【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
宇宙電波監視施設等を構成する設備等の物品管理簿及び国有財産台帳への記録について
(平成30年3月29日付け 総務大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴省は、人工衛星からの電波及び国内外から到来する短波帯以下の周波数の電波を監視することなどを目的として、電波監視施設を整備している。電波監視施設は、宇宙電波監視施設、短波監視施設等に分類され、宇宙電波監視施設は平成10年度から、短波監視施設は5年度から、全国各地に順次整備されている。
宇宙電波監視施設は、人工衛星から発射される電波を受信して測定・解析を行い、人工衛星が正しい軌道位置にあるか、正しく運用されているかなどを監視するものである。同施設は、静止衛星監視施設及び非静止(周回)衛星監視施設で構成され、いずれも関東総合通信局管内の三浦電波監視センターの敷地内に設置されている。このうち、静止衛星監視施設は、屋外に設置された直径13m級のパラボラ空中線(以下「パラボラアンテナ」という。)、制御装置等を収納するシェルタ等と、三浦電波監視センターの庁舎内に設置され、測定データの記録、解析等を行うなどするセンタ局とで構成されている。また、非静止(周回)衛星監視施設は、屋外に設置された高さ8mの鉄塔、その上にそれぞれ取り付けられた小型のパラボラアンテナ等並びに静止衛星監視施設と同様のシェルタ及びセンタ局とで構成されている。
短波監視施設は、船舶及び航空機の航行安全のための通信や国際放送等に使用される短波帯以下の無線局の運用を妨害する不法無線局等を探査するものであり、5総合通信局等(注1)の各管内に設置されている。同施設は、電波を受信して発射源の方位等を測定する方探用空中線(以下「方探用アンテナ」という。)等を備えたセンサ局と、センサ局で受信した電波の発射源の位置を特定するなどするセンタ局とで構成されている。このうち、センサ局は、屋外に設置された方探用アンテナ、制御装置等、当該制御装置等を収納する方探舎等で構成されている。
そして、これらの電波監視施設は、耐用年数を考慮するなどして更新が行われている。
貴省本省は、上記の宇宙電波監視施設及び短波監視施設(以下「宇宙電波監視施設等」という。)を構成するパラボラアンテナや方探用アンテナ等(以下、これらを合わせて「設備等」という。)を調達して設置等する契約を請負者と締結しており、設置された設備等は総合通信局等により管理されている。
物品管理法(昭和31年法律第113号)において、物品とは、国が所有する動産のうち船舶、航空機等国有財産法(昭和23年法律第73号)により国有財産とされる財産等以外のものなどと定められている。そして、民法(明治29年法律第89号)によれば、動産とは不動産以外の物すべてとされており、不動産とは土地及びその定着物とされている。
物品管理法等によれば、国の物品については、物品管理官が物品管理簿を備えて、物品の分類、細分類及び品目ごとに、物品の増減等の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項等を記録することとされており、取得価格が50万円以上の機械及び器具(以下「重要物品」という。)については、その取得価格を記録することとされている。
そして、各省各庁の長は、重要物品について、物品管理簿に基づいて、毎会計年度間における増減及び毎会計年度末における現在額の報告書(以下「物品報告書」という。)を作成することとなっており、物品報告書は内閣から国会に報告されている。
貴省では、貴省本省に属する物品については大臣官房会計課企画官が、各総合通信局等に属する物品については総合通信局総務部長等が、それぞれ物品管理官として管理している。
国有財産法によれば、国有財産とは、国の負担において国有となった財産又は法令の規定により、若しくは寄附により国有となった財産のうち不動産、船舶、航空機等とされている。そして、各省各庁の長又は部局等の長は、国有財産台帳を備えて、国有財産の取得、処分等があった場合には、直ちにこれを国有財産台帳に記録することとなっている。国有財産台帳の記録に当たっては、国有財産法施行細則(昭和23年大蔵省令第92号)の国有財産区分種目表で定められた区分及び種目によることとなっており、国有財産台帳に記録すべき価格については、国有財産法施行令(昭和23年政令第246号)において、建物、工作物等については、建築費又は製造費とすることなどとなっている。また、同施行令によれば、各省各庁の長は、その所管に属する国有財産につき、毎会計年度、当該年度末の現況において、財務大臣の定めるところにより評価し、その評価額により国有財産の台帳価格を改定しなければならないこととされている。
各省各庁の長は、国有財産について、国有財産台帳に基づいて、毎会計年度間の増減及び毎会計年度末における現在額の報告書(以下「国有財産報告書」という。)を作成することとなっており、国有財産報告書は内閣から国会に報告されている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
貴省は、前記のとおり、人工衛星からの電波及び国内外から到来する短波帯以下の周波数の電波を監視することなどを目的として宇宙電波監視施設等を全国各地に整備しており、これらは様々な設備等から構成されている。
そこで、本院は、正確性、合規性等の観点から、宇宙電波監視施設等を構成する設備等が物品管理簿に正確に記録されているか、物品として管理されている設備等の中に国有財産として管理すべきものが含まれていないかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、宇宙電波監視施設等計7施設を構成する設備等(物品管理簿数量計7式、物品管理簿価格計46億1751万余円(28年度末現在))を対象として、貴省本省及び4総合通信局(注2)において、物品及び国有財産(以下「物品等」という。)の管理についての考え方を聴取したり、5総合通信局等の物品管理簿、国有財産台帳(以下、これらを合わせて「物品管理簿等」という。)等の書類を確認したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省は、請負者と契約を締結して、前記の宇宙電波監視施設等計7施設を構成する設備等を調達して設置等しており、当該契約の仕様書において、貴省本省が承認した設置・調整工事計画書に基づき上記設備等の設置作業等を実施させることとしていた。貴省本省の物品管理官は、貴省本省の検査職員等による完成検査後、請負者から引渡しを受けた上記の設備等が、国有財産法施行細則の国有財産区分種目表に明示されていないことなどから国有財産ではなく物品に該当するとして、物品管理簿には、宇宙電波監視施設等計7施設を構成する設備等の数量を施設ごとに一式として記録し、調達、設置等に要した費用から設置等に要した費用を除いた額を、物品管理簿価格として記録していた。そして、その後、管理換が行われ、各総合通信局等の物品管理官が上記の設備等を物品として管理していた。
しかし、5総合通信局等で物品として管理されていた宇宙電波監視施設等計7施設を構成する設備等のうち一部のパラボラアンテナ等は、敷地内の土地に基礎工事を施した上で強固に固定されていて土地の定着物であるため、前記の民法の規定により不動産であって動産ではないことから、物品管理法上の物品ではなく、国有財産法上の国有財産と認められた。
したがって、上記のパラボラアンテナ等については、物品管理法等に基づき、物品として物品管理簿に記録して管理するのではなく、国有財産法等に基づき、国有財産として国有財産台帳に記録して管理すべきものであったと認められる(5総合通信局等の計7施設において国有財産として管理すべきパラボラアンテナ等の物品管理簿価格計9億2553万余円(物品管理簿価格の内訳が不明な3施設の価格を除く。)。表参照)。なお、上記のパラボラアンテナ等を国有財産台帳に記録する際には、その設置等に要した費用(計2億6724万余円)を含めた上で当該年度末の現況において評価した額が国有財産の台帳価格となる。
表 物品ではなく国有財産として管理すべき設備等の概要
電波監視施設の分類 | 総合通信局等 | 所在地 | 施設名 | 左の施設を構成する設備等の設置等年度 | 設備等に係る物品管理簿価格 | 物品ではなく国有財産として管理すべき設備等 | 左の設備等に係る物品管理簿価格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
宇宙電波監視施設 | 関東 | 神奈川県 三浦市 |
静止衛星監視施設 | 平成21、26、27各年度 | 2,488,339,524 | パラボラアンテナ2基シェルタ3棟等 | 783,578,250 |
関東 | 神奈川県 三浦市 |
非静止(周回)衛星監視施設 | 27年度 | 644,382,000 | シェルタ1棟 | 9,720,000 | |
短波監視施設 | 北海道 | 北海道 千歳市 |
千歳センサ局 | 18年度 | 259,819,350 | 方探用アンテナ10基 | 不明(注) |
関東 | 千葉県 東金市 |
東金センサ局 | 16年度 | 301,245,000 | 方探用アンテナ9基 | 不明(注) | |
北陸 | 石川県 珠洲市 |
珠洲センサ局 | 23年度 | 325,219,650 | 方探用アンテナ10基 | 35,700,000 | |
九州 | 熊本県 阿蘇市 |
阿蘇センサ局 | 17年度 | 251,454,000 | 方探用アンテナ10基 | 不明(注) | |
沖縄 | 沖縄県 石垣市 |
石垣センサ局 | 28年度 | 347,058,569 | 方探用アンテナ11基 | 96,534,720 | |
計 | 4,617,518,093 | / | 925,532,970 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
関東総合通信局は、三浦電波監視センターに設置されている静止衛星監視施設(物品管理簿価格24億8833万余円)及び非静止(周回)衛星監視施設(物品管理簿価格6億4438万余円)を構成する設備等を、物品として施設ごとに一式として物品管理簿に記録し、管理していた。
しかし、両施設のうち、静止衛星監視施設の直径13m級のパラボラアンテナ2基、シェルタ3棟等(これらに係る物品管理簿価格計7億8357万余円)及び非静止(周回)衛星監視施設のシェルタ1棟(これらに係る物品管理簿価格計972万円)は、同センターの敷地内の土地に基礎工事を施した上で強固に固定されていて、土地の定着物となることから動産ではなく不動産に該当するのに、国有財産ではなく物品として管理されていた。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
宇宙電波監視施設等を構成する設備等の一部について、国有財産として管理すべき設備等が物品として管理され、物品管理簿等の記録が正確に行われず、その結果、物品報告書及び国有財産報告書(以下「物品報告書等」という。)が物品等の現況を正しく反映したものとなっていない事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴省において、宇宙電波監視施設等を構成する設備等を調達して設置等する際に、パラボラアンテナ等の設置作業等まで契約に含めているのに、その設備等に係る設置等の状況を十分に確認せずに、全ての設備等を施設ごとに一式の物品として物品管理簿等に記録していること、貴省に特有の施設である宇宙電波監視施設等のうち動産と不動産に該当する設備等をそれぞれ特定し、物品と国有財産に区分して物品管理簿等に正確に記録するための事務処理体制が十分でないことなどによると認められる。
物品管理簿等については、その記録内容に基づいて、毎年度、物品報告書等が作成され、物品等の現在額等が内閣から国会に報告されていて、国民に対して物品等の現況を明らかにするという性格を有するものとなっており、正確に物品管理簿等に記録することは、極めて重要である。
ついては、貴省において、宇宙電波監視施設等を構成する設備等が物品管理簿等に正確に記録されるよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。