法務省の施設等機関である少年鑑別所は、少年鑑別所法(平成26年法律第59号)等に基づき、家庭裁判所等からの求めに応じ、審判を受ける者等の鑑別を行うこと、家庭裁判所の決定により少年鑑別所に送致された者等を収容して必要な観護処遇を行うことなどとなっており、在所者に対しては食事を支給することとなっている。
少年鑑別所において実施している食事の支給(以下「給食」という。)の方式は、主に二つあり、①近隣にある刑務所、少年刑務所若しくは拘置所の刑事施設又は少年院(以下、これらを合わせて「刑事施設等」という。)に食事の調理等を依頼し、刑事施設等において、その被収容者及び少年鑑別所の在所者に係る食材を一括して調達し、懲役受刑者が刑務作業として調理するなどした食事を、刑事施設等が委託した民間業者や少年鑑別所の職員等が少年鑑別所に運搬して支給する方式(以下「共同方式」という。)及び②民間業者に弁当を発注し納品を受けて支給する方式(以下「弁当方式」という。)となっている。
そして、共同方式に係る経費は、①刑事施設等が負担している食材費等、②少年鑑別所が食事の配膳、食器の洗浄等を行うために雇用している業務補佐員の人件費、③食事の運搬を民間業者に委託している場合は、刑事施設等において負担している運搬費となっている。一方、弁当方式に係る経費は、民間業者に支払う弁当の代価(配達に要する費用を含む。)となっている。
少年鑑別所の在所者に支給する食事については、矯正施設被収容者食料給与規程(平成7年法務省矯医訓第659号)等において1人1日当たりの給与熱量、主食及び副食の標準栄養量が定められており、支給前に職員が味付け、盛付け、衛生面等の検査を行わなければならないこととなっている。そして、共同方式及び弁当方式のいずれの方式であっても、同規程等を踏まえて、食事の品質を確保した上で支給することになっている。
少年鑑別所は、給食方式の選択について、法務省の指導に基づき、運搬費、食材費等のコスト面の基準や職員体制等を総合的に検討してきたとしており、平成29年度において全国の52少年鑑別所のうち、共同方式が26少年鑑別所、弁当方式が25少年鑑別所などとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
少年鑑別所の入所人員は、8年から増加し、15年に昭和45年以降最多を記録したが、その後、14年連続で減少している。そこで、本院は、経済性等の観点から、給食方式の選択に当たり、法務省が定めたコスト面の基準に加えて、在所人員の状況を踏まえた検討を行った上で、経済的な給食方式を選択しているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、前記の26少年鑑別所のうち、刑事施設等が食事の運搬を民間業者に委託している13少年鑑別所から、少年院等の食事と合わせて運搬しているため、少年鑑別所に係る運搬費を個別に算定することが困難であるなどしている3少年鑑別所(注1)を除いた10少年鑑別所(注2)における給食に係る経費、平成28年度5332万余円、29年度5163万余円、計1億0495万余円を対象とした。そして、法務本省において、給食方式の状況について全国的に確認するとともに、那覇少年鑑別所を除く9少年鑑別所及び9刑事施設等(注3)において、食事の運搬委託に係る契約書、請求書等の経費に関する書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。また、那覇少年鑑別所及び2刑事施設(注4)については、上記書類の提出を受けて、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
共同方式に係る経費のうち、食材費等は在所人員の多寡に応じて増減するが、業務補佐員の人件費及び運搬費は在所人員の多寡にかかわらず一定となる。一方、弁当方式に係る経費である弁当の代価は在所人員の多寡に応じて増減する。
そして、共同方式と弁当方式に係る経費と在所人員との関係をみると、図のとおり、共同方式における食材費等の増加率は弁当の代価の増加率を下回っており、業務補佐員の人件費及び運搬費が一定であることから、在所人員が一定数(図の分岐点)より少なくなると、弁当方式に係る経費が共同方式に係る経費を下回ることになる。
図 共同方式と弁当方式に係る経費と在所人員との関係の概念図
そこで、10少年鑑別所における25年度から29年度までの各年度の1日当たりの平均在所人員をみたところ、表のとおり、25年度は1.9人から15.1人までとなっていたが、28年度は0.9人から10.4人まで、29年度は0.8人から7.9人までとなっていた。
表 10少年鑑別所の収容定員、平成25年度から29年度までの各年度の1日平均在所人員及び食事の調理等を依頼している刑事施設等
少年鑑別所 | 収容定員 | 1日平均在所人員注(1) | 食事の調理等を依頼している刑事施設等 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
平成25年度 | 26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度 | |||
札幌 | 135 | 14.3 | 12.4 | 9.4 | 8.6 | 7.9 | 札幌拘置支所注(2) |
青森 | 23 | 3.4 | 2.0 | 2.4 | 0.9 | 1.8 | 青森刑務所 |
盛岡 | 19 | 2.2 | 1.4 | 0.7 | 1.8 | 1.7 | 盛岡少年刑務所(28年度) 盛岡少年院(29年度) |
秋田 | 16 | 1.9 | 2.1 | 1.0 | 1.0 | 0.8 | 秋田刑務所 |
前橋 | 26 | 12.0 | 13.7 | 11.8 | 6.7 | 6.6 | 前橋刑務所 |
津 | 40 | 6.1 | 6.7 | 4.2 | 5.6 | 3.4 | 三重刑務所 |
高松 | 24 | 8.4 | 10.2 | 7.3 | 6.0 | 4.5 | 高松刑務所 |
熊本 | 28 | 9.8 | 6.8 | 7.7 | 3.4 | 3.4 | 熊本刑務所 |
宮崎 | 20 | 4.2 | 6.7 | 7.3 | 4.7 | 5.0 | 宮崎刑務所 |
那覇 | 45 | 15.1 | 10.6 | 14.1 | 10.4 | 7.4 | 那覇拘置支所注(2) |
そして、10少年鑑別所について、各年度の在所人員等を基に弁当方式を選択している全国の少年鑑別所における各年度の弁当単価の平均を用いるなどして試算した弁当方式による経費と、共同方式による経費を比較したところ、28年度に9少年鑑別所で、29年度に全ての少年鑑別所で、弁当方式による経費が共同方式による経費を下回っていた。
上記の少年鑑別所のうち、28年度の8少年鑑別所(注5)、29年度の9少年鑑別所(注6)については、前年度においても弁当方式による経費が共同方式による経費を下回っており、この状況を踏まえると、28、29両年度の給食方式の選択について検討を行う余地があったと認められた(これらの少年鑑別所における弁当方式による経費と共同方式による経費との開差額28年度1235万余円、29年度1258万余円、計2493万余円)。
このように、9少年鑑別所において、給食方式の選択に当たり、在所人員の状況を踏まえて経済性を考慮した検討を十分に行っていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、法務省において、少年鑑別所に対して、給食方式の選択に当たり、少年鑑別所の在所人員の状況を踏まえて適時適切に検討を行うよう具体的な指導を行っていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、法務省は、少年鑑別所において、給食方式の選択に当たり、食事の安定的支給や品質の確保に支障を及ぼすなどの特段の事情がない限り、在所人員の状況を踏まえ経済性を考慮した検討が行われるよう、次のような処置を講じた。
ア 10少年鑑別所に対して、共同方式による経費と弁当方式による経費とを比較し、弁当方式の方が経済的である場合には、食事の品質を確保するなどした上で弁当方式へ変更するなどの検討を行うよう指導した。そして、これを受けて、10少年鑑別所は、検討の結果、30年4月に弁当方式へ変更するなどした。
イ 給食方式を選択するための具体的な検討基準を定め、同年8月に事務連絡を発して、これを少年鑑別所に周知徹底した。