(注1)が締結した放射線監視テレメータシステムの更新、構築等に係る契約計16件(契約金額計33億2602万余円、交付金相当額計33億2239万余円)を対象として、16道府県において、放射線監視テレメータシステムの整備状況等について完成図書、現地の状況等を確認するとともに、原子力規制委員会において、放射線監視テレメータシステムを構成する装置の設置に係る耐震性の確保に関する考え方等について聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、上記の16道府県が締結した放射線監視テレメータシステムの更新、構築等に係る契約において、中央監視局装置の設置に係る耐震性の確保についての仕様書における取扱いに差異が生じていて、このうち15府県は契約の相手方である業者に対して耐震計算書の提出を求めておらず、その結果、中央監視局装置を設置する際に設計上所要の耐震性が確保されているか確認していなかった。
耐震性の確保のための基準としては、国、地方公共団体等において、「建築設備耐震設計・施工指針」(独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」という。)等が広く使用されているが、その対象は建築基準法(昭和25年法律第201号)に定義される建築設備に該当する電気設備等の設備機器等とされている。中央監視局装置は、建築設備に該当しないため耐震設計指針等の直接の適用対象とはならないが、複合災害時においてその機能を維持することが求められているものであり、また、設置状況が建築設備である電気設備等に類似していることから、前記の16道府県が設置した中央監視局装置について、耐震設計指針等を参考として、建築設備の取扱いに準じて耐震性が確保されているか確認した。
その結果、7府県(注2)が設置した中央監視局装置について、次のような事態が見受けられた。
2県、2システム(契約金額相当額計1億6117万余円、交付金相当額同額)
耐震設計指針等によれば、設備機器は原則として地震時に移動し又は転倒しないようにアンカーボルト等によりコンクリート床に固定することなどとされている。
しかし、2県(注3)が22、24両年度に更新した放射線監視テレメータシステムの中央監視局装置についてはアンカーボルト等によりコンクリート床に固定されておらず、耐震設計指針等に沿った耐震対策が行われていなかった。
5府県、5システム(契約金額相当額計4億1533万余円、
交付金相当額計4億1170万余円)
耐震設計指針等によれば、設備機器については、地震時に設備機器に作用する水平力や鉛直力に応じて適切なアンカーボルト等を選定して固定することとされており、アンカーボルトの選定に当たっては、耐震設計計算により地震時に作用する引抜力(注4)を算出しその引抜力が許容引抜力(注4)を上回らないようにすることなどとされている。
しかし、5府県(注5)が23、24、27各年度に更新し又は構築した放射線監視テレメータシステムの中央監視局装置についてはアンカーボルト等により固定されているものの、実際の施工状況に対応する耐震計算書の作成を求めて耐震性の確保の状況を確認したところ、中央監視局装置を固定するアンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力を上回って耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていないなどしていて、耐震設計指針等に沿った所要の耐震性が確保されていなかった。
したがって、前記の7府県が更新し又は構築した七つの放射線監視テレメータシステム(契約金額相当額計5億7651万余円、交付金相当額計5億7288万余円。表参照)については、地震により中央監視局装置が移動し又は転倒して破損し、複合災害時において機能しなくなるおそれがある状態となっていた。
表 7府県が更新し又は構築した放射線監視テレメータシステムに係る契約金額相当額等
態様 | 府県名 | 契約年度 | 契約内容 | 契約金額 | 左のうちシステムに係る契約金額相当額 | 左のうち交付金相当額 | 交付決定年度及び交付金名 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(1) | 岡山県 | 平成 22 |
更新 | 73,447 | 73,447 | 73,447 | 22 | 監視等 |
長崎県 | 24 | 更新 | 200,400 | 87,731 | 87,731 | 23 | 臨時特別 | |
計 | 2県 | 273,848 | 161,178 | 161,178 | / | |||
(2) | 新潟県 | 27 | 更新 | 366,220 | 45,699 | 45,699 | 27 | 監視等 |
富山県 | 24 | 構築 | 134,400 | 100,700 | 100,700 | 23 | 臨時特別 | |
岐阜県 | 24 | 構築 | 146,265 | 108,644 | 108,644 | 23 | 臨時特別 | |
京都府 | 24 | 更新 | 73,395 | 73,395 | 69,762 | 23 | 臨時特別 | |
鳥取県 | 23 | 更新 | 86,898 | 86,898 | 86,898 | 23 | 監視等 | |
計 | 5府県 | 807,179 | 415,337 | 411,705 | / | |||
合計 | 7府県 | 1,081,027 | 576,516 | 572,883 | / |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
新潟県は、平成27年度に、放射線監視等交付金により、契約金額3億6622万余円(交付金額同額)で放射線監視テレメータシステムの更新等を行っており、中央監視局装置(高さ225cm、重さ500kg)を柏崎市に所在する新潟県放射線監視センターに設置していた。
しかし、同県は、中央監視局装置の設置に当たり、既設の収容架及び架台を再利用しており、契約相手方である業者から耐震計算書を提出させておらず耐震性が確保されているか確認していなかった。また、実際の施工状況についてみると、中央監視局装置は、耐震設計指針等によれば許容引抜力が原則として0.75kN/本とされているめねじ形のアンカーボルト(径10mm)によりコンクリート床に固定されていた。
そこで、耐震設計指針等に示された計算方法等に基づき耐震設計計算を行ったところ、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は3.72kN/本となり、許容引抜力0.75kN/本を大幅に上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっておらず、中央監視局装置について耐震設計指針等に沿った所要の耐震性が確保されていなかった。このため、地震により中央監視局装置が移動し又は転倒して破損し、複合災害時において同県の放射線監視テレメータシステムの一部(契約金額相当額4569万余円、交付金相当額同額)が機能しなくなるおそれがある状態となっていた。
このように、事業主体が設置した中央監視局装置がアンカーボルト等により固定されていなかったり、中央監視局装置を固定するアンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力を上回るなどしていたりしていて、地震により中央監視局装置が移動し又は転倒して破損し、複合災害時において放射線監視テレメータシステムが機能しなくなるおそれがある事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において中央監視局装置の設置に係る耐震性の確保についての検討が十分でなかったことにもよるが、原子力規制委員会において中央監視局装置の設置について耐震性の確保のために準拠すべき具体的な基準等を示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、原子力規制委員会は、28年7月に、中央監視局装置の設置について、耐震性の確保のために準拠すべき具体的な基準や耐震計算書の確認方法等を示したガイドラインを作成するとともに、事業主体に対して事務連絡を発して、当該ガイドラインに基づき所要の耐震性を適切に確保するよう周知する処置を講じた。
そして、耐震設計指針等に沿った耐震対策が行われていないなどしていた7府県の中央監視局装置については、同年9月末までに補修工事を完了している。