【意見を表示したものの全文】
技術協力における研修員受入事業の実施について
(平成28年10月28日付け 独立行政法人国際協力機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
貴機構は、開発途上にある海外の地域(以下「開発途上地域」という。)における制度構築、組織強化、人材育成等を通じ、開発途上地域が諸開発課題に主体的に取り組む総合的かつ内発的な能力の開発を支援することを目的として、条約その他の国際約束に基づき、開発途上地域からの技術研修員に対する技術の研修(以下「研修員受入事業」という。)、開発途上地域に対する人員の派遣、機材の供与等の技術協力を実施しており、このうち研修員受入事業は、開発途上地域から教育、保健医療、水資源・防災等各分野の開発の中核を担う人材を技術研修員として我が国に招き、それぞれの国が必要とする知識や技術に関する研修(以下「本邦研修」という。)等を実施するものである。そして、本邦研修は、我が国が課題を開発途上地域の政府(以下「途上国政府」という。)に提案して途上国政府の要請を得て実施する課題別研修、途上国政府の個別の具体的な要請に基づいて実施する国別研修及び青年層を対象として我が国の技術等に関し基礎的な研修を実施する青年研修の三つの研修で構成されている。
課題別研修は、貴機構が定めた「技術協力事業実施要綱」(平成16年規程(企)第7号。以下「要綱」という。)等によれば、おおむね次の手順で行うこととされている(図参照)。
貴機構本部並びに課題別研修の実施機関である貴機構の各国際センター及び各支部(以下、単に「国際センター」という。)は、新たに開始する研修、これまで実施してきた内容を見直して継続する研修等の実施に関する企画・立案(以下「研修の企画・立案」という。)を行う。外務本省は、途上国政府に対して行った要望調査等の結果を踏まえて実施する研修を最終的に決定して、途上国政府に対して通知する。国際センターは、途上国政府から推薦された候補者の審査を行い、技術研修員として参加する者を選定する。
貴機構は、国際センターを拠点に、全国の公的機関、地方公共団体、民間企業、NGO等様々な団体(以下「研修受託機関」という。)に委託するなどして、おおむね40日の期間で研修を実施する。そして、技術研修員は、研修で学んだ知識、技術、技能及び経験(以下、これらを合わせて「知識等」という。)を基に、開発途上地域が抱える課題解決のための活動計画案を作成して、研修の最後に発表する。
帰国した技術研修員(以下「帰国研修員」という。)は、研修コースごとに定めた募集要項において帰国後の活動内容を記載した最終報告書の提出が必要とされている場合は、最終報告書を作成して、研修終了後おおむね3か月から6か月後までに国際センターや研修受託機関等(以下、これらを合わせて「国際センター等」という。)に提出する。
図 課題別研修の実施手続
貴機構は、課題別研修のうち課題解決の促進や人材育成の普及を目的とするような研修については、技術研修員は、単に課題別研修を我が国で受講して知識等を得るだけでなく、帰国後、開発の中核を担う人材として、研修で学んだ知識等を所属組織の関係者と共有するとともに、研修中に作成した活動計画案を所属組織の承認を受けて完成させ、所属組織と当該活動計画を実施することにより、研修効果が幅広く発現することになるとしている。
そして、国際センターは、募集要項に基づき、帰国研修員に対して、課題別研修で学んだ知識等を所属組織においてどのように共有したか、活動計画をどのように実施したかなどの活動内容を最終報告書に記載して報告させることとしている。このため、国際センターは、研修効果が発現しているかを十分に把握するためには、帰国研修員から最終報告書を確実に提出させることが必要となっている。
さらに、最終報告書には、活動計画を実施する上で障害や困難となった点、最終的に活動計画の実現に至らなかった理由、所属組織からの意見等も記載されるなどしており、これらの内容から得られる教訓等は、研修の評価、今後の研修の企画・立案等に活用できるものとなっている。
研修員受入事業は、前記目的のほか、幅広い分野での実施により、日本型技術の習得を通じた我が国への理解促進、親日家の育成等にも大きな役割を果たすことも期待されている。
そのため、帰国研修員は、開発途上地域の開発の中核を担う人材として活動するだけでなく、本邦研修での経験等をいかし、我が国との交流活動において中心的な役割を果たすことが期待されることから、帰国研修員の現況を的確に把握することは今後、我が国が開発途上地域への開発協力を推進していく上で重要となっている。そして、貴機構本部は、技術研修員が受講した研修内容、来日時点における所属組織等の情報を、貴機構本部のデータベースで管理している。貴機構在外事務所及び支所(以下「在外事務所等」という。)は、それらの情報から帰国研修員の名簿を作成することができるが、帰国研修員が、帰国後どの組織に所属し、どのような職務に就いているかなどを継続して把握するためには、当該名簿の内容を定期的に更新して管理する必要がある(以下、在外事務所等が定期的に更新して管理する帰国研修員の名簿を「研修員名簿」という。)。また、在外事務所等は、同窓会(本邦研修に参加した技術研修員が帰国後に任意で組織する団体で、セミナー等を通じて帰国研修員同士の交流を図るもの)の名簿(以下「同窓会名簿」という。)を活用することなどにより帰国研修員の現況を把握することができる。
貴機構は、要綱に基づき、技術研修員に対して、研修のために要する渡航費等の経費を手当として支給することとなっており、また、研修の実施を研修受託機関に委託する場合等は当該委託に係る経費(以下「研修実施経費」という。)等を研修受託機関等に支払うこととなっている。そして、平成22年度から26年度までの間に実施された本邦研修に参加した技術研修員計51,306人に対して支払われた手当、研修実施経費等の額は計738億8526万余円となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、帰国研修員の研修効果の発現状況を把握するため、貴機構は帰国研修員から最終報告書を確実に提出させているかなどに着眼して、5国際センター(注1)において、24年度から26年度までの間に実施された課題別研修を対象として、帰国研修員の最終報告書の提出状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。また、貴機構は、帰国研修員が開発途上地域における開発の中核を担う人材となっているかなどの現況を的確に把握しているかなどに着眼して、7在外事務所等(注2)において、22年度から26年度までの間に実施された本邦研修を対象として、研修員名簿等による帰国研修員の現況把握の方法等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
5国際センターにおいて24年度から26年度までの間に実施された課題別研修920コース(参加した技術研修員計9,922人、研修実施経費計46億0448万余円)のうち、横浜、九州両国際センターの24年度分及び沖縄国際センターの24年度分から26年度分までの計205コース(参加した技術研修員2,021人)については最終報告書が廃棄されていて、本院は、その提出状況を確認できなかった。そして、残りの715コース(同7,901人)のうち、国際センター等に最終報告書を提出することとなっている469コースに参加した技術研修員5,162人(研修実施経費計17億3654万余円)についてみたところ、表1のとおり、最終報告書を提出していたのは743人に過ぎず、全体の8割強を占める4,419人(研修実施経費相当額計13億8580万余円)は最終報告書を提出していなかった。
また、最終報告書を提出していた743人の最終報告書の記載内容についてみたところ、46人の帰国研修員の最終報告書は、本邦研修への感謝の言葉や「最終報告書を作成中」等が記載されているメールをもって最終報告書としているなど、研修で学んだ知識等の所属組織における共有の状況、活動計画の実施状況等の帰国後の活動内容がほとんど記載されておらず、記載内容が十分でないと認められた。
上記のように最終報告書を提出していないなど、帰国後の活動状況を確認できない帰国研修員は計4,465人(同計14億0061万余円)となっており、これらの帰国研修員については、研修で学んだ知識等が所属組織と共有されているか、活動計画が組織として実施されているかなど研修効果が発現しているか把握できない状況となっていた。
表1 最終報告書の提出状況及び帰国後の活動状況を確認できない帰国研修員
国際センター名 | 区分 | 最終報告書を提出することとなっている研修に参加した帰国研修員 | 最終報告書を提出していた帰国研修員(A) | 最終報告書を提出していない帰国研修員(C) | 帰国後の活動状況を確認できない帰国研修員(B)+(C) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
うち最終報告書の記載内容が十分でないと認められる帰国研修員(B) | うち最終報告書が全く提出されていない研修 | ||||||
東京 | 帰国研修員数 | 2,030 | 292 | 13 | 1,738 | 1,367 | 1,751 |
研修コース数 | 180 | 58 | 7 | 176 | 122 | 176 | |
横 浜 | 帰国研修員数 | 477 | 214 | 4 | 263 | 100 | 267 |
研修コース数 | 43 | 32 | 3 | 39 | 11 | 40 | |
関 西 | 帰国研修員数 | 2,028 | 203 | 29 | 1,825 | 1,579 | 1,854 |
研修コース数 | 183 | 40 | 11 | 178 | 143 | 178 | |
九 州 | 帰国研修員数 | 627 | 34 | 0 | 593 | 513 | 593 |
研修コース数 | 63 | 11 | 0 | 63 | 52 | 63 | |
計 | 帰国研修員数 | 5,162 | 743 | 46 | 4,419 | 3,559 | 4,465 |
研修コース数 | 469 | 141 | 21 | 456 | 328 | 457 |
また、最終報告書は、国際センター等に提出されることにより、研修の評価、今後の研修の企画・立案等に活用できるが、最終報告書が全く提出されていない研修は、表1のとおり、328コース(参加した帰国研修員3,559人)となっていて、これらの研修については、最終報告書から得られる情報がないことから、当該研修の評価、今後の研修の企画・立案等に活用できない状況となっていた。
そして、貴機構本部は、最終報告書の提出の重要性については十分認識しているとしているものの、国際センター等における最終報告書の提出状況については把握していなかった。
最終報告書の提出を確実に行わせるためには、最終報告書の提出状況について管理簿等を作成して適切に管理し、また、未提出となっている帰国研修員に対して督促を行う必要があり、これらの管理及び督促は、最終報告書の提出先である国際センター等が行うことになっている。
しかし、最終報告書を提出することとなっている469コースについてみると、表2のとおり、181コース(38.5%)では管理及び督促のいずれも行われておらず、123コース(26.2%)では管理又は督促のいずれか一方しか行われていない状況となっていた。
また、最終報告書の提出の割合をみると、管理及び督促を行っていない研修では4.8%であるのに対して、管理及び督促を行っている研修では41.2%と大幅に高くなっていた。
そして、貴機構本部は、国際センターに対して最終報告書の管理及び督促の具体的な方法を指示していなかった。
表2 最終報告書の管理及び督促の状況等
区分 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
最終報告書を提出することとなっている研修 | 管理簿等を作成して管理及び督促を行っている研修 | 管理又は督促のいずれかしか行っていない研修 | 管理及び督促を行っていない研修 | 管理及び督促を行っていたか不明な研修 | ||
研修コース数 | 469コース | 56コース | 123コース | 181コース | 109コース | |
(11.9%) | (26.2%) | (38.5%) | (23.2%) | |||
帰国研修員 数(A) | 5,162人 | 648人 | 1,370人 | 1,994人 | 1,150人 | |
最終報告書を提出していた帰国研修員数(B)
((B)/(A)) |
743人 | 267人 | 187人 | 97人 | 192人 | |
(14.3%) | (41.2%) | (13.6%) | (4.8%) | (16.6%) | ||
最終報告書を提出していない帰国研修員数(C)
((C)/(A)) |
4,419人 | 381人 | 1,183人 | 1,897人 | 958人 | |
(85.6%) | (58.7%) | (86.3%) | (95.1%) | (83.3%) |
<事例>
関西国際センターにおいて実施した平成26年度課題別研修「幹線道路の維持管理(A)」(研修実施経費3,177,489円)に参加した技術研修員9人は、平成26年7月に来日して同研修を受講し、活動計画案を作成するなどして同年8月に帰国した。同研修の募集要項によれば、帰国研修員は、27年2月までに同国際センターに最終報告書を提出することとされていたが、提出期限までに最終報告書を提出した帰国研修員は全くいなかった。その後、同国際センターは、これらの帰国研修員に対して最終報告書の提出の督促を行っておらず、最終報告書の提出期限から1年以上が経過した28年5月の本院会計実地検査時においても、最終報告書は提出されていなかった。
技術研修員については、前記のとおり、帰国後、開発途上地域の開発の中核を担う人材として活動しているかなどの現況を的確に把握することが重要である。
しかし、7在外事務所等(22年度から26年度までの間に実施された本邦研修に当該在外事務所等が所在する国から参加した技術研修員6,820人、これらの技術研修員に支払われた手当、研修実施経費等、計77億2452万余円)のうち、インドネシア、ミャンマー、セネガル及びベナンの4在外事務所等においては、研修員名簿を作成して、メール等により帰国研修員の所属組織等を確認し更新していたものの、帰国研修員の人数が多いため、確認を十分に行うことができなかったことなどから研修員名簿だけでは現況把握が困難な研修員も多く見受けられた。そして、これらの帰国研修員の現況把握については、同窓会名簿を入手していなかったり、入手していても活用を図っていなかったりしていて、十分に行われていなかった(表3参照)。
また、タイ、メキシコ両事務所においては、研修員名簿を作成しておらず、同窓会名簿の活用等により帰国研修員の現況を把握しているとしていたが、それだけでは十分な把握が困難となるなどしていたり、パラグアイ事務所においては、研修員名簿の作成や同窓会名簿の入手をすることなく、必要に応じて同窓会に問い合わせているだけであったりしていて、帰国研修員の現況把握が十分に行われていなかった(表3参照)。
このように、在外事務所等は、帰国研修員が開発途上地域における開発の中核を担う人材となっているかなどを的確に把握できない状況となっていた。
そして、貴機構本部は、在外事務所等に対して帰国研修員の現況把握の具体的な方法を指示していなかった。
表3 帰国研修員の現況把握の状況
研修員名簿を作成している在外事務所等 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
在外事務所等名 | 帰国研修員総数(平成22年度~26年度) | 同窓会名簿の入手の有無 | 研修員名簿により現況把握が可能な帰国研修員数 | 研修員名簿により現況把握が困難な帰国研修員数 | 同窓会名簿の活用状況 | 備考 |
インドネシア | 2,528人 | 無 | 1,529人 | 999人 | ― | |
ミャンマー | 1,819人 | 無 | 381人 | 1,438人 | ― | 必要に応じて同窓会に問い合わせている。 |
セネガル | 468人 | 無 | 364人 | 104人 | ― | |
ベナン | 160人 | 有 | 108人 | 52人 | 同窓会名簿を入手しているが、活用はしていない。 |
|
タイ | 2,010人 | 有 | ― | ― | 活用している。 |
注(2) |
メキシコ | 241人 | 有 | 134人 | 107人 | 活用している。 |
注(3) |
(573人) | ||||||
パラグアイ | 335人 | 無 | ― | ― | ― |
必要に応じて同窓会に問い合わせている。 |
(改善を必要とする事態)
帰国研修員から最終報告書が提出されていなかったり、記載内容が十分でなかったりなどしていて、国際センターにおいて、当該帰国研修員に係る研修効果が発現しているかを把握できておらず、また、最終報告書を研修の評価や研修の企画・立案等に活用できていない状況となっているなどの事態及び在外事務所等において、帰国研修員が開発途上地域における開発の中核を担う人材となっているかなどを的確に把握できない状況となっている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構において、次のことなどによると認められる。
我が国が技術協力の一環として実施している研修員受入事業は、開発途上地域が自らの課題解決能力を向上させるなどのために、今後も引き続き実施され、これに係る研修実施経費等の額は多額に上ると見込まれる。
ついては、貴機構において、研修員受入事業の効果の発現状況等を的確に把握等するよう、次のとおり意見を表示する。