航空自衛隊は、我が国周辺の空域を常時監視し、侵入する航空機等を警戒するために、警戒管制レーダー装置を運用している。そして、平成20年度から23年度までの間に空中線装置等多数の機器により構成される固定式警戒管制レーダー装置J/FPS―5(以下「FPS―5」という。)を4分屯基地(注)に各1基新たに配備して運用している。
航空自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)は、警戒管制レーダー装置について、安全かつ効率的に運用し得る品質を維持するために、一定の間隔で定期修理を行うこととしている。そして、定期修理は、補給本部の管理監督の下、航空自衛隊装備品等整備規則(昭和46年航空自衛隊達第10号)等に基づき、航空自衛隊第3補給処(以下「第3補給処」という。)が外注により行うこととなっており、警戒管制レーダー装置が配備された分屯基地内等において部品等の交換、修理、総合調整、試験等の作業が実施されている。
また、補給本部は、FPS―5のように新規に導入された警戒管制レーダー装置については定期修理を行った実績がないことから、定期修理を行う最適な間隔を設定することなどを目的とした試行的な定期修理(以下「試行定期修理」という。)を実施することにしている。そして、FPS―5の試行定期修理においては、その対象品目、数量等を確定させるために、第3補給処は、補給本部からの指示により、22年12月にFPS―5の製造元である三菱電機株式会社(以下「会社」という。)との契約により検討結果報告書等を作成させている。同報告書等では、試行定期修理においてFPS―5の空中線装置の構成品のうち電波の送受信を行う送受信モジュールアッシー9品目計4,974個を交換することとなっている。
そこで、補給本部は、同報告書等を踏まえて、下甑島分屯基地に配備したFPS―5の初号機については試行定期修理の作業を27年5月頃に行うよう計画し、第3補給処は、補給本部からの指示に基づいて同分屯基地のFPS―5の試行定期修理契約を同年3月31日に会社と締結している。
また、第3補給処は、試行定期修理契約において交換用として取り付けることとしている送受信モジュールアッシー(以下「交換用モジュールアッシー」という。)について、会社と別途の製造請負契約(契約金額計36億1313万余円)を締結することにより、23年12月に1品目1,130個、25年3月に5品目計1,622個、同年9月に3品目計2,222個を調達している。このように、交換用モジュールアッシーが複数回に分けて調達されている理由について、補給本部は、会社の製造ラインの都合により1回当たりの調達で製造可能な数量に限りがあるとして、23年10月に、会社から第3補給処に対して3回の契約に分けて調達するよう要望があったためとしている。
航空自衛隊は、航空自衛隊物品管理補給手続(平成4年補給本部長制定及び平成25年補給本部長制定)等に基づくなどして、調達物品等の受領後に瑕疵と認められる不具合が発見された場合等には、瑕疵担保期間内の不具合であるか否かを確認するなどした上で、契約相手方に対して、修補若しくは代金の減額又は契約の解除(以下、これらを合わせて「瑕疵修補等」という。)の請求等を行うこととしている。そして、この瑕疵修補等の請求等については、契約相手方が無過失責任を負うことになっている。交換用モジュールアッシーについても、前記製造請負契約の契約条項に瑕疵修補等の請求等に係る規定があり、その期間は納入の日から1年以内とされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、効率性等の観点から、交換用モジュールアッシーの調達、管理等は適切に行われているかなどに着眼して、第3補給処が27年3月31日に締結した下甑島分屯基地における試行定期修理契約(契約金額5億0761万余円)及び交換用モジュールアッシー9品目計4,974個の調達に係る3件の製造請負契約(契約金額計36億1313万余円)を対象として、航空幕僚監部、補給本部、第3補給処及び下甑島分屯基地において、契約書、管理換票、物品管理簿等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
第3補給処が前記3件の製造請負契約により調達した交換用モジュールアッシーは、25年2月、26年3月及び27年2月にそれぞれ会社を搬入地として納入され、兵庫県尼崎市に所在する会社内の倉庫に寄託されていた。その後、27年5月に試行定期修理の作業のために下甑島分屯基地に輸送され、会社が同分屯基地において交換を行っていた。
しかし、27年6月に、会社がFPS―5の機器等の作動確認をしたところ、表のとおり、交換用モジュールアッシーのうち8品目計2,312個に不具合が発見され、このため、第3補給処は警戒監視任務に支障が生じないように交換前の送受信モジュールアッシーを再度取り付けるなどしていた。
表 交換用モジュールアッシーの不具合の状況
契約年月日 | 契約金額 | 交換用モジュールアッシー | 試行定期修理の契約時点の瑕疵担保期間の状況 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
試行定期修理における機器等の作動確認の結果、不具合が発見されたもの | |||||||
品目数 | 数量 | 瑕疵担保期間 | 品目数 | 数量 | |||
平成23年12月22日 | 925,470 | 1 | 1,130 | 25年2月22日~26年2月21日 | 1 | 497 | 瑕疵担保期間が経過 |
25年3月26日 | 1,532,685 | 2 | 647 | 26年3月20日~27年3月19日 | 2 | 216 | |
3 | 975 | 26年3月27日~27年3月26日 | 3 | 225 | |||
計 | 2,458,155 | 6 | 2,752 | / | 6 | 938 | |
25年9月26日 | 1,154,979 | 3 | 2,222 | 27年2月27日~28年2月26日 | 2 | 1,374 | 瑕疵担保期間内 |
合計 | 3,613,134 | 9 | 4,974 | / | 8 | 2,312 |
そこで、作動確認をした交換用モジュールアッシーに不具合が発見されたことから、試行定期修理における部品等の調達に係る契約条件や瑕疵修補等の請求等の状況について確認したところ、23年12月及び25年3月の2件の交換用モジュールアッシーの製造請負契約(契約金額計24億5815万余円)における瑕疵担保期間は、試行定期修理の契約時点(27年3月31日)までに既に経過していた。
このため、瑕疵修補等の請求等についても、第3補給処は、不具合が発見された前記8品目計2,312個のうち25年9月の製造請負契約に係る2品目計1,374個については、瑕疵担保期間内であるとして会社に対して修補を請求し、その後修補が行われていた。しかし、23年12月及び25年3月の製造請負契約に係る6品目計938個については、不具合が発見された時期等が同じであるにもかかわらず、瑕疵担保期間が試行定期修理の契約時点(27年3月31日)までに既に経過していて、会社に対して瑕疵修補等の請求等を行っていなかった。
なお、補給本部及び第3補給処によれば、前記の不具合が製造から取り付けまでのどの過程の事象に起因するのかについては、不明としていた。
このように、交換用モジュールアッシーについて、試行定期修理の契約時点までに瑕疵担保期間が経過していて、試行定期修理における機器等の作動確認の結果、不具合が発見された場合等に会社に対して瑕疵修補等の請求等を行えなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、補給本部において、試行定期修理の計画に基づいて交換時期や数量等を決めてあらかじめ調達する必要がある交換用モジュールアッシーの調達に当たり、下甑島分屯基地の試行定期修理の作業期間中に不具合が発見された場合等に瑕疵修補等の請求等を行うための契約条件の検討を十分に行っていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、補給本部は、28年8月に、警戒管制レーダー装置の試行定期修理等において、交換時期や数量等を決めてあらかじめ調達する必要がある部品等の調達に当たり、試行定期修理等の作業期間中に不具合が発見された場合等に瑕疵修補等の請求等を行うために、契約に際して部品等を一括調達してその納入の時期を適切な時期に設定したり、部品等の調達を試行定期修理等に係る契約に含めて一括品質保証としたりすることとするなど、適切に部品等の調達を図る処置を講じた。