陸上自衛隊は、CH―47J輸送ヘリコプター(以下「CH―47J」という。)及びCH―47JA輸送ヘリコプター(CH―47Jの能力向上型。以下「CH―47JA」という。)を平成27年度末現在で計55機保有している。そして、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)は、これらの輸送ヘリコプターによる輸送能力を維持することなどを目的として、所定の総飛行時間に到達して用途廃止時期を迎えたCH―47J4機について、機体の主要部位等の交換、改修等を行いCH―47JAの新造機と同程度の性能及び耐用年数の確保を図る機体改修(以下「勢力維持改修」という。)を実施する計画を策定して、25年度から順次実施している。
陸幕は、勢力維持改修に係る役務について、防衛装備庁(27年9月30日以前は装備施設本部。以下「装備庁」という。)に調達要求を行っており、これを受けて装備庁は、25年度に納期を29年1月31日とする1機(契約金額32億4820万余円。以下「28年度納入機」という。)、26年度に納期を30年1月31日とする1機(契約金額35億2080万円。以下「29年度納入機」という。)、納期を31年1月31日とする2機(契約金額93億4372万余円。以下「30年度納入機」という。)、計4機(契約金額計161億1273万余円)の勢力維持改修に係る役務請負契約をそれぞれ締結している。
陸幕は、勢力維持改修の実施に当たり、航空機の機体に搭載されている通信電子機器等は原則として新品に更新することにしており、衝突防止等の安全確保のために機体への搭載が必要な通信電子機器である味方識別機についても、改修前に搭載されていたものと同等の機能を有する従来型の味方識別機JAN/APX―119(以下「従来型識別機」という。)の新品を別途調達して、勢力維持改修の請負会社に官給して更新することにしている。
そして、陸幕は、勢力維持改修の作業工程に合わせて、装備庁に従来型識別機の調達要求を行っており、これを受けて、装備庁は、26年度に28年度納入機の機体に搭載する従来型識別機1台(契約金額1585万余円)、27年度に29年度納入機の機体に搭載する従来型識別機1台(契約金額1567万余円)、計2台(契約金額計3152万余円)の製造請負契約をそれぞれ締結している。また、陸幕は、30年度納入機の機体に搭載する従来型識別機2台について、28年度に装備庁に調達要求を行うよう計画している。
従来型識別機は、その通信方式が32年12月末で運用停止となり、33年1月以降は新しい通信方式に移行するため、それ以降は味方識別機能が使用できなくなる。
陸幕は、上記の状況を24年2月頃に把握したことなどを踏まえて、勢力維持改修の計画とは別に、味方識別機を搭載する全ての陸上自衛隊の航空機のうち、33年1月以降も運用を予定しているものを対象に、機体定期修理(注1)の際に、新しい通信方式にも対応した新型の味方識別機JAN/APX―119―B(以下「新型識別機」という。)への搭載換えを実施する移行計画を策定して、26年度から実施している。そして、26年度に40台(契約件数2件、契約金額計4億8568万余円)、27年度に12台(契約件数1件、契約金額1億4657万余円)の新型識別機を調達している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、勢力維持改修における味方識別機の更新等は適切となっているかなどに着眼して、25年度から実施している勢力維持改修に係る役務請負契約、これに官給する従来型識別機の製造請負契約及び陸上自衛隊が保有する従来型識別機を対象として、陸幕、陸上自衛隊補給統制本部、陸上自衛隊関東補給処、3駐屯地(注2)、装備庁、勢力維持改修の請負会社及び従来型識別機の製造会社において、契約書、仕様書等の契約関係資料、従来型識別機の物品管理簿等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
陸幕は、前記のとおり、33年1月以降は従来型識別機の味方識別機能が使用できなくなることを把握していたが、故障等の交換用として保有している従来型識別機(以下「補用品」という。)を勢力維持改修に活用することなどについての検討等を十分に行うことなく、味方識別機の更新は従来型識別機を新規に調達することで対応するとして、28年度納入機及び29年度納入機の機体に搭載するための従来型識別機2台を調達していた。
この結果、新型識別機への移行計画を踏まえると、28年度納入機及び29年度納入機の機体に搭載するために現に調達した従来型識別機2台の運用期間は、それぞれ勢力維持改修が完了する29年1月及び30年1月から次の機体定期修理において新型識別機に搭載換えを行う31年度後半及び32年度後半までの3年程度となり、陸上自衛隊が定める従来型識別機の耐用年数16年に比して極めて短期間となると認められた(図参照)。
そこで、陸上自衛隊における補用品の保有状況についてみたところ、新型識別機への移行計画があることなども考慮すると、25年度末時点で一定数の予備を保有している状況となっていたことから、28年度納入機及び29年度納入機の勢力維持改修の請負会社に官給する従来型識別機2台については、従来型識別機を新たに調達せずに補用品を官給することが可能であり、その調達経費(契約金額26年度1585万余円、27年度1567万余円、計3152万余円)を節減することができたと認められた。
勢力維持改修の仕様書等によれば、30年度納入機の機体には、新規に調達を予定している従来型識別機を搭載することとされていた。そして、新型識別機への移行計画によれば、30年度納入機は、33年度の後半に予定される機体定期修理の際に新型識別機への搭載換えを行うこととされていた。したがって、30年度納入機は、新しい通信方式に移行する33年1月以降、33年度後半に新型識別機への搭載換えが行われるまでの間は、味方識別機能が使用できず、部隊運用上制約を受けるおそれがあるものとなっていた(図参照)。
そこで、30年度納入機の勢力維持改修の作業工程等について改めて確認したところ、当初から新型識別機に更新することとして調達要求することが可能であったと認められた。そして、当初から新型識別機に更新する計画とすれば、従来型識別機を新規に調達する必要はなく、別途予定している新型識別機への搭載換えに係る経費の節減が図られるとともに、味方識別機能が使用できない期間をなくすことにより部隊運用への影響を生じさせずに、勢力維持改修を実施する航空機のより効率的な運用を図ることが期待できると認められた。
このように、勢力維持改修の実施に当たり、運用期間が限られている従来型識別機の新規調達を抑制するための検討等を十分に行うことなく従来型識別機を新規に調達するなどしていた事態は、部隊運用への影響を生じさせずに、経済的に勢力維持改修等を実施する必要性があることなどを踏まえると適切ではなく、改善の必要があると認められた。
図 CH―47Jの勢力維持改修と従来型識別機の運用期間等
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、陸幕において、相互に関連する事業を実施していたにもかかわらず、勢力維持改修に係る担当部署と味方識別機に係る担当部署との間で、情報を共有して適時的確に必要な調整や検討等を図ることの重要性に対する理解が十分でなく、勢力維持改修の実施に当たり、運用期間が限られている従来型識別機の新規調達を行わずに勢力維持改修を実施するための検討が十分でなかったことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸幕は、28年7月に、装備庁に通知を発して、28年度に計画していた従来型識別機の新規調達を取り止めて、30年度納入機の勢力維持改修では新型識別機に更新するよう仕様書等の変更を行って、勢力維持改修等の経済的な実施及び勢力維持改修を実施する航空機のより効率的な運用を図るとともに、同年8月に、関係部署に通知を発して、相互に関連する事業を計画して実施する場合には情報を共有して適時的確に必要な調整や検討等を図ることの重要性について周知徹底する処置を講じた。