防衛装備庁(平成27年9月30日以前は内部部局。以下「装備庁」という。)は、防衛省設置法(昭和29年法律第164号)に基づき、自衛隊に所属する航空機等の装備品について、その調達、管理等に関する事務を担当している。
そして、陸上自衛隊に所属する航空機のうち、要人輸送を主たる用途とする特別輸送ヘリコプターは、その用途から、民間機と同等の機体が使用されており、昭和61年度から平成18年度までの間はアエロスパシアル社製のAS―332L(以下「AS―332L」という。)3機が、その後は、AS―332Lの後継機としてEC―225LP3機が使用されている。
装備庁は、防衛省所管国有財産取扱規則(平成18年防衛庁訓令第118号。以下「取扱規則」という。)等に基づき防衛大臣が行うこととなっている防衛省所管の航空機の管理、処分等に係る承認行為等に関する事務を行っている。
取扱規則によれば、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)に属する特別輸送ヘリコプター等の国有財産に関する事務は、陸幕が分掌することとされており、国以外の者に普通財産を売り払おうとする場合は、陸幕は、売払事由や価格評定調書等の所定の事項を記載した申請書類等により防衛大臣の承認を受けなければならないとされている。
また、特別輸送ヘリコプターの運用に必要となる修理、補給用の専用部品等(以下「専用部品等」という。)については、防衛省所管物品管理取扱規則(平成18年防衛庁訓令第115号)に基づき、陸上幕僚長が物品管理官となっており、陸上自衛隊補給管理規則(平成19年陸上自衛隊達第71―5号)等に基づき、原則として、特別輸送ヘリコプターの機体が処分されるまでの間は、不用決定等の処分をすることなく保管することとなっている。
装備庁は、通常、自衛隊に所属する航空機を用途廃止した場合には、当該航空機は自衛隊専用機として武器性を有することなどから、行政財産から普通財産に組み替えた上で物品に編入して、鉄くずとして売払処分する方針としている。一方、AS―332Lについては、22年3月に用途廃止されて行政財産から普通財産に組み替えられたが、民間機と同等の機体であり、「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成16年12月安全保障会議及び閣議決定)において、防衛装備品のライフサイクルコスト(注1)の抑制に向けた取組を推進することとなったことなどを踏まえて、より高額な売払価格が期待できる中古機として売り払うための検討を行うことにしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、AS―332Lの機体の処分手続及びその専用部品等の不用決定手続がライフサイクルコストの抑制に資するよう計画的、効率的に進められているか、長期間の保管によりAS―332Lの評価額が低下していないかなどに着眼して、AS―332Lの機体3機(用途廃止時点における国有財産台帳価格計4億3451万余円)及び単価300万円以上の重要物品であるAS―332Lの専用部品等(27年度末現在における数量計80品目182点、物品管理簿価格計27億3651万余円)を対象として、装備庁、陸幕、陸上自衛隊補給統制本部及び同関東補給処(以下「関東補給処」という。)において、AS―332Lの機体、その専用部品等の国有財産台帳、物品管理簿、処分等に係る関係書類等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
装備庁は、防衛省所管の航空機を普通財産として売り払うのはAS―332Lが初めての事例であることから、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)における輸出管理上の取扱い、自衛隊専用機には適用されないが買受人が航空の用に供する際には必要となる航空法(昭和27年法律第231号)に基づく耐空証明(注2)の取扱いなどについての検討が必要であるとして、22年3月から売払処分に係るこれらの検討を開始していた。一方、陸幕においては、装備庁が上記の検討を開始して以降、装備庁から売払処分等に関する明確な指示がなかったため、売払処分に係る具体的な手続を開始することができず、陸上自衛隊では使用しない前記のAS―332L3機、その専用部品等を、本来は陸上自衛隊が使用する装備品等を保管することを目的としている関東補給処の倉庫等に、検討開始から6年が経過した28年3月現在においても普通財産及び物品として保管し続けている状況となっていた。
そこで、検討開始から6年間の検討経緯についてみると、装備庁は、24年3月に民間への売払いに当たって課題となる輸出管理上の武器に該当するか否かなどについて経済産業省に確認を行うなどしていたものの、同じく検討が必要であるとしていた耐空証明の取扱いについては、検討開始から3年が経過した25年度になっても結論を出しておらず、売払いに必要な価格鑑定の手続(以下「価格鑑定」という。)に至っていなかった。
そして、装備庁は、鉄くずとして売払処分した航空機の処分業者が当該航空機を鉄くずとして処分せずに第三者に転売した事案が25年4月に発覚したことから、これへの対応が必要であるとして、同月から、「不用の決定をした物品の売払い要領について(通達)」(平成26年防経監第11075号。以下「売払要領」という。)が策定された26年7月までの1年以上の間、AS―332Lの売払いに係る検討を中断していた。
しかし、売払要領は、航空機等から編入するなどした不用物品について、国の歳入の増加に資するよう、適切な形で売り払うために必要な事項を定めるものであり、航空機として売り払う場合に必要となる耐空証明の手続は売払要領の対象外となる。したがって、AS―332Lの売払いに係る検討については、中断するのではなく、売払要領の策定と並行して行うべきであったと認められた。
同月以降、装備庁は、AS―332Lの売払いに係る検討を再開したものの、当初の検討から長期間が経過していたため、改めて過去の経緯や論点整理を行ったり、27年7月に、改めて輸出管理上の武器に該当するか否かなどについて経済産業省に確認を行ったりしていて、検討作業等に手戻りが生じていた。
そして、装備庁は、耐空証明に係る手続は買受人の負担において行うことなどと整理した上で、28年2月にようやくAS―332Lの価格鑑定を実施していたが、この結果をみると、AS―332Lの評価額は、装備庁における検討期間が長期間となったことに伴い、関東補給処における保管期間が長期間になったことによる劣化等のため減額されており、装備庁が速やかに検討を行って売払手続に着手していれば、長期間の保管による評価額の減額を防ぐことができた状況となっていた。
このように、売払処分が防衛装備品のライフサイクルコストの抑制を図るための重要な手段の一つであることなどを踏まえると、装備庁において、売払処分に係る検討が速やかに行われずに、22年3月の用途廃止から売払いに必要な価格鑑定に至るまでに6年もの期間を要していて早期の売払いに着手できていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、装備庁において、これまでに普通財産として管理する航空機を中古機として売払処分を行った事例がないなどのため、具体的な手続を定めた実施要領等がなく、装備庁と陸幕との役割分担を含めた売払処分の実施に必要な事項が明確となっていなかったこと、より高額な売払価格となるよう早期の売払いに着手する必要性についての認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、装備庁は、今後も発生することが想定される中古機としての売払処分の速やかな実施が図られるよう、28年10月に用途廃止後の航空機の売払処分に関する要領を定めてその実施に必要な事項を明確化するとともに、関係部署に対して早期の売払いに着手する必要性について周知徹底する処置を講じた。