国立研究開発法人防災科学技術研究所(平成27年3月31日以前は独立行政法人防災科学技術研究所。以下「研究所」という。)は、国立研究開発法人防災科学技術研究所法(平成11年法律第174号。27年3月31日以前は独立行政法人防災科学技術研究所法)に基づき、防災科学技術に関する基礎研究、基盤的研究開発等の業務を行っている。また、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(27年3月31日以前は独立行政法人宇宙航空研究開発機構。以下「機構」という。)は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構法(平成14年法律第161号。27年3月31日以前は独立行政法人宇宙航空研究開発機構法)に基づき、宇宙科学技術及び航空科学技術に関する基礎研究、宇宙及び航空に関する基盤的研究開発等の業務を行っている。そして、両法人において当該業務に従事する職員は、研究の必要に応じて国内外の学術雑誌に掲載されている学術論文を参照して、研究開発等に利用している。
これらの学術雑誌は紙媒体の冊子として販売されているほか、発行元である出版社のデータベースに保存された電子媒体により提供されており、出版社と購読契約を締結して所定の購読料金を支払うなどして利用できるようになっている。
両法人は、オランダ王国の出版社のエルゼビア・ビー・ブイ(以下「エルゼビア社」という。)との間で、26、27両年度に電子媒体で提供される学術雑誌(以下「電子ジャーナル」という。)の購読契約を随意契約により締結しており、契約金額は研究所においては26年度1072万余円、27年度1149万余円、計2221万余円、機構においては26年度1232万余円、27年度1259万余円、計2491万余円となっている。これらの契約は、エルゼビア社が提供する電子ジャーナルのうち、研究所においては25タイトル、機構においては36タイトルの電子ジャーナルを対象として、契約締結年の4月から翌年の3月までの間に、両法人に所属する職員が、両法人の図書館等に設置された端末からエルゼビア社のデータベースにアクセスして、電子ジャーナルに掲載されている学術論文をダウンロードして利用できる権利を取得するものである。そして、両法人は、学術論文のダウンロード数(以下「DL数」という。)にかかわらず、電子ジャーナルごとに定められた定額の年間購読料を支払うこととなっている(以下、このような契約を「年間購読契約」という。)。なお、学術論文の毎月のDL数は、電子ジャーナルごとに、原則として、利用した月の翌々月に両法人の図書館等に設置された端末で把握できるようになっている。
エルゼビア社は、年間購読契約を締結している利用者に対して、年間購読契約の対象としていない電子ジャーナルに掲載されている学術論文についても、学術論文をダウンロードする都度、課金されるペイ・パー・ビュー方式(以下「PPV方式」という。)により、ダウンロードして利用できることとしている。PPV方式は、エルゼビア社が毎年定める単価(以下「PPV単価」という。)に、学術論文のダウンロード予定回数を乗じて算定した料金を事前にエルゼビア社に支払うことなどにより利用することができ、ダウンロードする都度、事前に支払った料金からPPV単価の金額が差し引かれることとなっている。そして、学術論文をダウンロードする回数が増加し、事前に支払った料金の残高が年度途中に不足した場合には、料金を追加して支払うことにより、PPV方式による利用を継続することができることとなっている。なお、PPV方式による利用実績は、両法人の図書館等に設置された端末で把握できるようになっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、両法人における電子ジャーナルの年間購読契約は利用の実態に応じた経済的なものとなっているかなどに着眼して、26、27両年度の年間購読契約を対象として、両法人において、契約書や利用状況に関する資料等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
両法人は、26、27両年度の契約を更新する際に、25タイトル又は36タイトルの電子ジャーナルを全て年間購読契約の対象として選定しており、電子ジャーナルごとの年間購読料は研究所においては10万余円から109万余円まで、機構においては1万余円から148万余円まで、年間DL数は研究所においては利用実績のないものから978回まで、機構においては2回から2,077回までとなっていた。
そこで、上記の年間購読契約の対象とされている電子ジャーナルごとの年間購読料を、両法人が26、27両年度の年間購読契約の締結に向けて当該契約の更新を検討していた時点で判明していた過去1年間のDL数でそれぞれ除して、1ダウンロード当たりの費用を算出し、PPV単価が当該費用を下回っていて、PPV方式とする方が年間購読契約とするよりも経済的になる電子ジャーナルを選定したところ、研究所においては26年度21タイトル、27年度22タイトル、機構においては26年度17タイトル、27年度13タイトルとなっていた。
このように、利用実績が少ない電子ジャーナルがあるのに、過去の利用実績を参考にするなどして、利用見込みに応じてPPV方式を利用する電子ジャーナルを選定しておらず、利用している全ての電子ジャーナルを年間購読契約の対象としていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた購読料金の支払額)
両法人において、前記の利用実績が少ない電子ジャーナルを年間購読契約の対象とせず、当該電子ジャーナルに係る過去1年間のDL数分の料金を事前に支払ってPPV方式を利用したとすれば、26、27両年度の実際の年間DL数を満たすために不足する料金を追加して支払うことなどを考慮しても、購読料金は、研究所においては26年度計470万余円、27年度計659万余円、合計1130万余円となり、購読料金を26年度601万余円、27年度489万余円、計1091万余円節減できたと認められた。また、機構においては26年度計805万余円、27年度計643万余円、合計1449万余円となり、購読料金を26年度426万余円、27年度615万余円、計1042万余円節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、両法人において、電子ジャーナルの購読契約の内容についての理解が十分でなく、PPV方式を利用するなどして、電子ジャーナルの購読契約をより経済的なものとするための検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、両法人は、28年8月に関係部署に通知文書を発して、毎年度の電子ジャーナルの購読契約を締結するに当たり、過去の利用実績を参考にするなどして、利用見込みに応じてPPV方式を利用する電子ジャーナルを選定することにより、購読料金の節減を図る処置を講じた。