防衛省は、自衛隊法(昭和29年法律第165号)等に基づき、陸上、海上、航空各自衛隊の共同の機関として、自衛隊中央病院及び15自衛隊地区病院(注1)(以下、これらを合わせて「自衛隊病院」という。)、各自衛隊に駐屯地医務室等(以下、自衛隊病院と駐屯地医務室等を合わせて「自衛隊病院等」という。)を設置している。陸上、海上、航空各自衛隊は、自衛隊病院等において、医官等が診療、健康診断、自衛隊医療技術者等の教育訓練を行うとともに、感染症を最小限に抑えるための業務等を行っている。そして、これらの業務に必要となる医療機器等(以下「衛生器材」という。)を整備している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、各自衛隊病院等において診療、健康診断等のために整備された各衛生器材は有効に活用されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、平成21年度から27年度までの間に自衛隊病院等に整備された高額な衛生器材計203点(計133品目、調達額計24億8394万余円)を対象として、陸上、海上、航空各幕僚監部、49自衛隊病院等(注2)において、契約関係書類、使用状況等に関する調書等を確認するなどして会計実地検査を行った。また、2自衛隊病院(注3)についても、調書の提出を求めるなどして同様の事項について検査した。
(検査の結果)
検査したところ、陸上自衛隊が所掌する30自衛隊病院等(注4)に整備したX線撮影装置(乳房用)(以下「X線装置」という。)、循環器集団検診車(以下「検診車」という。)及び超微粒子噴霧除菌装置の計32点(計3品目、調達額計1億1609万余円)については、整備後の医官の配置換により衛生器材の利用が困難となったり、使用目的を限定したりしていたことなどのために利用が低調となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
陸上幕僚監部は、平成24年3月に、自衛隊仙台病院において乳がん等の診療のためにX線装置(調達額3675万円)を整備した。しかし、同病院に配置されていた乳腺外科専門の医官(以下「専門の医官」という。)が24年9月に他の病院へ配置換となり、撮影された画像を読み込むことができる医官が不在となったことなどのため、同病院における使用実績は24年度は1人で25年度以降は全くない状況となっていた。
そして、このX線装置については、同病院において今後も使用の見込みが立たないことから、27年2月に専門の医官が配置されている他の病院に管理換されたが、管理換された病院においても27年7月末に専門の医官が退官したことなどのため、27年度の使用実績は8人となっていて依然として使用が低調となっていた。
<事例2>
陸上幕僚監部は、平成24年8月に、自衛隊仙台病院において定期健康診断の際に東北方面隊管内の各分屯地等を巡回して循環器検診を行うなどのために検診車(調達額2611万余円)を整備した。しかし、分屯地等に勤務する自衛官等の定期健康診断の実施体制を、検診車が各分屯地等を巡回して行う体制から当該分屯地を管轄する駐屯地で実施する体制等に変更したため、25、26両年度において、検診車を整備した自衛隊仙台病院に勤務する自衛官等の定期健康診断でそれぞれ56人、53人に使用されただけで、検診車の整備の目的である各分屯地等を巡回して行う定期健康診断の使用実績は全くない状況となっていた。
そして、陸上幕僚監部においては、衛生器材の使用状況を適時適切に報告させるなどして把握することになっていないことから、使用実績が低調となっていたのに十分な対策が講じられていなかった。
このように、衛生器材の使用実績が低調となっていたのに十分な対策が講じられておらず、有効な活用が図られていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、陸上幕僚監部において、各自衛隊病院等に整備された衛生器材について、整備後の使用状況を適時適切に把握して、使用実績が低調なものについては、有効に活用が図られるよう適切な指示を行うことの重要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸上幕僚監部は、28年9月に関係部局に通知を発して、高額な衛生器材の整備後の使用実績を各方面隊を通じて報告させ、使用実績が低い衛生器材がある場合には、活用促進に係る指導等を適切に行うこととするとともに、使用が低調となっていた32点の衛生器材については、使用目的を適切に見直したり、活用が見込まれる他の自衛隊病院に管理換したりするなどして活用促進を図る処置を講じた。