【改善の処置を要求したものの全文】
大口・多頻度割引制度における道路法令違反者に対する割引停止措置等の見直しについて
(平成28年10月20日付け
東日本高速道路株式会社代表取締役社長
中日本高速道路株式会社代表取締役社長
西日本高速道路株式会社代表取締役社長
本州四国連絡高速道路株式会社代表取締役社長
首都高速道路株式会社代表取締役社長
阪神高速道路株式会社代表取締役社長
宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
東日本高速道路株式会社(以下「東会社」という。)、中日本高速道路株式会社(以下「中会社」という。)及び西日本高速道路株式会社(以下「西会社」という。また、以下、これらの3会社を総称して「東日本等3会社」という。)並びに本州四国連絡高速道路株式会社(以下「本四会社」という。)、首都高速道路株式会社(以下「首都会社」という。)及び阪神高速道路株式会社(以下「阪神会社」という。また、以下、これらの3会社を総称して「本四等3会社」といい、東日本等3会社と合わせて「高速道路6会社」という。)は、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構(以下「機構」という。)と協定を締結して、機構から高速道路を借り受けて、料金徴収業務、交通管理業務、道路維持管理業務等を行っており、高速道路6会社のそれぞれ料金徴収部門、交通管理部門、道路維持管理部門等がこれらの業務を担当している。
そして、高速道路6会社は、高速道路の大口・多頻度利用者を対象にETC(有料道路自動料金収受システム)の利用を前提とした割引制度(以下「大口・多頻度割引制度」という。)を実施している。東日本等3会社は、大口・多頻度割引制度のために発行するETCコーポレートカード(以下「コーポレートカード」という。)の利用について、「ETCコーポレートカード利用約款」(以下「利用約款」という。)を定めており、利用約款に基づいてコーポレートカードの利用を承認された個人及び法人(小規模事業者の相互扶助のための共同経営体である事業協同組合を含む。)は、東日本等3会社のいずれかとコーポレート契約を締結(以下、コーポレート契約を締結した個人及び法人を「契約者」という。)することで、高速道路6会社が実施する大口・多頻度割引を受けることができる。高速道路の通行料金の月間利用額に応じて受ける大口・多頻度割引の最大割引率は、それぞれ東日本等3会社が50%(うち車両単位割引40%、契約単位割引10%)、本四会社が13.8%、首都会社及び阪神会社が30%(うち車両単位割引20%、契約単位割引10%)となっている。そして、高速道路6会社が割引を行った額は、表1のとおり、平成26年度計2940億5968万余円(割引対象額計7658億4783万余円)、27年度計2987億4280万余円(割引対象額計7911億0449万余円)となっている。なお、契約者のうち高速道路6会社から割引を受けていた契約者の数は、28年3月利用分で延べ11,999者(うち事業協同組合数は3,068組合であり、その組合に加入する組合員の数は約18万者)となっている。
表1 高速道路会社別大口・多頻度割引額
会社名 | 平成26年度 | 27年度 | ||
---|---|---|---|---|
割引対象額 | 割引額 | 割引対象額 | 割引額 | |
東会社 | 140,141 | 59,247 | 143,481 | 59,984 |
中会社 | 227,362 | 97,107 | 227,190 | 96,158 |
西会社 | 252,712 | 109,493 | 262,308 | 111,875 |
本四会社 | 19,739 | 1,465 | 20,954 | 1,551 |
首都会社 | 79,866 | 17,397 | 86,330 | 18,807 |
阪神会社 | 46,024 | 9,348 | 50,839 | 10,364 |
計 | 765,847 | 294,059 | 791,104 | 298,742 |
高速道路6会社は、図1のとおり、高速道路の構造を保全し又は交通の危険を防止するために、交通管理部門において、道路法(昭和27年法律第180号)第47条第2項の規定に違反して総重量等が車両制限令(昭和36年政令第265号)で定める最高限度を超えて通行している車両又は同法第47条の2第1項の規定に基づき道路管理者から車両の通行の許可を受けた条件に違反して通行している車両(以下、これらの法令を「道路法令」といい、両違反を「道路法令違反」といい、また、両車両を「法令違反車両」という。)について、道路整備特別措置法(昭和31年法律第7号)に基づき道路管理者の権限を代行する機構からの要請により法令違反車両の通行の禁止又は制限のために必要な措置等を講じている。
そして、高速道路6会社は、高速道路株式会社法(平成16年法律第99号)等に基づき、現地取締りとして、検問を実施し、総重量等が車両制限令に規定する最高限度を超える車両等を通行させるなどしていた者のうち、違反の程度が道路法第47条の4の規定による行政処分(以下「措置命令」という。)の発出基準(以下「措置命令発出基準」という。)に該当する者に対して発出された措置命令書を交付して、法令違反車両を高速道路の外に退出させるなどの措置を執ったり、措置命令発出基準未満の道路法令違反に該当する者に対して発出された指導警告書を交付したりしている。また、自動軸重計(注)による取締りとして、車両の軸重が車両制限令に規定する最高限度を超える違反を繰り返すなどしていた者に対して発出された警告書等の文書を送付するなどしている。
高速道路の通行者の中には、コーポレートカードを使用して大口・多頻度割引の利益を享受する一方で、道路法令違反により道路橋等の構造物の劣化、重大事故等を引き起こすなどして高速道路6会社に対して劣化対策及び安全対策に係る費用負担を増大させるなどの不利益を与えている者(以下「道路法令違反者」という。)が多数存在している。
このことから、東日本等3会社は、道路構造物の保全、道路法令違反の抑止及び安全走行の啓発を目的として、利用約款に加え、割引停止及び利用停止の措置(以下「割引停止措置等」という。)の適用要件及び方法を具体的に定めたマニュアルを作成し、交通管理部門及び料金徴収部門が連携して割引停止措置等を実施することとしてきた。そして、「高速道路を中心とした「道路を賢く使う取組」」(平成27年7月30日付け国土交通省社会資本整備審議会道路分科会国土幹線道路部会中間答申)を踏まえ、高速道路6会社は、28年4月、東日本等3会社が管理する高速道路における措置命令発出基準に該当する道路法令違反者に対してのみ実施してきた割引停止措置等について、車両の軸重が車両制限令に規定する最高限度を超えるなどの違反(以下「軸重超過等の違反」という。)等を除き、新たに、本四等3会社が管理する高速道路における措置命令発出基準に該当する道路法令違反(軸重超過等の違反等を除く。)に対しても同年10月から割引停止措置等を実施することとした。そして、東日本等3会社において利用約款を改正し、また、本四等3会社において各会社の営業規則を改正するとともに新たに東日本等3会社のマニュアルに準じたマニュアルを作成して、高速道路6会社が割引停止措置等について統一的な運用を実施している。
図1 道路法令違反に係る業務の概要
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
国土交通省社会資本整備審議会道路分科会は、26年4月の建議において、重量制限を超過する大型車を通行させる者に対する取締り及び指導について、関係機関との連携等により一層強化を図ることを提言している。また、同審議会及び同省交通政策審議会は、27年12月の答申において、全交通の0.3%の重量超過車両が、道路橋の劣化に与える影響の約9割を占めていて道路劣化の主要因とされており、過積載(事業用自動車の最大積載量を超える積載)等の違反者に対しては、自動軸重計による自動取締りについて真に実効性を上げる取組みの強化、法令違反車両への高速道路における割引停止措置等の統一化等の更なる厳罰化を行い、過積載撲滅に向けた取組みを速やかに強化すべきであるなどとしている。
そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、高速道路6会社が管理する高速道路の構造を保全し又は交通の危険を防止するなどのため、割引停止措置等が道路法令違反者に対する違反の抑止等に寄与するよう適切に実施されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、東会社の本社及び北海道支社、中会社の本社及び名古屋支社、西会社の本社及び中国支社並びに本四会社、首都会社及び阪神会社の各本社において、また、東日本等3会社の他の支社については各本社において、26、27両年度の高速道路事業の料金収入に係る大口・多頻度割引を対象として、料金徴収部門及び交通管理部門において情報システムにより出力される利用明細書、違反車両指導取締データ一覧表等の帳票等の関係資料の提出を受けるなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
高速道路6会社が管理する高速道路には、26年度以降、年間2億6000万台を超える大型車(特大車を含む。以下同じ。)が通行している。高速道路6会社は、表2のとおり、全通行車両のうち大型車を中心に道路法令違反のおそれがある車両を対象として、交通管理部門において26、27両年度に現地取締りとして検問をそれぞれ7,892回及び7,830回実施し、それぞれ5,537者(うち契約者であることが把握された者1,664者)及び6,059者(同2,001者)に対して、措置命令書を交付したり、それぞれ3,721者及び3,332者に対して、指導警告書を交付したり、自動軸重計による取締りを実施して、効率的に道路法令違反を捕捉し、それぞれ181,661件及び150,986件の道路法令違反のうち、繰り返し違反するなどしていた者10,908者及び6,008者に対して警告書等の文書を送付したりなどしていた。
表2 高速道路会社別取締状況
年度 | 会社名 | 現地取締り | 自動軸重計による取締り | ||||||
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検問回数 | 検問台数 | 措置命令書交付件数 | 指導警告書交付件数 | 通行台数 | 軸重超過台数 | 警告書等文書送付件数 | |||
うち契約者数 | |||||||||
(回) | (台) | (者) | (者) | (者) | (台) | (台) | (者) | ||
平成 26 |
東会社 | 1,528 | 12,958 | 1,636 | 512 | 704 | 取締り未実施 | ― | ― |
中会社 | 1,002 | 13,990 | 1,955 | 611 | 1,078 | 取締り未実施 | ― | ― | |
西会社 | 1,801 | 8,096 | 1,203 | 541 | 699 | 取締り未実施 | ― | ― | |
本四会社 | 20 | 223 | 5 | 未把握 | 21 | 1,577,538 | 1,876 | 122 | |
首都会社 | 694 | 1,256 | 424 | 未把握 | 365 | 34,380,883 | 176,355 | 10,315 | |
阪神会社 | 2,847 | 1,297 | 314 | 未把握 | 854 | 15,623,507 | 3,430 | 471 | |
計 | 7,892 | 37,820 | 5,537 | 1,664 | 3,721 | 51,581,928 | 181,661 | 10,908 | |
27 | 東会社 | 1,532 | 13,163 | 1,805 | 607 | 770 | 777,500 | 注(2) 358 | 53 |
中会社 | 1,003 | 17,018 | 2,023 | 730 | 1,206 | 4,860,669 | 125 | 11 | |
西会社 | 1,687 | 7,312 | 1,199 | 664 | 687 | 取締り未実施 | ― | ― | |
本四会社 | 99 | 991 | 79 | 未把握 | 160 | 2,575,239 | 2,844 | 84 | |
首都会社 | 708 | 1,030 | 371 | 未把握 | 101 | 34,285,468 | 145,011 | 5,459 | |
阪神会社 | 2,801 | 1,217 | 582 | 未把握 | 408 | 15,147,440 | 2,648 | 401 | |
計 | 7,830 | 40,731 | 6,059 | 2,001 | 3,332 | 57,646,316 | 150,986 | 6,008 |
しかし、上記のように道路法令違反者が多数に上っている状況にもかかわらず、東日本等3会社が、料金徴収部門において、利用約款及びマニュアルに基づく割引停止措置等を実施した件数は、表3のとおり、26、27両年度で計5件(いずれも停止期間は1か月)に留まっていた。
マニュアルによれば、東日本等3会社は、措置命令書が交付された総重量等の違反の程度に応じて違反点数を3点~30点とし、四半期(例えば1月~3月)の違反点数の累計が30点以上となった場合、道路法令違反者に対して、その翌四半期(同4月~6月)に交通管理部門から警告文書を交付することとされている。そして、警告文書を交付する四半期に再度、道路法令違反があっても当該四半期の違反点数が考慮されず、更にその翌四半期(同7月~9月)の違反点数の累計が再び30点以上となった場合に、その翌四半期(同10月~12月)に料金徴収部門から警告文書を送付するとともに割引停止を決定し、更にその翌四半期初日(同翌年1月1日)に至って割引停止の措置が実施されることとなっていることから、図2のような場合には、最初の違反から割引停止の措置が実施されるまでに1年程度が経過していることになる。また、割引停止の措置を実施するまでの間においては、措置命令発出基準に該当する道路法令違反が繰り返されていても、3月、6月、9月又は12月の各四半期末の違反点数の累計は、翌四半期に繰り越すこととはなっていないため、道路法令違反について道路法の罰則規定に基づき有罪の刑が確定しない限り、月間利用額に応じて割引が適用されることになる。
図2 違反点数の付与・累計方法及び割引停止の措置
また、道路法令違反のうち、①軸重超過等の違反及び②措置命令発出基準未満の違反については、措置命令書発出の対象となっておらず、いずれも違反点数が付されないこととなっているため、これらの違反が繰り返されたり、軸重超過等の違反が措置命令発出基準に該当したりしていても、道路法令違反者に対して割引停止措置等が実施されることはない。
そして、法令違反車両についてコーポレートカードの利用による通行かどうかの確認は、措置命令書が交付された違反についてのみ行われていて、上記①及び②の違反については、道路法令違反者に係る違反状況の把握に必要な情報が情報システムに入力されておらず、コーポレートカードの利用情報を処理する情報システムと法令違反情報を処理する情報システムとの連携が十分に図られていない状況となっていた。
また、措置命令書が交付された総重量等の違反において、四半期の違反点数の累計が3月、6月、9月又は12月の各四半期末において累計30点未満の道路法令違反者については、違反履歴情報及び割引適用情報が情報システムに入力されていたものの、警告文書発出の対象となっていないことから、各会社間及び各部門間において情報の共有を行う体制が十分なものとなっていなかった。そのため、四半期の違反点数の累計が30点未満の道路法令違反者に対する割引適用状況が28年9月まで各会社間及び各部門間において十分把握されていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
機構及び中会社は、運送会社A(登録台数約70台)が、平成27年5月に大型トレーラー(車種は特大車)に鋼材等のスクラップを積載し、中会社が管理する高速道路を、車両制限令で定められた最高限度25tを大きく超過する車両総重量51tで通行していたことから、極めて悪質な道路法令違反であるとして、措置命令書を交付するとともに、道路法第104条第1項及び同法第107条の規定に該当するものとして、違反した区域を管轄する県警察本部高速道路交通警察隊に対して告発を行った。また、運送会社Aは、告発後も東会社及び中会社が管理する高速道路において道路法令違反を繰り返し、28年3月までに措置命令を計5件受け、その違反点数の累計が54点(各四半期の累計は、18点、0点、23点、13点)となっていた。一方、西会社は、運送会社Aが組合員として加入している事業協同組合Bとコーポレート契約を締結して、大口・多頻度割引を行っていたが、各四半期において違反点数の累計が30点に満たず、また、有罪の刑が確定していないとして、運送会社Aの告発の理由となった道路法令違反の翌月(27年6月)後も割引停止措置等を実施しておらず、同月からの1年間で事業協同組合Bに対して行った大口・多頻度割引(車両単位割引)の額は、東日本等3会社計23,088,270円となっていた。
このような状況の下で、前記のとおり、高速道路6会社は、軸重超過等の違反等を除き措置命令書発出の対象となる違反及び道路法令違反による有罪の刑が確定した違反については、28年10月から、道路法令違反者に対する割引停止措置等について統一的な運用を実施することとして、利用約款及び営業規則の改正を行ったり、また、高速道路6会社の各部門の担当者による割引停止措置等に係る協議及び情報共有を随時行ったりしている。しかし、近年の大型車交通の増加による道路構造物の劣化が顕在化していることを踏まえると、社会情勢の変化等に応じて、道路法令違反者に対する違反の抑止等についての実効性をより高めるため、割引停止措置等の適用要件等について、前記①及び②のような違反を繰り返したり、マニュアルによる違反点数の付与・累計方法では30点未満となる違反を繰り返したりする道路法令違反者に対しても割引停止措置等が実施されるよう、利用約款、営業規則、マニュアル等(以下「マニュアル等」という。)の関連規定の見直しを高速道路6会社が一体となって取り組む必要があると認められる。
(改善を必要とする事態)
マニュアル等について、道路法令違反者に対する割引停止措置等の適用要件等が道路構造物の保全、道路法令違反の抑止及び安全走行の啓発に十分実効性のあるものとはなっていないと認められ、高速道路6会社が、コーポレートカードを使用して大口・多頻度割引の利益を享受する道路法令違反者から道路構造物の劣化等の不利益を受け続けていたり、道路法令違反者に係る割引適用状況に係る情報の共有が各会社間及び各部門間で十分に図られていなかったりしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
高速道路における法令違反車両の通行は、道路橋等の構造物に損傷を与え、その繰り返しによって道路構造物の劣化が進み大規模な修繕等の必要が現に生じており、また、交通の安全性が阻害され、車両の横転等による重大事故を招くおそれもある。
ついては、道路法令に違反して車両を走行させている契約者に対する大口・多頻度割引制度における割引停止措置等が道路構造物の保全、道路法令違反の抑止等について更に実効性のあるものとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。