この工事は、近畿中部防衛局(以下「局」という。)が、防衛施設整備事業の一環として、平成23年度から26年度までの間に、陸上自衛隊祝園(ほうぞの)分屯地において検査場を新設したり、同宇治駐屯地において老朽化した煙火火薬庫(屋頂(おくちょう)高さ5.6m、最大貯蔵量5t)の機能を回復するために、煙火火薬庫の建替えやその周囲の土堤の改修を行ったりするなどの工事を、大木建設株式会社に工事費391,836,450円で請け負わせて実施したものである。
局は、上記煙火火薬庫の建替えやその周囲の土堤の改修を行う工事の実施に当たって、標準図等の簡易な図面等に基づいて契約して、契約後に請負人から施工に必要な詳細図及び数量調書(以下「詳細図等」という。)を提出させて、発注者が審査して承認した上で、後日精算する方式を採っている。そして、請負人は、契約書等に基づき、設計コンサルタントに設計を委託するなどして作成した詳細図等を局に提出することとなっている。局は、請負人から提出された詳細図等が、仕様書等に基づいた適切なものとなっているかを審査して適切と認められた場合は、これを承認して工事を実施させることとなっている。
煙火火薬庫の建替えに当たっては、火薬類取締法(昭和25年法律第149号)第12条、自衛隊法施行令(昭和29年政令第179号)第145条等の規定に基づき、その位置、構造等について経済産業大臣の承認を得ることとなっている。そして、火薬類取締法施行規則(昭和25年通商産業省令第88号)によれば、保管品が不慮の爆発を起こしたときに爆風圧等による被害を防止する必要があることから、煙火火薬庫の周囲に設置する土堤の高さは、築造する建物の軒までの高さ、その他の火薬庫にあっては屋頂の高さ以上とすることとされている。本件火薬庫は、将来的に、上記その他の火薬庫に該当する地上式1級火薬庫としても臨機応変に活用できる性能を確保することが必要であることから、火薬庫の周囲に設置する土堤の高さは、まず屋頂高さである5.6mを満足して、更に周辺の建物までの距離が近いことなどを考慮して、6.8mとすることとして経済産業大臣の承認を得ていた。
土堤の設計については、仕様書等によれば、「道路土工 盛土工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「盛土工指針」という。)等に基づくこととされており、盛土工指針によれば、次のように検討することとされている。
すなわち、盛土の設計に当たっては、盛土の安定性検討のフローチャートに基づき盛土等の安定性を照査して、設計しようとする盛土が、盛土材料及び盛土高から定められる標準法面勾配の適用範囲でない場合は、想定する作用に対して要求性能を満足するように、法面保護工等の盛土の各構成要素について適切に設計することとされている。
本院は、合規性等の観点から、設計等が盛土工指針等に基づいた適切なものとなっているかなどに着眼して、前記の契約を対象として、局において、設計図書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
請負人は、火薬類取締法等に基づき経済産業大臣の承認を受けた図面(以下「承認図」という。)等に記載されている土堤の法面勾配は盛土工指針に示す標準法面勾配の適用範囲(盛土材料が砂質土で、盛土高が5mから10mの場合の勾配は、1:1.8~1:2.0)内となっていないことから、当初、局に対して土堤の高さを低くするなどの提案をしていた。しかし、局から、承認図どおりの高さ及び法面勾配で設計するよう指示されたため、承認図に基づく形で既存の土堤の切土又は盛土を行うなどして高さ6.8mにかさ上げして、標準法面勾配の適用範囲内に収まっていない法面勾配(1:1.0)で詳細図等を作成して局に提出していた。その際、請負人は、盛土工指針に基づいた盛土等の安定性の照査を行わず、また、盛土工指針に基づいた標準的な排水工及び法面の安定性を図るための法面保護工等の設計を行っていなかった。そして、局は、この詳細図等の審査に当たり、仕様書や承認図等に基づいた適切な設計であるとして承認して、これにより施工させていた(参考図参照)。
このため、本件土堤の法面勾配は、標準法面勾配の範囲のうち最も急勾配の1:1.8と比べても著しく急な勾配となっており、盛土工指針に基づく適切な設計となっていないことから、法面の安定が確保されていなかった。現に、本件土堤は、一部の箇所が崩壊していたり、ほぼ全ての法面において表土の一部が剥がれ落ちていたりしている状態となっていた。
したがって、本件土堤は、設計が適切でなかったため、土堤の機能が確保されていない状態となっており、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額15,644,172円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、請負人が、本件工事の仕様書等において適用することとされている盛土工指針等に基づいた設計を行っていなかったのに、これに対する局の審査が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図)
火薬庫等断面図