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(1) 日本NGO連携無償資金協力により供与した贈与資金の残余金について、精算に時間を要して国庫への返還が遅れている事業を組織的に把握して優先的に精算に取り組むなどの体制を整備することにより、早期に国庫に返還させるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
部局等
外務本省
N連無償の概要
国際協力を行う非営利の市民組織のうち日本国内に本部が所在するものが開発途上にある海外の地域で行う経済社会開発事業を対象として、事業の実施に必要な資金を供与するもの
検査の対象としたN連事業数及び贈与契約締結額
123事業 76億9330万余円(平成25年度~29年度)
上記のうち贈与資金の残余金が生じた事業数及び残余金額
120事業 3億8990万余円
上記のうち贈与資金の精算に時間を要して残余金の返還が遅れている事業数及び残余金額
15事業 6198万円(平成25年度~27年度)

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

日本NGO連携無償資金協力により供与した贈与資金の残余金の国庫への返還について

(平成30年10月15日付け 外務大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 制度の概要

(1) 日本NGO連携無償資金協力の概要

貴省は、国際協力を行う非営利の市民組織(以下「NGO」という。)のうち日本国内に本部が所在するNGOが開発途上にある海外の地域で行う経済社会開発事業を対象として、事業の実施に必要な資金を供与する日本NGO連携無償資金協力(以下、「N連無償」といい、N連無償を受けてNGOが実施する経済社会開発事業を「N連事業」という。)を実施している。N連無償の実施に当たっては、貴省は、支援の対象となるNGO、事業分類、経費等を規定した「日本NGO連携無償資金協力申請の手引き(実施要領)」(以下「手引」という。)を毎年度定めている。

手引によれば、N連事業の事業期間は原則として12か月以内とされており、1事業当たりの資金供与限度額は、事業分類等により、基本的な事業については5000万円とされ、その他の事業については1000万円から1億円までの範囲で設定されている。贈与資金の供与に当たって締結する贈与契約は、N連事業の実施地域を管轄している在外公館又は代表事務所(以下「在外公館等」という。)とNGOとの間で締結する贈与契約(以下「在外公館契約」という。)を基本とするとされているが、N連事業の実施地域の政府の法律・規則等の制約により我が国からの送金ができなかったり、現地において適切な資金管理ができないおそれがあるなどの在外公館契約とすることができない特殊な事情があったりするなどの場合は、例外的に貴省本省とNGOとの間で締結する贈与契約(以下「本省契約」という。)とすることがあるとされている。

(2) N連事業の申請から完了までの事務の流れ

手引によれば、N連事業の申請から完了までの事務は、原則として次のように行うこととされている。

① NGOは、貴省国際協力局政策課民間援助連携室(以下「担当部局」という。)に事業目的、事業概要、事業管理体制等を記載した事業申請書を提出する。

② 担当部局は、在外公館等と共に、提出された事業申請書により申請内容の妥当性を審査するなどして承認の可否を決定する。

③ 承認されたN連事業については貴省本省又は在外公館等がNGOと贈与契約を締結して、本省契約については貴省本省が、在外公館契約については在外公館等がそれぞれ贈与契約に基づきNGOに贈与資金を供与する。

④ 贈与資金を受領したNGOは、贈与資金によりN連事業を実施して、N連事業が終了したら、事業終了日から3か月以内にN連事業の概要、成果、残余金額等を記載した完了報告書等を贈与契約の種類に応じて担当部局又は在外公館等に提出する。

⑤ 担当部局又は在外公館等は、提出を受けた完了報告書等を審査し、贈与資金の精算を行う。

⑥ 担当部局又は在外公館等は、贈与資金の精算の結果、残余金が生じていることが確認された場合は、NGOに残余金の返還を指示し、NGOは、当該指示に基づき、残余金を国庫に返還する。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、効率性等の観点から、N連事業が終了した後に速やかに贈与資金の精算が行われ、残余金が国庫に返還されているかなどに着眼して、貴省本省及び17在外公館等(注)が平成25年度から29年度までに贈与契約を締結して30年5月末までにNGOから完了報告書等が提出された贈与契約締結額4000万円以上のN連事業計123事業(贈与契約締結額計76億9330万余円)を対象として、当該123事業を実施したNGOからN連事業の実施状況について調書等の提出を受けて、その内容を分析するなどして検査した。また、貴省本省において、NGOから提出された事業申請書や完了報告書等の関係書類とともにその審査の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注)
17在外公館等  在インドネシア、在カンボジア、在ネパール、在東ティモール、在フィリピン、在ベトナム、在モンゴル、在ラオス、在パラオ、在ハイチ、在タジキスタン、在ウガンダ、在ケニア、在ザンビア、在マラウイ各日本国大使館、在チェンマイ日本国総領事館、対パレスチナ日本政府代表事務所

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

前記の123事業については、いずれも、手引に基づいてNGOに対して贈与資金の残余金の返還を指示することができるように、贈与契約において、残余金が生じている場合は残余金を国庫に返還しなければならないことが明記されていた。

そこで、前記123事業のうち完了報告書等において贈与資金の残余金が生じているとしていた計120事業について、速やかに贈与資金の精算が行われ、残余金が国庫に返還されているかをみたところ、のとおり、30年6月末現在において、贈与資金の精算に時間を要していて完了報告書等が提出されてから1年以上経過しているのに残余金の返還に至っていないものが計11事業(残余金額計5125万余円)あり、この中には約3年10か月経過しているのに残余金の返還に至っていないものが1事業(残余金額304万余円)あった。また、贈与資金の残余金の返還に至っているものの精算に時間を要していて完了報告書等が提出されてから返還までに1年以上要したものが計4事業(残余金額計1072万余円)あった。

表 贈与資金の残余金の国庫への返還状況(平成30年6月末現在)

(単位:事業、千円)
贈与資金の残余金の国庫への返還状況 契約の種類 完了報告書等において贈与資金の残余金が生じているとしていたもの 左のうち贈与資金の精算に時間を要していて完了報告書等が提出されてから1年以上経過しているもの
1年以上2年未満
(A)
2年以上
(B)
(A)+(B)
事業数 残余金額 事業数 残余金額 事業数 残余金額 事業数 残余金額
返還に至っていないもの 本省契約 19 90,698 10 48,205 1 3,049 11 51,255
在外公館契約 11 21,390 0 0 0 0 0 0
小計 30 112,088 10 48,205 1 3,049 11 51,255
返還に至っているもの 本省契約 31 134,786 4 10,728 0 0 4 10,728
在外公館契約 59 143,027 0 0 0 0 0 0
小計 90 277,813 4 10,728 0 0 4 10,728
本省契約計 50 225,484 14 58,934 1 3,049 15 61,983
在外公館契約計 70 164,417 0 0 0 0 0 0
合計 120 389,902 14 58,934 1 3,049 15 61,983
(注)
千円未満を切り捨てているため、各残余金額欄の金額を集計しても合計欄の金額と一致しないものがある。

上記のN連事業計15事業(残余金額計6198万余円)はいずれも本省契約であり、担当部局による贈与資金の精算に時間を要しているため、残余金の国庫への返還が遅れているものであった。このように贈与資金の精算に時間を要している理由について、貴省は、N連無償開始以降、N連事業の実施地域の増加に伴って本省契約が増加するなどして担当部局のN連無償に係る業務量が増加している中で、贈与資金の精算に当たり、完了報告書と共に提出された支払明細の内容について確認を行うのに時間を要したり、担当部局における人事異動による担当者の交替に伴い一時的に事務の空白期間が生じたりしたなどのためであるとしている。

そこで、担当部局におけるN連事業の申請内容の審査から贈与資金の精算までの事務処理の実施体制等についてみたところ、各担当者は、複数のN連事業について申請内容の審査から贈与資金の精算までの事務処理を一貫して行っていて、当該年度のN連事業の申請内容の審査と前年度以前に実施されたN連事業の贈与資金の精算の事務処理を並行して実施することとなっていた。

そして、各担当者は、当該年度のN連事業の申請内容の審査については限られた期限内に贈与契約を締結することが求められることから優先的に行っている一方で、贈与資金の精算については手引等において明確な精算の終了期限が定められていないことなどから断続的にしか行っていなかった。

しかし、担当部局では、定期的な部局内での報告、管理簿の作成等を行うことによるN連事業ごとの贈与資金の精算の進捗管理を組織的に行っていなかったことから、担当部局全体として贈与資金の精算に時間を要して残余金の国庫への返還が遅れている事態を把握しておらず、担当部局内の担当者間の業務の配分を見直すなどした上で贈与資金の精算に係る事務処理の工程を定めて残余金の国庫への返還が遅れているN連事業の贈与資金の精算に優先的に取り組むなどの対応を執っていなかった。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

NGOである一般社団法人アジアパシフィックアライアンスは、インドネシア共和国において、中央政府レベルでの災害対応機関として同国政府、現地のNGO及び企業間の連携・調整を推進するための組織を開設し、地方の防災関係機関等に災害情報を共有することなどを目的として、平成27年3月13日に貴省本省との間で日本NGO連携無償資金協力贈与契約(贈与契約締結額5385万余円)を締結し、「マルチアクター間の連携促進による防災・災害対応能力強化事業」を、同日から28年3月12日までの事業期間で実施した。

同法人は、同年8月15日に、貴省本省に完了報告書等を提出しており、同報告書等によると、贈与資金のうち914万余円の残余金が生じていた。担当部局においては、当該N連事業の担当者が贈与資金の精算を開始したものの、支払明細の内容について確認を行うに当たり、当該N連事業の現場が同国の複数の島に点在するなどしていたことから確認を行うのに時間を要していたり、人事異動による当該N連事業の担当者の交替に伴い一時的に事務の空白期間が生じたりしていた。

このような状況の中、当該N連事業の贈与資金の精算は、時間を要することとなったが、当該N連事業の担当者は、限られた期限内に贈与契約を締結することが求められている他のN連事業の申請内容の審査を優先的に行っていて、当該N連事業の贈与資金の精算については断続的にしか行っていなかった。

しかし、担当部局では、定期的な部局内での報告、管理簿の作成等による贈与資金の精算の進捗管理を組織的に行っていなかったことから、担当部局全体として当該N連事業について贈与資金の精算に時間を要して残余金の国庫への返還が遅れている状況を把握しておらず、担当部局内の担当者間の業務の配分を見直すなどした上で精算に係る事務処理の工程を定めて優先的に取り組むなどの対応を執っていなかった。

そして、当該N連事業は、完了報告書等の提出から1年10か月以上が経過した30年6月末現在においても贈与資金の精算が完了していない状況となっていた。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

N連事業の実施に当たり、贈与資金の精算に時間を要して残余金の国庫への返還が遅れている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、贈与資金の精算に時間を要して残余金の国庫への返還が遅れているN連事業を組織的に把握して優先的に精算に取り組むなどすることにより、残余金を早期に国庫に返還させる必要性についての理解が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

貴省は、N連無償の実施に当たって毎年度多額の贈与資金をNGOに供与しており、今後も引き続き多額の贈与資金をNGOに供与することが見込まれる。

ついては、貴省において、贈与資金の精算に時間を要して残余金の国庫への返還が遅れているN連事業11事業について、速やかに精算を完了し、NGOに残余金を国庫に返還させるよう是正の処置を要求するとともに、今後贈与資金の精算を行うN連事業について、定期的な部局内での報告、管理簿の整備等により、贈与資金の精算に時間を要して残余金の国庫への返還が遅れているN連事業を組織的に把握して、担当者間の業務の配分を見直すなどした上で贈与資金の精算に係る事務処理の工程を定めて優先的に精算に取り組むなどの体制を担当部局において整備することにより、残余金を早期に国庫に返還させるよう是正改善の処置を求める。