源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税・贈与税、消費税等の国税については、法律により、納税者の定義、納税義務の成立の時期、課税する所得の範囲、税額の計算方法、申告の手続、納付の手続等が定められている。
納税者は、納付すべき税額を税務署に申告して納付することなどとなっている。国税局等又は税務署は、納税者が申告した内容が適正であるかについて申告審理を行い、必要があると認める場合には調査等を行っている。そして、確定した税額は、税務署が徴収決定を行っている。
平成29年度国税収納金整理資金の各税受入金の徴収決定済額は75兆6561億余円となっている。このうち源泉所得税及復興特別所得税(注1)は18兆1108億余円、申告所得税及復興特別所得税(以下「申告所得税」という。)は3兆5224億余円、法人税は13兆3742億余円、相続税・贈与税は2兆4247億余円、消費税及地方消費税は28兆8602億余円となっていて、これら各税の合計額は66兆2924億余円となり、全体の87.6%を占めている。
本院は、上記の各税に重点をおいて、合規性等の観点から、課税が法令等に基づき適正に行われているかに着眼して、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき本院に提出された証拠書類等により検査するとともに、全国の12国税局等及び524税務署のうち12国税局等及び68税務署において、申告書等の書類により会計実地検査を行った。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、国税局等及び税務署に調査等を求めて、その調査等の結果の内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、38税務署において、納税者58人から租税を徴収するに当たり、徴収額が、60事項計262,736,100円(25年度から29年度まで)不足していたり、1事項4,000,000円(27年度)過大になっていたりしていて、不当と認められる。
これを、税目別に示すと表のとおりである。
表 税目別の徴収過不足額等
税目 | 事項数 | 徴収不足額 | 事項数 | 徴収過大額(△) |
---|---|---|---|---|
円 | 円 | |||
申告所得税 | 17 | 34,739,600 | ― | ― |
法人税 | 24 | 126,295,300 | 1 | △4,000,000 |
相続税・贈与税 | 5 | 38,773,400 | ― | ― |
消費税 | 11 | 54,861,800 | ― | ― |
復興特別法人税 | 3 | 8,066,000 | ― | ― |
計 | 60 | 262,736,100 | 1 | △4,000,000 |
なお、これらの徴収不足額及び徴収過大額については、本院の指摘により、全て徴収決定又は支払決定の処置が執られた。
このような事態が生じていたのは、前記の38税務署において、納税者が申告書等において所得金額や税額等を誤っているのに、これを見過ごしたり、法令等の適用の検討が十分でなかったり、課税資料の収集及び活用が的確でなかったりしたため、誤ったままにしていたことなどによると認められる。
この61事項のうち、申告所得税、法人税、相続税・贈与税及び消費税に関する事態について、その主な態様を示すと次のとおりである。
申告所得税に関して徴収不足になっていた事態が17事項あった。この内訳は、不動産所得に関する事態が7事項、事業所得に関する事態が4事項及びその他に関する事態が6事項である。
個人が不動産を貸し付けた場合には、その総収入金額から必要経費等を差し引いた金額を不動産所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。そして、個人が、不動産所得について、収入、経費の各項目の金額に消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を含めた経理を行っている場合には、不動産所得の計算上、経費に係る消費税等の額が収入に係る消費税等の額を上回るときに生ずる消費税等の還付金を総収入金額に算入することとなっている。
この不動産所得に関して、徴収不足になっていた事態が7事項計21,378,400円あった。その主な内容は、収入、経費の各項目の金額に消費税等を含めた経理を行っている場合の消費税等の還付金を総収入金額に算入していないのに、これを見過ごしたため、不動産所得の金額を過小のままとしていたものである。
<事例1> 消費税等の還付金を総収入金額に算入していなかった事態
納税者Aは、平成27年分の申告に当たり、不動産所得の総収入金額を215,182,024円とし、この金額のうちに消費税等の還付金はないとしていた。そして、この金額から必要経費を差し引き不動産所得の金額を130,292,805円としていた。
しかし、納税者Aは収入、経費の各項目の金額に消費税等を含めた経理を行っており、また、27年4月に納税者Aに対して消費税等の還付金18,022,772円が支払われていた。したがって、当該消費税等の還付金を不動産所得の総収入金額に算入するなどすると、不動産所得の金額は148,243,777円となり、17,950,972円過小となっていたのに、これを見過ごしたため、申告所得税額8,419,900円が徴収不足になっていた。
個人が事業を営む場合には、その総収入金額から必要経費等を差し引いた金額を事業所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。そして、青色申告書の提出について税務署長の承認を受けている事業所得者が、同人の営む事業に専ら従事し生計を一にする親族(以下「青色事業専従者」という。)に対して一定の要件の下に支払った給与については、必要経費に算入することとなっている。
この事業所得に関して、徴収不足になっていた事態が4事項計5,338,500円あった。その内容は、青色事業専従者に対する給与の必要経費算入についての規定の適用を誤って必要経費の額を過大に計上しているのに、これを見過ごしたため、事業所得の金額を過小のままとしていたものなどである。
(ア)及び(イ)のほか、譲渡所得等に関して、徴収不足になっていた事態が6事項計8,022,700円あった。
法人税に関して徴収不足又は徴収過大になっていた事態が25事項あった。この内訳は、受取配当等の益金不算入に関する事態が9事項、法人税額の特別控除に関する事態が8事項及びその他に関する事態が8事項である。
法人が他の内国法人から受ける配当等の金額等については、原則として、その全額を基に所定の方法により計算した金額を所得の金額の計算上、益金の額に算入しないこととなっている。ただし、法人が有する当該他の内国法人の株式等が、非支配目的株式等(注2)又はその他株式等(注3)に該当する場合においては、株式等の配当等の額のそれぞれ100分の20相当額又は100分の50相当額を益金不算入の対象とすることとなっている。
この受取配当等の益金不算入に関して、徴収不足になっていた事態が9事項計11,857,800円あった。その主な内容は、非支配目的株式等に係る配当等の額をその他株式等に係る配当等の額としていて受取配当等の益金不算入額を過大に計上しているのに、これを見過ごしたため、所得の金額を過小のままとしていたものである。
<事例2> 非支配目的株式等に係る配当等の額をその他株式等に係る配当等の額としていたため受取配当等の益金不算入額を過大に計上していた事態
B会社は、平成27年4月から28年3月までの事業年度分の申告に当たり、その有する他の内国法人の株式のうち8法人の株式をその他株式等に該当するとして、受取配当等の益金不算入の対象となる金額を、配当等の額の100分の50相当額32,320,204円としていた。
しかし、B会社は、当該8法人のいずれについても発行済株式総数の100分の5以下に相当する数の株式を配当等の額の支払に係る基準日において有していたことから、当該8法人の株式は、非支配目的株式等に該当していた。そのため、受取配当等の益金不算入の対象となる金額は、配当等の額の100分の20相当額12,928,081円となり、上記の金額との差額19,392,123円が過大となっているのに、これを見過ごしたため、法人税額3,515,900円が徴収不足になっていた。
法人税額の算定に当たり、法人税額から一定の金額を控除する各種の特別控除が設けられている。これらの特別控除の一つとして、青色申告書を提出する法人については、国内雇用者に対する給与等の支給額(以下「雇用者給与等支給額」という。)を所定の割合以上増加させるなどの要件を満たす場合、所定の方法により計算した雇用者給与等支給額の増加額(以下「雇用者給与等支給増加額」という。)の100分の10相当額又は法人税額に所定の割合を乗じて計算した金額(以下「税額基準額」という。)のいずれか少ない金額を法人税額から控除できることとなっている。そして、税額基準額は、原則として、法人税額の100分の10相当額とすることとなっているが、当該法人が中小企業者等(注4)に該当する場合には、法人税額の100分の20相当額とすることとなっている。
この法人税額の特別控除に関して、徴収不足になっていた事態が8事項計68,616,900円あった。その主な内容は、雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除の適用に当たり、中小企業者等に該当しない場合、税額基準額は法人税額の100分の10相当額とすべきところ、誤って法人税額の100分の20相当額としたため法人税額から控除する金額が過大となっているのに、これを見過ごしたり、法令等の適用の検討が十分でなかったりしたため、法人税額を過小のままとしていたものである。
<事例3> 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除の規定の適用を誤ったため、法人税額から控除する金額が過大となっていた事態
C会社は、平成25年4月から28年3月までの3事業年度分の申告に当たり、資本金の額が1億円以下であることから、中小企業者等に該当するとしていた。そして、C会社は、各事業年度において、税額基準額とした法人税額の100分の20相当額が雇用者給与等支給増加額の100分の10相当額より少ないとして法人税額の100分の20相当額を法人税額から控除していた。
しかし、C会社の申告書の株主等の株式数等に関する資料等によれば、各事業年度において、C会社の発行済株式の総数を同一の大規模法人が所有しているため、C会社は中小企業者等に該当しないこととなる。したがって、税額基準額は、法人税額の100分の20相当額ではなく、法人税額の100分の10相当額となり、各事業年度の法人税額から控除した金額が過大となっているのに、法令等の適用の検討が十分でなかったため、法人税額26年3月期分5,222,500円、27年3月期分2,298,700円及び28年3月期分2,996,500円、計10,517,700円が徴収不足になっていた。
(ア)及び(イ)のほか、役員給与の損金不算入、交際費等の損金不算入等に関して、徴収不足になっていた事態が7事項計45,820,600円、徴収過大になっていた事態が1事項4,000,000円あった。
相続税・贈与税に関して徴収不足になっていた事態が5事項あった。この内訳は、相続税については税額控除に関する事態が1事項及び贈与税については有価証券の価額に関する事態が4事項である。
個人が相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その取得した財産に対して相続税を課することとなっている。そして、財産を取得した者が納付すべき税額の算定に当たり、相続人等ごとに算出した税額から一定の控除額を差し引く各種の税額控除が設けられており、このうち障害者控除については、障害の程度に応じて定められた額に所定の年数を乗じて控除額を算出することとなっている。
この税額控除に関して、徴収不足になっていた事態が1事項1,200,000円あった。その内容は、障害者控除について障害の程度を誤り控除額を過大に算出しているのに、これを見過ごしたため、相続税額を過小のままとしていたものである。
個人が贈与により有価証券を取得した場合には、その取得した有価証券に対して贈与税を課することとなっており、取得した有価証券の価額は、贈与により取得した時の時価とすることとなっている。そして、取得した有価証券のうち取引相場のない株式の価額については、評価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」という。)の総資産価額、従業員数等によって評価会社を大会社、中会社等に区分し、この区分に応じて、大会社については類似業種比準価額(注5)、中会社については類似業種比準価額と純資産価額を用いた算式により計算した金額によって評価することなどとなっている。
この有価証券の価額に関して、徴収不足になっていた事態が4事項計37,573,400円あった。その主な内容は、取引相場のない株式の価額について、大会社に該当する評価会社の株式の評価に当たり、類似業種比準価額の計算を誤っているのに、これを見過ごしたため、株式の価額を過小のままとしていたものである。
消費税に関して徴収不足になっていた事態が11事項あった。この内訳は、納税義務の免除に関する事態が4事項、課税売上高の計上に関する事態が2事項及びその他に関する事態が5事項である。
個人事業者は、課税期間(注6)の基準期間(課税期間の前々年)における課税売上高が1000万円以下の場合は、原則として、課税期間の課税売上げについて納税義務が免除されることとなっている。ただし、課税期間の前年又は前々年に相続により被相続人の事業を承継し、基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高との合計額が1000万円を超える場合には納税義務は免除されないことなどとなっている。
この納税義務の免除に関して、徴収不足になっていた事態が4事項計34,877,900円あった。その主な内容は、個人事業者が、課税期間の前年に相続により事業を承継し、当該課税期間の基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高との合計額が1000万円を超えていて納税義務が免除されないため申告の必要があるのに、これを見過ごしたため、消費税を課していなかったものである。
<事例4> 相続による事業の承継について、納税義務が免除されないのに、消費税を課していなかった事態
納税者Dは、平成26年1月から12月までの課税期間分の消費税の申告をしていなかった。
しかし、納税者Dは、課税期間の前年である25年4月に相続により被相続人Eの事業を承継している。また、課税期間の基準期間(24年1月から12月まで)における納税者Dの申告所得税の申告書等及び被相続人Eの消費税の申告書によれば、納税者Dの課税売上高と被相続人Eの課税売上高との合計額は87,229,767円であり、これは1000万円を超えていて納税者Dの納税義務は免除されない。したがって、上記の課税期間分について申告の必要があるのに、これを見過ごしたため、消費税を課しておらず、消費税額26,971,500円が徴収されていなかった。
事業者は、課税の対象となる国内において行った資産の譲渡及び貸付け並びに請負等の役務の提供に係る収入金額を課税売上高に計上することとなっている。
この課税売上高の計上に関して、徴収不足になっていた事態が2事項計3,799,800円あった。その内容は、事業者が事業用建物を譲渡しているのに、課税資料の収集及び活用が的確でなかったため、課税売上高を過小のままとしていたものである。
(ア)及び(イ)のほか、課税仕入れに係る消費税額の控除に関して、徴収不足になっていた事態が5事項計16,184,100円あった。
これらの徴収不足額及び徴収過大額を国税局別に示すと次のとおりである。
国税局 | 税務署数 | 申告所得税 | 法人税 | 相続税 贈与税 |
消費税 | 復興特別法人税 | 計 | ||||||||||||
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事項数 | 徴収不足 徴収過大 (△) |
事項数 | 徴収不足 徴収過大 (△) |
事項数 | 徴収不足 徴収過大 (△) |
事項数 | 徴収不足 徴収過大 (△) |
事項数 | 徴収不足 徴収過大 (△) |
事項数 | 徴収不足 徴収過大 (△) |
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千円 | 千円 | 千円 | 千円 | 千円 | 千円 | ||||||||||||||
仙台国税局 | 3 | 1 | 1,366 | 2 | 7,631 | 1 | 2,661 | 4 | 11,659 | ||||||||||
関東信越国税 | 5 | 2 | 1,652 | 3 | 6,203 | 1 | 1,200 | 2 | 2,827 | 8 | 11,883 | ||||||||
東京国税局 | 21 | 13 | 23,300 | 13 | 94,350 | 2 | 2,831 | 7 | 45,559 | 2 | 7,543 | 37 | 173,585 | ||||||
名古屋国税局 | 3 | 1 | 8,419 | 1 | 10,517 | 2 | 34,741 | 1 | 522 | 5 | 54,201 | ||||||||
大阪国税局 | 1 | 1 | 552 | 1 | 552 | ||||||||||||||
高松国税局 | 1 | 1 | 980 | 1 | 980 | ||||||||||||||
福岡国税局 | 1 | 1 | 2,715 | 1 | 2,715 | ||||||||||||||
熊本国税局 | 3 | 2 | 3,344 | 1 | 3,813 | 3 | 7,157 | ||||||||||||
1 | △4,000 | 1 | △4,000 | ||||||||||||||||
計 | 38 | 17 | 34,739 | 24 | 126,295 | 5 | 38,773 | 11 | 54,861 | 3 | 8,066 | 60 | 262,736 | ||||||
1 | △4,000 | 1 | △4,000 |