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  • 平成27年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第3 滑走路等の耐震化工事における薬液注入工の施工不良等の状況について


検査対象
国土交通本省、3地方整備局
滑走路等の耐震化工事の概要
空港の滑走路や誘導路等について、救急・救命、緊急物資輸送拠点としての機能及び航空ネットワークの維持、背後圏経済活動継続のための機能を確保するのに必要な耐震性の向上等を図るもの
検査の対象としとした契約
滑走路等の耐震化工事において東亜建設工業株式会社による施工不良等が報告された5契約
上記の契約額
78億3870万円(平成25年度~27年度)

1 検査の背景

(1) 滑走路等の耐震化工事の状況

国土交通省は、平成17年8月に設置した「地震に強い空港のあり方検討委員会」における検討結果等を踏まえ、空港の滑走路や誘導路等について、航空輸送上重要な空港では、救急・救命、緊急物資輸送拠点としての機能及び航空ネットワークの維持、背後圏経済活動継続のための機能を、また、緊急輸送の拠点となる空港では、救急・救命、緊急物資輸送拠点としての機能を確保するのに必要な耐震性の向上等を図ることとした。

そして、17年度以降、空港整備事業の一環として、滑走路等について、レベル2地震動(注1)による液状化を防ぐため、薬液注入による地盤改良工事(以下「薬液注入工」という。)を行うなどの耐震対策を実施している。既設滑走路等の地盤の液状化対策のための薬液注入工法には、主に、浸透固化処理工法やバルーングラウト工法があり、これらは、削孔機で地盤を削孔して、凝固する性質を有する薬液を地盤中の所定の位置に注入することで地盤を改良する工法である。削孔方法には、鉛直削孔等の直線的な削孔のほか、空港運用に支障を与えないよう、近隣の場所から構造物直下の地盤に向けて曲線を描いて削孔する曲がり削孔(図1参照)がある。

(注1)
レベル2地震動  当該施設を設置する地点において発生するものと想定される地震動のうち、最大規模の強さを有するもの

図1 曲がり削孔の概念図

図1 曲がり削孔の概念図 画像

(2) バルーングラウト工法の概要

バルーングラウト工法は、20年に東亜建設工業株式会社(以下「東亜建設」という。)が中心となって開発した薬液注入工法である。

薬液注入工の目的が液状化対策の場合、「バルーングラウト工法技術マニュアル」(平成23年2月バルーングラウト工法研究会作成)によれば、バルーングラウト工法の適用性については、改良対象地盤の土質調査結果に基づいて検討することとされていて、改良対象地盤の薬液注入工による目標強度は、作用する地震動による液状化に対する地盤の安定性が確保できるよう、一軸圧縮強さ(注2)よって設計することとされている。

(注2)
一軸圧縮強さ  土質等の強度測定法である一軸圧縮試験により得られる強度で、地盤改良工事においては改良効果の確認等に用いる。

バルーングラウト工法による薬液注入工の削孔及び薬液注入の具体的な順序は、次のとおりとなっている(図2参照)。

① 土質調査を行い、土質、細粒分含有率(注3)等から目標強度、注入率等を決定する。

② 事前配合試験を行い、目標強度を達成する薬液の濃度を決定する。

③ 削孔機を使用して、ケーシング(注4)により所定の位置まで削孔する。

④ 注入管をケーシング内に建て込み、ケーシングを引き抜く。

⑤ 薬液を注入する所定の位置の両端にゴム製バルーンを膨張させ、地山とバルーンを密着させた後、バルーンと地山の隙間に瞬結剤を充填して、地盤に開けた孔と注入管との隙間から薬液が逸散するのを防ぐ。

⑥ 薬液の当該地盤での浸透性を評価するために水を使用して注水試験を行い、薬液の注入速度及び注入圧力を決定する。

⑦ 地盤の割裂、隆起等を伴わないよう薬液注入を行い、改良体を造成する。

(注3)
細粒分含有率  液状化しにくい土質である粘土分及びシルト分が地盤にどれだけ含まれているかを示す値
(注4)
ケーシング  削孔の際に使用する鋼管

図2 バルーングラウト工法の概要

図2 バルーングラウト工法の概要 画像

(3) 施工不良等の事態の経緯

28年4月から5月にかけて、東亜建設から国土交通省に対して、東亜建設が主体となってバルーングラウト工法による薬液注入工を施工した東京国際空港C滑走路、H誘導路及びE誘導路、松山空港誘導路並びに福岡空港滑走路において施工不良及びデータ改ざんによる虚偽報告があったことが報告された。これらの工事の契約(表1参照)の空港別の概要は次のとおりである。

ア 東京国際空港

関東地方整備局(以下「関東地整」という。)は、東亜建設を含む特定建設工事共同企業体と契約を締結して、東京国際空港H誘導路東側他地盤改良工事(以下「H25羽田H誘導路等工事」という。)として、東京国際空港のH誘導路及びE誘導路において、1,450本の鉛直削孔等を行って4,632,295Lの薬液の注入を行う薬液注入工を、また、東京国際空港C滑走路他地盤改良工事(以下「H27羽田C滑走路工事」という。)として、同空港のC滑走路において275本の曲がり削孔を行って12,513,400Lの薬液の注入を行う薬液注入工をそれぞれ行うこととしていた。

イ 松山空港

四国地方整備局(以下「四国地整」という。)は、東亜建設と契約を締結して、松山空港誘導路地盤改良工事(以下「H26松山誘導路工事」という。)として、松山空港の誘導路において、158本の鉛直削孔及び6本の曲がり削孔を行って1,122,888Lの薬液の注入を行う薬液注入工を行うこととしていた。

ウ 福岡空港

九州地方整備局(以下「九州地整」という。)は、東亜建設を含む特定建設工事共同企業体と契約を締結して、26年度福岡空港滑走路地盤改良工事(以下「H26福岡滑走路工事」という。)として、福岡空港の滑走路において、104本の曲がり削孔を行って6,613,367Lの薬液の注入を行う薬液注入工を、また、27年度福岡空港滑走路地盤改良工事(以下「H27福岡滑走路工事」という。)として、同空港の滑走路において、174本の曲がり削孔を行って9,957,980Lの薬液の注入を行う薬液注入工をそれぞれ行うこととしていた。

表1 空港におけるバルーングラウト工法による薬液注入工を含む契約

工事名 契約額(円) 工期 発注者 請負人
H25羽田H誘導路等工事 1,271,439,863 平成26年1月31日
~27年3月20日
関東地整 東亜・大本特定建設工事共同企業体
H26福岡滑走路工事 1,278,396,000 平成26年6月30日
~27年3月27日
九州地整 東亜・本間特定建設工事共同企業体
H26松山誘導路工事 175,824,000 平成26年9月18日
~27年3月20日
四国地整 東亜建設
H27福岡滑走路工事 1,819,368,000 平成27年5月25日
~28年5月31日
九州地整 東亜・本間特定建設工事共同企業体
H27羽田C滑走路工事 3,293,676,000 平成27年5月28日
~28年3月18日
関東地整 東亜・鹿島・大本特定建設工事共同企業体
7,838,703,863

これら5件の契約については、いずれも、価格に加え価格以外の要素を総合的に評価して国にとって最も有利な入札をした者を落札者とする総合評価落札方式により契約している。そして、入札時の評価の際には、発注者が示す標準的な仕様に対して施工上の特定の課題等に関して施工上の工夫等の技術提案を求めることにより、公共工事の品質をより高めることを期待して、工事ごとに工事品質の確保や向上に係る技術提案の評価項目等を設定し、評価を行っている。

なお、他空港においてバルーングラウト工法による薬液注入工の施工実績はない。

今回の地盤改良工事の施工不良等の判明を受け、国土交通省は、「地盤改良工事の施工不良等の問題に関する有識者委員会」(以下「有識者委員会」という。)を28年5月31日に設置した。有識者委員会は、施工不良等の原因、修補、再発防止等について専門的見地から検討を行い、同年8月2日に「地盤改良工事の施工不良等の問題に関する有識者委員会中間報告書」(以下「中間報告書」という。)として国土交通省に提出している。

公表された中間報告書によれば、本件施工不良については、表2及び表3の状況が判明している。

表2 曲がり削孔における施工不良の概要

工事名 H26福岡滑走路工事 H26松山誘導路工事 H27福岡滑走路工事 H27羽田C滑走路工事
削孔位置精度(B/A) 39.9% 0% 54.8% 0%
全体箇所数(A) 2,976か所 6本 4,560か所 275本
正確な位置(B) 1,187か所 0本 2,498か所 0本
(注)
中間報告書を基に本院が作成した。削孔位置精度とは、契約で指定した位置どおりに施工された削孔本数又は削孔箇所数(改良体造成位置への削孔箇所数)の割合をいう。1本の削孔で複数箇所の改良体が造成されており、0%の工事については、本数で表示している。なお、H25羽田H誘導路等工事については、曲がり削孔は施工していない。

表3 薬液注入工の達成率

工事名等 H25羽田H誘導路等工事 H26福岡滑走路工事 H26松山誘導路工事 H27福岡滑走路工事 H27羽田C滑走路工事
地下道側部 地下道下部
薬液注入割合 45.0% 42.8% 48.4% 76.8% 37.7% 5.4%
改良体造成割合 5.7% 12.9% 23.3% 0.0% 1.4% 0.0%
(注)
中間報告書を基に本院が作成した。薬液注入割合、改良体造成割合とは、契約で指定した薬液注入量、改良体の造成箇所数に対して、実際に施工された薬液注入量及び契約どおり造成された改良体箇所数の割合をいう。

また、中間報告書において、発注者が行うべき再発防止策として、施工方法の選定における対応については、民間の技術審査証明制度も活用し、必要に応じ、一定の技術力を有する機関や専門家による委員会等が当該新技術について専門的かつ客観的な評価を行う仕組みを検討することなどが示された。また、監督及び検査における対応については、抜き打ちによる現場での立会を監督及び検査に導入するとともに、受注者による供試体の差し替えの可能性を排除するため、事後調査時の事後ボーリングを工事とは分離して発注すること、さらに効果的な確認方法の開発・導入等により、不正に対して抑止力のある監督及び検査に向けて見直しを進めることが示された。

(4) 監督及び検査の体制

会計法(昭和22年法律第35号)によれば、契約担当官及び支出負担行為担当官は、工事の請負契約を締結した場合、自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するため必要な監督をするとともに、給付の完了の確認をするため必要な検査をしなければならないこととされている。そして、監督及び検査の方法については、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)及び契約事務取扱規則(昭和37年大蔵省令第52号)によれば、監督職員は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理、履行途中における工事製造等に使用する材料の試験又は検査等の方法により監督をし、契約の相手方に必要な指示をするものとされており、また、検査職員は、請負契約についての給付の完了の確認につき、契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類に基づき、かつ、必要に応じ当該契約に係る監督職員の立会いを求め、当該給付の内容について検査を行わなければならないこととされている。そして、国土交通省は、地方整備局の所掌する港湾空港工事については、「請負工事監督・検査事務処理要領の制定について」(平成8年港管第872号。以下「監督検査要領」という。)に基づき監督及び検査業務を実施することとしている。

また、薬液注入工については、東日本旅客鉄道株式会社が昭和62年12月から平成2年11月までの間に施行した東北新幹線の東京駅・上野駅間の建設工事の一環としてトンネルを建設する際に施工した薬液注入工において手抜きによる不正行為が発生しており、これを受けて、2年9月に、建設省(当時)が「薬液注入工事に係る施工管理等について」(平成2年建設省技調発第188号の1。以下「薬液通達」という。)を発出して、施工管理並びに監督及び検査体制の充実・強化を図ることとして、薬液の注入量の確認や注入の管理及び注入の効果の確認等について具体的な項目を定めるなどして、手抜きによる不正行為を防止するための方策を講じたところである。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

今回施工不良等が判明した3空港は、地震災害時における緊急物資及び人員等の輸送基地や航空ネットワーク維持等のための重要な施設である。

そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、薬液注入工の監督及び検査、薬液注入工の工法選定、技術提案の履行確認がどのように行われているかに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

検査に当たっては、関東地整、四国地整及び九州地整において、今回、施工不良等が判明した前記の5契約(契約額計78億3870万余円)を対象として、契約関係書類、監督職員に提出された報告書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

3 検査の状況

(1) 薬液注入工の監督及び検査の状況

前記5契約の薬液注入工のいずれについても、監督検査要領、薬液通達等に基づき施工管理並びに監督及び検査を実施することとなっている。そこで、薬液注入工の施工及び改良効果の確認としての事後調査の実施状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

ア 薬液注入工の施工計画及び事後調査の実施方法

受注者は、空港土木工事共通仕様書(平成26年4月国土交通省航空局)等に基づき、工事目的物を完成するために必要な手順等を記載した施工計画書を監督職員に提出し、これを遵守し工事の施工に当たらなければならないこととなっている。この施工計画書によれば、薬液注入工の施工計画及び事後調査の実施方法は次のとおりとなっていた。

(ア) 削孔工

各工事における削孔については、削孔機を所定の位置に据え付け、ケーシングを回転・圧入させて先端ビット(注5)の向きを制御しながら所定の深度まで削孔を行うこととなっていて、削孔出来形として削孔長や注入位置の誤差が規格値内となるよう施工管理することとなっている。

5契約中、曲がり削孔で施工した4契約のうち、H26松山誘導路工事、H26福岡滑走路工事及びH27福岡滑走路工事の3契約では、施工計画書において、薬液注入工の品質確保のための削孔位置の確認方法として、先端ビットの向き及び位置をリアルタイムで管理する機器を使用して、先端ビットに取り付けられた発信器(ビーコン)の発する電波を地上から探査装置(ロケーター)で受信すること(以下、これらの機器を合わせて「ロケーター・ビーコン」という。)により削孔位置を計測することにしていた。さらに、より正確に削孔精度を確認するものとして、挿入式ジャイロシステム(注6)(以下「ジャイロ」という。)を一定程度、削孔を進める度に孔に挿入して巻き上げることで削孔軌跡を計測して、軌道修正をすることにしていた。

また、H27羽田C滑走路工事では、施工計画書において、硬質地盤対応の削孔機を使用するとともに、ジャイロと併せて、先端ビットの向き及び位置をリアルタイムで管理する機器として、先端ビットに内蔵した三次元センサにより、削孔軌道と先端ビットの軸傾斜及び方向のデータを計測して、削孔軌道を予測してモニター画面に表示するワイヤレス式位置計測システムにより削孔位置を計測して、削孔位置を管理することにしていた。

(注5)
先端ビット  地盤を削孔するためにロッドの先端に装着するもの
(注6)
挿入式ジャイロシステム  削孔軌跡として距離や角度を検出する装置
(イ) 注入工

各工事における薬液の注入については、注水試験により求められた注入速度、注入圧力等で所定の量の薬液を注入することとなっていて、所定の薬液量を注入することで、目標強度を達成する改良体を造成することとなっている。注入速度がある限界を超えると地盤の割裂、隆起等を起こすことから、これを起こさずに注入が可能な限界注入速度及びそれに対応する限界注入圧力を注水試験により確認して、実際に注入する際の注入速度等の薬液の注入条件等を決めて注入を実施することとなっていた。

そして、薬液の注入については、受注者が用意した集中管理監視システムにより注入速度及び注入圧力をリアルタイムで管理することとし、限界注入速度及び限界注入圧力を超えないよう自動制御を行い、実際の注入速度及び注入圧力をチャート紙に記録することとなっていた。また、滑走路等の運用に影響を与えないよう地盤の割裂、隆起等を防止するために、滑走路等の舗装面の変状に関しても監督職員が承諾した管理方法で計測管理を行い、注入中に注入圧力の上昇又は低下が著しくみられる場合には、注入圧力が安定するまで注入速度を下げたり、薬液の注入を一旦止めたりするなどの調整を行うこととなっていた。

(ウ) 事後調査

四国地整については、薬液注入工の契約とは別に一般競争入札により事後調査を行う者を決めて事後調査を実施することとしていた。一方、四国地整を除く地方整備局では、改良効果の確認としての事後調査を薬液注入工の契約の中で実施させることとして発注して、受注者が自ら計画し、監督職員が承諾した位置において事後ボーリングにより試料採取を行い、一軸圧縮試験等により改良効果の確認を行うこととなっていた。

イ 施工実態及び隠蔽の状況

中間報告書及び東亜建設から国土交通省に提出された調査報告書等によれば、施工実態及び隠蔽の状況の概要は次のとおりとなっていた。

(ア) 削孔工

曲がり削孔により施工されたいずれの工事においても、次のような問題から、設計図書どおりの削孔ができていなかった。

H26福岡滑走路工事、H26松山誘導路工事及びH27福岡滑走路工事では、ロケーター・ビーコンについて、計測位置によってはロケーターの受信感度が低下する箇所があり、位置計測を正確に行えなかった。また、削孔をやり直そうとしても直前の削孔跡にケーシングが誘導されて軌道が修正できないなどのため削孔方向のコントロールが正確にできなかった。

H27羽田C滑走路工事では、ワイヤレス式位置計測システムについて、実際に施工する削孔長が約160mあるのに、削孔長が40m程度を超えると計測が不能となった。また、ジャイロがケーシング内を通過する際、ケーシングのつなぎ目等の凹凸にジャイロが引っかかり、跳ねることにより、計測データに異常値が検出されるなど正確な位置計測を行うことができなかった。

そして、監督職員が現場立会する際には、計測の実測値ではなく、計測データの異常値が出た時にこれを補正して表示させる機能を用いて、計測データを改ざんし、規格値を満たす削孔位置及び削孔長をモニター画面に表示して見せていた。

(イ) 注入工

5契約のいずれの工事においても、次のように、設計図書どおりの注入ができていなかった。

注入に当たり、当初は計画された注入速度で注入しようとしたが、実際には、注入に伴い薬液の逆流や周辺地盤からの薬液の漏出、地盤の隆起等がみられたことから、例えば、H27羽田C滑走路工事の場合、設計上8L/分としていた注入速度を監督職員と協議することなく、2L/分に下げるなど、いずれの工事においても設計上の注入速度を下げて注入した上、所定の注入量を満たさないにもかかわらず注入時間は所定の時間で停止していた。

そして、監督職員の現場立会時には、あらかじめ設定した値を集中管理監視システムの流量・圧力操作盤のモニター画面に表示することができる機能を用いて、注入速度等を改ざんしたモニター画面を見せていた。また、改ざんしたデータがチャート紙に記録され、この集計により薬液の日使用量が算定されていた。

薬液の材料については、規格値を満足する数量を現場に搬入していたが、薬液の注入ができないことにより生じた廃液や余った薬液については、産業廃棄物として廃棄又はメーカーへの返品により処理していた。

(ウ) 事後調査

薬液注入工の受注者が事後調査を行った4件の工事については、一軸圧縮試験により目標強度の確認を行っていたが、受注者が供試体を採取した後、試験所に運搬するまでの間に、虚偽の供試体とすり替えが行われていた。

ウ 薬液注入工の監督及び検査に係る通達

5契約については、監督検査要領に基づき、監督及び検査が実施されており、前記のとおり、薬液注入工については、手抜きによる不正行為の発生を契機に、2年9月に薬液通達が定められたことから、これに基づくなどして施工管理するとともに、監督及び検査を実施することとなっている。そして、薬液通達では、不正行為を踏まえ、薬液注入量を正確に把握するとともに、薬液注入時における手抜きによる不正行為を防止するなどのために材料搬入時及び注入時の管理方法等の項目が定められており、主なものは次のとおりとなっている。

(ア) 材料搬入時の管理
  • ① 受注者は、薬液の材料については、入荷時に搬入状況の写真を撮影するとともに、メーカーによる品質証明書及び数量証明書を監督職員に提出すること
  • ② 監督職員は必要に応じて、材料搬入時の写真、数量証明書等について作業日報等と照合すること
(イ) 注入時の管理
  • ① 受注者は、発注者の検印のあるチャート紙を用い、これに受注者の施工管理担当者が日々作業前にサイン及び日付を記入し、1ロールごとに監督職員に提出すること
  • ② 注入量500kL以上の大規模工事においては、プラントの材料タンクから薬液配合のミキサーまでの間に流量積算計を設置し、薬液の日使用量等を管理すること
  • ③ 監督職員は適宜、注入深度の検尺に立ち会うものとする。また、現場立会した場合等には、注入の施工状況がチャート紙に適切に記録されているかどうか把握すること
(ウ) 注入効果の確認
  • 発注者は、試験注入及び本注入後において、規模及び目的を考慮し必要に応じて、適正な手法により効果を確認すること

エ 監督及び検査の実施状況

各地方整備局は、受注者の施工管理を踏まえるなどして監督及び検査を実施していた。そして、薬液通達に定められた各項目については、次のように実施していた。

材料搬入時のウ(ア)①及び②について、受注者から提出された搬入状況の写真、品質証明書、数量証明書等を確認するとともに、提出された作業日報と照合していた。しかし、数量証明書及び作業日報との照合による薬液の材料の数量確認については、前記のとおり、一旦納入はされていたものの、その後、東亜建設により、一部が廃棄処分又は返品されており、これらの材料搬入時の管理は、今回の不正事案に対しては、薬液の注入量を正確に把握するための有効な手段とはなっていなかった。

注入時の管理について、ウ(イ)①については、発注者の検印のあるチャート紙を使用させ、また、施工管理担当者のサインは記入されていなかったが、日付は記入させて提出を受けていた。ウ(イ)②については、受注者のシステム上で集計された数値やチャート紙の記録等により薬液の日使用量を確認していた。ウ(イ)③については、受注者からの施工状況検査願の提出を受けて、注入深度の検尺に立ち会うとともに、注入の施工状況について現場立会した場合には、集中管理監視システムの流量・圧力操作盤のモニター画面の計数をチャート紙の記録内容と比較して確認していた。しかし、前記のとおり、チャート紙に記録された改ざんデータにより日使用量が集計されており、また、注入深度の検尺や注入について、データが改ざんされ操作盤のモニター画面上に表示されているなどしており、これらの注入時の管理についても、今回の不正事案に対しては、薬液の注入量を正確に把握するための有効な手段とはなっていなかった。

注入効果の確認のウ(ウ)については、一軸圧縮試験により目標強度の確認を行っていたが、受注者が事後調査を行った4件の工事については、前記のとおり、供試体のすり替えが行われていて、適正な注入効果の確認とはなっていなかった。

また、薬液注入工において、鉛直削孔等の直線的な削孔を行う場合は、その削孔位置については、先端までの距離と削孔角度で比較的容易に把握できるが、曲がり削孔を行う場合は、削孔位置の把握が難しいため、施工管理が極めて重要となっている。そして、施工計画書において削孔長及び削孔位置等の施工管理上の規格値が示されている一方、薬液通達には、削孔工を監督及び検査するための具体的な方法については、ほとんど定められていない。

(2) 薬液注入工の工法選定の状況

関東地整は、東京国際空港の運用への影響等を考慮して、H25羽田H誘導路等工事の際には、それまで同空港におけるバルーングラウト工法の施工実績がなかったことから、また、H27羽田C滑走路工事の際には、同空港における曲がり削孔を用いたバルーングラウト工法の施工実績がなかったことから、それぞれ特記仕様書において、薬液注入工については同空港で施工実績のあった浸透固化処理工法を前提とし、浸透固化処理工法と異なる工法に変更する場合には監督職員と協議した上で改良効果並びに滑走路及び誘導路に与える影響がないことが確認されているもの、かつ施工の確実性が認められたものに限って工法の変更を承諾することとしていた。

そして、H25羽田H誘導路等工事については、26年1月31日に浸透固化処理工法を前提として契約を締結したが、これに先立ち、東亜建設が25年10月から11月にかけて東京国際空港旧B滑走路跡地で実施したバルーングラウト工法の実証実験を踏まえ、26年5月29日にバルーングラウト工法で施工するとして契約変更を行っていた。また、H27羽田C滑走路工事については、27年5月28日に浸透固化処理工法を前提として契約を締結して、その後、東亜建設が27年7月から8月にかけて千葉県袖ケ浦市の社内の敷地で実施した長距離の曲がり削孔についての実験結果を踏まえ、27年8月4日に工法変更の承諾を行っていた。しかし、東亜建設が27年に実施した長距離の曲がり削孔の実験結果については、その後、東亜建設から虚偽の施工データを用いた改ざんされたものであったことが報告されている。

また、四国地整のH26松山誘導路工事及び九州地整のH26福岡滑走路工事においては、いずれも特記仕様書において薬液注入工の工法について特定しておらず、曲がり削孔を用いたバルーングラウト工法の空港における施工実績はなかったが、関東地整のような特記仕様書における工法選定時の条件も明示していなかった。そして、契約締結後に受注者からバルーングラウト工法について協議を受け、類似の薬液注入工の空港における施工実績、バルーングラウト工法の港湾における施工実績及びバルーングラウト工法の東京国際空港における採用実績があることから、同工法を承諾していた。

(3) 技術提案の履行確認の状況

公共工事の品質確保の促進に関する法律(平成17年法律第18号)第3条第2項において、公共工事の品質は、経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならないと規定されている。そして、同法第9条第1項の規定に基づく「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針」(平成17年8月閣議決定)によれば、発注者は、競争に参加しようとする者に対し、発注する工事の内容に照らし、必要がないと認める場合を除き、技術提案を求めるよう努めるものとされ、一般的な工事において求める技術提案のうち、品質管理に関しては、工事目的物が完成した後には確認できなくなる部分に係る品質確認頻度や方法等について評価を行うものとされている。また、総合評価落札方式で落札者を決定した場合には、落札者決定に反映された技術提案について、その履行を確保するための措置について契約上取り決めておくものとするとされている。

各地方整備局は、前記のとおり、いずれの契約についても、技術提案に基づき、総合評価落札方式による一般競争入札により契約を締結して、技術提案の内容を遵守し、施工しなければならないと取り決めていた。そして、例えば、H27羽田C滑走路工事においては、滑走路・誘導路の日々の供用に支障を与えないため、平面的に連続する埋土層の改良を舗装の変状に十分配慮して行う必要があることなどを踏まえ、「舗装変状に配慮した地盤改良工の確実な施工」について技術提案を求めるなど、工事ごとに工事品質の確保や向上に係る技術提案の評価項目等を設定して、いずれも加点評価していた。

このうち、削孔に係る技術提案の中には、実際には提案どおり実施できず、今回の施工不良の原因の一部となっていたものが、H26松山誘導路工事、H27福岡滑走路工事及びH27羽田C滑走路工事においてあった。

そして、上記の3契約におけるこれらの技術提案の施工中の履行確認は、監督職員が現場立会を行った際に、施工状況を目視確認することにより履行内容を確認し、また、施工終了後の最終確認は、監督職員が受注者から提出された報告書類の内容を確認し、その妥当性から技術提案のとおり履行されたとしていた。しかし、これらの技術提案は、適切に履行したとして発注者に虚偽の報告がされていて、実際には提案どおりに履行されておらず、工事品質の確保や向上に寄与していなかった。

4 本院の所見

今回、施工不良等が判明した滑走路等の耐震化のための薬液注入工は、いずれも大規模地震時における空港機能維持のために必要な工事であり、空港機能の重要性を鑑みれば、これらの施工不良が及ぼす影響は極めて大きいものになりうるものである。また、前記の5契約では、滑走路等の日々の供用に支障を与えないよう舗装の変状に配慮するなどの工事の品質を確保するため、受注者の技術提案を活用することなどにより、経済性に配慮しつつ価格以外の要素も考慮して落札者を決定している。

したがって、前記のとおり、中間報告書においても、発注者側が行うべき再発防止策が示されているところであるが、今後、滑走路等の耐震化工事において薬液注入工を施工するに当たっては、国土交通省において、次の点に留意して、施工の確実性を確保する必要がある。

  • ア 監督及び検査については、薬液通達による管理方法に加え、施工機械、管理システム等の現状の施工方法に即して、削孔時及び注入時における不正行為の防止及び発見のための方策を検討すること
  • イ 施工実績のない工法の選定や改良効果の確認としての事後調査に当たっては、受注者と関係のない第三者に評価又は実施をさせるなどして、施工の信頼性を確保するよう検討すること
  • ウ 技術提案については、総合評価落札方式における落札者決定の要素であることから、その履行が工事品質の確保や向上に寄与するなど適切に行われるよう、必要に応じて履行状況の確認を徹底するよう検討すること

本院としては、前記5契約の今後の修補工事の実施内容等を確認するとともに、今後とも滑走路等の耐震化工事における薬液注入工の監督及び検査等の実施状況について引き続き注視していくこととする。