海上自衛隊は、しょう戒等を行う回転翼航空機をヘリコプター搭載護衛艦及び汎用護衛艦(以下、これらを合わせて「護衛艦」という。)に搭載して、機動的に情報収集・警戒監視等を行うこととしている。そして、海上自衛隊は、回転翼航空機の運用に支障を来さないように、回転翼航空機の整備作業を実施するための試験器、試験装置等(以下、これらを合わせて「航空機整備用器材」という。)を護衛艦に搭載することとしている。航空機整備用器材は、航空機等整備基準(平成10年海幕装備第5622号)及び航空機等整備実施要領(平成10年補本装航第89号)によれば、計画的に点検等を行い、航空機等の品質を確認するとともに不具合を未然に防止する計画整備及び不具合の発生の都度、航空機等が本来有する性能を発揮させるための計画外整備を行う際に使用される器材とされている。また、回転翼航空機を搭載する護衛艦においては、回転翼航空機に搭載されている味方識別機(注1)に不具合が発生した際に、味方識別機の電波の送受信を診断するレーダー試験器等が搭載されている。
航空機整備用器材については、海上自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)が定めた航空機等整備用器材装備標準(平成10年補本装航第95号)において、護衛艦に搭載する標準数が定められており、また、回転翼航空機の整備作業を実施する航空基地が保有する標準数も定められている。そして、上記レーダー試験器の標準数は、護衛艦、航空基地それぞれ1台ずつとなっている。
一方、海上自衛隊は、護衛艦、潜水艦等(以下、これらを合わせて「艦艇」という。)に、艦艇の防御、攻撃目標の捕捉等を行う防空システム、水上レーダー、敵味方識別装置(注2)等の機器を装備しており、これらの機器の整備作業を実施するための試験器、試験装置等(以下、これらを合わせて「艦艇整備用器材」という。)を艦艇に搭載することとしている。艦艇整備用器材は、艦船造修整備規則(平成14年海上自衛隊達第54号)によれば、艦艇に搭載する武器等の整備作業を適正かつ効率的に実施するための器材とされている。そして、艦艇整備用器材の一つとして敵味方識別装置の故障の診断等を行う際に使用されるレーダー試験器が艦艇に搭載されており、艦艇整備用器材のレーダー試験器の一部には、航空機整備用器材として使用可能なものがある。
補給本部は、海上自衛隊物品管理補給規則(昭和56年海上自衛隊達第42号)に基づき、航空機整備用器材について、航空基地の分任物品管理官に対して航空機整備用器材の管理換等の指示を行うこととなっている。また、航空機整備用器材を護衛艦に搭載する際には、護衛艦の部隊の物品供用官からの請求等に基づき、航空基地の分任物品管理官が護衛艦の部隊の物品供用官に払い出すなどしている。一方、補給本部は、艦艇整備用器材についても航空機整備用器材と同様に、造修補給所の分任物品管理官に対して艦艇整備用器材の管理換等の指示を行うなどしている。
海上自衛隊は、回転翼航空機の効率的な運用が行えるように、夜間時及び荒天時に回転翼航空機を誘導する着艦誘導支援装置、回転翼航空機の飛行甲板への着艦及び格納庫への移送の支援を行う着艦拘束装置等の運用支援器材を護衛艦に装備している。運用支援器材の維持管理については、艦船造修整備規則等に基づき、補給本部が各運用支援器材の構造、取扱い及び整備に関して制定した技術刊行物等を基に乗員整備項目一覧表を作成して護衛艦の部隊に通知し、護衛艦の部隊は乗員整備項目一覧表及び技術刊行物により乗員整備を実施することなどとなっている。
また、補給本部は、「海上自衛隊の使用する装備品等の技術刊行物の管理基準について」(平成10年海幕装備第5624号)に基づき、技術刊行物を制定する場合には、技術刊行物番号を付与することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
海上自衛隊は、回転翼航空機を護衛艦に搭載して運用するに当たり、その運用に支障を来さないためには、航空機整備用器材及び運用支援器材が護衛艦に必要な数量分搭載等され、常に良好な状態で管理される必要があるとしている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、航空機整備用器材が適切に護衛艦に搭載されているか、艦艇整備用器材を航空機整備用器材として転用して護衛艦に搭載して活用しているか、運用支援器材の維持管理は適切に実施されているかなどに着眼して、平成28年3月31日現在で、護衛艦に搭載することとなっている航空機整備用器材等のうちレーダー試験器等5品目計162台(物品管理簿価格計8億8815万余円)及び護衛艦に装備している運用支援器材のうち着艦拘束装置30台(国有財産台帳価格相当額計29億7528万余円)を対象として、海上幕僚監部、補給本部、5地方総監部(注3)、5地方総監部地区在籍の護衛艦及び回転翼航空機を配備している5航空基地(注4)において、物品管理簿、乗員整備項目一覧表等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
海上自衛隊では、全ての護衛艦に対して必要な航空機整備用器材のレーダー試験器を搭載できていない状況であり、28年3月31日現在で護衛艦33隻中15隻にレーダー試験器を搭載していなかった。そこで、レーダー試験器の管理状況等をみたところ、次のような事態が見受けられた。
館山航空基地では、分任物品管理官はレーダー試験器3台(物品管理簿価格計843万円)を陸上予備品として保管しており、これらは護衛艦の海外派遣の際に搭載するとしていたが、物品管理簿で確認したところ、少なくとも5年間は護衛艦に搭載させずに保管したままとなっていた。また、大湊航空基地では、分任物品管理官が同基地の整備補給隊の物品供用官に払い出していた1台(物品管理簿価格381万余円)が、使用されずに保管されており、館山、大湊両航空基地において、航空機整備用器材のレーダー試験器計4台(物品管理簿価格計1224万余円)が保管されていた。
前記のとおり、艦艇整備用器材のレーダー試験器の一部には、航空機整備用器材として使用可能なものがあることから、その利用状況等をみたところ、横須賀、呉、大湊各地方隊の造修補給所において、航空機整備用器材として使用可能な艦艇整備用器材のレーダー試験器が計7台(物品管理簿価格計1967万円)あり、物品管理簿で確認したところ、1年以上使用されずに保管されたままとなっていた。
このことから、航空基地に保管されている航空機整備用器材のレーダー試験器4台及び造修補給所に保管されている艦艇整備用器材のレーダー試験器7台の計11台(物品管理簿価格計3191万余円)は、レーダー試験器を搭載していない護衛艦に搭載することが可能であると認められた。
なお、海上自衛隊では、新型の航空機整備用器材のレーダー試験器を導入することとしていて、それも踏まえると、全ての護衛艦に搭載することが可能となっていた。
着艦拘束装置には、装備する護衛艦に応じてRAST、E―RAST及びRAST―MkⅥの三つの型式があり、RASTは回転翼航空機を移送するためのレールが1本、E―RAST及びRAST―MkⅥはそのためのレールが2本となっていて、型式別の技術刊行物には乗員整備項目及び点検項目がそれぞれ定められている。
そこで、護衛艦に装備している着艦拘束装置の整備状況について検査したところ、護衛艦「たかなみ」等5隻に装備されている着艦拘束装置5台の型式はE―RAST(国有財産台帳価格相当額計6億2289万余円)であるのに、RASTとE―RASTについて同じ技術刊行物番号が付与されていたことなどから、補給本部は誤ってE―RASTではなくRASTの乗員整備項目一覧表を護衛艦「たかなみ」等5隻の部隊に通知していた。そして、護衛艦「たかなみ」等5隻の部隊は、誤った乗員整備項目一覧表に基づき乗員整備を実施していたため、E―RASTに追加された器材(回転翼航空機を固定するための装置を2本のレール間で移動させる器材)の点検を行う乗員整備が実施されておらず、E―RASTの機能を発揮できないおそれがある状況となっていた。
このように、回転翼航空機の運用に当たり、保管されているレーダー試験器が有効に活用されていなかったり、着艦拘束装置が適切に整備されていなかったりしていた事態は、回転翼航空機の運用に支障を来すおそれがあることから適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、補給本部において、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、補給本部は、回転翼航空機の運用に支障を来さないよう、次のような処置を講じた。
ア 造修補給所の分任物品管理官に対して、保管していた艦艇整備用器材のレーダー試験器を航空基地に管理換をすることを指示するとともに、航空基地の分任物品管理官に対して、レーダー試験器を搭載していない護衛艦に同試験器を搭載させることとした。
イ 護衛艦に装備している着艦拘束装置について、護衛艦の部隊に対して、28年3月にその型式に応じた乗員整備項目を通知し、同年8月にこれに基づく乗員整備を確実に実施するよう再度通知を発した。