我が国の郵政事業は、明治4年に郵便制度が創設され、その後、8年に郵便貯金事業が加わり、さらに、大正5年に簡易生命保険事業が加わるなどして、明治18年から昭和24年までは逓信省により、同年6月から平成13年1月までは郵政省により、同月から15年3月までは郵政事業庁により、国の直営事業として一体として運営されてきた。
国は、郵政事業の実施に当たり、昭和19年に簡易生命保険及郵便年金特別会計(平成3年4月簡易生命保険特別会計に名称変更)、昭和24年6月に郵政事業特別会計、26年4月に郵便貯金特別会計をそれぞれ設置した。
そして、国は、簡易生命保険の加入者福祉施設(以下「かんぽの宿等」という。)の設置及び運営を適切かつ能率的に行うことなどを目的として、37年4月に簡易保険郵便年金福祉事業団(平成3年4月簡易保険福祉事業団に名称変更。以下「簡保事業団」という。)を設立した。
しかし、8年11月に内閣総理大臣を会長とし総理府に設置された行政改革会議において、郵政事業については、国の直営事業を改め「三事業一体として新たな公社」により実施することとされた。これを受けて、中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)に基づき、13年1月に郵政省は自治省及び総務庁とともに総務省に改編され、同省の外局として設置される郵政事業庁が郵政事業の実施に関する機能を担うこととなり、さらに、同庁は、15年中に国営の新たな公社に移行することとなった。
その後、15年4月に日本郵政公社法(平成14年法律第97号)等が施行され、郵政事業庁は同月に日本郵政公社(以下「公社」という。)に移行(以下「公社化」という。)し、公社が郵政事業の実施主体となった。また、公社化に伴い、簡保事業団は廃止され、簡保事業団の資産及び債務は公社に承継された。
さらに、国は、16年9月に「郵政民営化の基本方針」を閣議決定して、17年10月に郵政民営化法(平成17年法律第97号)等が成立し、民営化に向けた準備を行うために、18年1月に日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)が、同年9月に株式会社ゆうちょ(19年10月株式会社ゆうちょ銀行に商号変更。以下「ゆうちょ銀行」という。)及び株式会社かんぽ(19年10月株式会社かんぽ生命保険に商号変更。以下「かんぽ生命」という。以下、ゆうちょ銀行とかんぽ生命を合わせて「金融2社」という。)が設立された。19年10月に公社は解散して、公社の業務その他の機能並びに権利及び義務は、日本郵政、郵便事業株式会社(以下「郵便事業会社」という。)、郵便局株式会社、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命並びに独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構(以下「郵貯簡保機構」という。)が承継している。
24年10月に「郵政民営化法等の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第30号。以下「民営化法改正法」という。)が施行され、郵便局株式会社が日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。)に商号を変更して、郵便事業会社の業務等を合併により承継することとなった。また、民営化法改正法により、郵政民営化法、日本郵政株式会社法(平成17年法律第98号)及び日本郵便株式会社法(平成17年法律第100号)が改正され、郵便の役務、簡易な貯蓄、送金及び債権債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保険の役務が利用者本位の簡便な方法により郵便局で一体的かつあまねく全国において公平に利用できるようにする責務(以下、当該責務として提供される上記の役務を「ユニバーサルサービス」という。)並びにユニバーサルサービスの提供水準が確保されるよう郵便局ネットワークを維持する責務を日本郵政及び日本郵便に課すことが明文で規定された。そして、27年3月末現在、郵便・物流事業、金融窓口事業、銀行業、生命保険業等の業務は、日本郵政を持株会社として、主な事業主体となる日本郵便、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命を含めて子会社26社(うち連結子会社23社)並びに持分法適用関連会社5社、計32社で構成される企業グループ(以下「日本郵政グループ」という。)によって実施されている。
日本郵政グループの26年度における各業務の概要及び26年度末における施設等の設置状況を示すと次のとおりである。
日本郵便は、日本郵便株式会社法等に基づくなどして、①郵便の業務、郵便物の作成等に関する業務等の郵便事業、国内物流事業、国際物流事業等の物流事業等を内容とする郵便・物流事業及び②郵便・物流事業に係る窓口業務、銀行窓口業務、保険窓口業務、物販事業、不動産事業等を内容とする金融窓口事業の業務を行っている。そして、これらの業務を行うために、13支社及び郵便局24,470局を設置するなどしている。
ゆうちょ銀行は、銀行法(昭和56年法律第59号)等に基づき、預金業務(預金業務で提供する商品の名称として「貯金」を用いている。)、地方公共団体等に対する貸出業務、有価証券投資業務、内国及び外国為替業務、国債、投資信託等の窓口販売等を行っている。そして、これらの業務を行うために、13エリア本部、234支店等及び66貯金事務センター等を設置している。
かんぽ生命は、保険業法(平成7年法律第105号)等に基づき、生命保険の募集、引受け、保険金の支払等の業務、有価証券の売買等の業務等を行っている。そして、これらの業務を行うために、13エリア本部、79支店及び7サービスセンター等を設置している。
日本郵政及び日本郵便は、前記のとおり、郵政民営化法等により、ユニバーサルサービスの提供責務及びユニバーサルサービスの提供水準が確保されるよう郵便局ネットワークを維持する責務が課されている。そして、ユニバーサルサービスのうち、簡易な貯蓄、送金及び債権債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保険の役務については、日本郵便とゆうちょ銀行及びかんぽ生命の間で締結された委託契約に基づいて、郵便局において提供されている。
日本郵政は、日本郵政株式会社法等に基づき、日本郵便の経営管理及び業務の支援、日本郵政グループの経営戦略の策定のほか、日本郵政グループ各社が個別に実施するよりもグループ内で集約した方が効率的な実施が見込まれる電気通信役務等の提供、人事及び経理に関する業務等の間接業務を子会社等から受託して実施している。
また、上記のほか、同法等に基づいて、公社から承継した14逓信病院を運営する病院事業並びにかんぽの宿等64施設及びメルパルク(注1)11施設を運営するなどする宿泊事業を実施している。
国(財務大臣)は郵政民営化法の施行以降日本郵政の発行済株式の総数を保有し、日本郵政は金融2社の設立以降金融2社の発行済株式の総数(ゆうちょ銀行が保有する自己株式を除く。)を保有していた。当初、郵政民営化法においては、日本郵政の株式については政府の保有割合をできる限り早期に減ずること(ただし、当該株式の政府の保有割合は、常時、3分の1を超えていること)とされ、また、日本郵政が保有する金融2社の株式については29年9月までにその全部を処分することとされていたが、21年12月に成立した「日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律」(平成21年法律第100号。以下「株式処分停止法」という。)により日本郵政及び金融2社の株式の処分等が一時凍結された。しかし、23年3月に発生した東日本大震災後、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号。以下「復興財源確保法」という。)が施行され、国が保有する日本郵政の株式を処分して、その売却収入を復興債の償還費用の財源(以下「復興財源」という。)に充てることとなり、24年5月に民営化法改正法が施行されて株式処分停止法は廃止された。
また、25年1月に、復興庁に設置された内閣総理大臣を議長とする関係閣僚級の組織である復興推進会議において、日本郵政の株式売却収入として見込まれる額(4兆円程度)を復興財源に追加することが決定された。
そして、国は、27年11月4日の日本郵政の株式上場時に、保有する日本郵政の株式45億株のうち4億9500万株を売却した。また、日本郵政は、民営化の推進、東日本大震災からの復興施策に必要な財源の確保への貢献、経営の自由度確保等のために、日本郵政の株式上場に合わせて同日に上場された金融2社の株式について、保有するゆうちょ銀行の株式約37億4947万株のうち約4億1244万株及びかんぽ生命の株式6億株のうち6600万株をそれぞれ売却した。日本郵政の売却株式については国以外の株主が、金融2社の売却株式については日本郵政以外の株主が、それぞれ保有することとなった(以下、日本郵政については国以外の株主を、金融2社については日本郵政以外の株主を「少数株主」という。)。
日本郵政は、民営化後の厳しい経営環境や各種の制度改正を踏まえて、26年2月に、民営化後、初めての中期経営計画となる「日本郵政グループ中期経営計画~新郵政ネットワーク創造プラン2016~」(計画期間は26年度から28年度まで。以下「26年中期計画」という。)を策定して、公表し、27年4月に日本郵政、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命の株式の上場スキームや経営環境の変化等を踏まえて26年中期計画を見直し、「日本郵政グループ中期経営計画~新郵政ネットワーク創造プラン2017~」(計画期間は27年度から29年度まで。以下「27年中期計画」という。)を策定して、公表した。そして、これらの中期経営計画において、収益力及び経営基盤の強化、ユニバーサルサービスの責務の遂行、上場を見据えた日本郵政グループの企業価値の向上等を経営方針として掲げるなどしている。
日本郵政は、日本郵政グループ全体の企業価値の向上のために民営化の際に一括して承継した7000億円弱の整理資源債務(注2)に相当する資金を退職給付信託に拠出することにより同債務をオフバランス化するとともに、日本郵便による郵便・物流ネットワーク再編等のための6000億円の増資を引き受けることを目的として、26年9月に日本郵政が保有するゆうちょ銀行の株式のうち約1兆3000億円に相当する株式をゆうちょ銀行に自己株式として取得させるなど、日本郵政グループ内における資本・資金の移動を行っている。
本院は、郵政事業について、これまで個別の事業の経営等を検査した結果について報告を行ってきたところである。一方、日本郵政グループは、今後の株式売却に向けて日本郵政グループ全体として企業価値を維持向上させることなどにより、復興財源の確保に貢献すること、また、日本郵政及び日本郵便は、情報通信手段の多様化等によって国民の生活様式等が変化する中でユニバーサルサービスを提供すること、郵便局ネットワークを維持することなどが求められている。
そこで、本院は、日本郵政グループの経営状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
本院は、総務本省、財務本省、郵貯簡保機構並びに日本郵政の本社、4逓信病院及び3かんぽの宿等、日本郵便の本社、13支社及び151郵便局、ゆうちょ銀行の本社、13エリア本部、92支店等及び18貯金事務センター等並びにかんぽ生命の本社、13エリア本部、36支店及び7サービスセンター等において会計実地検査を行った。このうち、総務省においては19年度から26年度までの間の日本郵政及び日本郵便のユニバーサルサービスに対する監督の状況等について、財務省においては27年11月に実施された日本郵政の株式売却の実施状況等について説明を聴取するなどして検査した。また、郵貯簡保機構並びに日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命においては、14年度から26年度までの間の郵政事業の業務及び財務の状況等について、財務諸表等のほか、関係法令等に基づいて作成された各種報告書等により、その内容を分析するなどして検査した。
郵政事業の公社化及び民営化に伴って、その運営に係る組織形態、制度等は大きく変遷しており、公社化後は、財政状態及び経営成績をより明らかにするために、企業会計原則による会計処理が導入されるなどしている。また、従業員数は14年度の約27万人から26年度の約22万人にまで減少しているが、郵便局ネットワークの水準を維持することを旨とすることが規定されていることなどから、郵便局数は14年度から19年度までの間に僅かに減少した後、おおむね横ばいで推移しており、26年度には24,470局となっている。
公社の連結決算及び日本郵政グループの連結決算(以下「日本郵政連結決算」という。)における経常収益等の推移をみると、経常利益及び当期純利益については、経常費用の減少等により、民営化後においても黒字基調で推移しているものの、経常収益については減少傾向が続いている。26年度には経常収益が14兆2588億余円、経常費用が13兆1430億余円、経常利益が1兆1158億余円、当期純利益が4826億余円となっている。
そして、総資産当期純利益率(注3)及び自己資本当期純利益率(注4)についてみると、総資産当期純利益率については、民営化後、僅かながら上昇傾向にあるが、自己資本当期純利益率については、公社時代に急激に低下し、民営化後は緩やかな低下傾向にある。
民営化後の当期純利益及び純資産額の推移を見ると、19年度から26年度までの銀行業の額の日本郵政連結決算の額に対する割合が、それぞれ54.2%から76.5%、64.2%から70.3%となっていて、銀行業の業績及び財政状態は長期にわたって日本郵政グループの経営に大きな影響を与えてきた。
また、日本郵政グループ内における取引の状況をみると、日本郵便は、ゆうちょ銀行との間で「銀行代理業に係る業務の委託契約」及び「金融商品仲介業に係る業務の委託契約」(以下、これらを合わせて「代理店契約」という。)を、かんぽ生命との間で「生命保険募集・契約維持管理業務委託契約」(以下「保険募集契約」という。)をそれぞれ締結しており、26年度分として、ゆうちょ銀行から6024億余円、かんぽ生命から3603億余円の手数料の支払を受けているなど、日本郵政グループ内における取引に係る支払額及び受取額は多額に上っている。日本郵政グループ内における取引については、日本郵政が基本方針を定めており、各社の業務の健全かつ適切な遂行に支障を及ぼすことのないよう、アームズ・レングス・ルール(注5)にのっとって公正に行うこととしている。
さらに、日本郵便、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命は、日本郵政に対してそれぞれ配当を行っており、その合計額は、26年度には1195億余円となっている。一方、日本郵政は、26年度に、株主に対する配当として435億円、法人税として2723億余円、計3158億余円を国に支払っており、19年度から26年度までに、配当、法人税等として、合計2兆3194億余円を国に支払っている。
郵便・物流事業では、情報通信手段の多様化等により郵便物の引受物数は長期的に減少傾向にあるものの、宅配便事業及び「ゆうメール」等に係る事業で取り扱う貨物(以下「荷物」という。)の引受物数は増加しており、26年度には、郵便物の引受物数が約181億通、荷物の引受物数が約38億個となっている。損益等の推移をみると、公社は、15年度から18年度までは当期純利益を確保していたが、民営化後、郵便事業会社が宅配便事業を承継させる目的で20年6月に設立したJPエクスプレス株式会社(22年8月解散)の経営状況が悪化したことなどにより、郵便事業会社は21年度から23年度までの間は、当期純損失を計上していた。そして、郵便物の引受物数の減少等により、26年度には、郵便・物流事業で103億余円の営業損失を計上しているが、金融2社からの手数料等が主な収益源である金融窓口事業の209億余円の営業利益等により、日本郵便の連結決算は営業利益が125億余円、経常利益が228億余円、当期純利益が221億余円となっている。
郵便物及び荷物に係る営業収益等の推移をみると、郵便物に係る営業収益及び営業費用は、それぞれ14年度の1兆8832億円、1兆8996億円から26年度の1兆3174億円、1兆3058億円へと減少しており、営業収益及び営業費用の規模が縮小する中、営業損益については、15年度以降、利益の規模は変動しているものの、毎年度、営業利益を計上しており、26年度の営業利益は115億円となっている。一方、荷物に係る営業収益は増加しているものの、営業費用も22年度に急増するなどしており、20年度以降は営業損失を計上していて、26年度には営業収益が4444億円、営業費用が4651億円、営業損失が208億円となっている。このような状況に対して、日本郵便は、25年度から郵便・物流ネットワーク全体の生産性の向上等を図っており、郵便・物流ネットワーク再編に向けた取組を実施している。
金融窓口事業では、代理店契約や保険募集契約等に基づく各種手数料に係る営業収益が減少しているが、近年、物販事業や不動産事業等にも取り組んでおり、連結決算の数値が公表されている25年度及び26年度のこれらの事業に係る「その他の営業収益」(連結決算)は、25年度の1024億余円から26年度には1394億余円へと増加していて、金融窓口事業の営業収益(連結決算)も、25年度の1兆0768億余円から26年度には1兆1023億余円へと増加している。
ゆうちょ銀行には、新規業務の制限、貸出業務の範囲の制限等、他の銀行(注6)にはない規制が課せられている。ゆうちょ銀行(貯金残高及び資金運用については民営化前の特別会計及び公社を含む。以下同じ。)の貯金残高の推移をみると、22年度まで減少傾向にあり、23年度以降は増加に転じたものの、他の銀行の預金残高の推移と比較するとその増加率は小さくなっており、26年度末には177兆7107億余円となっている。ゆうちょ銀行の資金運用の状況をみると、財政投融資改革により資金運用部への預託義務が廃止された13年度以降は全額自主運用になったため、財政融資資金預託金が減少し、また、ゆうちょ銀行は個人及び法人向け貸出業務の範囲が制限されているため、公社時代の16年度以降は、償還される財政融資資金預託金と比べて利回りが低くなっていた国債等の有価証券が運用の中心となった。また、運用資産額については、22年度まで貯金残高が減少していたことなどにより減少していたが、その後、貯金残高の増加等に伴って増加し、26年度末には205兆8654億余円となっている。なお、ゆうちょ銀行は、27年中期計画等において、貯金等の総預かり資産の拡大を目指すとしている。
そして、経常収益等の推移をみると、公社時代は、資金運用収益及び経常収益が大幅に減少し、経常利益及び当期純利益も大幅に減少した。民営化後は、資金運用収益及び経常収益が減少しているものの、営業経費の削減等により経常費用がそれ以上に減少しており、経常利益及び当期純利益はそれぞれ増加する傾向にある。26年度には、資金運用収益が1兆8932億余円、経常収益が2兆0781億余円、経常費用が1兆5086億余円、経常利益が5694億余円、当期純利益が3694億余円となっている。
ゆうちょ銀行と都市銀行(注7)とを26年度の運用資産の構成等について比較すると、ゆうちょ銀行は、個人及び法人向けの貸出業務の範囲が制限されていることなどから、運用資産に占める貸出金の割合が1.3%となっており、都市銀行の48.9%と比較して小さく、また、預貸率(注8)は1.5%となっており、58.6%から75.4%となっている都市銀行と比較して低くなっている。一方、有価証券、特に国債を中心とする資金運用が行われているため、運用資産に占める有価証券の割合が75.8%と都市銀行の25.7%よりも高くなっていて、また、預証率(注9)は87.8%となっており、16.0%から38.9%となっている都市銀行より高くなっている。そして、ゆうちょ銀行では、有価証券利息配当金が資金運用収益の96.4%を占めており主な収益源泉となっている。
そして、ゆうちょ銀行は26年度の資金の運用利回りが0.95%、自己資本当期純利益率が3.2%となっていて、それぞれ0.94%から1.42%、5.8%から11.9%となっている都市銀行と比べておおむね低くなっている。一方、ゆうちょ銀行は、市場の状況を踏まえてリスクの分散・収益源泉の多様化を図るとしているが、運用資産に占める国債の割合が高いことなどにより、銀行の健全性を示す単体自己資本比率(注10)が26年度末には38.4%となっていて、13.1%から18.8%となっている都市銀行と比べて高くなっている。
また、公社化以降は、顧客の満足度を高めるサービスの充実、業務運営の効率化及び経営管理の高度化を図るために、各種の取組が行われている。
かんぽ生命には、新規業務の制限、加入限度額等の他の生命保険会社にはない規制が課せられている。かんぽ生命(保険契約件数及び資産運用については民営化前の特別会計及び公社を含む。以下同じ。)が保有する保険契約件数の推移をみると、長期にわたり減少傾向が続いており、26年度末には、個人保険(民営化前に契約した「保険」も含む。以下同じ。)の保険契約件数は約3348万件、個人年金保険(民営化前に契約した「年金保険」も含む。以下同じ。)の保険契約件数は約426万件となっているが、かんぽ生命は、29年度以降の保険契約件数の底打ち、反転を目指すとしている。生命保険業の経常収益等の推移をみると、経常収益の過半を占める保険料等収入が減少傾向にあったため経常収益は減少しているものの、経常費用も減少するなどしていて、民営化後においても黒字基調で推移しており、26年度には経常収益が10兆1692億余円、経常費用が9兆6766億余円、経常利益が4926億余円、当期純利益が813億余円となっている。そして、かんぽ生命の資産運用の状況をみると、保険料等収入の減少、満期による保険契約の消滅等に伴う責任準備金(注11)の戻入により責任準備金が減少したことに伴って、運用資産額(かんぽ生命を含む生命保険会社については総資産を運用資産とする。以下同じ。)が減少しており、26年度末の責任準備金は75兆1126億余円、運用資産額は84兆9119億余円となっている。運用資産額が減少する中、19年夏に表面化したいわゆるサブプライム・ローン問題に端を発した世界的な金融・経済環境の大幅な悪化を背景として、リスク性資産を圧縮することとしたため、15年度から18年度まで資産運用収益の3割から4割程度を占めていた金銭の信託の運用額が大きく減少したことなどに伴って、資産運用収益も減少しており、26年度の資産運用収益は1兆4607億余円となっている。なお、かんぽ生命は、27年中期計画等において、運用資産の多様化を促進するとしている。
かんぽ生命と他の生命保険会社(注12)及び年金運用機関とを26年度末における運用資産の構成等について比較すると、国内債券については、かんぽ生命では運用資産に占める割合は75.7%となっていて他の生命保険会社及び年金運用機関と比べて高くなっている。一方、国内株式については、かんぽ生命では運用資産に占める割合は1.2%、外国債券及び外国株式等については、同2.7%となっていて、いずれも、他の生命保険会社及び年金運用機関と比べて低くなっている。保険会社の健全性を示すソルベンシー・マージン比率(注13)をみると、かんぽ生命は、危険準備金(注14)が多額であることや運用資産に占める国債の割合が大きい一方、国内株式及び外国株式等の割合が小さいため、資産運用リスクが小さいことなどにより、26年度末には1641.4%となっていて、他の生命保険会社のうち26年度末時点で保有する保険契約件数の多い上位4生命保険会社と比べて高くなっている。
そして、かんぽ生命は、民営化後、顧客のニーズに対応した商品を開発するなどして、新規業務等の申請を行い、認可を受けるなどしている。
総務大臣は、日本郵政及び日本郵便をそれぞれ監督し、業務に関して監督上必要な命令をすることができることとなっており、上記2会社の27年度の事業計画の認可に当たっては、ユニバーサルサービスを確実に提供することなどを要請している。
そして、ユニバーサルサービスの提供水準については、日本郵政公社法施行時の郵便差出箱数(約18万本)を維持すること、郵便物について差し出された日から原則として3日以内に送達すること、過疎地において19年10月から24年9月までは19年10月時点の郵便局ネットワークの水準を、民営化法改正法が施行された24年10月からは同月時点の当該水準を、それぞれ維持することを旨とすることなどが規定されている。ユニバーサルサービスの提供状況をみると、郵便差出箱数は民営化後18万本以上で推移していて26年度末には181,521本となっており、郵便物の送達日数達成率(注15)は、民営化後、公社時代の目標値であった97%以上で推移しており、過疎地における営業中の郵便局数は民営化された19年度末は7,346局、26年度末は7,692局となっているなど、必要なユニバーサルサービスの提供水準はおおむね維持されていると考えられる。
一方、前期のとおり、26年度には、郵便・物流事業で103億余円の営業損失を計上しており、金融窓口事業では209億余円の営業利益を計上しているものの、主な収益源である金融2社からの手数料は減少傾向にある。また、「仮にユニバーサルサービスの提供責務が撤廃され、日本郵便が赤字の集配局エリアのサービスを停止することが可能となった場合に、節約できたであろう費用」(以下「ユニバーサルサービスコスト」という。)について、総務省情報通信審議会による総務大臣への答申における試算によれば、その計算過程や集配局エリア単位での損益については公表されていないものの、郵便の業務が1873億円、銀行窓口業務が575億円、保険窓口業務が183億円となっていて、それぞれ多額に上っている。そして、郵便の業務については、約8割の集配局エリアが赤字となっていて、その赤字を約2割の黒字の集配局エリアの利益によって賄っており、銀行窓口業務及び保険窓口業務については、約4割の集配局エリアが赤字となっていて、その赤字を約6割の黒字の集配局エリアの利益によって賄っているという試算結果が報告されている。また、15年4月の民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)の施行により、信書の送達の事業について民間事業者の全面的な参入が可能となったものの、これまでのところ、信書の大半を占める1通当たり4kg以下等の信書の送達を全国で行う事業は、事実上、日本郵便の独占となっている。
病院事業については、日本郵政が、26年度末現在で14逓信病院を運営しているが、患者数の減少傾向が続いていて、26年度の外来患者数は延べ約82万人、入院患者数は延べ約30万人となっている。そして、毎年度営業損失を計上していて、26年度の営業損失は60億余円となっており、厳しい経営状況となっている。27年4月には3逓信病院を譲渡しており、収益向上等に向けた取組を一層進めることが求められる。
また、宿泊事業については、日本郵政が、26年度末現在でかんぽの宿等64施設及びメルパルク11施設を運営するなどしており、かんぽの宿等については、経営改善のための取組が行われており、23年度以降、宿泊単価が上昇するなどしているものの、宿泊利用人数の減少傾向が続いていて、26年度の宿泊利用人数は約169万人となっている。そして、毎年度営業損失を計上していて、26年度の営業損失は29億余円となっており、厳しい経営状況となっている。26年度にはかんぽの宿等7施設の営業を終了するなどしており、収益向上等に向けた取組を一層進めることが求められる。
国が保有する日本郵政の株式については、復興財源確保法により、その売却収入を復興財源に充てることとなっている。27年11月4日の日本郵政及び日本郵政の資産の大半(26年度末で約9割)を占めていて日本郵政の株式の価値に影響を及ぼす金融2社の株式の上場においては、株式の売出価格は、広範な投資家に対する需要状況の調査を通じて、需要の積上げを行い、その結果に基づいて合理的な価格形成を行うために、ブックビルディング方式(注16)により決定され、いずれの株式も仮条件の上限となる価格を売出価格として売却された。日本郵政、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命のそれぞれの株式の売出価格にそれぞれの売却株式数を乗じた金額から引受手数料を除くなどした金額は6807億余円、5881億余円、1428億余円となっている。
そして、同年12月3日に、日本郵政が、上記の金融2社の株式売却収入を原資として、国が保有する日本郵政の株式のうち3億8290万1700株を7301億余円で国から取得し、国はこの収入から売却手数料788万余円を除いた7301億余円と上記の6807億余円を合わせた1兆4109億余円を、復興財源に充当した。
日本郵政グループは、今後の株式売却に向けて日本郵政グループ全体として企業価値を維持向上させることなどにより、復興財源の確保に貢献すること、また、日本郵政及び日本郵便は、情報通信手段の多様化等によって国民の生活様式等が変化する中でユニバーサルサービスを提供すること、郵便局ネットワークを維持することなどが求められている。
そこで、日本郵政グループの経営状況等について検査したところ、次のような状況となっていた。
郵政事業の公社化及び民営化に伴って、その運営に係る組織形態、制度等は大きく変遷しており、公社化後は、財政状態及び経営成績をより明らかにするために、企業会計原則による会計処理が導入されるなどしている。また、従業員数は減少しているが、郵便局ネットワークの水準を維持することを旨とすることが規定されていることなどから、郵便局数は僅かに減少した後、おおむね横ばいで推移しており、26年度には24,470局となっている。
公社の連結決算及び日本郵政連結決算における経常収益等の推移をみると、経常利益及び当期純利益については、民営化後においても黒字基調で推移しているものの、経常収益については減少傾向が続いている。26年度には経常収益が14兆2588億余円、経常利益が1兆1158億余円、当期純利益が4826億余円となっている。そして、民営化後の当期純利益及び総資産額の推移をみると、銀行業の業績及び財政状態は長期にわたって日本郵政グループの経営に大きな影響を与えてきた。また、日本郵政グループ内における取引に係る支払額及び受取額は多額に上っている。日本郵政グループ内における取引については、日本郵政が基本方針を定めており、各社の業務の健全かつ適切な遂行に支障を及ぼすことのないよう、アームズ・レングス・ルールにのっとって公正に行うこととしている。
郵便・物流事業では、情報通信手段の多様化等により郵便物に係る営業収益及び営業費用の規模が縮小する中、営業損益については、15年度以降、利益の規模は変動しているものの、毎年度、営業利益を計上しており、26年度の営業利益は115億円となっている。一方、荷物に係る営業収益は増加しているものの、営業費用も22年度に急増するなどしており、20年度以降は営業損失を計上していて、26年度には営業損失が208億円となっている。このような状況に対して、日本郵便は、25年度から郵便・物流ネットワーク全体の生産性の向上等を図っており、郵便・物流ネットワーク再編に向けた取組を実施している。
ゆうちょ銀行には、新規業務の制限、貸出業務の範囲の制限等、他の銀行にはない規制が課せられている。ゆうちょ銀行の貯金残高の推移をみると、22年度まで減少傾向にあり、23年度以降は増加に転じ、26年度末には177兆7107億余円となっている。また、運用資産額については、22年度まで預金残高が減少していたことなどにより減少していたが、その後、貯金残高の増加等に伴って増加し、26年度の資金運用収益は1兆8932億余円となっている。
ゆうちょ銀行と都市銀行とを26年度の運用資産の構成等について比較すると、ゆうちょ銀行は、個人及び法人向けの貸出業務の範囲が制限されていることなどから、運用資産に占める貸出金の割合や預貸率は都市銀行と比較して低くなっている。一方、有価証券、特に国債を中心とする資金運用が行われているため、運用資産に占める有価証券の割合や預証率は都市銀行より高くなっていて、有価証券利息配当金が資金運用収益の96.4%を占めており主な収益源泉となっている。
そして、公社化以降は、顧客の満足度を高めるサービスの充実等を図るために各種の取組が行われている。
かんぽ生命には、新規業務の制限、加入限度額等の他の生命保険会社にはない規制が課せられている。かんぽ生命が保有する保険契約件数の推移をみると、長期にわたり減少傾向が続いており、26年度末には、個人保険の保険契約件数は約3348万件、個人年金保険の保険契約件数は約426万件となっている。そして、運用資産額が減少する中、金銭の信託の運用額が大きく減少したことなどに伴って、資産運用収益も減少しており、26年度の資産運用収益は1兆4607億余円となっている。
かんぽ生命と他の生命保険会社及び年金運用機関とを26年度末における運用資産の構成等について比較すると、かんぽ生命では、国内債券については、運用資産に占める割合が、他の生命保険会社及び年金運用機関と比べて高くなっているが、国内株式、外国債券及び外国株式等については、いずれも、同割合が他の生命保険会社及び年金運用機関と比べて低くなっている。
そして、かんぽ生命は、顧客のニーズに対応した商品を開発するなどしている。
日本郵政及び日本郵便に提供責務が課されているユニバーサルサービスの提供状況をみると、郵便差出箱数、郵便物の送達日数達成率、過疎地における営業中の郵便局数等の必要なユニバーサルサービスの提供水準はおおむね維持されていると考えられる。また、ユニバーサルサービスコストについて、総務省情報通信審議会による総務大臣への答申における試算によれば、その計算過程や集配局エリア単位での損益については公表されていないものの、郵便の業務が1873億円、銀行窓口業務が575億円、保険窓口業務が183億円となっていて、それぞれ多額に上っている。
病院事業については、日本郵政が、26年度末現在で14逓信病院を運営しているが、毎年度営業損失を計上していて、26年度の営業損失は60億余円となっており、厳しい経営状況となっている。
また、宿泊事業については、日本郵政が、26年度末現在でかんぽの宿等64施設及びメルパルク11施設を運営するなどしているが、毎年度営業損失を計上していて、26年度の営業損失は29億余円となっており、厳しい経営状況となっている。
国が保有する日本郵政の株式については、復興財源確保法により、その売却収入を復興財源に充てることとなっている。27年11月4日の日本郵政及び日本郵政の資産の大半を占める金融2社の株式の上場においては、ブックビルディング方式により売出価格が決定された。日本郵政、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命のそれぞれの株式の売出価格にそれぞれの売却株式数を乗じた金額から引受手数料を除くなどした金額は6807億余円、5881億余円、1428億余円となっている。
そして、同年12月3日に、日本郵政が、上記の金融2社の株式売却収入を原資として、国が保有する日本郵政の株式のうち3億8290万1700株を7301億余円で国から取得し、国はこの収入から売却手数料788万余円を除いた7301億余円と上記の6807億余円を合わせた1兆4109億余円を、復興財源に充当した。
日本郵政グループは、郵便・物流事業、金融窓口事業、銀行業、生命保険業等の業務を実施している。そして、前記のとおり、日本郵政は、民営化後の厳しい経営環境や各種の制度改正を踏まえて、26年中期計画及び27年中期計画を策定しており、各業務における収益力及び経営基盤の強化、ユニバーサルサービスの責務の遂行、日本郵政グループの企業価値の向上等を経営方針として掲げるなどしている。一方、国が保有する日本郵政の株式の売却収入は復興財源に充当されることとなっており、前記のとおり、日本郵政及び金融2社の株式が上場されたことにより、日本郵政及び金融2社の株式の一部については、それぞれ少数株主が保有することとなった。
ついては、日本郵政グループ及び国において、郵政事業の運営がより効率的、効果的なものとなるよう、また、企業価値を維持向上できるよう、今後、次のような点に留意して取り組む必要がある。
本院としては、日本郵政グループの経営状況等について引き続き注視していくこととする。