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  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第2 総務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

災害時の情報伝達手段を確保するために公衆無線LAN環境を整備する事業について、災害時に公衆無線LANを開放する際の運用体制を適切に整備することの必要性及び障害者等を含めて誰もが提供される情報や機能を支障なく利用できるように配慮して整備することの重要性を事業主体に対して周知するとともに、これらの整備を行う上での指針となるガイドラインを参照することとして、整備する公衆無線LAN環境が災害時に適切かつ効果的に運用できるものとなるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)総務本省 (項)情報通信技術高度利活用推進費
(項)電波利用料財源電波監視等実施費
部局等
総務本省
補助の根拠
予算補助、電波法(昭和25年法律第131号)
補助事業者
事業主体
県3、市26、区1、町28、村6、計64事業主体
補助事業
観光・防災Wi―Fiステーション整備事業及び公衆無線LAN環境整備支援事業
補助事業の概要
災害時の情報伝達手段の確保等のために避難所、避難場所等に公衆無線LAN環境を整備するもの
前記の事業主体が実施した事業数及びこれに対する国庫補助金交付額
65事業 4億4870万余円(平成28、29両年度)
災害発生から開放までの手順等を事前に定めていなかった事業主体数、事業数及び国庫補助金交付額(1)
19事業主体 19事業 1億2539万円(平成28、29両年度)
開放時の連絡体制を認証サービスの事業者との間で適切に定めていなかった事業主体数、事業数及び国庫補助金交付額(2)
14事業主体 14事業 6516万円(平成28、29両年度)
災害時に公衆無線LANを開放した際のトップページをウェブアクセシビリティに配慮されたものとしていなかった事業主体数、事業数及び国庫補助金交付額(3)
17事業主体 17事業 8818万円(平成28、29両年度)
(1)から(3)までの純計
36事業主体 36事業 2億0443万円

1 補助金等を活用した公衆無線LAN環境整備の概要等

(1) 補助金等を活用した公衆無線LAN環境整備の概要

総務省は、地方公共団体等に対して、地域公共ネットワーク等強じん化事業費補助金及び無線システム普及支援事業費等補助金(以下、この二つの補助金を「両補助金」という。)を交付している。両補助金の交付を受けて実施される事業のうち、観光・防災Wi―Fiステーション整備事業及び公衆無線LAN環境整備支援事業は、地方公共団体等が事業主体となって、災害時の情報伝達手段の確保等のために避難所、避難場所等に無線LAN接続のアンテナとなるアクセスポイントを設置するなどして公衆無線LAN環境を整備するものである。

また、総務省は、「防災等に資するWi―Fi環境の整備計画」(平成28年総務省策定)において、防災等に資する公衆無線LAN環境を整備する避難所、避難場所、災害対応の強化が望まれる公的な拠点等の平成31年度までの目標数を設定して、これを行う地方公共団体等を公衆無線LAN環境整備支援事業等により支援することとしている。

(2) 災害時の公衆無線LAN運用の概要

総務省は、「地域公共ネットワーク等強じん化事業費補助金『観光・防災Wi―Fiステーション整備事業』 無線システム普及支援事業費等補助金『公衆無線LAN環境整備支援事業』 共通申請マニュアル」(平成28年総務省策定)等(以下「補助事業執行マニュアル」という。)において、平時には、不正利用防止のために、電話番号、メールアドレス等により利用者の一定程度の本人性を確認する認証を行った上でなければ公衆無線LANを利用できない設定とし、災害時には、この認証設定を解除して誰でも認証なしで利用できるように公衆無線LANを開放することを求めている。

また、総務省は、「無線LANビジネスガイドライン」(平成25年総務省策定)において、公衆無線LANサービスを提供する事業者等に対して、適切な情報セキュリティ対策や、大規模災害発生時に備えた留意事項等を明らかにしている。このガイドラインによれば、公衆無線LANは災害時の避難所等における有効な通信手段として評価されており、大規模災害発生時には、公衆無線LANを開放するなどの措置を講ずることが推奨され、また、この措置が速やかであるほど有益であるとされている。そして、事業者等は、災害に対応した措置を実施する際の周知方法、公衆無線LANを開放する際の運用方法及び災害発生から措置を開始するまでの目安となる時間について、事前に検討し、準備しておくことが望ましいとされている。

(3) 公的機関のウェブアクセシビリティ対応の概要

障害者基本法(昭和45年法律第84号)によれば、国及び地方公共団体は、行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進に当たって、障害者の利用の便宜が図られるよう特に配慮しなければならないとされている。また、この法律に基づき策定された障害者基本計画(第3次)(平成25年閣議決定)によれば、各府省において、地方公共団体等の公的機関におけるウェブアクセシビリティ(注1)の向上等に向けた取組を促進することとされている。そして、総務省は、「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」(平成28年総務省策定)において、公的機関がホームページ等で情報を提供するに当たっては、視覚に障害のある利用者が音声読上げソフトを利用して情報を取得しようとした際に、自身の安全に関わる情報を入手できないなど、提供する情報や機能が特定の人に利用できないことのないよう、ウェブアクセシビリティに配慮して適切に対応する必要があるとしている。

(注1)
ウェブアクセシビリティ  障害者や高齢者を含めて、誰もがホームページ等で提供される情報や機能を支障なく利用できること

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、両補助金による公衆無線LAN環境の整備及びその運用体制が、交付要綱、補助事業執行マニュアル、「無線LANビジネスガイドライン」、「みんなの公共サイト運用ガイドライン」(以下、この二つのガイドラインを「両ガイドライン」という。)等の趣旨に照らして、災害時に適切かつ効果的に運用できるものとなっているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、18都道県(注2)に所在する64事業主体が28、29両年度に実施した観光・防災Wi―Fiステーション整備事業及び公衆無線LAN環境整備支援事業計65事業(事業費計10億4765万余円、補助対象事業費計8億2953万余円、国庫補助金交付額計4億4870万余円)を対象として、総務本省及び64事業主体において、整備した公衆無線LAN環境の災害時の利用に係る計画書、現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
18都道県  東京都、北海道、福島、群馬、新潟、富山、福井、長野、愛知、三重、奈良、島根、徳島、愛媛、福岡、熊本、宮崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた((1)及び(2)の事態には重複しているものがある。)。

(1) 災害時に公衆無線LANを開放する際の運用体制が整備されていなかった事態

前記の64事業主体は、整備した公衆無線LANを災害時に開放し、避難所等における情報伝達手段として活用することとしている。そこで、災害時に公衆無線LANを開放する際の運用方法等について、事業主体において事前に検討及び準備が行われているかをみたところ、次のとおりとなっていた。

ア 災害発生から開放までの手順等が事前に定められていなかった事態

19市区町村(注3)の19事業(国庫補助金交付額計1億2539万余円)において、公衆無線LANの運用担当部局と防災担当部局との間で十分な協議が行われておらず、公衆無線LANを開放する判断を行う者、判断基準、指示系統、開放作業方法等の災害発生から開放までの手順等が明確に定められていなかった。このため、災害時に公衆無線LANを迅速に開放できないおそれがある状況となっていた。

(注3)
19市区町村  函館、赤平、あわら、坂井、佐久、東御、宇陀、水俣各市、豊島区、寿都郡寿都、虻田郡喜茂別、上川郡比布、上川、和寒、耶麻郡磐梯、磯城郡田原本、肝属郡肝付各町、南佐久郡川上、上伊那郡中川両村

<事例1>

長野県南佐久郡川上村は、平成29年度に、無線システム普及支援事業費等補助金1814万余円の交付を受けて、避難所として指定している研修所施設や公民館等にアクセスポイントを設置するなどして公衆無線LAN環境を整備する事業を実施し、30年4月から運用を開始している。そして、同村は、当該事業の整備計画において、災害時には、公衆無線LANを開放することとしている。

しかし、同村は、公衆無線LANの運用開始に当たり、整備を行った運用担当部局と災害時の対策活動を所掌する防災担当部局との間で災害時の具体的な運用について十分な協議を行っておらず、公衆無線LANを開放する判断を行う者、判断基準、指示系統等について定めていなかった。このため、災害時に判断が遅れるなどして、避難所等において、公衆無線LANを迅速に開放できないおそれがある状況となっていた。

イ 開放時の連絡体制が認証サービスの事業者との間で適切に定められていなかった事態

14市町村(注4)の14事業(国庫補助金交付額計6516万余円)において、認証設定を解除して公衆無線LANを開放する操作を行う認証サービスの事業者との連絡体制について十分に検討が行われておらず、公衆無線LANの開放の依頼を受け付ける時間帯が平日の日中等に限定されていた。このため、災害が発生して夜間、休日等に事業主体が公衆無線LANを開放する判断をしても、開放できないおそれがある状況となっていた。

(注4)
14市町村  阿賀野、佐渡、佐久、橿原、五條、えびの各市、下新川郡朝日、吉野郡吉野、児湯郡高鍋、木城、都農、西臼杵郡高千穂各町、岩船郡関川、東臼杵郡椎葉両村

<事例2>

奈良県五條市は、平成28年度に、地域公共ネットワーク等強じん化事業費補助金211万円の交付を受けて、避難場所として指定している公園にアクセスポイントを設置するなどして公衆無線LAN環境を整備する事業を実施し、29年4月から運用を開始している。

同市の公衆無線LAN環境は、災害時の公衆無線LANの開放を、同市の依頼により認証サービスの事業者が行うものとなっている。

しかし、同市は、公衆無線LANの開放を依頼する際の連絡体制について十分な検討を行っておらず、認証サービスの事業者が公衆無線LANの開放の依頼を受け付ける時間帯が9時から17時30分までに限定されていた。このため、災害が発生して夜間及び早朝に開放する判断をしても、開放できないおそれがある状況となっていた。

ア及びイの事態により、災害時に公衆無線LANが迅速に開放されない場合、避難所等における情報伝達手段として十分に効果を発揮できないことになる。

なお、ア及びイの事態が生じていた計32市区町村においては、災害発生から開放までの手順等を定めたり、開放時の連絡体制を認証サービスの事業者との間で定めたりするなどした。

(2) 災害時に開放した際のトップページがウェブアクセシビリティに配慮されたものとなっていなかった事態

災害時に公衆無線LANを開放した際のトップページが、障害者等を含めて誰もが情報や機能を支障なく利用できるように整備されているかをみたところ、17市区町村(注5)の17事業(国庫補助金交付額計8818万余円)において、ウェブアクセシビリティに配慮されたものとなっておらず、音声読上げソフトを利用すると、平時と同様に認証を求める内容が読み上げられてしまうものとなっていた。このため、災害時に公衆無線LANが誰でも認証なしで利用できるように開放されていても、視覚障害者等は認証なしで利用できることを認識できないおそれがある状況となっていた。

(注5)
17市区町村  阿賀野、佐渡、南砺、福井、佐久、宗像、えびの各市、豊島区、耶麻郡磐梯、下新川郡朝日、隠岐郡隠岐の島、児湯郡高鍋、木城、都農、西臼杵郡高千穂各町、岩船郡関川、東臼杵郡椎葉両村

このように、災害時に情報伝達手段を確保することを目的として整備した公衆無線LAN環境において、災害時に公衆無線LANを開放する際の運用体制が整備されていなかったり、災害時に開放した際のトップページがウェブアクセシビリティに配慮されたものとなっていなかったりしていて、災害時に避難所等における情報伝達手段として適切かつ効果的に運用されないおそれがある状況となっていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

  • ア 事業主体において、災害時に公衆無線LANを開放する際の運用体制の整備について、災害発生から開放までの手順等を事前に定めること及び開放時の連絡体制を認証サービスの事業者との間で適切に定めることの必要性並びにウェブアクセシビリティに配慮して整備することの重要性について理解が十分でなかったこと
  • イ 総務省において、事業主体に対して、災害時に公衆無線LANを開放する際の運用体制の整備の必要性及びウェブアクセシビリティに配慮した整備の重要性について補助事業の実施に当たり周知していなかったこと並びにこれらの整備を行う上での指針となる両ガイドライン等を参照するよう指導していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、総務省は、30年9月に補助事業執行マニュアルを改正して、公衆無線LAN環境を整備する事業の目的が防災であることに鑑み、災害時に情報伝達手段を確保するために避難所等における公衆無線LANの開放が迅速かつ適切に実施されるよう、運用体制の整備について災害発生から開放までの手順等を事前に定めたり、開放時の連絡体制を認証サービスの事業者との間で適切に定めたりしておくことの必要性及びウェブアクセシビリティに配慮して整備することの重要性について事業主体に対して周知するとともに、これらの整備を行う上での指針となる両ガイドラインを参照することとして、整備する公衆無線LAN環境が災害時に適切かつ効果的に運用できるものとなるよう処置を講じた。