本院は、郵政総合情報通信ネットワーク(PNET:Postal advanced NETwork system。以下「PNET」という。)における無線LANサービス及びリモートアクセスサービス(以下、これらを合わせて「新サービス」という。)の利用について、平成28年10月28日に、日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)及び日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。また、以下、これらを合わせて「両会社」という。)のそれぞれの取締役兼代表執行役社長又は代表取締役社長に対して、「郵政総合情報通信ネットワークにおける新サービスの利用について」として、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を要求した。
これらの処置要求の内容は、両会社のそれぞれの検査結果に応じたものとなっているが、これらを総括的に示すと以下のとおりである。
両会社は、それぞれの本社、日本郵便の支社、郵便局等の各拠点(以下、これらの拠点を「局所」という。)に配備されたパーソナルコンピュータ(以下「PC」という。)等の各種端末機と、各種業務を行うシステムセンター等との間の通信に、PNETを利用している。
PNETは、昭和62年にサービスが開始されており、現在の5次PNETからは日本郵政の情報システム系の子会社である日本郵政インフォメーションテクノロジー株式会社(以下「システム会社」という。)が運営等を行っている。
そして、システム会社は、5次PNETにおいて、①LANケーブルが配線されていない会議室等においてPCの利用を可能にする無線LANサービスや、②局所外からインターネット等を通じて5次PNETに安全に接続するリモートアクセスサービスを、オプションサービスとして新たに提供している。
また、5次PNETに接続するPCのうち、両会社、株式会社ゆうちょ銀行及び株式会社かんぽ生命保険(以下、これらの会社を総称して「日本郵政グループ」という。)が、人事関係システム等の日本郵政グループの共同利用システムを利用するためのPC(以下「共用PC」という。)については、定期保守のために、電源切断時に、5次PNETにLANケーブルで接続(以下「有線接続」という。)した状態にすることになっている。
なお、日本郵政グループは、平成30年12月で契約満了となる5次PNETの後継PNETについて、28年4月から開発に向けた検討を開始している。
無線LANサービスは、共用PCを5次PNETに無線で接続(以下「無線接続」という。)することにより、LANケーブルが配線されていなくても共用PCの利用を可能にするサービスである。システム会社は、無線接続のアンテナとなるアクセスポイント(以下「AP」という。)に接続する共用PCの単位時間当たり情報転送量(以下「単位転送量」という。)の最大値を2.55メガビット/秒と設定するなどし、必要な台数のAPを設置するなどして、同サービスを提供している。
そして、無線接続は、通信の速度、安定性等の通信品質が周囲の電波環境や機器の設定に依存することなどから、同サービスの導入に当たっては、まず一部の部署に試行的に導入した上で通信品質や利用状況の確認・評価を行い、その結果に基づき、APの移設、増設、各種設定情報の変更等の調整作業(以下、これらの作業を「評価・調整作業」という。)を実施するなどして、導入拡大に向けてシステムの可用性(注)の検証等を行うのが一般的である。さらに、同サービスの導入後においても、ネットワーク全体の最適化を図るために、一定期間は必要に応じて評価・調整作業を実施するのが一般的である。
なお、共用PCとAPとの間では、無線接続を維持するために少量の情報が自動的かつ頻繁に送受信されており、共用PCは、LANケーブルを取り外した際、瞬時に有線接続から無線接続に切り替わるよう設定されている。
リモートアクセスサービスは、局所外からインターネット等を通じて5次PNETに安全に接続できる仕組みを提供することにより、社内システムの電子メールの送受信、サーバ等に保存された資料の閲覧を可能にするサービスである。システム会社は、両会社から申込みのあった利用者数分の利用権を両会社に供与することにより同サービスを提供している。
そして、同サービスの導入に当たっては、多様な端末機と接続回線の組合せ(以下「接続形態」という。)による利用が想定されることから、業務における利用状況を模擬してセキュリティや利便性の検証を行い、あらかじめ接続形態等の問題点について対策を執るのが一般的である。
両会社は、24年10月に、職場環境変革の基盤として無線LANサービスが、また、働き方の多様化、出社困難時への対応等のための基盤としてリモートアクセスサービスが、それぞれ必要であると判断し、新サービスを導入することを決定した。
このうち無線LANサービスについて、両会社は、両会社の本社及び日本郵便の全支社においては当初から本格的に導入し、郵便局においては一部の郵便局で試行的に導入することを決定し、システム会社と25年5月に「情報通信システムサービス[PNETサービス]利用契約」(契約期間は25年5月から30年12月まで。以下「利用契約」という。)を締結して、26年10月から同サービスの提供を受けている。そして、27年度末現在、両会社の全局所のうち、両会社の本社並びに日本郵便の13支社及び試行導入とした125郵便局の計140局所に、日本郵政計84台、日本郵便計1,728台、両会社合計1,812台のAPが設置されており、両会社の本社及び日本郵便の支社の全役員室及び事務室並びに郵便局の一部の事務室(以下、これらを合わせて「事務室等」という。)、郵便局以外の局所の会議室等で同サービスを利用できるようになっている。
また、リモートアクセスサービスについて、利用契約に基づき、両会社は27年4月から、利用者の申込みに応じて速やかに同サービスの提供が受けられるよう、日本郵政は100人分、日本郵便は900人分、両会社計1,000人分の利用権を確保している。
両会社は、新サービスの利用料金として、無線LANサービスについては設置したAPの台数に応じて、また、リモートアクセスサービスについては確保した利用権の数に応じて、26、27両年度に日本郵政は1064万余円、日本郵便は3億3290万余円、両会社計3億4355万余円をシステム会社に支払っている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
両会社は、前記のとおり、職場環境変革及び働き方の多様化、出社困難時への対応等のための基盤として新サービスを導入しており、また、27年4月に発表された日本郵政グループ中期経営計画において、新サービスの利用によりペーパーレス化、ワークスタイルの改革等による業務効率・業務品質の向上を図ることとされている。
そこで、本院は、有効性等の観点から、新サービスが有効利用されているかなどに着眼して、両会社の利用契約を対象として、両会社の本社において契約書等の書類を確認するとともに、無線LANサービスに係る全APの接続情報や、リモートアクセスサービスの利用情報を分析するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
27年度末において140局所に設置されたAP1,812台の設置状況は、表1のとおり、事務室等に1,474台(日本郵政57台、日本郵便1,417台)、会議室等に338台(同27台、同311台)となっていた。
表1 APの設置状況
会社 | 組織 | 設置局所数 | 設置台数(単位:台) | ||
---|---|---|---|---|---|
事務室等 | 会議室等 | 計 | |||
日本郵政 | 本社 | 1 | 57 | 27 | 84 |
日本郵便 | 本社 | 1 | 171 | 42 | 213 |
支社 | 13 | 606 | 269 | 875 | |
郵便局 | 125 | 640 | 0 | 640 | |
計 | 139 | 1,417 | 311 | 1,728 | |
両会社合計 | 140 | 1,474 | 338 | 1,812 |
そして、事務室等にはAPが設置される以前からLANケーブルが配線されており、共用PCは有線接続と無線接続の両方が利用可能となっていた。
このような場合、共用PCは、転送速度が高速な有線接続を自動選択するように初期設定されているため、無線LANサービスは事務処理等のデータの送受信には利用されないことになる。
そこで、事務室等に設置されたAP1,474台の28年7月の会計実地検査時(5日間)における共用PCとの接続状況についてみたところ、表2のとおり、当該期間に1回以上接続があったAPは1,386台、これらと共用PCとの接続回数は計129,764回となっていたが、このうち、1回の接続の開始から終了までの単位転送量が1キロビット/秒以下で、無線接続を維持するために少量の情報を通信する接続(以下「少量通信」という。)は110,505回となっていて、全接続回数の85.1%と大半を占めていた。
表2 事務室等のAPと共用PCの接続状況
会社 | 組織 | 1回以上接続あり | 接続なし | |||
---|---|---|---|---|---|---|
台数 | 全接続回数 | 少量通信の回数 | 台数 | |||
(A) | (B) | (B/A) | ||||
日本郵政 | 本社 | 55 | 4,979 | 3,895 | 78.2% | 2 |
日本郵便 | 本社 | 161 | 17,593 | 12,529 | 71.2% | 10 |
支社 | 564 | 60,430 | 53,476 | 88.4% | 42 | |
郵便局 | 606 | 46,762 | 40,605 | 86.8% | 34 | |
計 | 1,331 | 124,785 | 106,610 | 85.4% | 86 | |
両会社合計 | 1,386 | 129,764 | 110,505 | 85.1% | 88 |
このように、有線接続と重複して事務室等に設置されたAP1,474台による無線LANサービスは有効利用されていない状況となっていた。
アの状況を踏まえて、無線LANサービスの導入に係る状況をみたところ、両会社は、両会社の本社及び日本郵便の支社については、前記のとおり、本格的な同サービスの導入を決定していて、評価・調整作業を実施しながら段階的に拡大することとせずに、当初から全ての事務室等、会議室等にAPを設置させていた。また、日本郵便は、試行的に導入した郵便局については、試行導入の実施期間、試行中に検証すべき事項等を定めておらず、評価・調整作業も実施していなかった。さらに、無線LANサービスの導入後においても、両会社は設置されたAPについて評価・調整作業を実施していなかった。その結果、有線接続とするのが適当である箇所に設置されたAPの移設等が行われておらず、ネットワーク全体の最適化が図られていない状況となっていた。
リモートアクセスサービスの利用状況についてみたところ、日本郵政は、100人分の利用権のうち、最大で28人分の利用権を27年6月から12か月間、ネットワークの新たな利用手法の評価・検証のために利用していたものの、同サービスの導入目的に沿った利用状況としては、同年9月以降に最大5人が利用登録したのみで、28年1月以降に同サービスを利用したのは1人のみとなっていた。
また、日本郵便は、27年に、郵便業務で利用するPCとインターネットという接続形態で、局所外での営業活動に利用することを計画した際、この接続形態ではセキュリティ上の問題が見受けられたと判断して利用を断念していた。そして、その時点で見受けられた運用上の問題点の検証及び同サービスを利用できるようにするための対策を執っていなかったため、28年7月まで利用登録を行った者はなく、900人分の利用権が全く利用されていない状況となっていた。
両会社における新サービスの周知状況についてみたところ、社内のポータルサイトに取扱説明書及び各種手続を掲載し、このことを社内に対して指示文書として通知したのみとなっていて、共用PCの利用者に対して、ペーパーレス化、ワークスタイルの改革等の事例、方法等の紹介及び両会社の業務における利用方法等を周知していないなど、利用啓発についての取組等が28年7月まで全く行われていない状況となっていた。
(1)から(3)までのことから、両会社に設置されたAP1,812台のうち、会議室等に設置されたAP338台を除き、事務室等において有線接続と重複しているAP日本郵政57台、日本郵便1,417台、両会社計1,474台による無線LANサービス及び日本郵政100人分、日本郵便900人分、両会社計1,000人分のリモートアクセスサービスは有効利用されていなかった。
そして、これらに係る利用料金は、表3のとおり、日本郵政870万余円、日本郵便2億8071万余円、両会社計2億8941万余円となっていた。
表3 有効利用されていなかった新サービスの利用料金
会社 | 無線LANサービス リモートアクセス | サービス | 新サービス計 |
---|---|---|---|
日本郵政 | 4,102 | 4,601 | 8,704 |
日本郵便 | 237,779 | 42,936 | 280,715 |
計 | 241,882 | 47,537 | 289,419 |
(是正改善を必要とする事態)
両会社において、無線LANサービス及びリモートアクセスサービスが有効利用されていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められる。
両会社は、前記のとおり、IT基盤の開発及び運営を促進し、ペーパーレス化、ワークスタイルの改革等の取組により業務効率・業務品質の向上を図ることとしているほか、後継PNETの開発等、今後のIT基盤の検討を実施している。
ついては、両会社において、新サービスを有効利用することにより、上記の取組に資するとともに、今後のIT基盤の開発及び運営に反映することができるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。