独立行政法人国際協力機構(平成15年9月30日以前は国際協力事業団。以下「機構」という。)は、過去に実施した無償資金協力、技術協力等により供与した資機材や施設の機能が、予期せぬ自然災害や財政上の理由による維持管理等の不備等で損なわれ、供与先の自助努力では対応できない場合に、比較的少額の追加投入を機動的に行うことにより、その機能回復を支援する協力(以下「フォローアップ協力」という。)を実施している。
我が国は、ミャンマー連邦(23年3月30日以降はミャンマー連邦共和国。以下「ミャンマー」という。)において、2年に無償資金協力「原種貯蔵センター建設計画」により、種子の保存等のためにミャンマー農業研究局内に原種貯蔵センター(以下「シードバンク」という。)を建設し、また、9年度から14年度までの間に技術協力「シードバンク計画」により、種子を低温・低湿状態で保存するなどの管理システムを構築した。シードバンクにおける種子の保存のためには、空調機、除湿機等により低温・低湿状態を維持しなければならないが、シードバンク計画の実施後、ミャンマー政府の財政上の理由により、維持管理を十分に行うことができなかったことなどにより多くの資機材が故障するなどしており、適切な種子の保存が困難となっていた。そして、機構は、ミャンマー政府から要請を受けて、両計画に対してフォローアップ協力を実施することとし、機構ミャンマー事務所(以下「ミャンマー事務所」という。)において20年度から22年度までの間に、資機材を計169,232米ドル(邦貨換算額15,518,728円)で調達してシードバンクに供与していた。
機構在外事務所における資機材の調達に係る契約等の手続は、独立行政法人国際協力機構会計規程(平成18年規程(経)第3号)、会計細則(平成18年細則(経)第5号)等に基づき、次のとおり行うこととなっている。
① 機構在外事務所で契約をする場合は、機構在外事務所の長が契約担当役の職務を行う。そして、契約担当役は、随意契約による場合、なるべく2者以上から見積書を徴し、また、契約の締結の際、原則として、件名、品名、契約金額等の必要な事項を記載した契約書を作成する。
② 契約担当役は、自ら又は補助者に命じて契約の履行により受ける給付の完了の確認をするため、必要な検査を行う。また、契約担当役は、検査を行うべき場所が遠隔地であることなどの理由により検査を職員以外の者に委託することができる(以下、当該検査をする者を「立会検査員」という。)。
③ 出納命令役として指定された機構在外事務所の次長は、その根拠となる支出等の内容を調査した上で支払の決定を行い、現金出納役として指定された職員に対し支払の命令を行う。
機構は、前記のとおり、ミャンマー政府から要請を受けてフォローアップ協力を実施することとしており、シードバンクにおいて種子の保存のために低湿状態を維持する必要があることから、ミャンマー事務所は、ミャンマー農業研究局と協議した上で、ミャンマー国内で調達が可能な小型除湿機11台をシードバンクに供与することを決定していた。そして、ミャンマー事務所は、22年2月に、3者から見積書を徴した上で、同年3月に、Europ Continents Co., Ltd.(以下「EC社」という。)と、契約金額29,205米ドル(邦貨換算額2,606,567円)で、随意契約により契約を締結していた。また、給付の完了の確認について、ミャンマー事務所は、検査を行うべき場所が遠隔地であることから、同年2月に、ミャンマー農業研究局の職員に立会検査員の職務を委託し、同職員が同年3月に検査を完了した後、ミャンマー事務所は、契約金額と同額をEC社に支払っていた。
本院は、合規性等の観点から、本件フォローアップ協力における資機材の調達に係る契約が適正に行われているかなどに着眼して、本件契約を対象として、機構本部及びミャンマー事務所において、見積書、契約書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、外務省及び機構の職員の立会いの下にミャンマー政府及びシードバンクの協力が得られた範囲内で、シードバンクの職員等から供与した資機材の稼働状況の説明を受けるなどして現地調査を実施した。
検査及び現地調査を実施したところ、シードバンクに供与することとした除湿機の調達について、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
EC社から提出された見積書には、表題に「Dehumidifier Quotation」(除湿機の見積り)と記載されている一方で、その内訳明細書には、「Large Capacity Console Humidifier with Air Filter」(空気ろ過器付き大容量床上式加湿機)という品名や加湿機の型番が記載されるなどしていた。しかし、ミャンマー事務所は、内訳明細書の内容を十分に確認しないまま、当該見積書の価格と他の2者が提出した除湿機に係る見積書の価格とを比較して、見積書の価格が最も低かったEC社を契約の相手方としていた。そして、ミャンマー事務所の契約担当役は、本来、除湿機の調達を行わなければならないのに、誤って、EC社から提出された見積書を基に、加湿機の品名や型番が記載された契約書に署名して、11台の加湿機の調達に係る契約をEC社との間で締結していた。
ミャンマー事務所の出納命令役は、立会検査員による検査が完了した後、支払の決定を行っていたが、支出決議書の件名が除湿機の購入となっている一方で、同決議書の添付書類である納品書及び請求書の品名が加湿機となっており、除湿機ではなく加湿機が納入されていたにもかかわらず、このことを十分に調査しないまま、現金出納役に対し支払の命令を行っていた。
このとおり、ミャンマー事務所は、本件フォローアップ協力の実施に当たり、除湿機を調達すべきであったのに、誤って、加湿機を調達しており、その支払額29,205米ドル(邦貨換算額2,606,567円)が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、ミャンマー事務所において、本件フォローアップ協力において調達すべき資機材について、契約等の手続の各段階における確認が十分でなかったことなどによると認められる。