【意見を表示したものの全文】
政府開発援助の効果の発現について
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
開発協力大綱(平成27年2月閣議決定)によれば、我が国は、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保により一層積極的に貢献することを目的として、開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動を推進することとされている。そして、政府開発援助は、開発に資する様々な活動の中核として、多様な資金・主体と連携しつつ、様々な力を動員するための触媒、ひいては国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に資する様々な取組を推進するための原動力の一つとしての役割を果たしていくこととされている。
外務省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を実施するとともに、自らも、無償の資金供与による協力(以下「無償資金協力」という。)等を実施している。また、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、無償資金協力、技術協力、有償の資金供与による協力(以下「有償資金協力」という。)等を実施している。このほか、各府省庁がそれぞれの所掌に係る国際協力として技術協力を実施するなどしている。
無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより実施されるものである。無償資金協力は、平成20年9月までは外務省が実施し、機構がその一部の実施の促進に必要な業務を実施していたが、同年10月以降は、外務省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。
なお、外務省が実施する無償資金協力の中には、比較的小規模なプロジェクトに対して、在外公館が資金を贈与する草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」という。)等がある。
技術協力は、開発途上地域からの技術研修員に対する技術の研修、開発途上地域に対する技術協力のための人員の派遣、機材の供与等を実施するもので、機構や各府省庁が実施することとなっている。
有償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を供与することなどにより実施されるもので、機構(11年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行)が実施することとなっている。
29年度におけるこれらの実績は、外務省及び機構が実施した無償資金協力1915億2405万余円、機構が実施した技術協力675億1850万余円及び有償資金協力1兆1385億2483万余円となっている。
(検査及び現地調査の観点及び着眼点)
本院は、外務省又は機構が実施する無償資金協力、技術協力及び有償資金協力(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び現地調査を実施した。
① 外務省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、借款契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
② 相手国等において、援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、は行等が生じないよう調整されているか。
(検査及び現地調査の対象及び方法)
本院は、外務本省及び機構本部において援助対象事業について協力準備調査報告書等を確認したり、説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館、機構の在外事務所等において事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
さらに、本院は、援助の効果が十分に発現しているかなどを確認するために、30年次に9か国(注)において、無償資金協力53事業(贈与額計297億6703万余円)、技術協力36事業(経費累計額97億3579万余円)及び有償資金協力6事業(貸付実行累計額966億2315万余円)の計95事業を対象として、外務省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況を確認したりして現地調査を実施した。また、相手国等の保有している資料で調査上必要なものがある場合は、外務省又は機構を通じて入手した。
(検査及び現地調査の結果)
検査及び現地調査を実施したところ、無償資金協力3事業(贈与額計6億2961万余円)及び有償資金協力1事業(貸付実行累計額66億6000万円)については援助の効果が十分に発現していなかった。
この事業は、ガーナ共和国(以下「ガーナ」という。)のグレーター・アクラ州アクラ市において、発電能力の向上、エネルギー源の多様化及びクリーンエネルギーに関するガーナ国民の意識啓発を図ることなどのために、太陽光発電設備の設置等を行うものである。太陽光発電設備は、太陽光を直流電力に変換する太陽光パネルと、直流電力を交流電力に変換して電気機器等に使用できるようにするためのパワーコンディショナ等から構成されている。
機構は、外務省が22年3月にガーナ政府との間で取り交わした交換公文に基づき、この事業に必要な資金として同年5月に6億1000万円をガーナ政府に贈与している。
事業実施機関である野口記念医学研究所は、25年4月に事業計画により発電出力315kWの太陽光発電設備を、26年8月に追加により発電出力400kWの太陽光発電設備を、それぞれ設置して運転を開始している。
そして、機構は、協力準備調査報告書において、太陽光発電設備のガーナでの導入実績は少なく、事業実施機関での導入実績はないものの、事業実施機関に技術指導を行うことで十分に運用・維持管理が可能であり、事業の実施について特に問題はないとしていた。
検査及び現地調査を実施したところ、26年8月から運転を開始した太陽光発電設備(発電出力400kW)を構成する太陽光パネル5基と各太陽光パネルにそれぞれ接続されたパワーコンディショナ5台等のうち、パワーコンディショナ3台が、内部の冷却ファンを原因とする故障によりそれぞれ28年4月、30年2月及び3月から稼働していなかった。そして、この故障により、現地調査実施時(30年5月)において、太陽光パネル3基からの電力を得られない状況となっていた。
上記の状況に対して、事業実施機関は、28年4月に最初にパワーコンディショナが故障した際に、太陽光発電設備の調達代理店である本邦企業(以下「本邦企業」という。)に修理の依頼をしたとしているものの、対応が図られず、その後2年近く修理が行われないまま更に2台の故障が生じたとしている。
機構は、前記のとおり、太陽光発電設備の導入実績がない事業実施機関に技術指導を行うこととしており、事業実施機関は、機構の技術指導の下に維持管理マニュアルを作成して、当該マニュアルに本邦企業等の連絡先を記載していた。
しかし、機構は、事業実施機関に対して、故障等の技術的障害が発生した際に、技術的な経験の不足や言語の違いなどによる意思疎通の不足等から本邦企業等による速やかな対応が図られない場合には機構に連絡をすることを周知していなかった。
このため、事業実施機関は、28年4月の最初の故障の際に本邦企業による対応が図られないままとなっているにもかかわらず、更に2台の故障が生ずるまで機構に対して連絡をしていなかった。
この事業は、エチオピア連邦民主共和国(以下「エチオピア」という。)のアディス・アベバ市キルコース副都市において、アディス・アベバ市の妊産婦に安全な出産の機会をより多く提供するとともに出産後の母子の健康をサポートするために、既存の婦人科・小児科のクリニック(以下「クリニック」という。)を手術を伴うなどのより高水準の治療を行うことができる助産院として開業することを目的として、超音波エコー、麻酔機、出産用ベッド等の医療用の機材(以下「機材」という。)を整備するものである。
在エチオピア日本国大使館(以下「エチオピア大使館」という。)は、事業実施機関であるエチオピア家族計画協会との間で27年2月に贈与契約を締結して、同年3月にこの事業に必要な資金として100,933米ドル(邦貨換算額979万余円)を贈与している。
そして、事業実施機関は、事業計画において、事業実施機関が所有するクリニックを助産院として開業するためには、事業計画に基づき必要な機材を整備すれば、エチオピア政府の定めた助産院の開業基準(以下「開業基準」という。)を満たすことができるなどとしていた。
検査及び現地調査を実施したところ、事業実施機関は、27年3月から順次機材の整備を行い、28年8月に事業を完了していた。しかし、現地調査実施時(30年4月)における開業の状況について確認したところ、事業実施機関は、28年5月にエチオピア政府から、クリニックが開業基準のうち新生児室の設置等の基準を満たしていない旨の通知を受けており、これにより助産院としては開業することができない状況となっていた。このため、クリニックでは手術を伴うなどのより高水準の治療を行うことができず、整備した機材のうち手術の際に使用する麻酔機については整備後一度も使用されていないなどの状況となっていた。
エチオピア大使館は、事業計画策定時に、事業実施機関と協議等を行い、本事業で計画した機材を整備することにより開業基準を満たしていることを確認しているとしていた。
しかし、事業実施機関は、機材の整備以外の開業基準を満たしているか検討しておらず、エチオピア大使館は、機材以外に満たす必要のある開業基準の内容について十分に確認していなかった。
この事業は、ガーナのグレーター・アクラ州テマ市西テマ地域サクモノ地区において、産科医療環境の改善を図るなどのために、新たに新生児室、分娩室等からなる産科診療所(以下「診療所」という。)を建設するものである。
在ガーナ日本国大使館(以下「ガーナ大使館」という。)は、事業実施機関であるレナドー基金との間で26年1月に贈与契約を締結して、同月にこの事業に必要な資金として119,776米ドル(邦貨換算額982万余円)を贈与している。
そして、事業実施機関は、事業計画において、診療所の新設により1か月当たり約120名の出産に対応可能となるとしていた。
検査及び現地調査を実施したところ、診療所は、建物については26年末頃に概成していたものの、29年9月に診療所として開業するまでに約3年の遅延が生じていた。さらに、開業後においても、電力の供給がなされていなかったため、診療所では、現地調査実施時(30年5月)においても妊産婦の出産が行われておらず、産前・産後の検診を行うにとどまる状況となっていた。
そして、上記のように開業が遅延した理由について、事業実施機関によれば、建物の概成後に管轄の郡保健局から開業するためには安全対策等として外構工事や附帯設備の整備が必要であるとの指摘を受けたことから、そのための資金調達に時間を要したことなどによるとしている。また、電力の供給がなされていない理由については、事業実施機関は、29年8月に配電公社に対して電力供給の申請をしたものの、ガーナにおいては電気使用料を前払とすることが一般的な中で、前払の電気使用料の不足による手術中の停電を防ぐために後払で契約することとしていて、一般的でない後払契約専用の電力メーターの在庫が配電公社になく入手に時間を要していたことなどによるとしている。
しかし、ガーナ大使館は、事業が遅延していることを把握して随時状況を確認したとしているものの、事業実施機関に加えて郡保健局、配電公社等関係機関に対して、上記状況の改善に向けた協議を行うなどの十分な働きかけを行っていなかった。
なお、ガーナ大使館は、本院の現地調査結果を踏まえて事業実施機関及び配電公社に対して働きかけを行い、その結果、診療所は、30年6月に診療所への後払専用の電力メーターの設置及び通電工事が完了していて、同年7月末時点において、保険診療を行うために必要な認可の手続中となっている。
この事業は、ペルー共和国(以下「ペルー」という。)のロレト州イキトス地域において、住民の衛生状態や生活環境の改善に寄与するために、下水道施設を整備するものである。
機構は、外務省がペルー政府との間で20年11月に取り交わした交換公文に基づき、ペルー政府との間で同年12月に66億6000万円を貸付限度額とする貸付契約を締結して、この事業に必要な資金として21年度から25年度までの間に同額を貸し付けている。
事業実施機関であるロレト州政府生産性インフラ公共機構は、本事業の実施に当たり、表のとおり、①下水道施設の詳細設計、施工管理等を行うコンサルタント業務契約、②主に下水処理場、ポンプ場等の建設を行う工事契約(以下「ロット1」という。)、③主に下水管網の建設を行う工事契約(以下「ロット2」という。)を締結している。
表 契約の概要
\ | 契約内容 | 契約金額 (円建て) |
契約年月日 |
---|---|---|---|
コンサルタント業務契約 | 詳細設計、施工管理等 | 11億0797万余円 | 平成20年 12月10日 |
ロット1 | 下水処理場・ポンプ場等の建設 | 82億5980万余円 | 22年6月3日 |
ロット2 | 下水管網の建設 | 86億3428万余円 |
そして、上記のコンサルタント業務契約、ロット1及びロット2により実施される事業の進捗等の状況について、貸付契約によれば、機構は、事業が完了するまで毎年四半期ごとに、事業実施機関から事業進捗報告書及びその詳細資料の提出を受けることとされている。また、コンサルタント業務契約については、機構が作成した「円借款事業の調達及びコンサルタント雇用ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)に従うこととされていて、ガイドラインにより、当該業務を監督し、かつ、契約に従って業務を実施することを確保する責任は事業実施機関が有しているものの、コンサルタントは事業の実施に重要な役割を果たすものであることから、機構においても、コンサルタント業務契約が適切な規範に従うなどして進められていることを確認するために当該業務を必要に応じてモニタリングすることができることとされている。
検査及び現地調査を実施したところ、事業実施機関は、試運転を行うに当たって25年10月にロット2に係る施設、同年11月にロット1に係る施設の引渡しを、それぞれ施工業者から受けていた。
そして、下水道施設の運営維持管理を行う機関であるロレト州上下水道公社(以下「上下水道公社」という。)による下水処理場等の試運転が事業実施機関の費用負担により開始された。
しかし、ロット1及びロット2においては、いずれも下水道施設に不具合等が生じており、機構は、27年1月に事業実施機関から不具合等が生じたとの報告を受けるなどしていた。そして、機構と事業実施機関との協議の結果、コンサルタントによる調査の必要性が指摘され、コンサルタントは、あらためて施工状況等を調査して機構等に調査報告を提出したり機構からの聞き取り調査に応じたりしていた(以下、これらの調査から得られた結果を「コンサルタント調査結果」という。)。また、機構は、事業実施機関及びコンサルタントからの報告等を踏まえて、28年7月に独自に施工状況等の調査(以下、この調査から得られた結果を「機構調査結果」という。)を行っていた。コンサルタント調査結果、機構調査結果等によると、ロット1及びロット2において生じていた不具合等の概要は次のとおりである。
コンサルタント調査結果によると、全18か所のポンプ場において、排水ポンプの制御システム用のコンピュータは設置されているものの、各排水ポンプを制御する施設と接続されておらず、制御システムにより集中的にポンプ場を監視することができない状況となっていた。そして、排水ポンプは、水位の上昇に応じて自動稼働する仕様となっているが、大半の排水ポンプは自動稼働していない状況となっていた。さらに、そのような状態の中、現地調査実施時(30年3月)の直前に、下水処理場内が一時的に浸水するなどしていた。また、機構調査結果によると、下水処理場については、場内の複数箇所で地盤沈下、マンホールの沈下、場内の下水処理施設のコンクリート壁面のひび割れなどが見受けられていた。
コンサルタント調査結果によると、下水管網において各住居等と下水管を接続する接続桝については、約14,000か所(全数の約34%)に接続不良があったり、ひび割れが生じたりなどしており、また、下水管網については、約3km(全延長約360kmの約1%)が未施工となっていて、施工済の区間では逆勾配となっている箇所が見受けられるなどしていた。また、機構調査結果によっても、上記の接続桝の接続不良、下水管網の未施工及び逆勾配の区間の存在が認められたほか、道路舗装等の不具合、施工業者が提出したしゅん工図と出来形との大きなずれなどが見受けられていた。
このような施工状況の下で、各住居等からの汚水が接続桝に流入していなかったり、流入した後に下水管の中に滞留したりなどしている状況が見受けられ、上下水道公社によると、試運転が開始された後の下水処理場への汚水の流入量は、27年において、計画流入量に対して23%から28%であるとされていた。
また、施工管理を行ったコンサルタントは、ロット1に関して、完工証明書を施工業者に発行していたが、上下水道公社は、前記のようにロット1及びロット2に係る工事はともに完了しておらず、事業実施機関からの施設の引渡しを受けることはできないとしていた。一方、事業実施機関は、施工業者及びコンサルタントに対して、ペルーの法律による仲裁手続を開始するなどしていた。
このように、本下水道施設については、運営維持管理機関である上下水道公社への引渡しがなされていないまま仲裁手続が開始されるなどしており、下水道料金を徴収して供用することができない状況となっていたことから、28年8月に下水処理場の稼働が停止されていて、現地調査実施時においても停止されたままとなっていた。
そこで、本事業の事業実施期間中におけるモニタリング等の状況についてみると、機構は、事業の進捗等の状況を確認するために、貸付契約に基づいて事業実施機関から事業進捗報告書等の提出を受けていた。さらに、機構は、事業実施機関のような地方政府機関については、一般に、事業を実施する際に必要な統治能力が中央政府機関の水準に達しないおそれがある上、事業実施機関が、我が国や他国の有償資金協力により事業を実施した実績がなく、かつ、下水処理場の建設を伴う下水道施設を整備した実績がないことから、事業実施機関との間で年2回程度の定期モニタリング会合を行うなどしていた。
しかし、施工管理を行っていたコンサルタントに対しては、機構は、事業の進捗や完成に影響を及ぼすような不具合等に関して事業実施機関等から報告がなかったことから、貸付契約等に基づいて必要に応じて行うことができるとされている施工管理の実施状況についてのモニタリングを実施していなかった。そして、前記のとおり、27年1月に事業実施機関から報告を受けるまで、下水道施設に不具合等がある状況を把握していなかった。
なお、機構は、本事業について、上記の報告を受けて以降、工事の完了のために必要な残りの工事の実施等についてペルー政府に対して累次にわたり働きかけを行ってきており、ペルー政府において進められている法的整理の推移や工事の完了に向けた取組について確認しつつ今後も働きかけを継続することとしている。また、機構は、本事業について、施工業者が過失による粗雑業務を、コンサルタントが過失による粗雑業務、不正又は不誠実な行為等をそれぞれ行ったと認められたことから、28年8月に、機構が実施する資金協力事業における調達契約の当事者となることを認めないなどの措置を講じている。
(改善を必要とする事態)
援助の効果が十分に発現していない事態は適切ではなく、外務省及び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。