海上自衛隊の総監部、航空基地等並びに航空自衛隊の基地及び分屯基地(以下、これらを合わせて「基地等」という。)は、任務等のために必要となる電気について、毎年度、基地等の施設担当部署が契約電力、需要場所等の事項を記載した仕様書等を作成し、契約担当官が原則として一般競争入札を実施して、電気需給契約を締結している。そして、海上幕僚監部においては、毎年度、基地等に対して電気料金に係る調査を実施しており、契約電力、最大需要電力の実績等を報告させている。また、航空幕僚監部においては、航空自衛隊電気設備管理規則(昭和60年航空自衛隊達第1号)を定め、基地等が電気需給契約が業務遂行上支障を及ぼさない範囲内で、適切かつ有利に締結されるよう努めるものとしている。
また、基地等は、契約の締結に当たり、契約電力、契約電力1kW当たりの月額基本料金単価、使用電力量1kWh当たりの電力量料金単価等を定めている。そして、基地等は、契約電力に月額基本料金単価を乗ずるなどして算定された基本料金と、その1か月間の使用電力量に電力量料金単価を乗じて算定された電力量料金とを合わせるなどした金額を電気料金として毎月支払っている。
各電気事業者の電気需給約款によれば、契約電力とは契約上使用できる最大電力で、最大需要電力とは30分ごとに計量される需要電力の最大値であるとされている。また、契約電力は、1年間を通じた最大需要電力を基準として、電気の供給を必要とする者が申し出ることとされていて、契約電力が500kW以上の場合は、電気事業者との協議によって定めることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
基地等においては、施設、設備及び機器(以下「施設等」という。)の新設、増設、建替え、用途廃止等が行われており、契約電力の大幅な増減が見込まれる。
そこで、本院は、経済性等の観点から、契約電力が適切に算定されているかなどに着眼して、平成26、27両年度に基地等が締結した電気需給契約のうち、契約電力500kW以上の51基地等(注1)における152契約を対象に、海上、航空両幕僚監部等において、契約書、仕様書等の書類を確認したり、契約電力の算定方法等について説明を受けたりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
上記の152契約について、契約電力と過去の最大需要電力を検査したところ、7基地等における6会社との16契約、支払金額計19億9510万余円については、表のとおり、契約電力と過去3年間の最大需要電力が大きくかい離しており、その差が72kWから2,901kW(契約電力に対する割合で11.8%から43.2%)となっていた。そして、海上、航空両幕僚監部は、前記のとおり、電気需給契約における最大需要電力の実績等を基地等から報告させるなどしているが、具体的なものとなっておらず、契約電力と最大需要電力の実績を確認し、指導できる態勢にはなっていなかった。
表 7基地等における16契約の契約電力と過去3年間の最大需要電力との差
基地等名 | 年度 | 契約電力 | 過去3年間の最大需要電力 | 契約電力と過去3年間の最大需要電力との差 | 割合 | |
---|---|---|---|---|---|---|
(A) | (B) | (C=A-B) | (C/A) | |||
kw | kw | kw | % | |||
海上自衛隊
大湊地方総監部 |
平成 26 |
6,700 | 3,799 | 2,901 | 43.2 | |
呉地方総監部 | 総監部地区 | 26 | 1,900 | 1,519 | 381 | 20.0 |
27 | 2,000 | 1,543 | 457 | 22.8 | ||
からす小島訓練場地区 | 27 | 1,100 | 968 | 132 | 12.0 | |
舞鶴地方総監部 | 総監部地区 | 26 | 1,195 | 854 | 341 | 28.5 |
27 | 1,195 | 853 | 342 | 28.6 | ||
白浜火薬庫 | 26 | 600 | 432 | 168 | 28.0 | |
27 | 600 | 432 | 168 | 28.0 | ||
航空自衛隊
新田原基地 |
26 | 3,600 | 2,563 | 1,037 | 28.8 | |
27 | 3,300 | 2,808 | 492 | 14.9 | ||
大湊分屯基地 | 26 | 1,500 | 1,172 | 328 | 21.8 | |
27 | 1,500 | 1,174 | 326 | 21.7 | ||
佐渡分屯基地 | 26 | 1,500 | 1,250 | 250 | 16.6 | |
27 | 1,500 | 1,250 | 250 | 16.6 | ||
笠取山分屯基地 | 26 | 630 | 538 | 92 | 14.6 | |
27 | 610 | 538 | 72 | 11.8 |
上記の事態について、要因別に示すと次のとおりである。
基地等が、前年度の最大需要電力等の実績を十分考慮せずに契約電力を算定していた結果、5基地等(注2)における9契約で契約電力と過去3年間の最大需要電力が大きくかい離していた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
航空自衛隊大湊分屯基地は、平成23年度に固定式警戒管制レーダー装置を換装して運用している。同分屯基地は、当該レーダー装置の運用方法等により負荷容量(注)が異なり、これを運用当初から把握することは困難であるとして、初年度は運用に支障が生じないよう、負荷容量の余裕を十分に見込み契約電力を算定していたが、26、27両年度においても、初年度のまま契約電力を変更せずに1,500kWとしていた。
しかし、当該レーダー装置は、運用を開始してから相当の期間が経過しており、前年度の最大需要電力等の実績(25年度1,172kW、26年度1,174kW)を考慮して契約電力を1,200kWとすれば、26、27両年度の電気料金の支払金額を計998万余円節減できたと認められた。
基地等が契約電力と施設等の運用開始時期から電気需給契約の契約期間満了までの間における最大需要電力との差を十分考慮せず、前年度の最大需要電力等の実績に当該施設等の負荷容量を加えて契約電力を算定していたり、施設等の老朽化等により建替えが行われた際に、供用されなくなる旧施設等の負荷容量を差し引くことなく、契約電力を算定していたりした結果、2基地等(注3)における7契約で契約電力と過去3年間の最大需要電力が大きくかい離していた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
海上自衛隊呉地方総監部(総監部地区)は、平成26年度において、過去3年間の最大需要電力1,519kWに、26年6月に改修した衛星局舎及び27年3月に完成予定の衛星関連事業用装備器材に係る負荷容量300kWを加えるなどして、契約電力を1,900kWとし、27年度においても同様の算定方法により2,000kWとしていた。
しかし、これらの施設等の運用開始予定時期は28年3月であり、契約電力と運用開始予定時期以降における最大需要電力との間に十分に余裕があることから、負荷容量を契約電力に加える必要はなかった。このように、施設等の負荷容量を加えずに契約電力を算定すれば、26、27両年度の電気料金の支払金額を計1203万余円節減できたと認められた。
このように、基地等が締結する電気需給契約において、前年度の最大需要電力等の実績や施設等の運用開始時期以降における最大需要電力を十分考慮せずに契約電力を算定していたり、海上、航空両幕僚監部が基地等の電気需給契約における契約電力と最大需要電力の実績を確認し、指導できる態勢が整備されていなかったりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた電気料金)
電気需給契約について、前年度の最大需要電力等の実績や施設等の運用開始時期を十分考慮するなどして契約電力を算定すれば、前記の7基地等における電気料金の支払金額を計1億0914万余円節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、海上、航空両幕僚監部において、契約電力を適切に算定するために、前年度の最大需要電力等の実績及び施設等の運用開始時期を十分考慮することについて、基地等に対して具体的に示していなかったこと、基地等の契約電力と最大需要電力の実績等を確認した上で、指導できる態勢が整っていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、海上、航空両幕僚監部は28年8月に通知等を発して、基地等における電気需給契約がより経済的なものとなるよう、契約電力について、前年度の最大需要電力の実績の要因を分析して毎年度見直すこと、また、施設等の新設等が見込まれる場合、適時適切に増減させることを基地等に対して示すとともに、契約電力と直近1年間の最大需要電力の実績等を報告させ、十分に確認した上で、指導できる態勢を整備する処置を講じた。