【改善の処置を要求したものの全文】
高放射性廃液の保管に係る核燃料等取扱税について
(平成28年10月28日付け 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴機構は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構法(平成16年法律第155号)等に基づき、原子力に関する基礎的研究等の事業を行っており、これらの事業の一環として、貴機構の研究開発に係る各種業務を実施している東海拠点において、原子力発電所等において使用済みとなった核物質燃料(以下「使用済核燃料」という。)をせん断、溶解するなどして、ウラン、プルトニウム、高レベルの放射性液体廃棄物(以下「高放射性廃液」という。)等に分離する処理(以下「再処理」という。)を行っている。そして、昭和52年度から平成19年度までに再処理した使用済核燃料は約1,140t、これにより発生した高放射性廃液は約1,260m3となっている。
貴機構は、高放射性廃液を化学的に安定していて取扱いが容易なものにするために、ガラス原料と溶かし合わせて固化させ、ガラス固化体にする処理(以下「ガラス固化処理」という。)を行っており、6年度から19年度までにガラス固化処理を行った高放射性廃液は約870m3となっている。
また、貴機構は、19年に発生した新潟県中越沖地震等を契機として施設の耐震性向上工事を実施したことなどにより、再処理については20年度から現在まで、ガラス固化処理については20年度から26年度まで行っていない。そして、貴機構は、保管している高放射性廃液について、ガラス固化施設が再稼働した27年度から20年程度かけてガラス固化処理を行うこととしている。
貴機構にとって、再処理事業は、施設の建設・運転を通じて再処理技術を確立するという研究開発的性格と、我が国の再処理需要の一部を賄い、その受託役務収入により企業的経営を図るという性格とを併せ持つものである。
貴機構は、前記使用済核燃料約1,140tのうちの約1,020tについては、昭和52年度から平成6年度までの間に貴機構が8電気事業者(注1)と締結した再処理に係る役務契約に基づき、昭和52年度から平成17年度までの間に、電気事業者から使用済核燃料を受け入れてその全量を再処理しており、これにより発生した電気事業者由来の高放射性廃液は約1,130m3となっている。そして、貴機構は、このうちの約780m3について、6年度及び19年度に8電気事業者と締結したガラス固化処理に係る役務契約に基づき、6年度から19年度までの間にガラス固化処理を行っていることから、電気事業者由来の高放射性廃液は、再処理及びガラス固化処理のいずれも行っていない20年度から26年度までの間、約350m3となっている。
貴機構は、再処理事業者等として、ガラス固化体及び高放射性廃液の保管等に当たって、茨城県核燃料等取扱税条例に基づき、核燃料等取扱税を茨城県に納付している。核燃料等取扱税は、原子力施設の立地に伴い生ずる安全対策等の財政需要に対応するために、11年に、ガラス固化体の保管等について、地方税法(昭和25年法律第226号)に基づき、法定外普通税として創設されたものであり、納税義務者は再処理事業者等とされている。そして、高放射性廃液の保管については、同条例が20年に改定され、21年度から、課税されることとなった。ガラス固化体及び高放射性廃液の保管に係る核燃料等取扱税額は、いずれも4月1日から翌年3月31日を課税期間とし、当該期間に属する各月末日において保管する数量の平均(以下「課税標準量」という。)に、保管を開始した時期に応じて定められたそれぞれの税率を乗ずるなどして算定されることとなっており、再処理事業者は、その額を翌年度に申告して納付することとなっている。
そして、貴機構が22年度から27年度までの間に茨城県に納付した核燃料等取扱税額は、ガラス固化体の保管に係るもの計11億7093万余円、高放射性廃液の保管に係るもの計17億2090万余円、合計28億9184万余円となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴機構が納付したガラス固化体及び高放射性廃液の保管に係る核燃料等取扱税は、上記のとおり、22年度から27年度までの間で計28億9184万余円と多額に上っており、今後も長期間にわたり核燃料等取扱税を納付することになると見込まれる。一方で、貴機構が保管しているガラス固化体及び高放射性廃液のうち、その多くは、電気事業者由来のものとなっている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、核燃料等取扱税に係る負担が適切なものとなっているかなどに着眼して、前記の核燃料等取扱税額計28億9184万余円を対象として、貴機構本部及び東海拠点において、納税申告書、再処理に係る役務契約の契約書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴機構は、高放射性廃液の保管に係る核燃料等取扱税17億2090万余円について、高放射性廃液が電気事業者由来のものであるか否かにかかわらず、その全額を自らが負担していて、電気事業者に負担を求めていなかった。
一方、ガラス固化体の保管に係る核燃料等取扱税の負担の状況についてみると、貴機構は、19年度に8電気事業者と締結したガラス固化処理に係る役務契約に基づき、電気事業者由来のガラス固化体の保管に係る核燃料等取扱税相当分の負担を電気事業者に求めており、負担の状況が異なるものとなっていた。
しかし、①電気事業者由来の高放射性廃液は、再処理に係る役務契約に基づき、電気事業者から受け入れた使用済核燃料を再処理したことにより発生したものであること、②再処理に係る役務契約の締結時には、高放射性廃液の保管に対して課税されることは想定されておらず、新たに発生した事象であること、③貴機構が行う再処理事業は、その受託役務収入により企業的経営を図るという性格を持つことなどを考慮すると、高放射性廃液の保管に係る核燃料等取扱税の負担の在り方について、電気事業者と協議を行うなどして応分の負担を求める措置を講ずる必要があると認められる。
そこで、本院において、前記電気事業者由来の高放射性廃液約350m3の保管に係る核燃料等取扱税相当額を、各年度の課税標準量相当分(351.0m3から369.8m3まで)(注2)を基に試算すると、表のとおり、22年度から27年度までの間で計15億3969万余円となる。
表 電気事業者由来の高放射性廃液の保管に係る課税標準量相当分及び核燃料等取扱税相当額(平成22年度~27年度)
納付年度 | 課税期間 | 課税標準量相当分(m3) | 核燃料等取扱税相当額 |
---|---|---|---|
平成 22 |
平成
21年4月1日から22年3月31日まで |
353.3 | 2億4080万余円 |
23 | 22年4月1日から23年3月31日まで |
351.0 | 2億3930万余円 |
24 | 23年4月1日から24年3月31日まで |
351.9 | 2億3985万余円 |
25 | 24年4月1日から25年3月31日まで |
351.5 | 2億3959万余円 |
26 | 25年4月1日から26年3月31日まで |
369.8 | 2億5163万余円 |
27 | 26年4月1日から27年3月31日まで |
369.2 | 3億2849万余円 |
計 | 15億3969万余円 |
(改善を必要とする事態)
高放射性廃液の保管に係る核燃料等取扱税の負担の在り方について、電気事業者と協議等を行わないまま、貴機構がその全額を負担している事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構において、高放射性廃液の保管に係る核燃料等取扱税について電気事業者に応分の負担を求める必要性を十分に検討していないことなどによると認められる。
貴機構は、ガラス固化施設の再稼働により、高放射性廃液の保管量は減少していくとしているが、ガラス固化処理の処理期間を勘案すると、今後も長期間にわたり高放射性廃液を保管することが見込まれる。
ついては、貴機構において、高放射性廃液の保管に係る核燃料等取扱税の負担の在り方について、電気事業者と協議を行うなどして応分の負担を求めるよう、改善の処置を要求する。