海上自衛隊は、保有する多種類の火薬類を艦艇、航空機等の部隊等に対して適時適切に補給できるよう、地方隊の弾薬整備補給所、航空基地等において、火薬類を安全に貯蔵するための施設として、火薬庫を多数設置し、国有財産として管理している。火薬庫は、本体となる建物のほか、爆風による危害防止のための土提、防爆壁等から構成されている。
海上自衛隊が、火薬庫を設置し、火薬庫において火薬類を貯蔵するに当たっては、国有財産法(昭和23年法律第73号)、火薬類取締法(昭和25年法律第149号)等の関係法令のほか、火薬類の取扱いに関する訓令(昭和54年防衛庁訓令第36号)、海上自衛隊の火薬類の取扱いに関する達(平成26年海上自衛隊達第23号)等(以下、これらを合わせて「火薬庫関係規程」という。)に基づき実施することとなっている。
海上自衛隊において火薬庫の設置、構造又は設備の変更等を実施する場合は、当該火薬庫を管理する部隊の長(以下「貯蔵責任者」という。)が、火薬庫の構造、設備、貯蔵する火薬類の種類等を明らかにした上で、設置等について海上幕僚長に上申することとなっている。海上幕僚長はこれを防衛大臣に上申し、防衛大臣は経済産業大臣に承認申請を行うこととなっている。そして、火薬庫の構造等について、火薬庫関係規程に定められた技術上の基準(以下「技術基準」という。)に適合していることが認められた後、防衛大臣が設置等の承認を受けることとなっている。
また、貯蔵する火薬類の種類の変更を実施する場合は、同様に上申した上で、防衛大臣が経済産業大臣に通知することとなっている。
そして、貯蔵責任者は、火薬庫の設置等の工事が完了したときは、海上幕僚長等による完成検査を受け、当該火薬庫が技術基準に適合していると認められた後でなければ使用してはならないこととなっている(以下、この完成検査を「火薬庫完成検査」という。)。
火薬庫関係規程において、海上自衛隊が保有する主な火薬類が、その用途、構造等に応じて「火薬」「爆薬」「実包及び空包」「信号焔(えん)管及び信号火せん」などの火薬類に係る分類(以下「火薬分類」という。)のいずれに該当するかが示されている。そして、同一の火薬庫に貯蔵しても安全な火薬分類の組合せの区分(以下「貯蔵区分」という。)が、火薬類の特性を考慮して定められており、貯蔵区分に適合しない火薬類を同一の火薬庫に貯蔵してはならないこととなっている。例えば、「火薬」「爆薬」及び「実包及び空包」の組合せは、貯蔵区分に適合するが、「火薬」及び「信号焔管及び信号火せん」の組合せは、貯蔵区分に適合しないため、同一の火薬庫に貯蔵してはならないことになる。
また、火薬庫には、火薬類以外のものを貯蔵してはならないことなどとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、国有財産である火薬庫は、火薬類を安全に貯蔵するという目的を達成できるよう、技術基準に適合した構造となっているか、火薬類が適切に貯蔵されているかなどに着眼して、海上自衛隊が管理する火薬庫計202棟(平成26年度末現在の国有財産台帳価格計37億0426万余円)を対象として、海上幕僚監部、5地方総監部(注1)及び10航空基地(注2)において、設置等に係る承認申請関係書類、貯蔵している火薬類の明細等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
2弾薬整備補給所(注3)及び4航空基地(注4)の火薬庫計14棟について、火薬庫を技術基準に適合するよう設置していなかったり(5棟)、火薬庫の構造の変更に係る承認を受けないまま変更工事を実施していたり(1棟)、火薬庫の設備の変更を行っているのに火薬庫完成検査を受けていなかったり(6棟)、火薬庫の設備が技術基準に適合しているか確認できなかったり(2棟)していた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
A航空基地の火薬庫1棟は、設置年次が古いため当初の状況は十分確認ができないが、設置の承認に係る書類等において、防爆壁の構造を、出入口部外側に更に防爆壁を設けて爆風が直接外部に漏れないものとしており、この構造が技術基準に適合するとして設置の承認を受けていた。しかし、平成28年6月の会計実地検査時点における現状を確認したところ、出入口部外側の防爆壁の位置が離れているため爆風が直接外部に漏れないものとして十分でなく、設置の承認を受けた構造と異なっており、技術基準に適合していなかった。
5弾薬整備補給所(注5)及び10航空基地の火薬庫計49棟について、火薬庫に貯蔵する火薬類の種類の変更の手続を適切に行わないまま承認を受けたものと異なる火薬類が貯蔵されていたり(32棟)、貯蔵区分に適合しない火薬類が貯蔵されていたり(30棟)、火薬類以外のものが貯蔵されていたり(12棟)していた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
B弾薬整備補給所の火薬庫1棟において、「火薬」及び「信号焔管及び信号火せん」の組合せは貯蔵区分に適合しないため同一の火薬庫に貯蔵してはならないこととなっているのに、貯蔵する火薬類がいずれの火薬分類に該当するかを十分確認していなかったなどのため、「火薬」に該当する砲弾の補充薬と、「信号焔管及び信号火せん」に該当する発煙筒、信号けん銃弾等の双方が、この火薬庫に貯蔵されており、貯蔵状況が適切でなかった。
(1)及び(2)には重複している事態があり、その重複を除いた5弾薬整備補給所及び10航空基地の火薬庫計57棟(26年度末現在の国有財産台帳価格計10億5912万余円)について、火薬庫の設置及び構造又は設備の変更を適切に実施していなかったり、火薬庫における火薬類等の貯蔵状況が適切でなかったりしていて、火薬庫に火薬類を安全に貯蔵するという目的を達成していなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、海上幕僚監部は、28年8月及び9月に弾薬整備補給所、航空基地等に対して通知を発して、次のような処置を講じた。
ア 2弾薬整備補給所及び4航空基地において、速やかに、火薬庫完成検査を受けるなどして技術基準に適合しているかどうかの確認を実施し、必要に応じ補修工事等を実施するよう通知した。
イ 5弾薬整備補給所及び10航空基地において、貯蔵する火薬類の種類の変更手続を行ったり、火薬庫に貯蔵する火薬類が貯蔵区分に適合するよう速やかに貯蔵している火薬類の移替えを行ったりなどするよう通知した。
ウ 海上自衛隊が保有する火薬類について、いずれの火薬分類に該当するかが明確となるよう基準を示すなどした上で、これを周知徹底し、火薬庫を管理する部隊において、火薬類の該当する火薬分類を適切に確認できる体制を整備した。
エ 地方総監部等の関係部局と緊密に連絡調整を行って火薬庫を技術基準に適合するように設置したり、火薬庫完成検査を受けてから火薬庫を使用したり、火薬庫の構造又は設備の変更を適切に実施したりするよう周知徹底するとともに、これについて、教育を計画的に実施させるなどして、継続的に指導することとした。
オ 火薬庫に貯蔵する火薬類の種類を変更する必要が生じた場合は、遅滞なく手続を行うこと、貯蔵区分に適合するよう火薬庫に火薬類を貯蔵すること及び火薬類以外のものを火薬庫に貯蔵しないことについて周知徹底するとともに、これについて、教育を計画的に実施させるなどして、継続的に指導することとした。