エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「NTTコム」という。)は、法人又は個人に対してデータ通信サービスを提供しており、近年におけるデータ通信量の急激な増加に対応するために、平成25年度から回線の大容量化等を目的とした100ギガビット/秒対応の通信装置による次世代統合基盤網(以下「次世代基盤網」という。)の運用を開始している。次世代基盤網は、NTTコムの通信装置等が設置されたビル(以下「通信ビル」という。)間等でデータを伝送する通信装置(以下「次世代基盤網通信装置」という。)等で構成されている。
次世代基盤網通信装置は、ラック(以下「架」という。)に収容され、全国の通信ビルの通信機械室に設置されており、データ通信量の増加に応じてインターフェースカード(以下「IF」という。)を段階的に追加して搭載する仕様となっていて、IFの数に応じて発熱量が増加するものとなっている。そして、次世代基盤網通信装置を安定的に運用するためには、通信機械室内の冷却対策を行う必要がある。
NTTコムにおいて、通信装置の調達及び設置に係る業務は、カスタマサービス部サービスオペレーション部門(26年7月31日以前はサービス基盤部ネットワーク設備部門。以下「NW部門」という。)が所掌し、通信装置を冷却するための空調設備の調達及び設置に係る業務は、サービス基盤部基盤設備部門(以下「基盤部門」という。)が所掌している。そして、通信装置の導入に当たり、NW部門が、通信ビルごとの架の数及び導入時期を示した計画(以下「通信装置導入計画」という。)を策定し、NW部門からの依頼を受けた基盤部門が、空調設備の調達及び設置を行う計画(以下「空調設備設置計画」という。)を策定している。
基盤部門は、空調設備設置計画の策定に当たって、基盤部門で制定しているクラウド基盤基本計画書(平成24年制定。以下「基盤計画書」という。)に基づき、通信機械室内全体を冷却する空調機(以下「室内空調機」という。)を設置することとし、さらに、通信装置1架当たりの最大発熱量が6kW以上となる場合には、室内空調機に加えて架と架の間に当該通信装置を局所的に冷却する空調機(以下「架間空調機」という。)を設置することとしている。
そして、基盤部門は、A社と契約を締結して、次世代基盤網通信装置のために架間空調機101台及び室内空調機2台を調達し、4会社と通信ビルごとに契約を締結して、26年5月から同年7月までの間に全国25か所の通信ビルに当該架間空調機等を設置しており、これらの調達及び設置に係る支払金額は、計10億1285万余円となっている。基盤部門は、これとは別に、A社と契約を締結して、次世代基盤網以外の通信装置のために、架間空調機32台及び室内空調機11台を調達し、3会社と通信ビルごとに契約を締結して、26年7月から27年7月までの間に全国11か所の通信ビルに当該架間空調機等を設置しており、これらの調達及び設置に係る支払金額は、計5億7651万余円となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、空調設備の調達台数が適切に算定され、適時適切に設置されているか、有効に活用されているかなどに着眼して、上記の架間空調機101台及び32台の計133台並びに室内空調機2台及び11台の計13台に係る契約を対象として、NTTコム本社において、契約書類等を確認したり、架間空調機が設置されている通信ビルに赴いて現場の状況を確認したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、架間空調機の調達及び設置について、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
NW部門は、25年5月29日に、28年3月末までに次世代基盤網通信装置を導入する通信装置導入計画を策定して、基盤部門に対して通信ビルごとの架の数及びIFが最大数搭載された場合の1架当たりの最大発熱量(次世代基盤網通信装置の種類により10kWから16kW)を通知し、空調設備設置計画の策定並びに空調設備の調達及び設置を依頼していた。そして、これを受けた基盤部門は、空調設備設置計画を策定し、架間空調機の必要台数を計201台と算定して、その全台数を25年10月11日までにA社に発注していた。
しかし、空調設備設置計画の策定に当たっては、次世代基盤網通信装置がデータ通信量の増加に応じてIFを段階的に追加して搭載する仕様となっていることから実際に搭載するIFの数に応じた1架当たりの発熱量の予測値に基づき検討すべきであったのに、基盤計画書においてIFの数に応じた1架当たりの発熱量を考慮することが明記されていなかったことなどにより、NW部門は、発熱量の予測値を算定しておらず、基盤部門は、IFが最大数搭載された場合の1架当たりの最大発熱量が架間空調機の設置基準である6kW以上であることをもって架間空調機の設置が必要と判断していた。
その後、NW部門が、実際に搭載するIFの数に応じた1架当たりの発熱量の予測値を算定した結果、26年度末までは最大でも4kWしかないことなどから、同年11月15日に基盤部門に対して、空調設備設置計画の再検討を依頼した。そして、NW部門からの依頼を受けて、基盤部門は、架間空調機201台全数について26年度末までは設置の必要はないと判断して、A社に対して発注の取消しの申入れを行ったものの、既に製造が始まっていたことなどから201台全てを取り消すことができず、同年12月17日に、当面使用する見込みがないまま、調達台数を101台とすることを決定していた。
基盤部門は、NW部門から依頼を受けて、25年12月17日及び26年12月9日に、次世代基盤網通信装置のための架間空調機と同一の仕様の架間空調機の必要台数をそれぞれ29台及び3台の計32台とする次世代基盤網以外の通信装置のための空調設備設置計画を策定し、調達及び設置を決定していた。
しかし、次世代基盤網通信装置及び次世代基盤網以外の通信装置に係る空調設備設置計画の策定並びに架間空調機の調達及び設置は、同じ基盤部門が行っていること、上記の架間空調機計32台の調達を決定した25年12月17日及び26年12月9日については、NW部門が基盤部門に対して次世代基盤網通信装置に係る空調設備設置計画の再検討を依頼した25年11月15日から1か月以上が経過していることなどから、前記の次世代基盤網通信装置のために調達を決定した架間空調機101台の中から活用することができたと認められたのに、基盤部門は、活用することを検討しないまま別途に32台の調達及び設置を行っていた。
一方、基盤部門は、30年度までの次世代基盤網通信装置のデータ通信量及び実際に搭載するIFの数に応じた発熱量の予測値に基づき、架間空調機101台の使用開始時期を検討した結果、次世代基盤網通信装置のためには当面全て使用する見込みはないと27年9月に判断し、このうち19台を次世代基盤網以外の通信装置のために活用することを同年12月までに決定していた。
以上の経緯をまとめると、表のとおりである。
表 空調設備設置計画の策定並びに架間空調機の調達及び設置に係る経緯
年月日 | (1) 次世代基盤網通信装置関係 | (2) 次世代基盤網以外の通信装置関係 | ||
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NW部門 | 基盤部門 | NW部門 | 基盤部門 | |
平成25年
5月29日 |
空調設備設置計画の策定並びに空調設備の調達及び設置を依頼 | |||
9月26日 10月11日 |
空調設備設置計画の策定後、架間空調機計201台をA社に発注 | |||
11月15日 | 実際に搭載するIFの数に応じた次世代基盤網通信装置1架当たりの発熱量の予測値を算定した結果を踏まえて、空調設備設置計画の再検討を依頼 | |||
12月5日 | A社に対して、架間空調機201台の発注の取消しを申入れ | |||
12月12日 12月13日 12月16日 |
空調設備設置計画の策定並びに空調設備の調達及び設置を依頼 | |||
12月17日 | 発注を取り消すことができなかった架間空調機101台の調達及び設置を決定 | 空調設備設置計画を策定し、次世代基盤網通信装置のための架間空調機と同一の仕様の架間空調機29台の調達及び設置を決定 | ||
26年
11月27日 |
空調設備設置計画の策定並びに空調設備の調達及び設置を依頼 | |||
12月9日 | 空調設備設置計画を策定し、次世代基盤網通信装置のための架間空調機と同一の仕様の架間空調機3台の調達及び設置を決定 | |||
27年
9月28日 |
架間空調機101台は当面全て使用する見込みはないと判断 | 使用する見込みがない架間空調機16台を活用することを決定 | ||
12月7日 | 使用する見込みがない架間空調機3台を活用することを決定 |
(1)及び(2)のとおり計133台の架間空調機の調達及び設置を行った結果、28年3月末において、次世代基盤網以外の通信装置のために調達及び設置を行った32台並びに活用することを決定した19台を除いた残りの次世代基盤網通信装置のための架間空調機82台(調達及び設置に係る支払金額8億4903万余円)は、設置後約2年が経過しているにもかかわらず、次世代基盤網通信装置の1架当たりの発熱量がいずれも6kWを下回っていることから、設置後全く使用されておらず、今後の次世代基盤網通信装置への使用の見込みが立っていない状況となっていた。また、他用途への活用について必要な情報をNW部門及び基盤部門の両部門間で整理、共有して検討するなどの具体的な体制を整備するまでには至っていない状況となっていた。
このように、NTTコムにおいて、空調設備設置計画が適切に策定されず、当面使用する見込みがないまま次世代基盤網通信装置のための架間空調機の調達及び設置を行ったり、使用されないままとなっている次世代基盤網通信装置のための架間空調機の一部について他用途への活用を検討することなく別途架間空調機を調達したりした結果、多数の架間空調機が使用されないままとなっていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、NW部門及び基盤部門において、次世代基盤網通信装置が搭載するIFの数に応じて発熱量が定まる仕様となっていることを十分考慮する必要性及び使用されないままとなっている架間空調機の他用途への活用を図るための具体的な体制を整備する必要性についての認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、NTTコムは、28年8月に、次のような処置を講じた。
ア 基盤部門において、基盤計画書を改定するなどして、NW部門に対して、IFが最大数搭載された場合の通信装置の最大発熱量だけでなく実際に搭載するIFの数に応じた発熱量の予測値を算定して、基盤部門に通知させるとともに、その算定結果等をNW部門及び基盤部門それぞれの部門内並びに両部門間で確認する体制を整備して、空調設備設置計画の策定に反映し、架間空調機の調達台数を適切に算定するよう周知徹底を図った。
イ 基盤部門において、使用されないままとなっている架間空調機について、保有及び使用の状況をNW部門及び基盤部門の双方で把握して他用途への活用を検討する手順等を明記したマニュアルを整備するなどして、有効な活用を図るための体制を整備した。