特定求職者雇用開発助成金は、雇用保険(「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」参照)で行う事業のうちの雇用安定事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、60歳以上65歳未満の高年齢者や障害者等の就職が特に困難な求職者(以下「就職困難者」という。)、65歳以上の被保険者でない求職者等の雇用機会の増大及び雇用の安定を図るために、当該求職者を雇い入れた事業主に対して、当該雇用労働者の賃金の一部に相当する額を助成するもので、特定就職困難者雇用開発助成金(平成29年4月1日以降は特定就職困難者コース助成金。以下「就職困難者助成金」という。)、高年齢者雇用開発特別奨励金(同生涯現役コース奨励金。以下「高年齢者奨励金」という。)等がある。
表1 就職困難者助成金の支給額
区分 | 企業規模 | 第1期支給額 | 第2期支給額 | 第3期支給額 | 第4期支給額 | 第5期支給額 | 第6期支給額 | 支給総額 | 支給回数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
短時間労働者以外 | 60歳以上65歳未満の高年齢者等 | 中小企業事業主以外の事業主 | 25万円 | 25万円 | / | / | / | / | 50万円 | 2回 |
中小企業事業主 | 45万円 | 45万円 | / | / | / | / | 90万円 | 2回 | ||
30万円 | 30万円 | / | / | / | / | 60万円 | 2回 | |||
身体障害者及び知的障害者 | 中小企業事業主以外の事業主 | 25万円 | 25万円 | / | / | / | / | 50万円 | 2回 | |
中小企業事業主 | 45万円 | 45万円 | 45万円 | / | / | / | 135万円 | 3回 | ||
30万円 | 30万円 | 30万円 | 30万円 | / | / | 120万円 | 4回 | |||
重度障害者等 | 中小企業事業主以外の事業主 | 33万円 | 33万円 | 34万円 | / | / | / | 100万円 | 3回 | |
中小企業事業主 | 60万円 | 60万円 | 60万円 | 60万円 | / | / | 240万円 | 4回 | ||
40万円 | 40万円 | 40万円 | 40万円 | 40万円 | 40万円 | 240万円 | 6回 | |||
短時間労働者 | 下記の区分に該当しない、労働時間が週20時間以上30時間未満の短時間労働者 | 中小企業事業主以外の事業主 | 15万円 | 15万円 | / | / | / | / | 30万円 | 2回 |
中小企業事業主 | 30万円 | 30万円 | / | / | / | / | 60万円 | 2回 | ||
20万円 | 20万円 | / | / | / | / | 40万円 | 2回 | |||
労働時間が週20時間以上30時間未満の障害者 | 中小企業事業主以外の事業主 | 15万円 | 15万円 | / | / | / | / | 30万円 | 2回 | |
中小企業事業主 | 30万円 | 30万円 | 30万円 | / | / | / | 90万円 | 3回 | ||
20万円 | 20万円 | 20万円 | 20万円 | / | / | 80万円 | 4回 |
表2 高年齢者奨励金の支給額
区分 | 企業規模 | 第1期支給額 | 第2期支給額 | 支給総額 | 支給回数 |
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下記の区分に該当しない者 | 中小企業事業主以外の事業主 | 25万円 | 25万円 | 50万円 | 2回 |
25万円 | 25万円 | 50万円 | 2回 | ||
30万円 | 30万円 | 60万円 | 2回 | ||
中小企業事業主 | 45万円 | 45万円 | 90万円 | 2回 | |
30万円 | 30万円 | 60万円 | 2回 | ||
35万円 | 35万円 | 70万円 | 2回 | ||
労働時間が週20時間以上30時間未満の短時間労働者 | 中小企業事業主以外の事業主 | 15万円 | 15万円 | 30万円 | 2回 |
15万円 | 15万円 | 30万円 | 2回 | ||
20万円 | 20万円 | 40万円 | 2回 | ||
中小企業事業主 | 30万円 | 30万円 | 60万円 | 2回 | |
20万円 | 20万円 | 40万円 | 2回 | ||
25万円 | 25万円 | 50万円 | 2回 |
特定求職者雇用開発助成金の支給を受けようとする事業主は、当該助成金に係る支給申請書及び支給要件を満たした労働者に係る出勤簿等の添付書類を都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出することとなっている。そして、労働局は、支給申請書等に記載されている当該労働者の氏名、生年月日、雇用年月日、賃金の支払、事業主の過去の不正受給の有無等を審査した上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、特定求職者雇用開発助成金の支給を行うこととなっている。また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受け、又は受けようとした事業主に対して、支給した助成金の全部若しくは一部の支給決定を取り消して返還の手続を行い、又は不支給とすることなどとなっている。
本院は、合規性等の観点から、事業主に対する特定求職者雇用開発助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47労働局のうち、14労働局において会計実地検査を行い、25年度から29年度までの間に特定求職者雇用開発助成金の支給を受けた事業主から206事業主を選定して、特定求職者雇用開発助成金の支給の適否について検査した。
検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、9労働局管内において26年度から29年度までの間に特定求職者雇用開発助成金の支給を受けた13事業主は、既に事実上雇入れが決定している者又は雇い入れている者に形式的に公共職業安定所の紹介を受けさせて、その紹介により雇い入れたこととして、特定求職者雇用開発助成金の支給を申請するなどしており、これら13事業主に対する特定求職者雇用開発助成金の支給額計27,151,657円(就職困難者助成金26,251,657円、高年齢者奨励金900,000円)のうち計22,372,137円(就職困難者助成金21,472,137円、高年齢者奨励金900,000円)は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったり、制度を十分に理解していなかったりしていたため、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたのに、上記の9労働局において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
埼玉労働局は、事業主Aから、就職困難者Bを平成27年1月に、就職困難者C及びDを同年2月に、いずれも千葉労働局管下の松戸公共職業安定所の紹介を受けて、就職困難者Bを同年1月に、就職困難者C及びDを同年2月にそれぞれ雇い入れたとする支給申請書の提出を受けて、これに基づき、就職困難者助成金計7,200,000円の支給決定を行っていた。
しかし、実際には、就職困難者B、C及びDは同公共職業安定所の紹介を受ける以前から事実上雇入れが決定しており、事業主Aは既に事実上雇入れが決定している就職困難者B、C及びDに形式的に同公共職業安定所の紹介を受けさせていたことから、就職困難者B、C及びDは就職困難者助成金の対象とならず、就職困難者助成金計7,200,000円の全額が支給の要件を満たしていなかった。
なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。
労働局名 | 本院の調査に係る事業主数 | 不適正支給に係る事業主数 | 左の事業主に支給した特定求職者雇用開発助成金 | 左のうち不当と認める特定求職者雇用開発助成金 |
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千円 | 千円 | |||
北海道 | 12 | 2 | 2,401 ― |
2,401 ― |
福島 | 15 | 2 | 2,400 ― |
1,820 ― |
埼玉 | 13 | 2 | 9,000 ― |
8,100 ― |
静岡 | 19 | 2 | 4,650 ― |
2,250 ― |
愛知 | 15 | 1 | 3,300 ― |
2,400 ― |
滋賀 | 17 | 1 | 900 ― |
900 ― |
大阪 | 4 | 1 | 1,800 ― |
1,800 ― |
福岡 | 10 | 1 | 1,800 ― |
1,800 ― |
沖縄 | 13 | 1 | ― 900 |
― 900 |
計 | 118 | 13 | 26,251 900 |
21,472 900 |
合計 | 27,151 | 22,372 |