認定職業訓練実施奨励金は、雇用保険(「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」参照)で行う事業のうちの能力開発事業の一環として、「職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律」(平成23年法律第47号)等に基づき、雇用保険の受給ができない失業者であって、支援の必要がある者(以下「特定求職者」という。)の早期の就職を促進するために、厚生労働大臣の認定を受けた職業訓練(以下「認定職業訓練」という。)を行う民間訓練機関(以下「訓練校」という。)に対して助成するもので、認定職業訓練実施基本奨励金(以下「基本奨励金」という。)、認定職業訓練実施付加奨励金(以下「付加奨励金」という。)等がある。
認定職業訓練は、専ら就職に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を付与するための基礎訓練と、基礎的な技能及び実践的な技能並びにこれらに関する知識を付与するための実践訓練(以下「実践コース」という。)から成り、実践コースは基本奨励金及び付加奨励金の支給対象となっている。
基本奨励金の支給要件は、訓練校が特定求職者に対し認定職業訓練を適切に行ったことなどとなっている。そして、その支給額は、認定職業訓練の実施期間における出席率が80%以上である訓練生の合計人数に5万円(実践コースの場合)を乗じた上で認定職業訓練の開始から終了までの支給単位期間(注1)数を乗ずるなどすることにより算定することとなっている。
また、付加奨励金の支給要件は、上記基本奨励金の支給要件を満たし、かつ、訓練生の就職率が一定水準以上であることなどとなっている。そして、その支給額は、認定職業訓練の修了者及び就職を理由とした中途退校者の合計人数に就職率に応じた単価(注2)を乗じた上で認定職業訓練の開始から終了までの支給単位期間数を乗ずるなどすることにより算定することとなっている。
そして、就職率を算定するに当たっては、雇用保険法(昭和49年法律第116号)第4条第1項に規定する一般被保険者となっている者等を就職として扱うこととなっている(以下、このような就職を「雇用保険適用就職」という。)。
認定職業訓練実施奨励金の支給を受けようとする訓練校は、支給申請書及び訓練生の就職状況に係る報告書(付加奨励金の支給を受けようとする場合)等の添付書類を都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出することとなっている。そして、労働局は、支給申請書等の記載内容を確認するなどして、認定職業訓練を適切に行ったこと、支給申請書等で就職とされた者が雇用保険適用就職であることなどを審査した上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、認定職業訓練実施奨励金の支給を行うこととなっている。また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受け、又は受けようとした訓練校に対して、当該認定職業訓練実施奨励金及び当該認定職業訓練実施奨励金に係る認定職業訓練の開始後に当該訓練校が開始した全ての認定職業訓練に係る認定職業訓練実施奨励金について、支給決定を取り消して返還の手続を行い、又は不支給とすることなどとなっている。
本院は、合規性等の観点から、訓練校に対する認定職業訓練実施奨励金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47労働局のうち、12労働局において会計実地検査を行い、平成28、29両年度に付加奨励金の支給を受けた訓練校から44訓練校を選定して、認定職業訓練実施奨励金の支給の適否について検査した。
検査に当たっては、訓練校から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査したところ、兵庫労働局管内の1訓練校において、次のような事態が見受けられた。
株式会社rise(以下「会社」という。)は、厚生労働大臣の認定を受けて28年1月から29年2月までの間に計3回の実践コースを実施して、認定職業訓練実施奨励金計4,562,500円の支給を受けていた。
このうち、1回目の実践コースについて、会社は、28年1月から5月まで認定職業訓練を行い、これを受講した訓練生8名のうち7名が認定職業訓練を修了し、会社に2名、他社に4名、計6名が就職したなどとして、支給申請を行っていた。これを受けて、兵庫労働局は、基本奨励金については同年6月に1,452,500円を、付加奨励金については、上記就職者6名のうち3名は雇用保険適用就職ではなかったことからこれを除き、雇用保険適用就職であると判断した就職者3名(会社2名、他社1名)を基に就職率を42%と算定して同年11月に280,000円を、それぞれ支給していた。
しかし、会社に就職したとされていた2名に係る勤務実態を確認するなどしたところ、上記2名のうち1名については、同人を雇用した事実がないのに雇用したとする架空の雇用であり、会社は、同人は自社に就職したとする虚偽の内容の添付書類を作成し、これを支給申請書に添付して同労働局に提出していた。残りの1名は、同年8月に雇用したとしていたが、同人の出勤簿や賃金台帳等が作成されておらず、また、実際に勤務した日は1日もなく、賃金の支払もなされていないなど、その勤務実態からみて雇用保険適用就職に該当するものではなかった。このため、上記の2名を除いて就職率を算定すると14%となり、35%未満となっていた。
このように、会社は、架空の雇用であった者を雇用保険適用就職者と偽るなどして認定職業訓練実施奨励金の支給を申請しており、会社に対する認定職業訓練実施奨励金の支給額計4,562,500円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、会社が誠実でなかったため、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたのに、兵庫労働局において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。
なお、この適正でなかった支給額については、本院の指摘により、返還の処置が執られた。