ページトップ
  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 厚生労働省|
  • 不当事項|
  • 保険給付

雇用保険のキャリアアップ助成金の支給が適正でなかったもの[厚生労働本省、4労働局](116)


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)高齢者等雇用安定・促進費
部局等
厚生労働本省(支給庁)
4労働局(支給決定庁、支給庁)
支給の相手方
13事業主
キャリアアップ助成金の支給額の合計
63,842,000円(平成26年度~29年度)
不当と認める支給額
33,014,000円(平成26年度~29年度)

1 保険給付の概要

(1) キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金(以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業である雇用安定事業及び能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、期間の定めがある労働契約を締結する者等の企業内でのキャリアアップ(注)を支援するために、キャリアアップに向けた取組を実施した事業主に対して国が経費等を助成するものである。助成金の対象となる取組には、人材育成コース(同コースは、平成30年度に人材開発支援助成金に統合された。)、正社員化コース等がある。

(注)
キャリアアップ  職務経験又は職業訓練等(職業訓練又は教育訓練をいう。)の職業能力の開発の機会を通じて、職業能力の向上並びにこれによる将来の職務上の地位及び賃金をはじめとする処遇の改善が図られること

(2) 助成金の支給

助成金の対象となる取組のうち、人材育成コースの支給要件は、事業主が対象者、目標、計画期間等が記載されたキャリアアップ計画書及び実施する職業訓練(以下「訓練」という。)の内容等が記載された訓練計画届を管轄の都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して受給資格の認定を受けること、当該受給資格認定に係る訓練計画に基づき訓練を実施すること、訓練期間中の訓練受講者に対する賃金を適正に支払うことなどとなっている。

助成金の支給を受けようとする事業主は、人材育成コースについては、訓練計画実施期間の終了した日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に、出勤簿、賃金台帳等の関係書類のほか、訓練の実施内容等を記載した実施状況報告書を添えて、労働局に提出することとなっている。

支給申請書等の提出を受けた労働局は、訓練受講者に対する訓練の実施状況、賃金の支払状況等を関係書類等に基づき調査確認するなどして、事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているか審査をした上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、助成金の支給を行うこととなっている。また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受け、又は受けようとした事業主に対して、支給した助成金の全部若しくは一部の支給決定を取り消して返還の手続を行い、又は不支給とすることなどとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、26年度から29年度までの間に助成金の支給を受けた事業主から97事業主を選定して、助成金の支給の適否について、全国47労働局のうち、8労働局において会計実地検査を行った。

検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(2) 検査の結果

検査の結果、4労働局管内において26年度から29年度までに助成金の支給を受けた13事業主は、人材育成コースにおいて、訓練又は賃金の支払の実績を偽って助成金の支給を申請するなどしており、これら13事業主に対する助成金の支給額計63,842,000円のうち計33,014,000円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったり、制度を十分に理解していなかったりしていたため、支給申請書等の記載内容が事実と相違するなどしていたのに、上記の4労働局において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

神奈川労働局は、事業主Aから、平成27年7月1日から32年6月30日までを計画期間とする人材育成コースに係るキャリアアップ計画書について27年5月に、また、訓練計画届について28年6月にそれぞれ提出を受けて、助成金の受給資格を認定していた。そして、事業主Aから、当該訓練計画届に沿って同年7月から12月まで訓練を実施して、訓練受講者に賃金を適正に支払ったとして、29年2月に支給申請書及び実施状況報告書、賃金台帳等の添付書類の提出を受けて、これに基づき、助成金計3,439,200円の支給決定を行っていた。

しかし、実際には、事業主Aは訓練期間中の訓練受講者に対する賃金の一部を支払っていなかったのに、適正に賃金を支払ったとする虚偽の内容の関係書類を支給申請書に添付して同労働局に提出していたことから、事業主Aに対する助成金計3,439,200円の全額が支給の要件を満たしていなかった。

なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。

これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。

労働局名 本院の調査に係る事業主数 不適正受給事業主数 左の事業主に支給した助成金 左のうち不当と認める助成金
      千円 千円
北海道 19 5 17,393 4,013
神奈川 10 2 7,440 7,440
大阪 2 2 10,000 10,000
沖縄 31 4 29,007 11,559
62 13 63,842 33,014