会計検査院は、平成24年8月27日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月28日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
東日本大震災からの復興等に対する事業に関する次の各事項
東日本大震災の復旧・復興事業の実施に当たっては、東日本大震災復旧・復興関係経費に係る予算(以下「復旧・復興予算」という。)が、23年度については一般会計の補正予算において、24年度以降については東日本大震災復興特別会計(以下「復興特会」という。)の24年度から27年度までの予算において措置されている。
前記の要請により、本院は、東日本大震災からの復興等に対する事業に関して、合規性、効率性、有効性等の観点から、復旧・復興予算が措置されている16府省庁等(注1)を対象として、①東日本大震災に伴う被災等の状況、②復興等の各種施策及び支援事業の実施状況等について検査を実施し、これまでに、24年10月25日、25年10月31日及び27年3月2日の3回、会計検査院長から参議院議長に対して報告している。
本院は、上記27年の報告において、各府省庁等や「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(平成23年法律第40号)第2条第2項に規定する地方公共団体(以下「特定被災地方公共団体」という。)である青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉、新潟、長野各県並びに特定被災地方公共団体である市町村及びその特定被災区域(同条第3項に規定する区域をいう。以下同じ。)内にある特定被災地方公共団体以外の市町村に、特定被災区域をその区域とする市町が所在する北海道及び埼玉県を加えた11道県及び227市町村(以下「特定被災自治体」という。)が、一体となって「東日本大震災からの復興の基本方針」(以下「復興基本方針」という。)や復興計画等に基づき被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策等を継続して実施していることから、引き続き岩手、宮城、福島各県(以下「東北3県」という。)の被災の状況、集中復興期間における復興事業の実施状況等について検査を実施して、その結果については取りまとめが出来次第報告することとした。
本院は、東日本大震災からの復旧・復興事業に関する各事項について、合規性、効率性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して検査を実施した。
ア 東日本大震災に伴う被災の状況はどのようになっているか、避難者数はどのように推移しているか、国は、東日本大震災からの復旧・復興を推進するためにどのような取組を行っているか。
イ 復興特会において措置された復旧・復興予算は、どのような経費に配分されているか、予算の執行は計画的、効率的に行われているか。また、復興債の発行及び償還は適時に行われているか。
ウ 復興交付金事業(東日本大震災復興交付金(以下「復興交付金」という。)を原資として基金の設置造成又は積増し(以下「設置造成等」という。)を行うなどして実施される事業。以下同じ。)及び復興関連基金事業(国庫補助金等を原資として設置造成等される基金により復旧・復興事業として実施される事業。以下同じ。)における各基金の使途は適切か、使用見込みのない余剰金が基金に滞留するなどしていないか。また、被災地のうち津波等により甚大な被害を受けた青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉各県(以下「沿岸6県」という。)における補助事業等、復興交付金事業、復興関連基金事業等の復旧・復興事業について、予算の執行は円滑かつ適切に行われているか。特に、復興交付金事業や復興関連基金事業は、計画に照らして適時に実施されているか。
エ 復興基本方針の基本的考え方に沿って、沿岸6県における復旧・復興事業の成果は着実に上がっているか。特に、災害に強い地域づくり、地域における暮らしの再生、地域経済活動の再生等に向けた取組について、期待される目的、成果が達成されているか。
オ 原子力災害からの復興再生について、各府省庁、福島県等が実施する事業は円滑かつ迅速に実施されているか。特に、除染等による放射能汚染対策、長期避難者の支援、長期避難者の早期帰還への対応等の福島の再生加速化に資する事業等は計画に照らして適時に実施されているか。また、国から東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)に対する求償は適切に行われているか。
本院は、復旧・復興予算が措置されている16府省庁等を対象として引き続き検査するとともに、特定被災自治体における被災状況、復旧・復興事業等の実施状況等について検査した。特に、沿岸6県及び管内200市町村に対して、予算の執行状況や成果等の状況について検査した。また、株式会社日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という。)に対して、事業者等への資金繰り支援の成果等の状況について検査した。
検査に当たっては、16府省庁等の内部部局等並びに日本公庫、沿岸6県及び管内57市町に対して374人日を要して会計実地検査を行い、調書及び関係資料を徴したり担当者等から説明を聴取したりするなどして把握した内容等を基に調査分析を行った。
人的被害については死者15,894人、行方不明者2,562人等となっており、建物被害については全壊121,803戸、半壊278,440戸、一部破損726,131戸等となっている。
各府省庁が所管する公共施設等に関する被災の状況については、基盤整備関係では被災地区海岸数677海岸、交通関係では高速道路の通行止め路線数15路線、直轄国道等の通行止め区間数711区間、農林水産業関係では津波により被災した農地面積21,480ha等となっている。また、全壊等の被害を受けた施設は、医療施設4,158施設、福祉施設1,626施設、学校施設等12,150施設等となっている。
避難所は26年3月末までに全て解消されたが、27年12月10日現在の避難者数は、全国でなお182,000人に上っており、このうち東北3県の各県内の避難者数は、計131,506人(全体の72%)となっている。27年11月末現在、県が建設した応急仮設住宅(以下「建設型応急仮設住宅」という。)への避難者数は東北3県で64,988人(31,295戸)、市町村等が民間住宅を借り上げて避難者に供与する応急仮設住宅(以下「借上型応急仮設住宅」という。)への避難者数は全国で74,972人(32,579戸)とされており、震災から4年以上経過しているにもかかわらず、多くの被災者が不自由な生活を余儀なくされている。
復興基本方針では、復興期間は10年間とされ、当初の5年間が集中復興期間と位置付けられて、復興支援の体制、復興施策、事業規模、財源等に関する基本方針が定められた。復興支援の体制について、国は、24年2月に復興庁を設置し、同庁内に復興推進会議を設置した。復興施策について、国は、地域における創意工夫をいかして行われる規制の特例措置その他の特別措置を適用する制度を創設するとともに、使い勝手の良い自由度の高い交付金として復興交付金を創設して、27年8月までに、用地取得手続の迅速化、技術者・技能者の確保、資材の円滑な確保等の加速化措置等を実施した。財政面について、23年12月に「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)が施行され、また、国は、道府県及び市町村の負担額等に対処するための財政措置として震災復興特別交付税等を創設した。
除染等による放射性物質汚染対策については、23年8月に施行された「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づき、環境省等は、東京電力の負担の下に放射性物質により汚染された土壌等の除染等(以下「汚染土壌等の除染等」という。)、放射性汚染廃棄物処理事業及び中間貯蔵施設検討・整備事業(以下、これらの3事業を合わせて「特措法3事業」という。)を実施している。避難指示が解除された区域への帰還支援等の取組については、国は、長期避難者支援から早期帰還までの対応策を一括して支援する福島再生加速化交付金を創設するなどの取組を行っている。
国は、第13回復興推進会議決定により、復興期間10年間に係る事業規模と財源の見込みを32兆円程度の規模とする32兆円フレームを示した。
32兆円フレームでは、27年度までの集中復興期間に係る事業費を25.5兆円程度、28年度からの復興・創生期間に係る事業費を6.5兆円程度と見込んでいる。
23年度から26年度までの4か年度の復旧・復興予算における歳出予算額(当初予算額、補正予算額及び予算移替額の合計)の合計は29兆2285億余円となっている。
23年度から26年度までの予算措置年度別の歳出予算額に予備費使用額及び流用等増減額を加減したもの(以下「予算現額」という。)の合計額29兆3946億余円の26年度末現在における執行状況は、支出済歳出額(以下「支出済額」という。)23兆9132億余円、翌年度繰越額1兆5352億余円、不用額3兆9461億余円であり、復旧・復興事業に係る累計支出済額の予算現額に対する割合(以下「累計執行率」という。)81.3%、翌年度繰越額の予算現額に対する割合(以下「繰越率」という。)5.2%、不用額の予算現額に対する割合(以下「不用率」という。)13.4%となっている。このうち26年度の復興特会の当初予算及び補正予算の執行状況をみると、執行率は57.2%にとどまり、繰越率は28.6%、不用率は14.1%となっている。
23年度から26年度までの4か年度の復旧・復興予算における歳出予算額を予算の経費の内容から区分した項目(以下「経費項目」という。)別の支出済額をみると、公共土木施設、文教施設、医療施設等の災害復旧事業の実施に係る経費項目については「災害対応公共事業関係費」「施設費災害復旧費等」「公共事業等の追加」及び「復興関係公共事業等」の4経費項目で計3兆1361億余円、また、特措法3事業の実施に係る経費項目については「原子力災害復興関係経費」1兆7220億余円となっていて、これらの経費項目の累計執行率は、他の経費項目と比べておおむね低くなっている。
23年度から26年度までの4か年度の復旧・復興予算の執行状況を事業の実施主体や財政支援の方法等に着目した事業類型別にみると、支出済額は「補助(基金)」が6兆1291億余円、「補助」が4兆9831億余円、「地方交付税交付金」が3兆8000億余円等で、特定被災自治体が実施する事業等への財政支援を行う方法において多額となっている。
23年度から26年度までの各年度の決算額と予算額とを比較すると、復興特別所得税は24年度以降の3年間、復興特別法人税は24、25両年度に、いずれも決算額が予算額を上回っている。また、前年度剰余金受入は、25年度以降は決算額が予算額を大幅に上回っているが、これは、24年度以降に復興特会で予算措置された財源等が当年度のうちに支出されずに、繰越し又は不用として翌年度以降の財源となっていることによるものである。
23年度から26年度までの4か年度の復興債の発行状況をみると、発行計画額計15兆4072億円に対して発行実績額計13兆6732億余円となっていて、24年度以降は発行計画額、発行実績額ともに大幅に減少している。そして、復興特別所得税及び復興特別法人税の税収が予算額を上回ったり、繰越し及び不用の発生による決算剰余金が計上されたりしたことにより、25年度においては復興債は発行されず、26年度においても発行計画額の1兆0970億円に対して発行実績額は1199億余円と大幅に下回っている。
復興債の償還は、24年度以降、国債等の償還を一元的に行う国債整理基金特別会計において行われている。26年度の同特別会計の歳出では、債務償還費が1兆5736億余円となり、このうち復興債の借換え分が8421億余円であるため、これを除く7315億余円の復興債が償還されている。復興債の年度末現在額をみると、23年度末の11兆2574億余円から26年度末の8兆3996億余円に減少している。
国は、23年度から26年度までの4か年度に、東日本大震災復旧・復興関係経費として補助事業等、復興交付金事業及び復興関連基金事業に対して国庫補助金等を交付したり、補助事業等の地方公共団体の負担額等に対処するために地方交付税の総額に係る特例措置を講じた震災復興特別交付税を交付したり、住民の生活の安定、コミュニティの再生等のために設置造成等された復興基金に対して地方交付税等を交付したりするなどの多様な方法により財政支援を行っている。
復興交付金事業は、復興庁から特定被災自治体に通知された復興交付金に係る交付申請の限度額の範囲内で、国から特定被災自治体が復興交付金の交付を受けて単年度で実施する事業(以下「単年度型事業」という。)と、基金を設置造成等して復興交付金事業計画の計画期間内にこれを取り崩して実施する事業(以下「基金型事業」という。)のいずれかを選択して実施するものである。また、単年度型事業及び基金型事業のそれぞれに、被災した地域の復興地域づくりに不可欠な基盤を整備することを目的とする40の基幹事業と、基幹事業と一体となってその効果を増大させるために必要な事業で、基幹事業と関連して地域の特性に則して自主的かつ主体的に実施される効果促進事業がある。このうち基金型事業における復興交付金事業計画に基づき、事業年度ごとにあらかじめ計画された事業の実施に要する経費(以下、事業年度ごとにあらかじめ計画された経費を「〇〇年度の実施計画分」という。)において、23年度から26年度までの4か年度の実施計画分に係る交付額は計2兆0412億余円、交付額に対する取崩額の割合(以下「基金事業執行率」という。)は48.5%、取崩しが行われずに基金に保有されている額(以下「取崩未済額」という。)は1兆0509億余円となっている。取崩未済額が多い原因として、東日本大震災復興交付金基金管理運営要領において、復興交付金事業が全て終了したときに、基金が終了したときの取崩未済額(以下「残余額」という。)を国庫に返還することとなっていて、復興交付金事業のうち一部の事業が終了して残余額が生じたとしても引き続き基金での保有を続けていることなどが挙げられる。基金型事業の効果促進事業のうち、各基幹事業に係る事業費に一定割合を乗じて算出した額の交付申請を行い一括して先渡しで復興交付金の交付を受ける漁業集落復興効果促進事業及び市街地復興効果促進事業(被災地の要望を踏まえて24年度に創設。以下、両事業を合わせて「効果促進事業(一括配分)」という。)については、24年度から26年度までの3か年度の実施計画分に係る交付額計1448億余円のうち549億余円(37.9%)の復興交付金の事業内容が未定であり、そのうち約7割については交付された後2年以上にわたり、事業内容が未定のままとなっており、一方、事業内容が決定しているものはそのほとんどが基幹事業に伴って実施するものとなっていた。
国から国庫補助金等の交付を受けた基金団体が設置造成等した基金により実施される23年度から26年度までの4か年度の復興関連基金事業122事業に係る26年度末までの国庫補助金等の交付額は計4兆0864億余円となっている。このうち、既存の基金事業等と復興関連基金事業とを区分して経理していないなどの10事業を除いた112事業に係る国庫補助金等交付額は計3兆8167億余円、26年度末までの基金の取崩額は1兆9674億余円、基金事業執行率は51.5%、保有している国庫補助金等相当額は1兆6870億余円となっている。
また、122事業のうち48事業において、各基金団体は26年度末までに2016億余円、27年度(27年8月末現在)に714億余円、計2731億余円の基金残額を国庫に返納しているが、「安心こども基金(地域子育て創生事業)の活用による被災児童の生活復旧支援」において、復旧・復興予算による事業の終了後に、残余額を同基金の復旧・復興事業以外の区分に配分変更している事態が見受けられた。
震災復興特別交付税に係る経費の繰入先の交付税及び譲与税配付金特別会計における執行状況をみると、23年度から26年度までの4か年度の繰入額計3兆3227億余円に対する同特別会計での支出済額は計2兆5995億余円(4か年度の執行率78.2%)となっている。
沿岸6県及び管内200市町村において実施されている補助事業等について、23年度から26年度までの4か年度の国庫補助金等の交付決定額は、173事業、計4兆7279億余円(国庫補助金等交付決定額から過不足額を控除した交付決定額に対する国庫補助金等交付額の割合(以下「補助事業執行率」という。)86.0%)となっており、このうち東北3県の分は計4兆4323億余円で、交付決定額全体の9割以上を占めている。
4か年度の交付決定額計の9割以上を占める1事業当たり100億円以上の事業を抽出してその事業内容により区分して(以下、事業内容による区分を「事業区分」という。)、その交付決定額の合計が1000億円以上となる事業区分を示すと、①「公共施設等の復旧等に関する事業」の4事業区分、②「被災者の支援に関する事業」の1事業区分、③「各種産業の再生に関する事業」の3事業区分及び④「災害廃棄物の処理等に関する事業」の1事業区分に分類される。このうち、①「公共施設等の復旧等に関する事業」については、他事業、地元等との調整等による遅延、事業計画の変更等により、26年度末までの国庫補助金等交付決定額に対する交付額の割合(以下「交付率」という。)は65.3%、補助事業執行率は73.7%となっている。①「公共施設等の復旧等に関する事業」に分類される事業区分である「河川等」「社会資本整備」「文教施設」及び「港湾」をみると「文教施設」については、交付決定額の82.9%に当たる1380億余円が交付され、補助事業執行率が87.5%と比較的堅調に執行されているが、「河川等」「社会資本整備」及び「港湾」については、設計変更や施工方法の見直しによる事業計画の変更等の要因により、交付率は59.8%から63.0%、補助事業執行率は62.7%から73.7%となっている。
沿岸6県管内42市町における復興交付金事業について、23年度から26年度までの4か年度の実施計画分に係る復興交付金交付額は計1兆4427億余円で執行率は45.8%となっている。沿岸6県の県事業及び市町事業を事業数でみると、26年度末における基幹事業及び効果促進事業は、基幹事業1,920事業、効果促進事業535事業、計2,455事業となっている。このうち全て完了した事業は、それぞれ441事業、246事業、計687事業であり、完了した事業数の割合はそれぞれ22.9%、45.9%、27.9%と、いずれも50%を下回っている。
復興交付金事業は、13事業区分(注3)に分類することができる。事業区分別に完了状況をみると、基幹事業と効果促進事業を合わせた事業数は、「住宅等」が240事業と最も多くなっていて、次いで「市街地整備等」が195事業、「農業用施設等」が55事業となっている。また、完了した事業数の割合でみると、「試験研究施設等」が最も高い77.2%となっている一方、「住宅入居支援等」等4事業区分が10%程度又はそれ以下となっていて、事業区分により差が見受けられる。
26年度末現在実施中の基幹事業1,390事業のうち当初の復興交付金事業計画において事業完了時期を26年度末以前としていた511事業を対象に事業の完了予定時期の状況をみると、復興・創生期間となる28年度以降に完了予定の基幹事業は140事業と27.3%を占めていて、事業区分別にみると、「住宅等」が78事業と最も多く、次いで「道路」が30事業、「漁業用施設等」が24事業となっている。
事業期間の延長の程度をみると、1年以上延長されている事業は371事業と72.6%を占めていて、事業区分別では、「住宅等」「漁業用施設等」「道路」及び「市街地整備等」について特に延長されている事業数が多くなっている。事業期間の延長の理由について、事業主体は、それぞれ、住民との合意形成に時間を要したこと、当該事業と関連する事業の進捗に遅延が生じたこと、必要な用地を取得するための地権者の所在把握や交渉等に時間を要したこと、工事費の高騰による計画の見直しに時間を要したことなどによるとしている。
沿岸6県における復興関連基金事業について、既存の基金事業等と復興関連基金事業とを区分して経理していないため基金事業執行率を把握できない4基金4事業を除く20基金70事業の23年度から26年度までの4か年度の国庫補助金等交付額は計2兆1664億余円、26年度末までの取崩額は計1兆3348億余円、基金事業執行率は61.6%となっている。
上記の70事業は、9事業区分(注4)に分類することができる。各事業区分別にみると、「原子力災害等への対応」が24事業(全体の34.2%)、国庫補助金等交付額計1兆1702億余円(全体の54.0%)となっていて、24年度から26年度までの年度別・事業区分別に取崩額の状況をみると、各年度とも最も多額となっている。「原子力災害等への対応」は、福島県における実施がほとんどであり、福島県の基金事業執行率は63.2%となっている。一方、「保健・医療・福祉」「農林水産業」及び「防災・復旧事業等」は、復興交付金事業等により実施する造成工事、除染等の他事業の進捗等により影響を受けている事業区分であり、基金事業執行率は40.8%から49.9%となっている。
70事業を終了年度別にみると、終了年度が28年度以降とされている13事業のうち8事業及び終了年度未定の14事業のうち13事業、計21事業は「原子力災害等への対応」である。
沿岸6県及び管内33市町における23の施策項目の復旧・復興事業の公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)等に基づく災害復旧事業に係る計画や復興交付金事業計画等における整備計画施設等数(以下「計画施設数」という。)に係る事業費(以下「計画事業費」という。)は、26年度末現在、6兆6259億余円であり、これに対する完成した施設等に係る事業費(以下「完成分事業費」という。)は1兆6743億余円(うち国庫補助金等計1兆1460億余円)となっている。計画施設数に対する26年度末現在、整備を終えて完成している施設等数(以下「完成施設数」という。)の割合(以下「完成率」という。)をみると、100%は「鉄道」及び「空港」の2区分であり、80%以上が「河川」「公営住宅等」「医療・福祉施設」「文教施設」「農業用施設」及び「養殖施設」の6区分、20%以下が「海岸(防潮堤(注5))」「海岸防災林」「液状化対策及び地盤沈下対策」「上水道」「漁業集落防災機能強化事業」及び「都市再生区画整理事業」の6区分である。
海岸法(昭和31年法律第101号)等に基づき、津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するなどのために整備される堤防、突堤、護岸、胸壁等の施設に係る復旧・復興事業の状況については、33市町のうち28市町の512海岸において計画されており、このうち460海岸で事業が実施され、26年度末までの完成施設数は52海岸(完成率10.1%)となっている。計画事業費9398億余円のうち26年度末までに投じられた事業費(以下「支出済事業費」という。)は1427億余円、完成分事業費は85億余円(うち国庫補助金等77億余円)であり、計画事業費に対する支出済事業費の割合は15.1%となっている。
復旧・復興事業を実施している460海岸の防潮堤等について、新設、既設堤防の改修(以下「既設改修」という。)等の別にみると、460海岸のうち「新設」が81海岸、「既設改修」が358海岸、「新設及び既設改修」(同一の海岸で両者が行われているもの)が11海岸、「防潮堤以外の施設のみを整備」が10海岸となっている。このうち26年度末現在で完成しているものは、新設が2海岸、既設改修が41海岸、防潮堤以外の施設のみを整備が9海岸となっている。
上記460海岸の防潮堤の高さについて、東日本大震災前の防潮堤の高さ(以下「現況堤防高」という。)と復旧・復興事業により整備する防潮堤の高さ(以下「復旧後堤防高」という。)とを比較すると、復旧後堤防高が現況堤防高より高くなっているものが359海岸、復旧後堤防高と現況堤防高が同じものが96海岸となっている。また、359海岸のうち、5m以下の範囲で高くなっているものが266海岸と最も多くなっているが、10m超高くなっているものも13海岸ある状況となっている。
460海岸の防潮堤の高さを「T.P.(注6)10m超」「T.P.5m超からT.P.10m以下」及び「T.P.5m以下」に区分して、防潮堤の設置海岸数の変化について、東日本大震災前の現況と復旧・復興事業による復旧後の状況とを比較してみると、T.P.10m超の防潮堤が設置される海岸が現況7海岸から復旧後62海岸へ、T.P.5m超からT.P.10m以下の防潮堤が設置される海岸が現況123海岸から復旧後256海岸へとそれぞれ増加しており、これに伴ってT.P.5m以下の防潮堤が設置される海岸が現況239海岸から復旧後132海岸へ、防潮堤が整備されないなどの海岸が現況91海岸から復旧後10海岸へとそれぞれ減少している。
東北3県の60地域海岸(注7)のうち防潮堤を整備している17市町の46地域海岸の設計津波水位を前提に設定される地域海岸の防潮堤の高さ(以下「地域海岸内堤防高」という。)と、46地域海岸で復旧・復興事業が実施されている419海岸の復旧後堤防高とを比較してみると、復旧後堤防高が地域海岸内堤防高より高いものが419海岸のうち1地域海岸の2海岸、低いものが28地域海岸の130海岸となっている。130海岸を所在県別にみると宮城県が110海岸と大半を占め、海岸区分別にみると農地海岸が61海岸、漁港海岸が38海岸と多くなっている。復旧後堤防高が地域海岸内堤防高より低くなっている理由について、海岸管理者によれば、湾の形状を考慮した津波シミュレーション等の結果によるとしているものが49海岸、海岸背後地に重要な保全対象がないことによるとしているものが29海岸、農地海岸の防潮堤で背後地にある農地等の浸食防止を主な目的としていることによるとしているものが23海岸、復旧後堤防高を低くしてほしい旨の住民等からの要望を受けた県及び市町と当該住民等との協議及び調整の結果によるとしているものが15海岸となっている。
復旧・復興事業が実施されている460海岸の防潮堤の完成(予定)年度の状況をみると、26年度末現在、集中復興期間の最終年度である27年度が完成年度となっているものが116海岸、28年度以降に完成する予定となっているものが292海岸となっている。防潮堤の整備の進捗に伴い、津波に対する防御能力は高くなっていくが、沿岸6県において、数十年から百数十年に一度程度の頻度で到達すると想定される津波(以下「頻度の高い津波」という。)に対する十分な防御能力が発現するには今なお時間を要する状況となっている。
また、460海岸のうち福島県の59海岸を除く401海岸の中で、防潮堤等が未完成となっている海岸は357海岸あり、これらの海岸背後地の土地の利用状況をみると、人口集中地区となっているものが21海岸、漁業集落防災機能強化事業、災害公営住宅整備事業等、都市再生区画整理事業及び防災集団移転促進事業(以下、これらを合わせて「住まいの復興に係る4事業」という。)を計画中のもの、実施済み又は実施しているものが延べ159海岸、緊急輸送道路が存在しているものが122海岸、防災拠点等災害発生時に危機管理を担う市役所又は役場が存在しているものが7海岸、地域住民の暮らしに関する施設である病院等医療施設、社会福祉施設及び文教施設が存在しているものが延べ24海岸となっている。
33市町のうち津波発生直後から津波が終息するまでのおおむね数時間から十数時間の間、住民等の生命、身体の安全を確保するための避難対策について定めた計画(以下「津波避難計画」という。)を策定していない14市町における頻度の高い津波を防御するための防潮堤の完成予定年度や市街地の復興を推進するための都市再生区画整理事業の完了予定年度をみると、防潮堤については11市町が、都市再生区画整理事業については8市町が28年度以降としている。甚大な津波被害を受けた市町では、各地域の復興計画に基づく住民の居住地域及び道路等基盤施設の整備等のまちづくりが現在も進捗中であり、津波避難計画は新しく整備される居住地域等に対応したものとしなければならないなどの事情により、頻度の高い津波に対する防御が十分ではない市町においても今なお津波避難計画が策定されていない状況となっている。
津波により浸水する範囲等に関する情報や地震発生時の円滑な避難を確保するために必要な事項を記載した印刷物(以下「津波ハザードマップ」という。)の作成状況をみると、26年度末現在33市町のうち7市町が津波ハザードマップを作成していないが、これは、浸水した地域が少なかったこと、まちづくりに関する事業を実施中であるため市街地等が形成される範囲と津波により浸水する範囲を合わせて図示することが現状では困難であることなどによるものである。
沿岸6県管内の市町では、避難所、津波避難ビル等が指定されているが、復旧・復興事業により整備された避難所が、津波避難計画における避難所として指定できなくなったものが見受けられた。
沿岸6県管内の21市町において、特別交付税により設置造成等された復興基金の活用による防災情報の伝達円滑化を図るラジオ等の電子機器の購入等の状況をみると、23年度から26年度までの4か年度の購入数量は計43,219台となっているが、住民等に対する未配布数量は27年9月末現在で26,316台となっている。未配布となっている電子機器には、災害時に備えて備蓄されているものなどもあるが、地域住民に配布するために購入した電子機器の配布が進まず、事業の効果が十分に発現していないものが見受けられた。
沿岸6県の支援金(注8)の支給世帯数、支給額をみると、27年6月末現在、住宅の被害程度等に応じて支給される基礎支援金が200,009世帯、1539億余円、住宅の再建方法等に応じて支給される加算支援金が122,911世帯、1550億余円となっている。基礎支援金の支給世帯数に対する加算支援金の支給世帯数の割合は61.4%で、基礎支援金の支給を受けたものの住宅の再建に至っていない世帯が相当数ある状況となっている。
沿岸6県の27年6月末現在における応急仮設住宅の供与の状況をみると、建設型応急仮設住宅は、計53,119戸が設置されており、建設費が3112億余円、維持管理費が551億余円となっている。完成戸数53,119戸のうち27年6月末までに撤去したものは1,105戸あり、その撤去費は9億余円となっている。また、借上型応急仮設住宅は、沿岸6県で計35,346戸、借上げに要した費用は1526億余円となっている。
東北3県の応急仮設住宅の入居等の状況をみると、入居戸数は減少しており、住まいの復興に係る4事業の進捗に伴い、仮住まいから安定した生活に向けて踏み出した者も多数いるが、応急仮設住宅には依然として約14万人が入居しており、その解消にはなお時間を要することが見込まれる。
災害公営住宅整備事業等により整備された災害公営住宅の入居希望及び入居の状況をみると、沿岸6県のうち1県及び24市町は、26年度末までに153地区において6,363戸(完成率34.2%)の住宅の整備を完了している。そして、入居可能となっている4,254戸のうち、26年度末現在の被災者の入居戸数は3,651戸、入居可能戸数に対する入居戸数の割合は85.8%となっている。
防災集団移転促進事業により整備された宅地の分譲等の状況についてみると、4県管内の16市町のうち、移転者が他地区の災害公営住宅に入居するため宅地造成を実施していない1県1市を除く3県管内の15市町は、26年度末までに118地区において2,192区画(完成率29.9%)の宅地の整備を完了している。そして、26年度末までに分譲等が可能となっている103地区1,901区画のうち、26年度末の移転者に分譲等済みの区画数は1,624区画、分譲等が可能な区画数に対する分譲等済み区画数の割合は85.4%となっている。
漁業集落防災機能強化事業による宅地(災害公営住宅の区画を除く。)の整備状況をみると、2県管内8市町は、26地区338区画の宅地の整備を計画しているが、26年度末現在、整備済みの区画数は8地区において34区画(完成率10.0%)にとどまっている。
都市再生区画整理事業による宅地(災害公営住宅の区画等を除く。)の整備状況をみると、3県管内の12市町は、37地区8,324区画の宅地の整備を計画しているが、26年度末現在、整備済みの区画数は8地区において206区画(完成率2.4%)にとどまっている。
日本公庫が実施している農林漁業者、中小企業者等に対する資金繰り支援のうち、農林漁業者等向け、中小企業者等向けの融資制度として、それぞれ既存融資制度の特例(以下「農林漁業者等震災特例貸付」という。)、東日本大震災復興特別貸付(以下「復興特別貸付」という。)が設けられるなどしている。これらについて、22年度(23年3月)から26年度までの5か年度の実績をみると、農林漁業者等震災特例貸付が2819億余円、復興特別貸付が3兆7401億余円、計4兆0221億余円となっている。沿岸6県における貸付実績は1兆1075億余円であり、県別の計をみると、宮城県が4118億余円、福島県が2058億余円と多額になっていて、岩手、茨城、千葉各県では1283億余円から1393億余円と大きな差がみられない。設備資金及び運転資金の資金使途別にみると、農林漁業者等震災特例貸付については貸付額計2010億余円のうち設備資金が1215億余円、運転資金が794億余円となっている。復興特別貸付については貸付額計9064億余円のうち設備資金が1920億余円、運転資金が7144億余円となっていて、沿岸6県のいずれも7割以上が運転資金となっている。
23年度から26年度までの4か年度の原子力災害関係経費の支出済額計2兆3467億余円のうち、特措法3事業に係る支出済額が1兆1844億余円で、その中でも汚染土壌等の除染等に係る支出済額が1兆1007億余円となっている。
放射性物質汚染対処特措法に基づいて実施されている除染特別地域における特別地域内除染実施計画に基づく汚染土壌等の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置(以下「除染等の措置」という。)の状況をみると、4市町村は26年3月までに終了し、7市町村は、それぞれ28年3月又は29年3月までに終了するよう事業を実施している。除染特別地域における除染等の措置並びに除染等の措置により生じた除去土壌及び除染廃棄物(以下「除去土壌等」という。)の仮置場等の箇所数及び保管量は、27年9月末現在では247か所、約459万m3となっている。
また、27年9月末現在、福島県管内で汚染状況重点調査地域に指定され、除染実施計画を策定した36市町村における除染等の措置の実施状況を地域別にみると、会津地域は計画に対する進捗率が100%となり、県北地域は森林(生活圏)を除く除染対象で70%以上進捗しているのに対して、県中、県南、相双、いわきの各地域では進捗率が50%以下の除染対象も見受けられる。除去土壌等の保管の状況をみると、保管箇所は114,536か所あり、このうち住宅等の敷地内において保管袋等に入れるなどして地上又は地下で保管している箇所が96.3%と大半を占めている。除去土壌等の保管量をみると、保管量は約455万m3となっており、住宅、学校等の施設において29.8%が保管されており、地元住民の生活にも少なからず負担を与えている。
さらに、27年9月末現在、福島県以外の7県管内で汚染状況重点調査地域に指定され、除染実施計画を策定した58市町村における除染等の措置の実施状況をみると、岩手、宮城両県以外の5県については栃木県を除きほぼ完了している。26年度末現在の除去土壌等の保管の状況をみると、22,741か所において340,622m3の除去土壌等が保管されていて、除染等の措置を実施した現場の地下での保管量が全体の83.3%に当たる283,864m3となっている。
福島県内の11市町村の除染特別地域は、放射性物質汚染対処特措法に基づき汚染廃棄物対策地域に指定されている。同地域内における帰還の妨げとなる廃棄物の仮置場への搬入状況をみると、双葉郡大熊、楢葉両町及び双葉郡川内村は26年3月に、南相馬市、双葉郡双葉町及び相馬郡飯舘村は27年3月までにそれぞれ搬入を完了している。伊達郡川俣町及び双葉郡葛尾村は同月までに一部を除き完了して、双葉郡浪江、富岡両町は28年3月を完了予定として搬入中である。
また、放射能濃度が8,000Bq(注9)/kgを超え、特別な管理が必要な程度に汚染されたものとして環境大臣が指定した廃棄物の数量は、福島県を含む12都県で27年9月末現在、16.6万tとなっており、環境省は5県において、自ら指定廃棄物の処分に必要な長期管理施設等を確保することとしたが、同月末現在候補地を選定している段階であり、その全量が地方公共団体や地方公共団体から委託を受けた民間事業者等が管理する焼却施設等に保管されている。
環境省は、25年12月に関係自治体に対して中間貯蔵施設の設置及び管理型処分場の活用の受入れに係る要請を行い、27年1月までに各自治体からそれぞれ容認され、施設予定地内に福島県内における汚染土壌等の除染等及び放射性汚染廃棄物処理事業の実施に伴って大量に発生が見込まれる除去土壌、放射能濃度が10万Bq/kgを超える廃棄物等を一時的に保管するためのストックヤードの整備を開始している。なお、中間貯蔵施設に係る用地取得の状況をみると、27年9月末までに土地の売買契約等の成立件数は9件にとどまっており、用地取得が進んでおらず、施設整備や輸送等の全体計画を示すことは困難な状況となっている。
福島県等は、避難指示区域に存する住宅に23年3月11日において居住していた者(特定帰還者(注10)である者を除く。)の生活の拠点の形成を目的として、生活拠点形成事業を実施し、災害公営住宅の整備を行っていて、福島県の総整備計画戸数は計4,890戸となっている。このうち27年9月末現在の建築工事着手済戸数及び建物完成戸数をみると、建築工事に着手済みとなっているのは1,856戸、建物の完成に至っているのは687戸となっている。
特措法3事業について、26年度末までの費用として確定した事業実施済額は計7857億余円となっており、27年10月末現在の求償額の合計は4605億余円、東京電力の支払額の合計は3653億余円となっている。特措法3事業のうち、農林水産省が実施した国有林における汚染土壌等の除染等に係る事業費2億余円について、農林水産省は、求償を行うための体制や具体的な手法等を定めておらず求償を行っていなかった。
上記のほか、放射性物質汚染対処特措法が施行される前から緊急的に実施されていた除染等(以下「緊急除染等」という。)についてみると、内閣府所管の緊急実施除染事業については、23年度から26年度までの4か年度の事業実施済額計2095億余円に対して、求償額計は536億余円、東京電力の支払額計は244億余円となっている。また、緊急実施除染事業を除く緊急除染等については、内閣府、文部科学省及び厚生労働省がそれぞれ所管する計4事業(支出済額計167億余円。除染等以外の費用も含む。)において実施されており、これについては、放射性物質汚染対処特措法が施行される前から緊急的に実施されていることなどから、求償は行われていない。
東日本大震災からの復旧・復興については、復興基本方針等で定めた5年間の集中復興期間に続き、28年度から5年間の復興・創生期間を迎えたところである。国及び地方公共団体は、これまで全力を挙げて復旧・復興に取り組んできており、事業の進捗とともにその成果も見受けられるようになってきたところである。一方、津波による被害から国民の生命、身体及び財産を保護する津波対策についてみると、防潮堤の大部分は完成しておらず、津波避難計画の策定や津波ハザードマップの作成がなされていない市町があるなどの状況が一部において見受けられた。また、災害公営住宅や宅地の供給はまだ計画の半分に満たない状態であり、多くの避難者が応急仮設住宅等での生活を続けている。さらに、福島県の避難指示区域等については、復旧・復興の完了までには今後なお相当の時間を要する状況となっている。
復旧・復興事業については、27年度以降も多くの事業が一刻も早い完了を目指して実施されているところであり、また、復興・創生期間と位置付けられた28年度からの5年間は、被災自治体においても一定の負担を行うものとされた上で、被災地の自立につながり地方創生のモデルとなるような復興の実現を目指すこととなっている。
ついては、復興庁及び関係府省等は連携して、国及び地方公共団体が行う施策が基本理念に即して更なる復旧・復興の進展につながるよう、今後、次の点に留意して、復興施策の推進及び支援に適切に取り組む必要がある。
本院は、東日本大震災からの復興に向けた確実な歩みがなされている一方、復旧・復興の完了までに長期間を要するものもあることから、東日本大震災に伴う被災等の状況とともに、復興等の各種施策及び支援事業の実施状況として、復旧・復興予算の執行状況、津波被害の大きかった沿岸6県における復旧・復興事業の実施状況や復旧・復興事業の成果の状況、原子力災害からの復興再生の状況等を分析して報告した。本院としては、復興基本方針等で定められた27年度までの集中復興期間が終了し、28年度から復興・創生期間として、復興は新たな段階を迎えたことから、引き続き被災の状況、復興事業の実施状況等について検査を実施して、その結果については、集中復興期間における復興事業の実施状況等の総括として取りまとめが出来次第報告することとする。